Shinshu University Institutional Repository SOAR-IR - 信州大学機関

Shinshu University Institutional Repository SOAR-IR
Title
山岳科学総合研究所ニュースレター 第16号
Author(s)
信州大学山岳科学総合研究所 情報企画チーム
Citation
Issue Date
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Rights
山岳科学総合研究所ニュースレター 16(2009)
2009-08-21
http://hdl.handle.net/10091/15881
山岳科学総合研究所
ニュースレター
2009年 8月
第16号
Contents
公開講演会「山岳と極地から見えてくる地球の今」特集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2∼4
日本の雪渓から北極圏の氷河まで
地上と上空から見たヒマラヤの変貌
雪と氷の大陸:南極―探検から研究へ―
北
見
工
業
大
学
高橋
修平
名
古
屋
大
学
上 田
豊
国 立 極 地 研 究 所
渡辺
興亜
山岳森林のリモートセンシング研究は汗をかく
地 域 環 境 共 生 学 部 門
加藤
正 人・・5
富士山の永久凍土調査プロジェクト開始のお知らせ 山岳科学総合研究所特別研究員
池 田
敦・・6
上高地物語―その10「小梨平―下白沢間の組織地形:活(?)断層とカルデラ壁」
山 岳 基 礎 科 学 部 門
原 山
智・・7
広報・コラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
林野庁中信森林管理署と連携・協力に関する協定を結びました
表紙の写真:ヒマラヤひだの峰、ガンチェンポ(6
3
8
7m)
名
古
屋
大
学
上 田
豊
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
日本の雪渓から北極圏の氷河まで
北見工業大学教授
高
1.日本の雪渓観測
橋
修
平
4.
アラスカ
1
9
6
0年代から1
9
7
0年代にかけて、大雪山、月山、立
アラスカ北部マッコール氷河では IGY 当時からアラ
山、穂高岳、白山など日本各地で雪渓観測が多く行なわ
スカ大学を中心に詳しい観測がなされ、現在も継続され
れた。樋口(1
9
6
9)は多年性雪渓の地球科学的意味とし
0
0
4年に氷河観測を行なった。掘
ている。我々も2
0
0
3―2
て、「雪氷変態過程」
、「氷河遷移態」
、「気候変動指標」
、
削機器がヘリ輸送中落下して大破する事故に見舞われた
「水収支系」等の意義を示した。
が、地中レーダー観測やインターバルカメラによる積雪
2.大雪山「雪壁雪渓」
量観測等は行なえた。上流の涵養域は、本来、年間積雪
北海道・大雪山の「雪壁雪渓」では1
9
6
0∼1
9
7
0年代に
量が増える地域であるのに、この年は驚いたことに減っ
かけて多くの雪氷学的研究が北海道大学低温科学研究所
てしまった。温暖化の一端を垣間見た思いである。図3
により行なわれた。その後中断はあったが、1
9
8
9年から
の5
0年前の氷河との比較を見ると氷河が後退し、厚さも
は北見工大・雪氷研究グループが観測を継続している。
薄くなったたことがわかる。
観測は現地の測量を基本とするが、悪天で登れないこと
もあり、1
9
9
9年からは空撮も併用するようにした。
図1に「雪壁雪渓」の面積変動を示す。面積は大きく
変動し、その傾向は気候に直接対応しないように見える
が、面積の拡大期と縮小期に分けてみると、その傾向は
ある変化を示しているようである。
1958 !1958A. Post
1
9
6
2年と1
9
8
9年に十勝岳が噴火し、その2∼3年後に
雪渓が極小になった。そのことから雪渓内部の古い表面
図3
2003 !1958M. Nolan
マッコール氷河の5
0年間の変化
5.シベリア
層汚れが現れたとき、融解が促進され、何層もの年層が
シベリア・スンタールハイアタ山脈では IGY 当時、
現れると融解が促進され極小となる。一旦極小になった
ロシア科学院により詳しい観測がなされたが、その後は
後は内部に過去の汚れ層を含まず、しばらくは大きいま
継続されず、IPY を契機に観測を行なうことにした。現
までいられると説明できる。
地へはボートで河をさかのぼったり、橋がすっかり壊れ
2500
2000
た道をトラックで強行したり、苦労も多かったが各種
雪壁雪渓表面積(9月下旬値)
m2
3000
データを得ることができた。この地域でも氷河面積がこ
1962
十勝岳噴火
1989
十勝岳噴火
の5
0年間で1
9%減少していることがわかった。またどこ
1500
が一番寒いかを観測した結果、オイミヤコン村が最も寒
1000
く、−5
9.
7℃を記録した(図4)
。
500
0
1960
図1
1970
1980
1990
2000
2010
大雪山「雪壁雪渓」(左)とその面積変化(右)
3.IGY と IPY
8年に極地の観測を
図2は1
9
5
7―5
国際的に行なおうとした IGY(国際
地球観測年)を記念した切手であ
り、このとき日本も南極観測を開始
した。その対象は南極に限らず、ア
図4
図2
ラスカやシベリアなど北極地域の氷
国際地球観測年
記念切手
ス ン タ ー ル ハ イ ア タ No.3
1氷 河(左 上)
、‐7
2℃記 念 碑
(左下)
、シベリアの最低気温分布(右)
雪渓も氷河も長年の観測で初めてわかることが多い。
8年に再び極地
河も対象となった。その5
0年後、2
0
0
7―0
雪氷研究者はその過去の観測に自分のデータを重ね、そ
観測を詳しく行なう IPY(国際極年)が設定された。
のデータが未来へ受け継がれていくことを願っている。
2
山岳科学総合研究所ニュースレター
第1
6号
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
地上と上空から見たヒマラヤの変貌
名古屋大学名誉教授
上
氷河と温暖化 氷は0℃を越えると融けるので、氷で成
る氷河は、近年の温暖化の影響に直にさらされている。
氷河は世界各地の陸上にあるが、その氷が減った分は
海に流れ込み、世界の海面を上昇させる。2
1世紀末まで
の海面上昇のうち、約6割が海水の温度上昇による膨
張、残りは陸上の氷の減少分によると見積もられてい
る。陸上の氷の9
9%以上は南極とグリーンランドにあ
り、その他の山地にある氷河の量は1%にも満たない。
だがもともと極寒の南極などでは温暖化しても氷は減ら
ず、しわよせの大部分は、この山岳氷河にくる。
ヒマラヤの氷河縮小 氷河の氷は毎年融け、その分を補
うように雪が積もる。温暖化で融けて支出される氷の量
が増え、それを補う雪の収入を上まわると、氷の収支が
赤字になって氷河の厚さが薄くなる。
図1は氷河の厚さの減少速度が、世界各地の平均で
1
9
8
0年代の1
0年間には2m だったのが、9
0年代には4m
と倍増し、2
0世紀末の2
0年で合計6m も減っているこ
とを示している。1
9
7
0年代からわたしたちが観測してき
たネパール・ヒマラヤの氷河(○印)では、世界の平均
よりもさらに急激に縮小しているのがわかる。写真はそ
の一つで、最近2
0年間で著しく後退している。
田
豊
には朝日新聞社の小型ジェット機によるネパールでの空
撮ができた。それらの写真を比較すると、氷河はさらに
縮小していた。消失した小さい氷河や、分断された氷河
(写真1)もあった。また、ブータンやネパールには、
末端が湖になった氷河が多い。氷河が融けてその湖が拡
大すると、それを堰き止めている堆石の土手(モレー
ン)が決壊して洪水を起こすかもしれない。
写真1
分断された氷河。1
9
7
4年には気象測器が立っている地
点を「く」の字型の屈曲点として、測器背後の上流部
と繋がっていた
雪氷圏の将来 地球温暖化による氷河の縮小は、グロー
バルには世界の海面上昇、ローカルには自然災害や水資
源減少につながる。また、はるかな高みに映える荘麗な
氷雪の峰々は、人の心を高めいやす、地球のかけがえの
ない景観として貴重なことも忘れてはならない。だがす
でにヒマラヤでは、秀麗なヒマラヤ襞が融け、汚れた地
肌がむきだしになった峰もある(写真2)
。
図1
ヒマラヤと世界の氷河縮小
ヒマラヤでは、モンスーンのため冬より夏に雪がたく
さん降る。温暖化すれば夏の雪は雨に変わりやすくな
る。ヒマラヤの氷河では日射が強いため、氷は日射熱を
吸収して融ける。氷河表面が汚れているほど日射をよく
吸収するので、温暖化で夏に雪が降る割合が減ると、氷
河は汚れ、ますます融けやすくなる。つまり温暖化すれ
ば積もる雪(収入)が減り、おまけに融ける量(支出)
が増えるので、収支が大きくに赤字に傾くことになる。
1
9
7
0年代からの地上と空撮による観測に加え、2
0
0
7年
写真2
アンナプルナ内院の4
0余年の変容。矢印の2峰は写真
3枚とも左上がフルーテッド・ピーク(6
4
9
9m)
、右下
にテント・ピーク(5
6
6
3m)
山岳科学総合研究所ニュースレター
第1
6号
3
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雪と氷の大陸:南極
―探検から研究へ―
国立極地研究所名誉教授
(山岳科学総合研究所教育特任教授)
渡
地球最大の山岳:南極大陸
南極大陸上には面積約1
2
3
0万平方 km、平均の厚さ
1
8
5
6m の雪氷層 が 分 布 し、巨 大 な 氷 床 を 形 成 し て い
る。この南極氷床は体積2
5
4
0万立方 km におよぶ。南極
大陸はいわば見かけ上の表現であるから、以降は南極氷
床とよぶ。南極氷床は他の大陸地殻で構成された大陸に
比べて異常に高く、その平均標高2
0
1
0m はユーラシア
大陸のそれの3倍に近い。
南極氷床に関わる気候環境はその地球上の位置、地形
の特性から特有の気候・雪氷環境システムをもち、その
システムによって質量収支機構が維持されている。
南極氷床の科学的探査は国際地球観測年(IGY,1
9
5
7―
8)以降であり、IGY では特に南極内陸部の探査に重点
がおかれた。
1.IGY 時代のわが国の内陸調査
第1次南極観測隊(JARE1)の越冬隊はさまざまな
苦労を重ね、白瀬氷河左岸の露岩ポツヌーテンの地学的
調査を行った。わが国最初の内陸調査の成果である。
JARE3は ANARE 山脈の探査を行ったが、幻の探査行
となった。JARE4は1
9
3
9年にノルウェー隊が視認した
山地に向かい、多大の地学的成果をあげ、続く JARE5
は小型雪上車を駆使し、南緯7
5度、標高3
0
0
0m 内陸高
原端に進出することに成功した。当時の内陸探査はまさ
に探検的であり、想像を超える苦労であった。こうした
先人の努力によって、昭和基地南方の氷床内陸部の状況
が次第に明らかにされていったが、なお、多くの未知の
解明が次の世代に委ねられたのである。
2.南極点トラバースの成功からエンダービーランド計
5)へ
画(1
9
6
9―7
エンダービーランド計画の発足には、JARE8―9によ
る昭和基地―極点往復トラバースの成功がその礎となっ
た。第1に耐寒性をもつ大型雪上車 KD6
0の開発であ
り、極点旅行の成功によって内陸行動力は飛躍的に増大
した。
雪氷観測計画の目的はみずほ高原域で内陸トラバース
観測網を展開し、その領域の質量収支、氷床のダイナミ
ックスを解明しようとするものであった。春―夏期間に
3ヶ月に及ぶ内陸観測である。観測域の大半は前人未踏
の地、基本観測は地形図作成のための位置測定と気圧測
高である。1
0
0km 毎に天測を行い、2km 毎に積雪量観
測のための雪尺を立て、磁石と雪上車の距離計で位置決
めをし、同時に氷の下の南極大陸の地形を知ることでも
あったが、氷床の氷の厚さはアイスレーダーで測定され
た。1
9
6
8年、米国隊による西南極大陸のバード基地での
2
1
6
4m の深さの氷床底に達する深層掘削の成功の報が
届いた。そのコア解析による過去の気候の復元は後に驚
4
山岳科学総合研究所ニュースレター
第1
6号
辺
興
亜
くべき成果をもたらした。この成功に日本の雪氷研究者
も大きな関心を寄せ、将来の深層掘削の準備に入ったの
である。
氷床掘削計画を進めるには内陸に基地を持つことが必
要であった。1
1次隊が内陸基地建設を行い、設置された
みずほ基地で、1
2次隊から手探りのような掘削が始まっ
た。電気熱式掘削機による掘削は1
5
0m の深度を越すこ
とが出来なかったが、しかし氷床掘削の歴史は開始され
たのである。
6)
の展開
3.東ドローニングモードランド計画(1
9
8
2―8
JARE2
3よって、第Ⅱ期雪氷総合観測計画が開始され
た。本計画はエンダービーランド計画に引き続く、雪氷
総合観測計画であるが、同時に国際南極雪氷 学 計 画
(IAGP)の一環でもある。東南極大陸 を 対 象 地 域 と
し、氷床表面と基盤の地形、流動に関わる諸因子、質
量・エネルギ―収支、氷縁部の諸現象の観測を目的とし
た。
主要な計画は白瀬氷河の主流線からベルジカ山群にか
けての2
0
0
0m 等高線沿いの流動トラバース観測であっ
た。第2の目的はみずほ基地における中層(7
0
0m 深)
掘削である。
また本計画に引き続くより内陸域への観測展開が第
III 期計画が構想され、その実現のためには東ドローニ
ングモードランドの頂上の発見が最大の課題であった。
内陸域の探査はみずほ基地での掘削の後に、JARE
2
5,2
6によって行われた。前進拠点を足場に2
6次隊によ
って南緯7
7度付近までの探査が行われ、ドーム頂上が発
見された。
7)
4.ドーム計画の展開(1
9
9
2―9
南緯7
7度付近に存在が予想された氷床ドーム頂上域の
探 査 に よ っ て、標 高3
8
1
0m の ド ー ム 頂 上 が 南 緯7
7°
2
2′
、東緯3
9°
3
7′
にあることを発見し、「ドームふじ」と
名付けられた。
掘削計画は3
3次隊による掘削地点の選定から始まっ
た。基地建物の建設を開始するためには3
4次隊がケーシ
ングされた掘削孔を完成させておく必要があった。
つづく3
5次隊のオペレ―ションも御難続きであった。
3
5次隊は寒さの厳しい秋旅行を敢行し、さらに春旅行を
行なって、本来のスケジュ―ルに戻すことができた。お
そらく、最近2
0年のなかで、最も厳しい輸送計画であっ
たであろう。そして計画通り、3
6次隊到着時にはみずほ
基地を完成させることが出来た。多くの苦労を克服し、
3
6次隊は初のドーム基地越冬を成功させ、そして3
7次隊
が掘削を引き継ぎ、2
5
0
0m 深の掘削に成功し、3
4万年
の堆積層が日の目を見ることとなった。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
山岳森林のリモートセンシング研究は汗をかく
地域環境共生学部門
加
藤
正
人
グーグルアースの高解像度画像で学生たちが気軽に旅
行先を探索している。コンピュータを始めとする IT の
技術革新は著しく、リモートセンシング技術も進展して
いる。現在、利用できる人工衛星と航空機センサを図1
に示す。
図2
高山植生の分類
木曽駒ケ岳
どこに、どの木が、どれだけあるのかを知ることで、
広い森林の様子をつかむことができる。この技術を用い
て、地球環境の保全や日本の森林管理で問題となってい
る“どこを間伐(木が混んでいる箇所を間引く作業)し
たらよいか”の場所を赤色で区分することができる(図
3)
。
図1
利用できるセンサ
大きな特徴は、地上の様子を細かく見る空間分解能が
向上したこと、センサの種類が増えたことである。狭い
観測幅で連続的に数百の波長帯数で観測するため多波長
(ハイパー)センサ、高さを測定するライダーセンサ、
雲や夜間でも観測できるレーダセンサなどがある。1つ
の対象物を様々なセンサで計測できるようになり、研究
者にとって幸せな環境になった。
一方で、これらをどう処理して、どう理解するかが重
要である。上空から撮像された画像を見ると、不思議な
色や形の模様が現われる。この謎解きが画像解析する人
にとって、現場をつなぐ(理解する)重要な作業であ
る。研究室から外に出て、位置情報をナビゲートした携
帯 GPS を持ち、汗をかきながら現地確認する。これを
実行した後は、画像と現地が1対1で対応したイメージ
が頭の中にできる。リモートセンシング画像は面的だ
が、下から見上げた森林の映像によって、擬似立体的に
も見えてくる。不思議である。
広い森林や道路から離れた奥地の森林、高標高の山岳
図3
樹種ごとの樹冠区分図(上)間伐地の半自動抽出(下)
域をつぶさに調査することは困難である。1m 以下の
地球温暖化防止に向けた森林の役割、生態系を含めた
高分解能データを使うと、高山植生の細かい分類(図
環境監視の役割が一層重要になっている。学際的な技術
2)や、樹木1本ごとに、樹冠の大きさ、本数、混み具
であるリモートセンシングは今後も多方面で利用される
合、樹種の違いを特定できる。
であろう。
山岳科学総合研究所ニュースレター
第1
6号
5
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富士山の永久凍土調査プロジェクト開始のお知らせ
山岳科学総合研究所特別研究員
池
田
敦
私は山に登れる研究者として、今年度から信州大学山
(立山カルデラ砂防博)が、降雨による地盤への熱の運
岳科学総合研究所の研究員に赴任し、当研究所が山岳地
搬が、積雪分布の不均一性と相まって永久凍土分布を決
に設置した気象観測装置のメンテナンスを担当すること
定することを指摘しており、富士山においても、降雨条
になりました。それまでは、スイスアルプスのエンガデ
件をどう評価するかは重要な課題です。はじめに雨につ
ィン地域や、アラスカ北極圏ブルックス山脈、そしてチ
いて書きましたのも、日本の永久凍土環境を国際的な研
ベット高原東部の黄河源流域において、永久凍土(年間
究成果の中で理解するためと無縁ではありません。
を通じて0℃以下の地盤)に関する研究を行っていまし
そのような問題意識のもとに、私と岩花
剛(北大)
た。それぞれの地域に何年も足を運びましたが、いずれ
は、国内の若手凍土研究者らと富士山の永久凍土環境を
も日本よりも降水量の少ない土地で、雨の降り方は、今
明らかにするプロジェクトを立ち上げました。当初の目
年、私が日本でずぶ濡れになって経験していることから
標として、①永久凍土に確実に達する観測孔を山頂部に
比べると、かわいらしいものでした。
掘削し、通年0℃以下で推移する地温を測定し(永久凍
さて、現在、私は当研究所の仕事として槍ヶ岳、燕岳
土の存在をほぼその定義に基づき実証する)
、②地温観
等に気象測器の点検・修理・増設のために通う一方、昨
測と連動させて気象要素を測定し、大気―地盤間の熱の
年度から本格的に始めた富士山の永久凍土調査と、南ア
動きを評価し、③表層地温の観測網を整備し、南北斜面
ルプス間ノ岳周辺で氷期の氷河・永久凍土環境の調査を
の永久凍土分布について検討する、としました。そのた
行うという山三昧の生活を送っています。ここでは、そ
め深さ3m の地温観測孔と自動気象観測地装置を昨年
のうち富士山で始めた研究の(順調とはほど遠い)進展
度、山頂部に設置したのですが、①②に関しては、真冬
具合について紹介しましょう。
に太陽電池パネルが強風によってもぎとられ、データが
近年の温暖化に伴い富士山の永久凍土分布が急速に縮
欠損してしまったり、測定値に原因不明のノイズが載っ
小していると、ここ数年しばしばマスメディアによって
ていたりで、現状では正確な評価が難しいのです。ま
報道されています。しかし富士山の永久凍土に関する知
た、③のために人力で担ぎ上げられるあらゆる掘削機器
見は短期間に得られた地表面付近(永久凍土層より浅い
を投入しましたが、低酸素による出力不足や、掘った先
位置)の地温データから推定されたもので、その詳細に
から崩れる土質のために、深さ1m 以上の穴となると
ついてはよく分かっていません。
掘れる場所がごく限られていて難渋しています。
大気が暖かくなった分、地温も上がる、というのはイ
それでもここまで得られた地温データと、地中レー
メージしやすいかと思います。しかし、大気と地盤の間
ダー探査や電気探査によって推定される地盤の水文状況
の熱のやりとりに介在する積雪が、ある条件下では地温
を合わせて考えると、年平均気温−6∼−7℃という永
を高く保ち、また別の条件下では地温を低く保つため、
久凍土の形成・維持に有利な条件にもかかわらず、山頂
気候変化によって積雪条件が変化すれば、永久凍土もそ
部においては、従来の見解とは異なり、永久凍土が存在
の影響を受け、話は単純ではありません。また、富士山
する場所が限られている可能性が出てきました。そこで
山頂部においては、明治時代以後に火山性地熱が低下し
地温を高く保持する要因としての積雪、降雨、火山性地
た徴候が認められています。そのため、場所によっては
熱活動を精査するために、次年度に向けて積雪分布と土
現在、永久凍土が発達中ということすらありえます。さ
壌水分の観測を立ち上げ、より深い地温観測孔掘削の具
らに、北アルプス立山における研究で、福井幸太郎氏
体化に取りかかっています。
6
山岳科学総合研究所ニュースレター
第1
6号
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上高地物語
―その1
0「小梨平―下白沢間の組織地形:活(?)断層とカルデラ壁」
山岳基礎科学部門
原
上高地小梨平から明神へ向かう遊歩道は、東に向か
う。この小梨平から徳本峠分岐までの3km の部分は東
山
智
崗岩)
に入っていくのである。もちろん当時の地表は3
0
0
0
m 近いはるか上空にあったのであるが・・
西に谷が発達する部分であり、北北東から南南西に向か
六百沢から続く白いマサを踏みしめながら5
0
0m ほど
う梓川の流路にとっては特異な場所である。そういえ
歩いていくと、視界が急に開け、明神岳一帯の展望がす
ば、前穂高―明神岳と続いてきた山稜もここで梓川に切
ばらしい地点に至る。ここが下白沢との出合である。迫
断されており、南の六百山―霞沢岳の山稜とは不連続と
力の明神岳東壁を北へ追っていくと、長七の頭から明神
なっている。
岳東陵に連なるスカイラインが見えてくる。このスカイ
ラインは中途で大きなギャップを示して お り(写 真
1)
、鞍部にひょうたん型の池があることから、ひょう
たん池のコルと呼ばれている。
小梨平
図1
明神
活
(?)
断層
上高地付近の地質 地質図は5万分の1の地質図「上高
地」(原山、1
9
9
0)に基づく。小梨平―明神間の梓川は東
西系の断層(←→)に支配された流路を示す。活断層の
可能性が高い。白矢印は下白沢から望むひょうたん池の
コルの方向。
この東西系の谷は、東西に走る断層によって支配され
た地形である。図1の地質図では、この東西断層によ
り、カルデラ東縁の境界が6
0
0m ほど右横ずれを起こし
ている。おそらく1
4
0∼8
0万年前に生じた隆起ステージ
に発生した断層なのであろう。
写真1
下白沢から望むひょうたん池のコル。図1の白矢印方
向に望む地形ギャップ。かつてのカルデラ壁の所在を
示す。
実はこのコルの部分が、槍―穂高カルデラ火山のカル
デラ壁が有った場所なのである。カルデラ内の埋積火山
平成1
0年の群発地震は、ほぼ南北に伸びた震源域を示
岩と壁をなす基盤岩の境界に当たり、幾たびもの陥没運
したが、一部は東西系の震源域が認められた。実は、こ
動による破砕作用を被っているため、この壁側の基盤岩
の東西震源域は位置・方向とも上記断層にほぼ符合して
に沿って浸食が進行したのであろう。このように地質構
おり、断層の地下延長部と考えられる。そうなると、こ
造が地形に反映されている場合を、組織地形と呼んでい
の東西谷は活断層地形ということになるのである。
る。ここからはその典型例が展望できる。
平坦な道は、六百沢扇状地に近づくにつれ登り坂とな
ひょうたん池のコルだけではない、こうした地形的ギ
っていくが、同時に溶結凝灰岩の岩片が急減し、白い花
ャップは、茶臼の頭∼奥又白池、慶応尾根上部、そして
崗岩礫やマサが増えていく。この部分で、我々は槍―穂
パノラマコースの屏風のコルと、ほぼ南北に連なってお
高カルデラ火山の東の縁(カルデラ壁)を越えて、カル
り、かつてのカルデラ壁の所在を浮き彫りにしている。
デラの壁を作っていた基盤岩の領域(古第三紀奥又白花
山岳科学総合研究所ニュースレター
第1
6号
7
林野庁中信森林管理署と連携・協力に関する協定を結びました。
山岳科学総合研究所は、林野庁中信森林管理署と北アルプスを中心とする国有林における連携・協力について協
定を締結しました。大学と森林管理署が協定を結ぶのは、全国で2例目です。
この協定の目的は、両機関の管理区域・施設を相互活用する中で、森林及び山岳分野にかかる研究教育、技術開
発等の相互協力が可能な事項について具体的な連携・協力を効果的に両機関が図り学術の振興及び環境保全の発揮
に寄与するとともに、地域に貢献することです。
具体的な実施事項は、
・共同研究の推進
・両者の管理区域・施設の相互活用
・技術開発、試験研究等に係る指導及び助言
・人材育成の推進及び相互支援
・情報交換・情報発信の相互支援及び共同実施
・その他、本協定の目的遂行上必要事項
です。
山岳科学総合研究所では、5月に白馬村の北アルプ
ス白馬岳で発生した山火事について中信森林管理署と
合同で調査を始めています。ライチョウやチョウへの
影響については、すでに調査を開始しており、今後は
ハイマツが燃えたことによる土砂災害や冬場の土壌凍
7月2
7日に林野庁中信森林管理署(松本市)において、協定書の調
印式が行われました。
結への影響についても調査をする予定です。
今回の連携・協力に関する協定を結んだことで、より一層研究教育に励んで行きたいと思います。
1964年11月末、アンナプルナ南峰初登頂後の中部ネパールを横断するトレッキングで、まずランタン谷に入った。ここ
では仲間と2人で手頃な山を見つけて登るつもりだったが、登山には2日しかさけなかった。山々を物色した結果、登頂
は無理と承知で、この山を選んだ。あまりに美しいからだ。初日、取付きの氷河に登り、厳寒の仮泊。翌日、こちら側の
雪壁から右手の稜線に出て頂上を目ざすも、遠すぎた。この写真の右端までも到達できなかった。大学3年の時だった。
1982年9―10月、氷河調査のため再訪したランタン谷で、わたしの持ち場はヤラ氷河末端に置いた前進キャンプだっ
た。ここは、ガンチェンポが最も秀麗に見える場所だった。毎日毎日、キャンプから眺める思い出の山の姿は、見あきる
ことがなかった。純白のヒマラヤひだは、いつもまぶしく輝いていた。この写真はこの時のもの。ピンクに染まった夕景
や、月あかりの姿も堪能した。
2007年12月、この山に朝日新聞社の小型ジェット機で上空から再会した。本号に比較写真を掲載したアンナプルナ連峰
の内院ほどひどくはなかったが、四半世紀を経たヒマラヤひだの氷雪壁は、黒くむしばまれ始めていた。後世の人たちが
見るヒマラヤの姿は、どうなっているのだろうか。
(名古屋大学名誉教授
上田 豊)
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表紙の写真:ヒマラヤひだの峰、ガンチェンポ (6
3
8
7m)
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山岳科学総合研究所の事務員になってから1か月半が過ぎました。
私の山の思い出と言ったら、高校生の時3年間毎年あった強制登山です。
(欠席すると追登山まで!)海なし県長野(一部地域限定?)ならではの行事
なのですが、私はこの登山の時期がくると本当に憂鬱でした。それ以来、山に
登ることはなかったのですが、研究所のみなさんが楽しそうにフィールドへ出
かける様子を見ていると、山っていいのかも"と思う今日この頃です。(あ)
山岳科学総合研究所ニュースレター 第1
6号
発行日:2009年8月2
1日
発行責任者:鈴木啓助
編集・発行:信州大学山岳科学総合研究所 情報企画チーム
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