NCI Cancer Bulletin

National
Cancer
Institute
NCI キャンサー ブレティン
NCI Cancer Bulletin
A Trusted Source for Cancer Research News
米国国立癌研究所
NCI キャンサーブレティン2009年7月28日号 (Volume 6 / Number 15) -米国国立癌研究所発行
NCI Cancer Bulletin for July 28, 2009 - National Cancer Institute
■特集記事
「乳房切除術を選択する女性が増加しているとメイヨークリニックから報告」
■癌研究ハイライト
・小児癌生存者における乳癌リスクを定量化
・サリドマイドは小細胞肺癌には役立たない
・腫瘍抑制タンパク質の新たな役割の発見
・臨床試験に関する注意:学会抄録は最終発表と結論が異なる場合がある
■特別リポート
「肺癌治療の新アプローチによせる期待と論議」
■FDA 最新情報
「2 つの癌標的治療薬の使用を制限すると添付文書を改訂」
特集記事
■乳房切除術を選択する女性が増加しているとメイヨークリニックから報告
1997~2006 年の間にメイヨークリニックで実施した
外科手術を分析した結果、2004 年以降、その前 6 年
間と比べて、早期乳癌の治療として、より多くの女性
が乳房切除術を受けていることがわかった。この明ら
かな変化の理由は不明であるが、乳房切除術の割合
が上昇するという変化がもたらされていた。乳房を切
除する侵襲度の高い手術は、これまで、米国で、そし
てメイヨークリニックにおいても減少傾向にあったもの
であった。
多くの専門家が乳癌における乳房切除術の役割に疑
問を抱いているこのときに、この発表が Journal of
Clinical Oncology 誌 7 月 27 日号電子版に掲載さ
れた。
「少なくともメイヨークリニックでは、診療における変化
を目の当たりにしています」と、腫瘍内科医であり本研
究の主導者である Dr. Matthew P. Goetz 氏は述べ
た。「癌に携わる施設として、私たちは、なぜこのこと
が起きているのかを理解する必要があります。そして、
果たしてこれは患者にとって本当によいことであるか
を振り返り、自問する必要があります。」
この研究期間中に生じた乳癌診療における変化の 1
つはMRIの導入であった。研究者らは、MRIの使用と
乳房切除術の関連性を示すエビデンスを調べた。しか
しその因果関係を示すことはできなかった。
「MRI 検査が乳癌に対する治療に変化を与えていると
いう多くの施設からのエビデンスがあります。そして私
たちは、MRI 検査をすることが患者の生存を長期的に
改善するかどうかを確認しようと努めていますが、現
在のところ、そのようなデータはありません」と、Goetz
氏は述べた。
この研究では、乳房 MRI 検査を行った女性患者は、
同検査を行っていない患者より 10~15%多く乳房切
除術を受けていた。しかし乳房切除術率が一番増加し
たのは、乳房 MRI 検査を受けていない患者群であっ
た。このことは、もし MRI 検査が一役を担っているとし
ても、それが確かな唯一の要因ではないことを示唆し
ていると、研究者は述べた。
1
「本研究結果から、女性患者は MRI 検査によって乳
房切除術の選択をしたとは言えません」と Goetz 氏は
述べた。「患者が決断を下すのにどの要因が影響を及
ぼしているのか、本当にわかりません。」
早期乳癌治療に低侵襲な方法が取り入れられたのは、
多くの早期乳癌患者に対して米国国立衛生研究所
(NIH)が乳房温存術(手術による腫瘍摘出とその後
の放射線治療)を奨励した 1990 年初頭であった。こ
のガイドラインでは、乳房切除術と乳房温存術の生存
期間は同じであったとのエビデンスが引用された。
医師が患者にこの内容を伝えたため、乳房切除率は
1990 年代には全米中で減少した。メイヨークリニック
における乳房切除率も、1997 年の 45%から 2003
年の 31%へと徐々に低下した。しかし、2004~
2006 年においては乳房切除術は 37%から 43%に
増加している。
「乳癌に携わる医師はみな、乳房切除術を行った早期
乳癌患者はもっと多いと感じていました。そして、メイヨ
ークリニックの研究者らは、これを上手く研究で著しま
した。」とスローン・ケタリング記念がんセンターの乳腺
科のチーフである Dr. Monica Morrow 氏は述べた。
Morrow 氏とダナ・ファーバー癌研究所の Dr. Jay R.
Harris 氏は付随論文で、新たに癌の診断を受けてス
トレスに直面している女性に、複雑な治療選択肢をい
かに効果的に伝えるかについてさらに調査が必要で
あると強調した。
「文献からは、乳房温存術と乳房切除術の生存期間
に差がないことは明白です」と Morrow 氏は述べた。
「そのため、さらに多くの女性がより侵襲度の高い手
術を選択しているようであることに多少の懸念を感じ
ています。」
Morrow氏は、片側乳房のみに癌があると診断された
患者のあいだで、予防手段としての両側乳房切除が
増加していることを示す最新研究を含め、乳房切除術
に対する患者の考え方に変化が生じているのではな
いかというさらなる根拠を指摘した。
「その報告は、乳癌患者が再発あるいは対側乳癌を
いかに積極的に予防したいかについて、一般の意見
は大きく揺れ動くということを示すもう 1 つの証拠です」
と、メイヨークリニックの乳腺腫瘍外科医であり進行中
のメイヨークリニック研究の共同主筆者である Dr.
Amy Degnim 氏は述べた。
Degnim 氏は、最近のこの変化の理由は、MRI の使
用増加以外にも複数あると考えている。例えば、患者
は、治療選択肢や副作用に関してより詳しくなってい
るかもしれない。また、放射線治療のリスクに対する
意識の変化や、乳房再建術の認識がより高くなってい
るのかもしれない。一部では、医師のあいだで考え方
に変化があったとも考えられる。
この点に関して、Degnim 氏は単に患者自身がどう考
えているかがほとんどわからないことから、乳房切除
術のこの明らかな増加がよいことであるか、あるいは
悪いことであるかを判断することは難しいと記している。
「結局、乳房切除術を選択した患者が同等の生存期
間を得て、自身が選択した治療方法に満足であるなら、
この変化は必ずしも悪いものではありません」と
Degnim 氏は述べた。
- Edward R. Winstead
乳房切除術という選択、なぜなのか?
乳癌と診断されたアジア系米国人女性の大多数(特に、ベトナム系、フィリピン系、中国系)が、乳房温存術よりも
乳房切除術を選択することにカリフォルニアの研究者らはなぜだろうと疑問に思った。サンフランシスコ湾岸地域の
医師を対象とした調査および患者へのインタビューで、患者の治療法を決める際には臨床学的因子が有用である
が、文化的信条や規範も影響していることを、この研究者らは明らかにした。
例えば、BMC Public Health誌 7 月 17 日号での報告に よると、アジア系米国人女性の一部では、癌の診断が
下ったのにも関わらず乳房を温存するのはあまり重要なことではないという考え方があり、この集団での治療パタ
ーンに影響を及ぼしているという。さらに、特に最近の移民を中心とした一部の患者は、医師の意見に対して質問
することを不適切だとして躊躇する場合もあるという。
北カリフォルニアがんセンターのDr. Scarlett Gomez氏が指揮をとった、NCI主導のパイロット研究では、この高
い乳房切除率の背景にある複雑な意思決定の過程をさらに理解しようとしている。医師にとってこの研究の結果
は、同じような文化的信条を持つ患者らとのやり取りを円滑にし、最適な治療を施す助けとなるであろう。
2
癌研究ハイライト
◆小児癌生存者における乳癌リスクを定量化
NCI癌疫学・遺伝学部門のDr. Peter Inskip氏が主
導する研究者らは、小児癌生存者研究(CCSS)の女
性 6,647 人について、小児癌治療中に受けた放射線
量と成人後の乳癌リスクの関係を推定する、この類の
中では最大の研究を行った。結果はJournal of
Clinical Oncology誌 7 月 20 日号に発表された。
一次癌に対して放射線治療を受けた女性は、全体とし
て乳癌を発症する割合が 2.7 倍高かった。乳房内で
腫瘍が発生した部位への放射線量が増加するにつれ
て、リスクは直線的に増加し、最大照射量(40 グレイ)
群におけるリスクは、非照射群に比べて 11 倍であっ
た。
女性らは 1970 年から 1986 年にかけて、子供の頃に
初発の癌の診断を受けた。2001 年末までに 120 人
が乳癌を発症し、自身の医療記録の再調査に同意し
た。研究者らは、120 人の女性を 1 人ずつ、乳癌を発
症していない CCSS のコントロール群の女性 4 人とマ
ッチさせた。医学物理士は乳房と卵巣への放射線量
を推定した。
興味深いことに、乳房に放射線照射を受けるとともに
卵巣への放射線滅菌照射を受けた女性(卵巣ホルモ
ンの産生が停止する)は放射線性乳癌リスクが著しく
低かった。「乳房への放射線照射は、将来的に癌に発
達しうる損傷を引き起こすが、癌になるかどうかは卵
巣からのホルモン刺激の影響を受ける」と、Inskip 氏
は説明している。
ほとんどのタイプの小児癌において、1970 年から
1986 年にかけて用いられたプロトコルに比較して、最
近の放射線治療における放射線量はかなり低くなって
いることに著者らは言及している。さらに、Inskip 氏
は「われわれはここでは治療の合併症を強調している
が、小児癌の治療に著しい進歩がみられたことを念頭
に置くべきです。癌で死亡したかもしれない多くの子供
たちが、治療の進歩のおかげで生存している」と続け
た。
◆サリドマイドは小細胞肺癌には役立たない
化学療法にサリドマイドを加えても、小細胞肺癌
(SCLC)患者の延命には寄与せず、体内深部の静脈
に血栓の発生リスクは増大する、と英国の研究者らは
Journal of the National Cancer Institute誌 7 月
16 日号で報告した。サリドマイドは腫瘍の血管新生、
すなわち血管の成長を阻害する効果があるので、この
疾患での評価が行われていた。肺癌の約 20%を占め
るSCLCにおいて、血管新生は重要な役割を担うと考
えられている。
この薬剤は他の癌において患者の生存率を改善した
が、SCLC において血管新生阻害剤としての最初の第
3 相ランダム化臨床試験では全く効果は得られなかっ
た。ロンドンのユニバーシティー・カレッジ病院の Dr.
Siow Ming Lee 氏らは、724 人を対象とした研究で、
サリドマイド群と化学療法単独群のいずれにおいても
生存期間は実質的に同等(約 10 カ月)であることを見
出した。ただし、サリドマイド群では深部静脈血栓症や
肺塞栓症などの血栓発症リスクが高かった。
さらに、進行性 SCLC の場合には、サリドマイド群は化
学療法単独群よりもよくない結果となった。多発性骨
髄腫や大腸癌と同じように、SCLC でも血管新生を標
的にできないのは、おそらく関与している血管新生の
経路の違いによるものであろう、と研究者らは結論づ
けている。
サリドマイドが患者において抗血管新生作用をもつと
いう概念は再考の余地があろう、と付随の論説で指摘
している。しかし SCLC の生物学は依然として十分に
解明されておらず、今は基礎研究に集中して新たな知
見を導き、有望な治療標的を特定することが重要と考
えられる、と著者らは示唆している。
3
◆腫瘍抑制タンパク質の新たな役割の発見
体内で腫瘍を抑制する働きがあるp53 タンパクのこれ
まで知られていなかった機能を、日本人研究者らが特
定した。東京大学のチームは、p53 が、遺伝子を調節
する遺伝物質であるmicroRNAsを制御する働きがあ
ることを明らかにした。P53 タンパクの欠損は、抗癌作
用をもついくつかのmicroRNAsの制御に影響を与え
る可能性があると、このチームは 7 月 23 日号の
Nature誌に報告した。
P53 タンパクの遺伝子はすべての癌のうち半数で変
異しており、p53 経路はほとんどの腫瘍において不活
化している。このタンパクは、DNA 損傷を受けた細胞
を腫瘍化させることなく、細胞自殺(アポトーシス)を起
こさせたり成長を止める遺伝子を活性化することによ
って、癌を防いでいると考えられている。P53 遺伝子
に変異があると、細胞自殺の誘発や異常細胞増殖を
抑制する micorRNAs の制御などのいくつかの腫瘍
抑制機能を同時に破綻させ得ることが、これまでの研
究と合わせて、今回の新しい結果により示唆された。
同号掲載の論説によると、これらの結果は、単に
DNA 損傷や癌に対する細胞の反応だけでなくそれ以
上の意味を持っているかもしれない。なぜなら p53 遺
伝子の変異は microRNA の制御以外の RNA 代謝の
他の面にも変化を起こさせ得るからである。P53 タン
パクがどの microRNA を調節しているのかを正確に
決定し、背後にある関係するメカニズムを説明するこ
とが、将来的に必要な研究である。
P53 タンパクが機能しなくなった細胞において、p53
遺伝子を再活性化する方法を探求している研究者ら
もいるが、これまでのところまだ成功していない。P53
遺伝子を再活性化することにより、これまで認識され
ていなかった抗癌機能が修復されるということを、本
研究は示唆している。
◆臨床試験に関する注意:学会抄録は最終発表と結論が異なる場合がある
癌治療に対するランダム化臨床試験の結果は、主要
な学術学会において抄録という形でたびたび中間結
果が報告される。しかし、最新の研究によれば、これら
の抄録の結論は、査読がある雑誌で臨床試験研究者
らによって発表される最終分析とは一致しないことが
ある。抄録と最終報告を比較すると、分析した臨床試
験のうち約 10%において、治療効果についての研究
者らの結論は変更されていた。
最終ではない結果は、誤った方向に導き得るし、時に
は臨床試験の続きをどうするかにさえ影響する可能性
を考えると、臨床医、研究者そして会議の主催者は、
ランダム化臨床試験の結果を解釈するときには注意
すべきであると、カナダ国立癌研究所臨床試験グルー
プのカナダ人研究者らは先週の Journal of Clinical
Oncology 誌電子版で報告した。
研究者らは 2000 年~2004 年までに発表された、4
つの主要な癌(リンパ腫、乳癌、大腸癌、非小細胞肺
癌)における 138 のランダム化臨床試験を評価した。
各臨床試験について、1990 年~2004 年の間に開
催された 7 つの主要な癌学会で発表されたそれぞれ
の抄録を特定して分析した。すべての抄録に治療効
果が報告されていた。
「臨床試験の多くは、抄録の提示から最終発表までの
間に、結論に大きな変化がみられるものだ。このこと
は、臨床医はランダム化臨床試験の中間結果にもと
づいて診療を変更する際には慎重になる必要がある
ことを意味している」と、クイーンズ大学癌研究所の主
任研究者である Dr. Christopher Booth 氏は述べ
ている。
同様に重要なことは、抄録の著者は、結果が最終で
はないということを明確にする責任があることだと、南
フロリダ大学と H.リー・モーフィット・がんセンターおよ
び研究所に所属し、臨床試験について研究している
Dr. Benjamin Djulbegovic 氏はコメントしている。
「要するに、これらの抄録内容を利用する人が、その
結果はまだ予備的なものであることがわかるようにす
る必要がある。」
4
特別リポート
■肺癌治療の新アプローチに対する期待と論議
進行した非小細胞肺癌(NSCLC)患者に対し、初回治
療の期間を延長して生存期間を改善させようとする臨
床試験が数多く実施され、失敗に終わっている。この
アプローチの基礎となっているのはいわゆる維持療法
と呼ばれるもので、シンプルな考え方である。つまり、
初回治療後に腫瘍が退縮した患者に対して、次の治
療を実施するまでの間に癌が復活してくるのを待たず、
むしろ今のうちに癌にもう一撃を加えようというもので
ある。
過去の臨床試験は失敗に終わったが、最近の薬剤を
用いたいくつかの第 3 相臨床試験において維持療法
により一定の成果が報告された。現在のところ、1 件
の臨床試験で全生存期間の改善が報告されており、
これとは別のSATURN臨床試験で全生存期間が改
善されたことが来週開催される肺癌に関する国際会
議で報告される予定である。他にいくつかの臨床試験
で無増悪生存期間の改善が示されている。生存期間
が数カ月から 1~2 年という進行した患者にとっては、
どのような小さな改善でも朗報である。
NSCLC 患者に維持療法を支持する臨床試験
第 3 相臨床試験
結果
ペメトレキセドによる維持療法対最善の支持療法(BSC)
(患者 663 人)
全生存期間(OS)の改善(15.5 カ月対 10.3 カ
月、非扁平上皮癌に限る)および無増悪生存期間
(PFS)の改善
一次治療終了直後のドセタキセル投与対再進行後のドセ
タキセル投与(患者 309 人)
PFS の改善(5.7 カ月対 2.7 カ月)、統計学的に
有意ではないものの OS も改善傾向
SATURN 試験 – エルロチニブによる維持療法対 BSC
(患者 889 人)
PFS がわずかに改善(12.3 週対 11.1 週)。OS
のデータは 8 月 1 日発表予定
ATLAS 試験 – エルロチニブ+ベバシズマブによる維持
療法対ベバシズマブ単独の維持療法(患者 768 人)
PFS が約 1 カ月改善
肯定的なデータが出ているものの、著名な肺癌の専
門家らは、維持療法を進行した NSCLC に対する現在
の治療法の中にいかに組み込んでいくか、いくつかの
重要な点で疑問を呈している。現在のところ一次治療、
二次治療、三次治療には数多くの選択肢があり、その
一部は標的治療である。
維持化学療法に関するこの議論は、FDAがペメトレキ
セド(アリムタ)を維持療法の一次治療薬として承認し
たことから、ここ数週間重要性を帯びている。ただ、こ
の新しい治療アプローチが医療現場にどこまで浸透す
るかは不明である。バージニア州立大学マッセーがん
センターのDr. Sherman Baker, Jr.氏によると、今
回の承認は限定的であるので、今後使用領域は拡大
しそうだという。
「疑問に思うのは、われわれ医師がちゃんとやるのか
ということです」と Baker 氏は述べた。つまり、医師が
臨床試験で効用が示されたアプローチに従うか、とい
うことである。Baker 氏はまた、これらの臨床試験で
癌専門医の考え方が変わるのかどうか疑問を抱いて
いる。「これらの臨床試験の結果から、進行した
NSCLC が常に致死的な病気というのではなく、2 年以
上生存もより多く見られるような、どちらかと言えば慢
性病のひとつとも言い得る病気だとわれわれ医師の
見る目も変わるのでしょうか」
ここに到達するまでの経緯
維持療法が果たす役割については一部に見解の相違
があるものの、進行したNSCLC患者に対する一次化
学療法の期間を 4~6 サイクル(ほとんどの場合 4 サ
イクル)とすることや、シスプラチンやカルボプラチンな
どのプラチナ系化学療法剤を含む併用療法とすること
では一致している。数多くの臨床試験でプラチナベー
スの 2 剤療法に高い効果が示された一方、6 サイクル
を超えての投与は毒性が蓄積されるだけでこれ以上
の臨床上の効用はないことが示されている。
5
第 3 相臨床試験において肯定的な結果が得られた維
持療法(上記表参照)は、患者の腫瘍が一次治療に
応答した場合に開始される。腫瘍が退縮したこれらの
患者には速やかに維持療法薬による治療が開始され、
病勢再進行の徴候が認められるまで継続される。
ペメトレキセドが今回の新適応で FDA 承認を得ること
となった国際第 3 相臨床試験では、進行した NSCLC
患者(非扁平上皮型)の全生存期間中央値はペメトレ
キセド維持療法群で 15.5 カ月だったのに対し、支持
療法(BSC)群では 10.3 カ月であった。無増悪生存期
間(PFS)も有意に改善した。扁平上皮癌患者では維
持療法レジメンによる効果は得られなかった。
同試験の臨床試験責任医師である Dr. Chandra P.
Belani 氏は、同試験の結果により非扁平上皮癌タイ
プの NSCLC に対する新しい標準ケアが確立されると
確信している。「維持療法による生存期間に対する効
果はこれまでになかったものです」と Belani 氏は述べ
た。ペメトレキセドによる副作用は比較的軽度で発生
率も低いことを加味すると、生存期間を改善する可能
性があるということはこの治療法を利用する正当な理
由となる、と Belani 氏は述べる。
「新しいものができたときは、使うのをためらう人がい
るのは当然のこと」と Belani 氏は話す。「しかし、臨床
試験をもとに(FDA の)承認を受けた以上、患者に対
し使用しませんというわけにはいかないでしょう」
インディアナ大学サイモンがんセンターの Dr. Nasser
Hanna 氏は、進行した NSCLC 患者の大部分にとっ
ては維持化学療法の効果に疑念が残るとしている。ペ
メトレキセドの臨床試験でみられた生存期間の延長に
ついては、試験で非維持療法群の患者の大半が、癌
の再進行後に治験薬または承認薬による二次治療を
受けていないことから、その差は見かけほど大きなも
のではない、と Hanna 氏は反論している。また、
NSCLC 患者群ではグレードの低い毒性であろうとい
えども「ささいなものとは言えない」と付け加えた。
さらに Hanna 氏は、多くの患者においては、「休薬
日」、すなわち一次治療薬から一時的に解放して患者
に回復する時間を与えるという方法や、現在の治療ガ
イドラインが示すとおり癌が再進行するまで次の治療
を開始しないという方法であっても同様の結果を達成
できると述べた。
た患者と生存期間は変わらなかった。
「これらの臨床試験は、大部分の患者に維持療法が
必要だと示しているものではないと思います」と
Nasser 氏は述べた。「ただ、この試験結果は、転移性
癌に対するペメトレキセドなどの効果や、患者がペメト
レキセドなどによる治療機会を失わないことの重要性
を明確に示しています」
治療の絶好のチャンスは限られている、だからこそす
ぐに治療薬を投与することが重要だと Belani 氏は反
論している。「患者が休薬日により利益を得られるか
はとうてい予測できません」と Belani 氏。「休薬後、次
の治療を受けられない患者が 3 分の 1 います。これら
の患者は全身状態(PS)が低下するか、癌が進行す
るか、亡くなってしまいます」
これからは「治療は 1 回で終わり」ではない
維持療法を支持する結果となった最近の臨床試験の
キーポイントは、いずれも FDA 承認の二次治療薬ま
たは三次治療薬が使用されている点であるとノースカ
ロライナ大学ラインバーガー総合がんセンターの Dr.
Mark Socinski 氏は話した。2000 年代初頭に比べ
て大きな変化、と Socinski 氏は指摘する。当時は
NSCLC に対する効果的な一次治療薬は少なく、まし
てや二次治療、三次治療など望むべくもなかった。
「これらの臨床試験から言えることは、こうした薬剤が
生存期間を改善するということを患者に知ってもらうこ
とが大切だということです。維持療法もそのひとつの方
法です」と Socinski 氏は述べた。Socinski 氏はまた、
これらの試験でどのような治療戦略を採ったにせよ、
得られたデータが示しているのは、腫瘍医は次の治療
法を慎重に検討し、治療法について患者によく知って
もらう必要があるということであると述べた。
「もし咳や痛みがひどくなったら、次の予約日を待たず
に受診するよう患者に伝える必要があります。症状を
無視してはなりません。症状を無視したりすると、病状
が悪化するおそれがあることを患者に言い聞かせると
ともに、有効な薬剤の投与が病状の助けとなることを
知らせる必要があります」と Socinski 氏は述べている。
-
Carmen Phillips
維持療法の効果を支持する別の臨床試験で化学療法
薬ドセタキセル(タキソテール)を用いたものが 2009
年に発表されているが、非維持療法群の相当割合の
患者は病勢が再進行してもドセタキセル投与を受けて
いなかった。しかし、速やかにドセタキセル投与を受け
6
FDA 最新情報
■2 つの癌標的治療薬の使用を制限すると添付文書を改訂
FDAは、セツキシマブ(アービタックス)およびパニツム
マブ(Vectibix:ベクチビックス)について、転移大腸癌
で腫瘍が特定の遺伝子変異を起こしている患者には
使用しないよう忠告すべく、添付文書改訂を行うことを
承認した。この変更は、両薬剤がKRAS遺伝子に特定
の変異がある患者に対しては効果がないことを明らか
にした数件の臨床試験を調査したレトロスペクティブ
研究の結果に基づいている。いずれも上皮細胞増殖
因子受容体(EGFR)を標的とした治療薬である。
大腸癌患者にこれらの遺伝子変異についての検査を
実施し、変異が認められた患者にはいずれの治療薬
も投与すべきではないとする、「暫定的な臨床的見解」
を表明した。患者を不要な毒性から守ることができる
のに加え、今年既に発表された研究では、KRAS検査
の結果に基づいてこれらの薬剤を使用することで年間
6 億ドル以上を削減できると試算されている。
1 月、米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、すべての転移
◆監修者: 上野 直人(乳癌専門医/M.D.アンダーソンがんセンター准教授)
林 正樹(血液・腫瘍内科医/敬愛会中頭病院)
後藤 悌(呼吸器内科医/東京大学大学院)
◆顧問:
古瀬
中村光宏(医学物理士/京都大学大学院)
小宮 武文(呼吸器内科医/NCI研究員・ハワード大学病院)
清行(JMTO日本・多国間臨床試験評価機構理事)
久保田
馨(呼吸器内科/国立がんセンター東病院)
◆翻訳:
一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ (http://www.cancerit.jp/)
◆提供:
NPO法人キャンサーネットジャパン (http://www.cancernet.jp/)
NCI Cancer Bulletin は、National Cancer Institute(米国国立がん研究所)より 2 週間毎に発刊されるホームページ上で公開されて
いる、最近の「がん」に関する重要な論文・発表を紹介する on line 情報誌です。お届けする「NCI キャンサーブレティ日本語版」は、NCI から
翻訳許諾を得て「一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ」が翻訳・監修し、NPO 法人キャンサーネットジャパンが配信します。
翻訳に関しては、細心の注意が払われていますが、米国国立がん研究所、及び一般社団法人日本癌医療翻訳アソシエイツ、NPO 法人
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