バードリサーチ ニュース

バードリサーチ
ニュース
2009年11月号 Vol.6 No.11
Phoenicurus auroreus
Photo by Nagashima Hiroyuki
活動報告
モニ1000シギ・チドリ類調交流会を開催!
11月15日(日)に沖縄県那覇市の市町村自治会館でモ
ニタリングサイト1000シギ・チドリ類調査の調査員交流会を
開きました.この交流会は毎
年各地を巡って開催してい
て,今年で6回目になります.
今回は泡瀬干潟の埋め立て
問題への関心が高かったせ
いか本州からの参加者の姿
もあり,約70名の皆さんにお
越しいただきました(写真1). 写真1.ポスター発表のようす.
会場では沖縄本島と宮古島・石垣島でのシギ・チドリ類の
経年変化や季節変化,生息地の保全問題について口頭・
ポスター発表と意見交換が行われました.さらに泡瀬干潟
に生息する多様な貝類の展示もあって,シギ・チドリ類以
外の生物の観点からもこの南西諸島最大の干潟の特徴を
学ぶことができました.
沖縄野鳥の会の山城正邦さんの発表と,翌16日のエクス
カーションのときに現地で説明して下さった泡瀬干潟を守
る連絡会の前川盛治さんのお話から,泡瀬干潟の状況が
理解できました.埋め立て
護岸に囲まれた予定地
は2009年1月に始まり,10 桟橋
月に福岡高裁の判決が出
たあとに中断されました
が,埋め立て予定区画を
囲んだ護岸が残されたま
ま に な り ま し た(写 真 2).
護岸には隙間が多く水の 写真2.泡瀬干潟埋め立て予定地.
出入りはあるそうですが,埋め立ての影響によるとみられる
泥の堆積によって藻場や貝類が減少しているそうです.い
まのところシギ・チドリ類の数に目立った変化はありません
が,エサとなる底生生物への影響が先に現れ,その後,シ
ギ・チドリ類も減少していくのではないかということでした.
東京でニュースを見ていると,泡瀬干潟の生物への影響
が小さい段階で埋立が中断したような印象を持っていたの
ですが,現地の巨大な護岸を見ると,海から半分遮断され
た護岸の内側ではこれまであった生物相がそれほど長くは
維持されないのではないかという懸念を強く感じました.幸
いにも埋め立て工事は一時的に中断していますが,泡瀬
干潟の生態系を存続させるためには一日も早く護岸を撤
去する必要があるのではないかと思いました.【神山和夫】
研究誌 Bird Research より
研究誌 Bird Researchの冊子版
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ください.【植田 睦之】
■掲載論文はこちらをご覧ください.
http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/journal_vol05.html
● 今月の新着論文
植田睦之ほか.2009. 草原の鳥類のモニタリングにおける
スポットセンサス法の有効性 -ラインセンサス法との鳥の
記録率の比較-. Bird Research 5: T23-T32.
森林に引き続き,草原でのスポットセンサス法の有効性を
検討した論文が掲載されました.この調査から,有意な差
はないものの,草原についてもスポットセンサスの方がや
や多くの種を記録できることがわかりました.
歩いて調査するラインセンサス
と比べ,留まって集中して調査で
きるスポットセンサスの方が多く
の鳥を記録できるのだと思いま
すが,森林と違って有意な差は
ありませんでした.おそらく草原
では,森林と比べて見晴らしが効 狭山丘陵の「みにクル」での
いて鳥を発見しやすいため,差 スポットセンサス風景.ここは
草原じゃないけど.
が小さくなったのだと思います.
1
Bird Research News
Vol.6 No.11
2009.11.19.
レポート
鳥類の系統地理学への誘い
~メボソムシクイを例に~
齋藤武馬 財)山階鳥類研究所
会員の齋藤武馬です.私が研究してきた,メボソムシクイ
に関する研究成果を例として,分子系統解析や外部形態
や音声形質の比較を用いた鳥類の系統地理学的研究を
紹介したいと思います.
メボソムシクイのなぞ?
2.
ミトコンドリアDNAを用いた分子系統解析
日本のほか,シベリア西部からアラスカにかけての各繁
殖地から18個体群,113個体の繁殖個体の血液を採取し,
DNA を 抽 出 し ま し
図 1.ミ ト コ
ンドリアDNA
アラスカ
た.その後,種や亜
A アナディール
(Cytb 領 域 )
マガダン
種の判別によく用
シベリア
の分子系統
いられる,ミトコンド
樹.こ の 系
リ ア DNA の チ ト ク
統樹はブー
本 州
トストラップ
ロ ー ム b 領 域
C 四国
九 州
値が低いの
(mtDNA Cytb)の一
で,正 し い
部の塩基配列を解
グ ルー プ間
読 し,分 子 系 統 樹
の系統関係
カムチャッカ
は示してい
B サハリン
を作成しました.そ
知 床
ない .
の 結 果,明 確 に 区
別される3つのグ
ループに
A1
A6
A2
A7
A12
1.00/100/100 A11
A10
A9
A8
A5
A4
A
3
0.59/*
C7
C9
C8
C5
C6
C12
C11
1.00/100/100 C10
C1
C4
0.99/99/100
C3
C2
B9
B10
B2
B8
0.75/54/#
B7
B3
B11
B6
1.00/100/100 B 1
B4
B5
0.74/89/86
2
P.borealoides
エゾムシクイ
P.magnirostris
ハシブトムシクイ
0.1
P.plumbeitarsus
フタオビヤナギムシクイ
P.coronatus
センダイムシクイ
亜種コメボソムシクイ
P.b.borealis
亜種オオムシクイ
P.b.examinandus
亜種メボソムシクイ
P.b.xanthodryas
図2. 3つの系統群の分布.丸で囲った範囲は,調べた個体群が属する
系統グループのおおよその分布範囲を表す.青はグループA,黄
色はグループB,赤はグループCを表す.亜種名はこれまでの文献
に記載されてきた亜種名を記した.
3.
外部形態の違い
DNAで明らかとなった,3つのグループ間で,外部形態に
違いがあるか,調べてみました.DNAを調べた繁殖個体の
うち,オスの成鳥55羽について,翼長,尾長,ふしょ長,嘴
の長さや幅,初列風切最外羽(P10)と最長初列雨覆羽の長
さの差を計測しました.その結果,正準判別分析を用い
て,3つのグループが形態学的に判別できるか解析したと
ころ,一部の個体を除いて,そのほとんどは判別が可能で
あるということが分かりました(図3).
また,計測した体サイズについて主成分分析によって得
られた第一主成分(PC1)の値を緯度と比較してみたとこ
ろ,高 緯 度 の 繁 殖
個体(北の個体群)
ほど,体サイズが小
さい傾向にあるとい
うことも分かりました
(図4, Saitoh et al.
2008).こ の こ と は,
高緯度地域ほど体 写真.富士山で捕獲したメボソムシクイ.
3.0
サイズが大き
グループB
2.0
くなるという
アラスカ
1.0
マガダン
「ベ ル ク マ ン
カムチャッカ
0.0
サハリン
北海道
の 法 則」と -1.0
岩手
静岡
は,この場合 -2.0
山梨
グループC
奈良
グループA
は 逆 の 傾 向 -3.0
であるといえ -4.0-6.0
-4.0
-2.0
0.0
2.0
4.0
小← 翼長・初列風切最外羽と最長初列雨覆羽の差 →大
ま す.な ぜ こ
CAN1
のような傾向 図3.正準判別分析を用いた分子系統グループ間の
形態の差異.重なりがなければ,形態が異なっ
になるのか
ていることを示す.グループAとBでは,分布が
は,明確な理
重なり,一部の個体については,判別が難しい
由はわからな
ことがみてとれる(Saitoh et al. 2008より).
CAN2 →全頭長 大
日本列島はシベリアと東南アジアやオーストラリアの間に
位置するため,毎年,春と秋に多くの渡り鳥が通過します.
日本では夏鳥であるメボソムシクイPhylloscopus borealis も
その例に漏れず,渡りの時期は全国でさえずりが聞かれた
り,観察されたりしています.その際,「ゼニトリ,ゼニトリ」と
聞きなしされる4音節でさえずる鳥と,「ジジロ,ジジロ」と3
音節でさえずる鳥の2タイプのメボソムシクイがいるというこ
とが以前からバーダーの間で話題に上っていました.日本
鳥類目録改訂第6版 (OSJ 2000)によると,日本には,本州
以南で繁殖する,亜種メボソムシクイ P.b.xanthodryas と,
渡 り 時 期 に 列 島 を 通 過 す る,基 亜 種 コ メ ボ ソ ム シ ク イ
P.b.borealis の2亜種が分布するとしています.前者の亜種
メボソムシクイは,本州以南の亜高山帯で繁殖し,「ゼニト
リ,ゼニトリ」とさえずることがよく知られていますし,記載もさ
れています(真木&大西 2000).しかし,後者の亜種コメボ
ソムシクイはいろいろな文献をみても,ロシアのシベリア地
方から極東ロシアに分布し,しかも「ジジロ」とはさえずら
ず,全 く 異 な る さ え ず り を 持 つ と さ れ て い ま す (Martens
1980, Cramp 1992).では,渡り時期に通過する,「ジジロ」
と鳴く鳥はどこで繁殖する鳥で,いったい何者なのでしょう
か?そこで,この鳥の正体を探るべく,各地のメボソムシク
イの繁殖地に行って,繁殖個体を捕獲し,血液からDNA配
列を調べると共に,外部形態の計測と,繁殖期にオスのさ
えずりを録音して,個体群間の変異を調べてみました.
翼長 小←
1.
分かれることが分かりました(図1,図2).また,これらのグ
ループ間の分岐年代を分子時計を基に計算すると,それ
ぞれが約190~300万年前 に遡る古い分岐であることが推
定されました.この分岐年代は一般的には,別種間の分岐
の古さになります.さらに系統群の分布において特筆すべ
きこととして,北海道知床半島にだけ,グループBに属する
個体群が繁殖し,日本国内において分岐年代の古い2つ
の系統が存在することが明らかとなりました.
Bird Research News
Vol.6 No.11
2009.11.19.
レポート
いのですが,考えられる理由として,”渡りへの適応”が挙
げられます.小型の陸鳥では,渡りを行わない熱帯の近縁
種よりも,渡りを行う種の方が体サイズを比較すると小さい
傾向にあることがいくつかの研究で知られています
(Winkler & Leisler 1992, 2005).つまり,長距離を渡る必要
がある高緯度の個体群は,体サイズが小さい方が渡りに
“有利”であるというわけです.しかし,渡りに対する適応に
は,体サイズの他に
y = -0.31x + 13.68
大
rs = -0.6
翼の形状(尖ってい ↑ 5
るとか丸っぽいとか)
グループA
グループB
も関係してくるので, 体 0
グループC
サ
広範囲な緯度に イ
ズ
-5
渡って分布する渡り
(PC1)
鳥の個体群間にお
い て,渡 り 距 離 と 形 ↓ -10
態との関係を調べる 小
35 40 45 50 55 60 65 70
に は,さ ら な る 細 か
南←
→北
緯度(N°
)
い 形 質 に 着 目 す る 図4.メボソムシクイの体サイズと緯度の関
係(Saitoh et al. 2008より).
必要があるでしょう.
4.
さえずりの違い
各調査地で,オスのさえずりを録音したところ,3つの異な
る種類のさえずりが認められました.興味深いことに,この
グループは,DNAによるグループ分けと一致しました.さえ
ずりをソナグラムに変換したものを見ても,一見してこれら
のグループ間は,さえずりが大きく異なることが分かります
(図5).この違いは人間の耳で聞いてもはっきりと分かる違
い で す.つ ま り,グ ロシア・マガダン/ 86
4
ループAは,同じ音 アラスカ/シベリア
2
(グループA)
s
素が連続的に発せ
0.5
1
1.5
2
2.5
3
「ジジジジジジジジジジジジ」
られる単純な歌で
8
カムチャッカ/
「ジジジジジジ」と鳴 サハリン/知床 64
(グループB)
2
き,グ ル ー プ B は
s
0.5
1
1.5
2
2.5
3
「ジ ジ ロ」と濁 っ た3
「ジジロ」
8
6
音 節,グ ル ー プ C 本州以南
4
(グループC)
2
は「ゼ ニ ト リ」で 4 音
s
0.5
1
1.5
2
2.5
3
節で構成されたさ
「ゼニトリ」
え ず り の 特 徴 を 図5.3 つ のさ え ず りタイ プ.各 分 子系 統グ
ループの中で典型的なさえずりをソナ
持っています.
グラムで示す.
5.
メボソムシクイにおける分類の再考
上記の分子系統,外部形態の差異,音声の差異の解析
結果を整理すると,以下の3つのグループに分かれること
が分かります(表1).以上の結果から,「ジジロ」とさえずる
鳥は,カムチャツカ,サハリン,北海道知床半島で繁殖す
る鳥であることが明らかとなりました.カムチャツカで繁殖す
表1.メボソムシクイの分子系統,外部形態,音声形質のまとめ.
DNA
グループ
外部形態(判別分析)
体サイズ※
囀り
1 アラスカ/マガダン/シベリア
A
DNAの
小 or 中
ジジジジジ
2 カムチャツカ/サハリン/知床
B
グループ分けと
小 or 中
ジジロ
3 本州以南
C
ほぼ一致
大
ゼニトリ
個体群
※体サイズは、個体群によって異なる場合あり
る個体群は文献によっては亜種オオムシクイP. b. examinandus に 分 け ら れ る こ と が あ り ま す (Ticehurst 1938,
Dement'ev & Gladkov 1954).上記のDNA,形態,音声学
的研究から,これらの3つのグループは,それぞれが将来
的に3つの別種に分類される可能性もありますが,さらなる
分類基準も加えて,慎重に記載する必要があります.
6.
系統地理学の分類学への応用
日本には,今回紹介したメボソムシクイの他にも,複数の
地理的変種(亜種)の分化が発達した種が多く見られま
す.例えば,メジロ,ウグイス,コゲラ,ヒヨドリ等が挙げられ
ますが,まだまだ,包括的な研究が成されていません.ま
た,最近の研究から,これまで亜種として分類されてきた個
体群間で,一般的な亜種間の遺伝的差異よりもより大き
な,種レベルの差異が認められた分類群があることが,ミト
コンドリアDNAのCOⅠ領域を調べた研究から明らかとなっ
てきました.例えば,キビタキ(亜種キビタキと亜種リュウ
キュウキビタキ)やサンショウクイ(亜種サンショウクイと亜種
リュウキュウサンショウクイ)など (齋藤ほか 2009) はほんの
一例ですが,これらの結果は今後の種・亜種分類の再考
に大きな影響を与えることとなるでしょう.これらの種に続い
て,今後様々な種について,系統地理学的研究がなされ
ていくことは,現在停滞気味となってしまっている分類学の
発展に大きく貢献することに繋がると期待されます.
7.
引用・参考文献
Cramp, S. (eds). 1992. The birds of the Western Palaearctic. vol.VI. Oxford University Press, London.
Dement'ev, G.P. & Gladkov, N.A. (eds). 1954. Birds of the
Soviet Union. vol.VI. Israel Program for Scientific Translations, Jerusalem (Translated from Russian in 1968).
真木広造 & 大西敏一. 2000.日本の野鳥590. 平凡社, 東京.
Martens, J. 1980. Lautäußerungen, verwandtschaftliche
Beziehungen und Verbreitungsgeschichte asiatischer
Laubsänger (Phylloscopus). Verlag Paul Parey, Berlin
(in German).
Ornithological Society of Japan. 2000. Check-list of Japanese birds, 6th ed. OSJ, Obihiro.
Saitoh, T., Shigeta, Y. & Ueda, K. 2008. Morphological
differences among populations of the Arctic Warbler
with some intraspecific taxonomic notes. Ornithol. Sci.
7: 135-142.
齋藤武馬・染谷さやか・小林さやか・岩見恭子・浅井芝樹・
西海功. 2009. DNAバーコーディングから明らかとなっ
た,種内に大きな遺伝的変異をもつ東アジア地域で繁
殖する鳥類種について. 日本鳥学会2009年度大会講
演要旨集.pp.64.
Winkler, H. & Leisler, B. 1992. On the ecomorphology of
migrants. Ibis 134: 21-28.
Winkler, H. & Leisler, B. 2005. To be a migrant. In:
Greengerg, R. & Marra, P.P. (eds) Birds of two worlds.
pp 79-86. The Johns Hopkins Univ Press, Maryland.
3
Bird Research News
ヒクイナ
1.
Vol.6 No.11
2009.11.19.
学:Porzana fusca
英:Ruddy Crake
分類と形態
構えて生活するが,つがい関係については良くわかってい
ない.神戸市では,冬期も2羽(性別不明)が1m前後の距離
で観察されている.
分類: ツル目 クイナ科
全長: 227mm (215-236)
嘴峰長: 22mm (20-24)
ふ蹠長: 35mm (33-37)
翼長: 120mm (100-120)
尾長: 48mm (45-52)
体重: 77.5g (57.5-94.2)
※ 榎本(1941)による .
Photo by Watanabe Yoshiro
羽色:
雌雄同色.首の後
から体上面は暗緑褐
色,頭 部 か ら 首,
胸,上腹が赤褐色を
しており,脇から下尾
筒は暗褐色で白色
写真1.ヒクイナ.
の横縞がある.嘴は
黒褐色で,足は赤色.虹彩は赤色.幼鳥は成鳥より赤味が
淡い.ヒナは,全身が光沢のある黒い羽毛で覆われてい
る.亜種リュウキュウヒクイナは全体に暗色味が強い.
鳴き声:
繁殖期には,主に早朝と夕方に「コッコッコッコッ」とゆっく
り一声ずつ連続して鳴き,次第にテンポを速め,最後は尻
下がりの声で終わる.また縄張り防衛の際には「キュルルル
ル」と甲高く鋭く鳴き,「フゥーフゥー」と低くこもった声で鳴く
こともある.他にキョン,キョンとかブルルルという声も出す.
2.
生息環境:
海岸付近から山地の河川,
湖 沼,湿 原 な ど の ヨ シ や ガ
マ,スゲ類などが茂る水辺の
湿地性環境や水田に生息す
る.特に,草丈が2m前後のヨ
シやガマが優占し下層にスゲ
類が茂る水深10cm前後の環
境を好む(平野・植田2007).
1
2
3
育雛:
抱卵は雌雄交代で行ない,抱卵日数は約20日である
(Taylor & van Perlo 1998).ヒナは,孵化後1,2日で親鳥
について歩きながら採食する.繁殖は年1回,失敗すると
やり直し繁殖を行なう.
4
食性と採食行動
昆虫類や節足動物,甲殻類,カエル類,小魚,貝類など
の動物質や,草の実や根などの植物質を主に地上で採食
する(Taylor & van Perlo 1998).時には,丈のある草の実
に飛びついて採食したり,水辺の岸で数分間じっと待っ
て,浅瀬にきた小魚を捕らえることもある.繁殖期にはオス
が捕らえた食物をメスに与える求愛給餌も行なう.
5.
興味深い生態や行動,保護上の課題
● 繁殖期の生息状況の悪化
Photo by Hirano Toshiaki
写真2. ヒ ク イ ナ の 生 息 環 境
(兵庫県神戸市).
生活史
非繁殖期
卵:
卵は楕円形で,平均長径33.5mm,短径24.3mm,淡褐色
地に赤褐色の斑がある(清棲1978).一腹卵数は5~9卵.
4.
分布と生息環境
分布:
パキスタンやインド,スリランカ,バングラディッシュ,マラ
ヤ半島,フィリピン,スンダ列島,中国南東部,日本に分布
す る(Taylor & van Perlo 1998).Taylor & van Perlo
(1998)によると4亜種に分類され,日本には亜種ヒクイナP.
f. erythrothoraxと亜種リュウキュウヒクイナP. f. phaeopyga
が分布する(日本鳥類目録編集委員会2000).
3.
巣:
湿地や水田のスゲ類やイネなどの株の間や茎の上に,水
草の葉と枯れ草の茎や葉を折り混ぜるように椀型の巣をつ
くる.外装と内装の巣材の使
い分けはない.神戸市で観
察 し た 1 巣 は,草 丈 150 ~
0cm,植 物 の 被 度 が 60 ~
70% の 湿 地 の 地 表 か ら
50cm の 高 さ に 造 ら れ て い
た.巣の直径は約12cmで,
Photo by Watanabe Yoshiro
巣の下には水深10cmの緩
写真3.ヒクイナの巣と卵.
やかな流れがあった.
5
6
7
繁殖期
8
9
10
11 12月
近畿地方の例
繁殖システム:
一夫一妻と考えられている(Taylor & van Perlo 1998).神
戸市付近では,3月下旬から4月上旬になると鳴声活動が
活発になり,繁殖つがいが形成される.繁殖期は4~9月.た
だし,北日本では5~9月と遅い.つがい形成後はつがいで
行動し,巣となわばりを防衛する.秋冬もなわばりを
4
Taylor & van Perlo (1998)によると,ヒクイナは日本では
最も普通に生息するクイナ類と記載されており,それを裏
付けるように1970年代後半では,九州沖縄地方から北海
道までほぼすべての都道府県で繁殖期に記録されていた
(図1-a,環境省生物多様性センター2004).ところが,平
野ほか(1997,2003)は,現地調査やアンケート調査によっ
て栃木県では1990年代後半に本種の生息状況が著しく悪
化したことを報告した.このような,ヒクイナの生息分布の著
しい縮小は,1997~2002年に実施された全国繁殖分布調
査でも認められた(環境省生物多様性センター 2004).そ
のため,2006年12月に改訂された環境省のレッドリストで
は新たに絶滅危惧Ⅱ類に選定された.ヒクイナの生息状況
が悪化した理由は,栃木県では河川改修や圃場整備によ
る生息環境の消失,乾田化などの農作業の変化や農薬の
影 響 に よ る 食 物 資 源 の 減 少 な ど が 挙 げ ら れ た(平 野
Bird Research News
Vol.6 No.11
2009.11.19.
生態図鑑
1997).また,樋口ほか(1999)は,水田の宅地化などの繁
殖環境の変化が大きく関わっていることを示唆した.
図1-bは2006年から2009年にバードリサーチが実施した
現地調査とアンケート調査,文献調査から得られたヒクイナ
の繁殖期の都道府県別の生息分布である.2000年代後半
では,ヒクイナは本州中部の内陸県や日本海側の地方で
生息記録が得られなかったが,山形県や宮城県以南の地
域で記録された.しかし,関東地方や東北地方では生息
記録や繁殖記録があるものの,例数は少なかった.一方,
本州中部以西の地域では,多く生息していた.たとえば,
兵庫県神戸市付近では2008年の5~6月には中規模河川
や農業用溜池で少なくとも63羽の生息を確認した(渡辺・
平野2008).ただし,ヒクイナの生息はヨシ原など湿地性植
物の面積と密接に関わっており,河川の護岸工事や溜池
の改修工事によって湿地性植物の生育面積が減少すると
生息状況が悪化する可能性が示唆されている(渡辺・平野
2008,2009).
図1.
ヒクイナの
繁殖分布
の 変 化.
aは環境省
生物多様
性センター
(2004)を も
と に 描 く.
bはバードリ
サーチの調
査による.
a.1974-1978年
b.2006-2009年
● 越冬分布の拡大
図2-aは,ヒクイナの1986年の冬期の生息分布である(環
境省1988).当時,ヒクイナは,九州地方と山口県の一部で
越冬が確認されていたに過ぎなかった.一方,図2-bは,
現地調査やアンケート調査,文献調査に基づいた2006年
から2009年3月までの越冬期の分布を表している.現在,
越冬記録がある地域は,1都2府22県であった.関東では
2008年の冬期に東京都と千葉県で各1例が記録されただ
けだったが,本州中部から近畿,四国,中国,九州沖縄地
方では多くの県で恒常的に生息が確認された.したがっ
て,ヒクイナの越冬分布は,1980年代中ごろに比べると,明
らかに拡大した.しかも,兵庫県神戸市付近では2009年1
図2.
ヒクイナの
越冬分布
の 変 化.
aは環境省
(1988)を も
と に 描 く.
bはバードリ
サーチの調
査による.
a.1986年
b.2006-2009年
月には少なくとも79羽の生息が確認され,個体数も多いこ
とがわかっている(渡辺・平野2009).ヒクイナの世界的な
分布を見るとインドや東南アジアなどに広く分布しているこ
とから南方系の種であることがわかる.また,図2から越冬
分布が西から東へ拡大したことが見てとれる.これらのこと
から,ヒクイナの越冬分布の拡大は,近年の地球温暖化に
ともなう冬期の気温の上昇と関係していることが推測され
る.そのため,今後さらに気温が上昇すると,本種の越冬
分布はさらに東へ拡大する可能性がある.さらに,それにと
もなって,東日本でも良好な湿地環境が広がる地域では,
繁殖個体数が増加するかもしれない.
6.
引用・参考文献
榎本佳樹.1941.野鳥便覧.日本野鳥の会大阪支部.
樋口広芳・森下英美子・宮崎久江.1999.アンケート調査からみた
夏鳥の減少.樋口広芳編.夏鳥の減少実態研究報告.pp. 1118.東京大学渡り鳥研究グループ,東京.
平野敏明・五反田薫・高松健比古. 1997. 栃木県におけるヒクイ
ナの生息状況. Accipiter 3: 1-6.
平野敏明・君島昌夫・小堀政一郎・小堀脩男・志賀陽一. 2003.
栃木県におけるヒクイナの生息状況(2002). Accipiter 9: 1-9.
平野敏明・植田睦之.2007.日本におけるヒクイナの生息状況.日
本鳥学会2007年度大会講演要旨集.pp.140.
環境省.1988.第3回基礎調査動植物分布調査報告書鳥類.
www.biodic.go.jp/reports2/3rd/ap_bird/3_ap_bird.pdf.
環境省生物多様性センター.2004.第6回自然環境保全基礎調
査 鳥類繁殖分布調査報告書.
www.biodic.go.jp/reports2/parts/6th/6_bird/6_bird_16.pdf.
清棲幸保.1978.増補改訂版 日本鳥類大図鑑Ⅰ.講談社,東京.
日本鳥類目録編集委員会.2000.日本鳥類目録改訂第6版.日本
鳥学会,帯広.
Taylor, B. & van Perlo, B. 1998. Rails. A guide to the rails,
crakes, gallinules and coots of the world. Yale University Press,
New Haven and London.
渡辺美郎・平野敏明.2008.神戸市西区および稲美町一帯におけ
るヒクイナの生息状況.日本鳥学会2008年度大会講演要旨集.
pp.110.
渡辺美郎・平野敏明.2009.神戸市西区および稲美町一帯におけ
るヒクイナの越冬期の生息状況.日本鳥学会2009年度大会講演
要旨集.pp.162.
執筆者
渡辺美郎 日本鳥学会会員
平野敏明 バードリサーチ研究員
ヒクイナは2007年秋から調査を始めて以来,調べれば調
べるほど奥深い鳥で,興味が尽きません.今はヒクイナしか
眼中にないほどです
(渡 辺).生 息 適 地 で
あ る 湿 地は現 代人 に
とっては不毛の地かも
しれませんが,ヒクイナ
にとっては,生命の源
泉.守っていきたい環
境です(渡辺,平野). 調査中の平野(左)と渡辺(右).
5
Bird Research News
Vol.6 No.11
2009.11.19.
論文紹介
ぼくらをプリティと呼ぶな!
~コウモリを捕食するシジュウカラ~
また,洞窟の岩の上などでコウモリを食べている姿や,コウ
モリをくちばしにくわえて洞窟の外の木まで運び出す行動
も観察されたそうです.
世界中のさまざまな場所に生息しているシジュウカラ,皆
さんにも身近な野鳥の1種だと思います.我が家の庭先に
もよく訪れます.きょろきょろしながらツィツィと鳴いている姿
がとってもプリティで,僕もシジュウカラは大好きです.
そんなプリティなイメージを覆すような衝撃的な論文がイ
ギリスの研究誌に掲載されました.シジュウカラが冬眠して
いるコウモリを捕食する,という内容です・・・.
2.
Estók, P., Zsebok, S. & Siemers, B.M. Great tits search
for, capture, kill and eat hibernating bats. Biol. Lett.
published online before print September 9, 2009, DOI:
10.1098/rsbl.2009.0611
1.
コウモリを捕食するシジュウカラ
ヨーロッパでは,1947年から1999年にかけて,コウモリの
死体をついばんでいるシジュウカラが観察されたり,カラ類
のくちばしによって負傷したと思われるコウモリの死体が発
見されています.また1996年には,ハンガリーの洞窟で,
冬眠しているヨーロッパアブラコウモリPipistrellus pipistrellus
をシジュウカラが捕まえたという出来事も報告されました.
しかし,シジュウカラが「たまたま冬眠しているコウモリや
死骸を見つけて食べていただけなのか」それとも「コウモリ
を積極的に捕食していたのか」はわかっていませんでし
た.そこで,エストックさん達はこのことを明らかにするため
に,1996年に報告のあったハンガリーの洞窟で,シジュウ
カラによるコウモリの捕食がどれくらい観察できるかを調査
しました.
エストックさん達は2004
年から2006年のふた冬の
うち計22日間の観察調査
を 行 い,シ ジ ュ ウ カ ラ が
ヨーロッパアブラコウモリを
捕食するのを18回観察し
ました.シジュウカラは洞 写真1.フィンランドで撮影されたシ
窟内の壁の近くを飛び, ジュウカラParus major major.後ろを
時折岩の割れ目に入って 向いてしまっているが,腹部の羽が
黄色いのがわかる.
コウモリを探していました.
[ Photo by 海老原美夫 ]
本当に食物として捕まえているのか?
ところで,このコウモリは冬
眠中でも外部の騒音などに
よって目覚めることがよくある
のですが,そのときに人間に
も聞こえる鳴き声を出すそう
です.そこで,エストックさん
達は,シジュウカラがその鳴
写 真 2.日 本 の ア ブ ラ コ ウ モ リ
き声を頼りにコウモリを探して Pipistrellus abramus.ヨーロッパ
いる可能性があると考えまし アブラコウモリよりは一回り大き
た.そのことを調べるため,コ い.彼らを捕食しているシジュウ
ウモリの鳴き声を録音し,岩 カラが日本にもいるだろうか?
[ あくあぴあ芥川 提供 ]
や木の陰に隠したスピーカー
からシジュウカラに向けて鳴き声を再生する実験を行いま
した.56羽のシジュウカラに再生実験をしたところ,45羽が
鳴き声に反応し,スピーカーの近くまで来て岩や木の陰を
探っていたそうです.シジュウカラは,薄暗い洞窟の中で
鳴き声を頼りにコウモリを捜し出せることがわかりました.
また,シジュウカラが積極的にコウモリを捕食しているとい
うことを裏付けるために,エストックさん達は洞窟の入り口
付近にシジュウカラの餌(ヒマワリの種とベーコン)を置いて
実験を行ないました.すると,実験中に洞窟の中まで入っ
ていくシジュウカラは1羽だけでした.これはシジュウカラが
コウモリを食物として捕えていることを支持する結果です.
ふた冬の間にシジュウカラによるコウモリの捕食が18回観
察されたことと,上の2つの実験結果から,エストックさん達
はシジュウカラが意図的にコウモリを求めて捕食しているこ
とが示されたと結論付けています.野生動物の生きるため
の力には本当に感心してしまいます.プリティ&ワイルドな
シジュウカラが益々好きになりました. 【本山裕樹】
3.
証拠映像
以下のURLから,シジュウカラが撮影された動画がダウン
ロードできます.ぜひご覧になってみて下さい.
■biology letters 掲載論文のData Supplement のページ
http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/early/2009/09/08/
rsbl.2009.0611/suppl/DC1
バードリサーチニュース 2009年11月号 Vol.6 No.11
2009年11月19日発行
発行元: 特定非営利活動法人 バードリサーチ
〒183-0034 東京都府中市住吉町1-29-9
TEL & FAX 042-401-8661
E-mail: br@bird-research.jp
URL: http://www.bird-research.jp
発行者: 植田睦之
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編集者: 高木憲太郎
表紙の写真: ジョウビタキ