子どもの情報リテラシーの評価手法の提案 - 大学生協 学会支援センター

2012 PC Conference
子どもの情報リテラシーの評価手法の提案
-子どもの思考過程の観察を通して牧野豊
*1
小澤理*2
島田文江*3 田中かおり*4 村本治*5 福島健介*6
生田茂*7
Email: ymakino@galaxy.dti.ne.jp
*1
八王子市立第六小学校
*5
八王子市立城山小学校
*2
八王子市立元八王子東小学校
*6
帝京大学教育学部
*3
八王子市立上壱分方小学校
*7
大妻女子大学社会情報学部
*4
八王子市立由井第一小学校
◎Key Words
情報リテラシー,PISA,小学校
1.はじめに
2009年にOECDが実施したPISAの結果では、
「
『読
解力』の得点については、2006年の調査よりも我が国
の生徒の学力は改善傾向にある。しかしながら、トッ
プレベルの国々と比べると下位層が多い。」こと、
「読
解力については、必要な情報を見つけ出し取り出すこ
とは得意だが、
それらの関係性を理解して解釈したり、
自らの知識や経験と結び付けたりすることがやや苦手
である。」ということが指摘されている。
PISAの結果を受け、文部科学省はこれからの取り組
みとして、知識・技能の習得と思考力・判断力・表現
力等の育成のバランスを重視した新学習指導要領の着
実な実施、その中でも数量や図形の知識・技能を実際
の場面で活用する理数教育の充実を求めている。
○ 子どもの統計リテラシーの実態の解明
を目的に研究を進めることにした。
3.授業実践
3.1 授業の概要
今回の授業に用いた課題は、前年にも使用したPISA
(2003)の数学的リテラシーの調査問題である(図1)。
この問題を子どもに考えさせ、その考えを説明させる
ことを通して、子どもの統計リテラシーの現状を把握
しようとするねらいである。授業者(T1)以外に、子
どもの考えを聞き取るT2が6名(大学生)、教室を巡回
して質問に答えるT3(大学生)1名を配置した。
2.研究の目的
小学生は、算数の学習で表やグラフの読み方や書
き方を系統的に学んでいる。しかし、PISA の調査で
も明らかなように、基礎的な知識・技能は身に付いて
いるが、それを実生活の場面に活用する力に課題があ
ることが分かっている。
そこで、学習指導要領では特に「算数的活動」とい
う領域を新設し、思考力,判断力,表現力等を育成す
るため,言葉,数,式,図,表,グラフを用いて考え
たり,説明したり,互いに自分の考えを表現し伝え合
ったりするなどの学習活動を積極的に取り入れるよう
になった。)
しかし、本格的に実施されてからまだ間もないこ
ともあり、「どのような課題を与えたらいいのか。」
「どのような評価をしたらいいのか。」「そもそも子
どもの「読解力」の実態はどうなっているのか。」等
の課題が未解決の状態にある。
我々は、算数的活動に着目し、情報リテラシー(情
報を適切に読み取る力)の中でも図やグラフを読み取
り、解釈し、評価する統計リテラシーの分野に絞って
研究を進めたいと考えた。そして、
○ 子どもの統計リテラシーの評価手法の提案
今回は、問題の内容を説明した後に、個人活動の時
間を 25 分取り、回答を考えたら担当学生に説明に行
くように指示をした。担当の大学生と少なくとも1回
は話をするように授業を組み立てた。
3.2 授業の様子
127
2012 PC Conference
調査の対象は、八王子市内小学6年生87名。男女の
人数と割合は表2の通りである。
子どもたちの活動には個人差が見られた。積極的に
自分の考えを大学生に話しに行く子どももいれば、自
分の気付いたところを問題のグラフや余白に記入し、
じっくり考えてから考えを話しにいく子どももいた。
また、どのようにグラフを活用し、根拠として示し
たらよいのかわからない子、まとめることに時間がか
かる子、問題を把握するのに時間がかかる子もいた。
学生との対話を繰り返すことによって、子どもの様
子に変化が見られた。
2回目の対話では、1回目に自信がなかった子ども
も自分の考えが明確になり、意欲的に取り組めるよう
になった。さらに、自分の考えが整理され、新たな視
点が加わり、他の観点に気づく子どももいた。
3回目の対話では、他の観点に気付く子どももいた
が、回数にこだわったり、グラフとは関係ないことを
指摘したりする子どももいた。
なかなか学生のところに行けない子どもには、
「間
違いはないから平気だよ」など学生から積極的に声を
かけさせ、子どもが安心して対話できるように支援し
た。
表2 対象の人数
人数 割合
男
50 57.5%
女
37 42.5%
合計
87 100.0%
4.2 課題解決のための観点の気づきの調査から
子どもたちの課題解決のための観点の気づきの傾
向を集計した。(図2)
1
2
3
4
5
3.評価の手法について
3.1 評価の手法
図2 子どもたちの気づきの傾向
表1 評価に用いたルーブリック
基礎的な知識理
観
説
点
明
の
3
2
1
思考判断
問題解決と表現
関心意欲
主張の根拠となる
事柄について、資 統計的な事象に関
料から説明が出来 する関心と意欲
る
一貫した説明を、
単語ではなく文を
複数の根拠を発見 資料から読み取っ 資料から読み取っ
グラフから正確に
用いて行ってい
し、それらの根拠 た事実の中の数 た事実に基づき、
読み取った数値を
る。対話に対して
を比較検討したう 字を用いて自分た 理論だてて自分の
用いて自分の考え
積極的で、質問に
えで評価判断を ちの考えを説明す 考えを説明するこ
を伝える。
対しても正対した
し、説明をしている ることができる
とができる
回答をしようと努力
している
グラフから読み
取ったことを基に
意見の根拠となる
伝えているが、数
事象を複数発見し 関連付けられた根
値の読み取りに誤
ているが、比較検 拠の説明に結論 関連付けられた根
りが見られる。また
説明はできるが、
討あるいは統合は のことばはない
拠に一部誤りがあ
は、数値の読み取
質問や対話に対し
できていない。ま が、その意図は推 る、もしくは不十分
りは正確である
て積極的でない。
たは単一の根拠 測することができ である
が、その数値が何
の発見で発展性 る
を示ししいるのかを
が無い。
十分に理解できて
いない。
意見の根拠の理
解が十分とはいえ
グラフの読み取り
数字や言葉を使っ
単語が多く、説明
ない。
が不十分である。
て説明している
自分たちの主張と も積極的でない。
正しく判断している
自分の考えをまと
が、結論がなく意 根拠の対応が誤っ 質問されることを
とはいえない。ま
めることができて
図も読み取ること ている
嫌がる傾向がみら
たは評価したり判
いない。
ができない
れる。
断したりする作業
はできない。
発見法に対する感
統計的な事象の
覚(何を知ってい
理解と口頭による
て、何を得たいの
表現能力
か)
表3 課題を解決するための観点
A班B班の全体の人数を読み取る
外れ値に気づく
合格者(不合格者)の人数について考えている
最高得点群の人数を比較している
合格点以上で、各範囲のA班とB班の数の違いに気づく
自分の考えを数
式、ことば、図、絵
などを使ってきち
んと説明できてい
この問題では、統計的な知識を適用する能力以外に、
数学的議論を組み立てる能力、すなわち推論と与えら
れた情報を解釈し、分析し、その理由や議論を伝え合
う活動を進める能力が本質的に求められている。この
ことは、個人の統計リテラシーを測るのに適切である
と考えた。
子どもたちの活動の評価は、統計的な考え方の観点
を5つ用意(表3)し、今回の設問に特化して作成した
ルーブリックを用いたパフォーマンス評価を採用した
(表1)。
4.調査結果
4.1 調査対象
人数の多寡はあるが、どの観点にも気づいているこ
とが分かる。その中では3番「合格者の人数について考
えている。」に気がついている子どもたちが多い。こ
れを1回しか学生と対話していない子どもと2回以上対
話している子どもとに
表4 学生との対話の回数
分けて集計した。
1回
42
3番の「合格者の人数
2回
33
について考えている」は
3回
6
1回しか来ていない子ど
4回
5
もも2回以上来ている子
どももほぼ同じなのに対して、4番「最高得点の人数で
考える」5番「合格点以上で各範囲のA班とB班の数の違
いに気づく」は2回以上来ている子どもの数が2倍以上
開いていることが分かる。
子どもたちは、まず3番に気づいてから自分の考え
を展開していき、その後4番5番と気づきながら考えを
広げていったのではないかと考えられる(図3)。
図3 子どもたちの気づきと対話の回数
図4は学生との対話の回数と気づいた観点の数の関
128
2012 PC Conference
係を表している。
1回しか話しに行っていない子のほぼ
半数は1種類の観点しか気づいていないが、
対話の回数
が多くなるにつれ気づいた観点の数が増えていくこと
が分かる。ここからも子どもの考えの広がりが見て取
れる。
100%
1
2
90%
2
1こ気がついた
7
11
60%
50%
2こ気がついた
2
40%
10
30%
3こ気がついた
1
4こ気がついた
20
20%
個人ごとの解答をルーブリックに当てはめ、評価を
行った。学生のところに自分の考えを話しに来た子た
ちの内、1回目に来た子たちのルーブリック評価の人
数を集計した。(図7)
2
3
70%
4.2.2 ルーブリック評価から
0
5
7
80%
図6 観点の選択と合格点以上の各範囲の違い
2
8
10%
0%
5こ気がついた
1
0
0
図4 学生との対話の回数と気づきの個数
5つの観点の中で、一番気づいた人数の多かった「合
格者の人数について考えている」を見てみると、1つし
か観点に気づいていない子どもたちでも半数以上の子
どもたちが気づいていることが分かる。逆に、1番少な
かった「合格点以上で各範囲のA班とB班の数の違いに
気づく」についてみてみると、4つ以上把握しているよ
うにならないと、考えが及んでいないことが分かる。
考えが深まり、広がってからでないとなかなか思いつ
かないのであろう。(図5,6)
図7 ルーブリック評価の到達度(1回目)
基礎的な知識理解では、67名(77.9%)の子どもがグ
ラフから正確に読み取った数値を用いて自分の考えを
伝えていることが分かる。一方、思考判断(複数の根
拠を発見しそれらの根拠を比較検討したうえで評価判
断をし、説明する。)ができているのは26名(30.2%)
しかいないことが分かる。
2回以上学生のところに話しに来ている子どものル
ーブリック評価の人数を調べると図8のようになった。
いずれの項目でも評価の高まりが見られる。
特に評価3
の人数が低かった「思考判断」「問題解決と表現」で
変化が大きいことが分かる。学生と対話する中で考え
を広め、
深めていくことができたのではないだろうか。
しかし、何度も学生と対話をする子どもの中にはルー
ブリック評価が下がる子どももいた。これは、解答を
いくつも考えようとするあまり考えをきちんとまとめ
ることをしないままに学生と対話してしまったためで
あると考えられる。
100%
90%
図5 観点の選択と合格者の人数
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1
80%
70%
0
60%
50%
28
21
40%
13
7
30%
8
評価3
20%
評価2
10%
0
2
評価1
0%
4
*①は1回目②は2回目を表す
気づいた
気づかない
図8 2回以上学生と対話した子どもたちの変化の様子
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2012 PC Conference
4.2.3特徴的な子どもたちの様子
とが有効であると思われる。3つ目はルーブリック評
ルーブリック評価の結果から子どもたちの統計リ
テラシーについて特徴的な子どもたちの様子について
述べる(表5)。
1つ目は№1,2のように気づきの個数が5の子どもた
ちである。
この子どもたちはルーブリック評価が高い。
多くの評価項目が3になっている。
しかし同じようにル
ーブリック評価の高い子どもたちでも№3のように気
づきの個数が少ない子どもたちもいる。少ない手がか
りを基にじっくり考えていたようである。これらの子
どもは、この課題を十分に理解し、解釈した上で活用
する能力を既に有していると考えられる子どもである
と言えよう。
2つ目は、№4,5のように1回目よりも2回目の方が評
価が高い子どもたちである。
学生はほとんど聞き役で、
話を整理することもほとんどしなかったが、子どもた
ち自身が話をすることで、考えが整理され解決への見
通しをもつことができたのではないかと考えている。
3つ目は、№6,7のように1回目よりも2回目、3回目
の方が評価が下がってしまった子どもたちである。解
答を急ぐあまり、自分の考えをまとめきれずに学生の
所に行ってしまったり、考えを進めるうちに課題から
それてしまったようだ。
4つ目は、№8のように評価が低いままで終わってし
まった子供たちである。グラフから読み取るという活
動がなかなかできず、心情的なところにこだわってし
まったようである。
学生からの声かけでようやく4回目
になってグラフの数字に目を向けることができた。
価が高くない子どもである。この全体の6割近い子ど
表5 特徴的な子供たちの様子
№ ①
基
礎
的
な
知
識
理
解
1
2
3
4
5
6
7
8
3
3
3
2
2
3
2
1
1回目
① ① ①
思 問 問
考 題 題
判 解 解
断 決 決
と と
表 表
現 現
1 2
3
3
3
2
1
2
2
1
3
3
3
3
1
2
2
2
3
3
3
2
1
3
2
1
①
関
心
意
欲
3
3
3
2
3
3
2
2
②
基
礎
的
な
知
識
理
解
3
3
3
3
3
1
3
1
2回目
② ② ②
思 問 問
考 題 題
判 解 解
断 決 決
と と
表 表
現 現
1 2
3回目
③ ③ ③
思 問 問
考 題 題
判 解 解
断 決 決
と と
表 表
現 現
1 2
4回目
④ ④ ④
思 問 問
考 題 題
判 解 解
断 決 決
と と
表 表
現 現
1 2
③
基
礎
的
な
知
識
理
解
③
関
心
意
欲
④
基
礎
的
な
知
識
理
解
のような支援をしていったらよいのか明らかにしてい
くことが今後必要であると考えている。子どもの到達
点によって取り組ませる課題を工夫し、どのように支
援していくのが適切なのかを明らかにしていくことが
子どもの統計リテラシーを育成していくために必要で
あると考えている。
②学生との対話の回数が増えるに従い、子供たちの考
えに深まりや広がりが見られる。これは、学生との対
話を通して自分自身の考えを深めたり広げたりするこ
とができたことを示している。
③子どもの現状を把握するためのパフォーマンス評価
の有効性は確認できた。しかし、これを通常学級で担
任一人で実施することはできない。
今後の課題として、
子ども自身が、自分の推論や思考を振り返り、チェッ
クできる仕組み=振り返りチェックシートなど、を作
成していくこと、その「精度」を高めていくことなど
が求められよう。
参考文献
(1) OECD生徒の学習到達度調査
Programme for International Student Assessment
~PISA2009年調査分析資料集~, 国立教育政策研究所
(2) 青山和裕:“日本の統計教育改善の方向性についての検
討”,日本統計学会誌、36,pp263-277(2007)
A 外 合 最 合
B れ 格 高 格
全 値 者 得 点
の 点 以
体
上
の
人
の
人
数
各
数
範
囲
の
違
い
3 3 3 3
○ ○ ○ ○ ○
3 3 3 3
○ ○ ○ ○ ○
3 3 3 3
× × ○ ○ ×
3 3 2 2 3 3 3 2 3
○ ○ ○ ○ ×
2 2 2 3
○ × × ○ ×
1 1 1 3
× × ○ × ×
2 3 3 3 3 3 3 3 3 2 3 2 3 3○ × ○ ○ ○
1 2 1 2 1 1 2 1 2 2 1 2 1 3× × × × ×
②
関
心
意
欲
もについて分析をすすめ、どのような課題を与え、ど
④
関
心
意
欲
(3) 藤田宏:”統計教育への提言そのスピリットとアプロー
チ”,日本統計学会誌、36,pp219-230(2007)
(4) 渡辺美智子:”知識基盤社会における統計教育の役割:新
学習指導要領での位置付け”, 日本計算機統計学会シンポ
ジウム論文集 23, pp103-106(2009)
(5) 片瀬一男:”情報化社会における市民的教養教育として
の社会調査教育-統計的リサーチ・リテラシーの育成を中
心に”,社会学評論,58,pp476-491(2008)
(6) 菅谷明子:”メディア・リテラシー-世界の現場から”,
岩波書店
5.まとめ
(7)小学校学習指導要領,文部科学省
①我々の取り組みの成果として、基礎基本となるグラフから
(8)小学校学習指導要領解説:算数編,文部科学省
の読み取りでは、80%近くの子どもたちが正確に読み取れてい
(9)中学校学習指導要領:数学,文部科学省
ることが分かったことがあげられる。しかし読み取った数値
(10)中学校学習指導要領解説:数学編,文部科学省
の解釈となると子どもの到達点はいくつかに分かれている。1
つ目はルーブリック評価の高い子どもである(19.5%)。
2つ目はルーブリック評価が高まっていった子どもで
ある(21.8%)
。こうした子どもに対しては、
「算数的
活動」の機会を多く与え、表現する機会を多く作るこ
130