コ・メディカル養成校における『解剖画像教材』を用いた授業と - SQUARE

2008 年 3 月 『解剖画像教材』を用いた授業とその効果 135
(原著論文)
コ・メディカル養成校における『解剖画像教材』を用いた授業と
その効果
工藤慎太郎 1, 3) 藤井徹也 2) 浅本憲 3) 中野隆 3)
1)
国際医学技術専門学校理学療法学科、2) 名古屋大学医学部保健学科看護学専攻、
3)
愛知医科大学医学部解剖学講座
(投稿:2007 年 11 月 29 日、採択:2008 年 1 月 28 日)
要旨
人体解剖実習は、コ・メディカル教育においても重要かつニーズが高いにも関わらず、法制度上の制約、医学部解剖
学講座の負担、養成校の急増などの諸問題から、その実施状況は不十分である。愛知医科大学解剖セミナーでは、コ・メ
ディカル教育における人体解剖実習を補うため、養成校教員自身が解剖学教育の質的水準向上に努めることも重要であ
ると考え、『解剖画像教材』を開発し、その共有化を目指している。今回、『同教材』を用いて授業を行い、その有効性
について検討した。
『解剖画像教材』は複数の養成校教員と臨床実習指導者自らが協力し、
“臨床的かつ専門教育的視点”
から撮影角度や剖出方法を工夫して開発している。今回の授業においては『同教材』を Problem Based Learning のシ
ナリオとして利用した。その結果『同教材』を用いた授業ではイメージ化の促進、知識の応用力の向上、新たな思考過
程の構築といった直接的効果と、新たな学習方法の気づき、モチベーションの向上といった間接的効果が得られた。し
たがって『解剖画像教材』は、コ・メディカル教育における解剖学教育の質的水準の向上に有用であると考えられた。
キーワード
解剖画像教材、解剖学教育、PBL、教育効果
序 文
コ・メディカル教育における解剖学、特に人体解剖実
習の必要性は高いと思われる1~3)。しかし、法制度上の制
約から人体解剖を行うことができる教育機関は医学部お
よび歯学部に限定されるため、コ・メディカル教育にお
ける人体解剖実習の実施状況には、養成校間で著しい格
差が存在する4)。人体解剖実習を実施している養成校にお
いても、実習は医学部において医学生が既に剖出した遺
体の短時間の観察に留まることが多く、体表面から深層
に至る三次元的な位置関係の理解には不十分である。ま
た、近年のコ・メディカル系養成校の急増およびそれに
伴う学生の多様化は医学部解剖学講座の負担増大を惹起
し、コ・メディカル教育における質の高い解剖実習を困
著者連絡先:工藤慎太郎
国際医学技術専門学校理学療法学科
〒 451-0051
名古屋市西区則武新町 3 - 1 - 46
Tel:052(561)1166
Fax:052(561)2200
E-mail:[email protected]
[email protected]て法制
度改正を含む学会レベルでの取り組みだけではなく、養
成校教員(以下、教員)自身が解剖学教育の水準向上に
努めることも重要であると考えている。愛知医科大学解
剖セミナーでは、教員と臨床実習指導者が協力して“臨
床的かつ専門教育的視点”から『解剖画像教材』を開発
し、養成校間における共有化に取り組んでいる4, 5)。
今回、
『同教材』を用いた授業を行う上で考慮した点を
紹介するとともに、受講生による授業評価から『同教材』
の有効性に関して検討した結果を報告する。
対象および方法
1)『解剖画像教材』の内容
愛知医科大学解剖セミナーでは、複数の教員と臨床実
習指導者が臨床上重要になる点や日頃学生が理解困難
に思っていると感じている点を考慮し、その上で事前に
必要な画像や剖出方法を検討し、解剖セミナー期間中に
集中的に剖出して撮影した画像を使用している。換言す
136 工藤慎太郎、藤井徹也、浅本 憲、中野 隆 形態・機能 第 6 巻第 2 号
れば、これらの画像は“臨床的かつ専門教育的視点”か
ら様々な剖出方法や撮影角度を工夫し、
“三次元的位置
関係の理解”を主な目的としている点が特徴である。撮
影した画像は Power Point を用いて『解剖画像教材』と
してまとめ、複数の養成校で共有化している。Power
Point で作成しているために教員独自のアレンジが容易
であり、対象者や目的に応じた工夫が可能である点も特
徴である。
今回の授業で用いた『解剖画像教材』は、絞扼性神経
障害に関するものである。具体的には、腕神経叢の絞扼
部位となる斜角筋隙や肋鎖間隙、小胸筋下を温存し、腕
神経叢との位置関係を示した画像からなっている。
(図
1)つまり、絞扼因子となる局所の周辺を体表から剖出
し、末梢神経と絞扼因子の解剖学的位置関係を三次元的
に理解することを促している。
2)対象
授業対象者は、A 専門学校理学療法学科(3 年制課程)
の第 2 学年の学生 66 名とした。なお、対象者は解剖学
および運動学は履修済み、胸郭出口症候群に関しては整
形外科学の講義で履修済みであった。
3)『解剖画像教材』を用いた授業内容
テーマは「胸郭出口症候群に対する理学療法」であり、
到達目標は胸郭出口症候群に対する理学療法の考え方
を習得することである。授業時間は 100 分であった。冒
頭で死体解剖保存法および篤志献体団体について解説
し、献体された方のご遺志を伝えた。授業の前半は、
『解
剖画像教材』を用いて腕神経叢近傍の解剖学の復習を
行った。後半は、
『同教材』を問題基盤型学習(Problem
Based Learning;以下 PBL とする)のシナリオとして利
用し、
「どのような条件で腕神経叢は圧迫されるのか」に
ついて学生が自ら考え回答が出せるように、教員は
facilitator として関わった(図2)。
4)分析方法
受講生から授業翌日に回収した 600 字以内の感想文を
分析対象とした。感想文のテーマは「
『解剖画像教材』を
用いた授業を経験して」とした。有効回答数は 60 件(回
収率 90%)であった。なお、対象者には口頭で本研究の
趣旨を説明し、成績とは無関係であり提出しなくても不
利益が生じないこと、感想文の提出を持って同意を得た
とすることを伝えた。
分析方法は内容分析の手法 6~8) を参考に、「学生の学
び」について分析した。回収した個々の感想文を1文脈
単位に分解・記録し、1文を1記録単位とした。1文脈
で複数の異なる内容を示す記述があった場合には、元の
内容を変えないように分割し、複数の記録単位として
データ化した。表現や内容が類似している記録単位ごと
に分類し、サブカテゴリーとして命名した。さらに、高
次の概念で意味や内容が類似しているサブカテゴリー
図1 腕神経叢近傍の『解剖画像教材』
腕神経叢の近傍の『解剖画像教材』の一例である。腕神経叢の絞扼性神経障害を教授するため、前・中斜角筋や鎖骨、
小胸筋を温存した状態で剖出しているため、斜角筋隙や肋鎖間隙、小胸筋下といった解剖学的狭窄部位を腕神経叢が通
過していくことを示している。
2008 年 3 月 『解剖画像教材』を用いた授業とその効果 137
図2 実際に授業で用いた『解剖画像教材』
作成した『解剖画像教材』を、実際に授業に用いた際のスライドを示している。図 1 の『解剖画像教材』から、説明文
を消去し、PBL のシナリオとして用いた。
『同教材』は Power Point で作成しているため、編集・加工作業が容易となっ
ている。
をメインカテゴリーとして分類・命名した。その後、各
メインカテゴリーに分類された記録単位の出現頻度、比
率を算出した。
これらの分析過程は、妥当性と信頼性を保持するた
め、質的研究方法を熟知した研究者から指導を受けた。
結 果
総記録単位数は 238 単位であった。これらの記録単位
から 15 群のサブカテゴリーを抽出し、1)
【イメージ化
の促進】、2)
【知識の応用力の向上】、3)
【新たな思考
過程の構築】、4)
【新たな学習方法の気づき】、5)
【モ
チベーションの向上】、6)
【画像教材の有効性】、7)
【授業への要望】という7群のメインカテゴリーを抽出
した(表1)。以下に、各メインカテゴリーとサブカテ
ゴリー(「」にて記載)の関係からその特徴を示す。
1)【イメージ化の促進】
このカテゴリーは、
『解剖画像教材』で学習したこと
によって、平面的な理解から三次元的な形態のイメージ
を補強したことを示し、「形態学のイメージができた」、
「教科書と実物の相違に気づけた」という 2 つのサブカ
テゴリーからなる。記録単位数は 46 件で、出現頻度は
全体の 19.3% であった。
2)【知識の応用力の向上】
このカテゴリーは、筋と骨、神経、血管の位置関係か
ら病態や運動療法を考察する力を獲得できたと感じて
いることを示している。「臓器の位置関係が理解でき
た」、
「画像教材を通して病態が理解できた」、
「画像教材
を通して検査・運動療法の意味が理解できた」という 3
つサブカテゴリーからなる。記録単位数は 61 件で、出
現頻度は全体の 25.6% であった。
3)【新たな思考過程の構築】
このカテゴリーは、解剖学を理解することの重要性を
理解し、運動学や整形外科学などの知識と結び付けて考
えることで臨床に役立つことに気づいたことを示して
いる。「知識を関連づけて考えることができた」、「解剖
学を理解することの重要性を実感した」という 2 つのサ
ブカテゴリーからなる。記録単位数は 21 件で、出現頻
度は全体の 8.8% であった。
4)【新たな学習方法の気づき】
このカテゴリーは、解剖画像教材を提示したことで解
剖学や整形外科学の理解不足を実感し、さまざまな成書
の図譜を併せて学習していくことで知識が深まること
に気づいたことを示す。「理解不足を認識した」、
「勉強
方法を考え直した」という 2 つのサブカテゴリーからな
る。記録単位数は 24 件で、出現頻度は全体の 10.1% で
あった。
5)
【モチベーションの向上】
このカテゴリーは、勉学に対する意欲が向上したこと
138 工藤慎太郎、藤井徹也、浅本 憲、中野 隆 形態・機能 第 6 巻第 2 号
表1
メインカテゴリー
イメージ化の促進
知識の応用力の向上
新たな思考過程の構築
新たな学習方法の気づき
モチベーションの向上
画像教材の有効性
授業への要望
サブカテゴリー
文脈数
形態学のイメージができた
35
教科書と実物の相違に気づけた
11
臓器の位置関係が理解できた
10
画像教材を通して病態が理解できた
37
画像教材を通して検査・運動療法の意味が理解できた
14
知識を関連づけて考えることができた
5
解剖学を理解することの重要性を実感した
16
理解不足を認識した
13
勉強方法を考え直した
11
献体の遺志を無駄にしない
30
勉強に対する意欲が高まった
19
画像教材使用した授業を継続して受けたい
13
画像教材を通して知識が記憶しやすくなった
19
画像を工夫して欲しい
4
伝え方を工夫して欲しい
1
出現率
19.3%
25.6%
8.8%
10.1%
20.6%
13.4%
2.1%
各メインカテゴリーとサブカテゴリーの関係を示す。文脈数はサブカテゴリーに分類された文脈数を示し、出現率は総
文脈単位数 238 単位に対する、メインカテゴリー内の文脈単位数より算出した。
を示す。「献体の遺志を無駄にしない」、「勉強に対する
意欲が高まった」
という 2 つのサブカテゴリーからなる。
記録単位数は49件で、出現頻度は全体の20.6%であった。
6)【画像教材の有効性】
このカテゴリーは、学生の学びではないが『解剖画像
教材』の効果として重要として考え、カテゴリーとして
抽出した。内容的には、授業に利用することに対して総
合的に好印象をもったことを示す。
「画像教材を使用し
た授業を継続して受けたい」、
「画像教材を通して知識が
記憶しやすくなった」という 2 つのサブカテゴリーから
なる。記録単位数は 32 件で、出現頻度は全体の 13.4%
であった。
7)【授業への要望】
このカテゴリーについても、学生の学びではないが
『解剖画像教材』の効果として重要として考え、カテゴ
リーとして抽出した。内容は、今回の『解剖画像教材』
を使用した授業で画像の見にくかった点や説明の不十
分だった点を示す。
「画像を工夫して欲しい」、「伝え方
を工夫して欲しい」という 2 つのサブカテゴリーからな
る。記録単位数は 5 件で、出現頻度は全体の 2. 1% であっ
た。
考 察
1)コ・メディカル領域の解剖学教育の問題と『解剖画
像教材』の開発
人体解剖実習実施状況のコ・メディカル養成校間にお
ける格差は、解剖学教育の質的水準の低下を惹起してい
ると考えられ、早期の解決が望まれる。しかし私たちは、
コ・メディカル領域の解剖学教育が抱える問題は、人体
解剖実習のみではなく、解剖学と臨床医学との接点が不
明確である点、リアリティが不足している点も問題とな
ると危惧している。コ・メディカル領域における解剖学
教育の現状は、医学部解剖学講座に任せている。言うま
でもなく解剖学は人体の構造および機能を追究する学
問である。そのため、
“基礎医学的視点”からの教育に
限定される。解剖学的知識をどのように臨床医学に応用
するのかは、基礎医学者の協力の下でコ・メディカル側
が考慮すべき課題である。理学療法では、体表面から各
器官を触診して病態を考察し、治療を進めていく。その
ためには筋系、骨格系、神経系、脈管系などの系統解剖
学的な知識のみでなく、各器官の相対的な位置関係を理
解する局所解剖学的な知識が重要である。換言すれば、
“臨床的かつ専門教育的視点”から『理学療法領域に必
須の解剖学』を確立することが急務である 9~11)。愛知医
科大学解剖セミナーでは、コ・メディカル領域の解剖学
教育が抱える種々の問題点の解決を目指して、
『解剖画
像教材』の開発に取り組んできた。従来の解剖学成書の
図譜は、矢状面や前額面など一定の面から撮影・描写さ
2008 年 3 月 『解剖画像教材』を用いた授業とその効果 139
『解剖画像教材』の特徴
・臨床的かつ専門教育的視点
・三次元的位置関係の強調
授業の工夫
『直接的効果』
『間接的効果』
・イメージ化の促進
・知識の応用力の向上
・新たな学習方法の気づき
・モチベーションの向上
・対象者の知識量の把握
・PBLのシナリオに利用
画像教材の有効性
授業への要望
図3 『解剖画像教材』を用いた授業と効果の関係
『解剖画像教材』の特徴を踏まえて、対象者の既存の知識量を把握し、
『同教材』を PBL のシナリオに利用した。その結
果、<直接的効果>として【イメージ化の促進】、【知識の応用力の向上】、【新たな思考過程の構築】が得られた。その
<直接的効果>が、
【新たな学習方法の気づき】
【モチベーションの向上】といった<間接的効果>として波及した。そ
のような効果を実感したため、【画像教材の有効性】や【授業への要望】が現れたと考えた。
れたものが多い。さらに、神経系や筋系、骨格系など系
統的に整理された図譜が多い。したがって、成書によっ
て筋と血管、神経の三次元的位置関係を理解すること
は、初学者にとっては困難である。また、市販の DVD
教材などは“基礎医学者の視点”で作成されたものが多
く、臨床医学との関連性は理解しがたい。
『解剖画像教
材』は、愛知医科大学解剖セミナーという‘場’を利用
して、複数の教員および臨床実習指導者が‘自ら’開発
している。したがって、市販の成書や DVD 教材とは異
なり、
“臨床的かつ専門教育的視点”からの開発であり、
理学療法領域に必須の解剖学の確立ならびに解剖学教
育の質的水準の向上に繋がると考えている。また『同教
材』を複数の養成校間で共有化することによって、解剖
学教育の格差是正を図っている4, 5)。
今回の感想文の分析から、
『解剖画像教材』を用いた
授業による教育的効果は、【イメージ化の促進】、【知識
の応用力の向上】、
【新たな思考過程の構築】などの<直
接的効果>と、<直接的効果>を体験したことで生まれ
た【モチベーションの向上】、
【新たな学習方法の気づき】
などの<間接的効果>に大別できた。そして<直接的効
果>と<間接的効果>を踏まえ、
【画像教材の有効性】お
よび【授業への要望】のカテゴリーに分類される感想が
生じたと考えられた。以下に『解剖画像教材』を用いた
授業と<直接的効果>の関係、および<直接的効果>と
<間接的効果>の関係について考察する。
2)『解剖画像教材』を用いた授業と<直接的効果>に
関して
前述したように、コ・メディカル領域では、解剖学的
知識の臨床への応用する考え方を教授する必要がある。
Barrows ら12) は、PBL の主たる教育目標として「臨床場
面において活用できる知識の習得ならびに問題解決能
力の向上」、
「clinical reasoning 能力の開発」、
「自己主導
型学習態度の習得」、
「学習意欲の向上」を挙げている。
PBL は本邦では 1990 年代より医学部を中心に導入が進
められ、近年は理学療法士養成課程においてもその必要
性が報告されている 13~16)。一方、PBL は学生の自主学
習を基本にしているため、必要不可欠な知識の欠落や学
生間の格差拡大の可能性も指摘されている9, 15)。すなわ
ち、従来の講義主体の教育も PBL 形式の教育も、それ
ぞれに利点と欠点を内蔵している。これらの利点と欠点
を補うためには、
従来の講義と PBL を織り交ぜた hybrid
型の教育方法が望ましいと考える。
今回の授業の工夫として、①対象者を解剖学・運動学・
整形外科学を履修済みの第 2 学年に設定したこと、②解
剖画像教材を PBL のシナリオとして利用したこと、が
挙げられる。授業の前半は、既に解剖学で学んだ腕神経
叢近傍の筋や末梢神経について、
『解剖画像教材』によっ
て三次元的位置関係の理解を促すことを目的とした講
義を行った。これにより【イメージ化の促進】という<
直接的効果>が得られた。授業の後半は、
『解剖画像教
材』を PBL のシナリオとして用い、解剖学的知識を応
用して疾患の病態や運動療法を学生自身が考えられる
ように教員は facilitator として関わった。学生の回答と
しては「斜角筋の緊張が亢進すると腕神経叢が圧迫され
る」、
「肩甲骨が下制すると鎖骨も下制し、肋鎖間隙で腕
神経叢が圧迫される」などが挙げられ、学生自らが絞扼
因子を解剖学的に考え、さらに解剖学的知識を運動学な
ど他教科の知識と結び付けることが可能になった。その
ため「画像教材を通じて病態が理解できた」、
「画像教材
を通じて検査・運動療法の意味が理解できた」というサ
ブカテゴリーに分類される教育効果が生じた。つまり、
『同教材』を PBL のシナリオに用いたことで、【知識の
応用力の向上】という<直接的効果>が得られたと考え
140 工藤慎太郎、藤井徹也、浅本 憲、中野 隆 形態・機能 第 6 巻第 2 号
られる。また、既存の解剖学的知識(基礎医学)を基盤
にして病態および治療(臨床医学)を考えることによっ
て、知識を結びつける思考過程や解剖学の重要性を再認
識することができ、
【新たな思考過程の構築】という<
直接的効果>が得られたと考えられる。
3)<直接的効果>と<間接的効果>の関係
学生は前述の<直接的効果>を実感する中で、多くの画
像を参考にすることによって「理解不足を認識した」、
「勉強方法を考え直した」というサブカテゴリーに分類
される教育効果が生じた。これは、自身の理解不足が三
次元的イメージの不足に起因することに気づいた結果
であると考えられ、
【新たな学習方法の気づき】という
<間接的効果>に繋がったことが示唆される。【モチ
ベーションの向上】に関しては、授業の冒頭で死体解剖
保存法および篤志献体団体について解説し献体された
方のご遺志を伝えたことが倫理教育の一環になり、学生
のモチベーション向上に作用したことも考えられる。ま
た学生は与えられた知識を応用して自ら考え、病態や治
療を理解する経験を積んだ。これにより、学ぶことの楽
しさを実感し、
【モチベーションの向上】という<間接
的効果>が得られたことも考えられる。(図3)
まとめ
私たちの開発した『解剖画像教材』を用いた授業の一
例を示し、その教育効果を検討した。コ・メディカル領
域の解剖学教育の問題点は、解剖実習実施の有無のみに
起因するものではない。理学療法領域の解剖学を確立
し、解剖学教育の質的水準を向上させるには、学会や協
会レベルでの取り組みと同時に、養成校教員および臨床
実習指導者が自ら解剖学教育の改善に取り組むべきで
あろう。このような背景から開発に取り組んだ『解剖画
像教材』は、人体の三次元構造のイメージを促進するの
みでなく、臨床的視点からの解剖学的知識を教授するこ
とも可能である。また、『同教材』は Power Point で作
成しているために目的に応じたアレンジが容易であり、
PBL のシナリオに用いることも可能である。換言すれ
ば、担当教員の目的や対象者に応じた工夫によって『同
教材』の教育効果は増大する可能性がある。したがって、
『同教材』は理学療法領域の解剖学教育水準を補償する
教育資材に成り得ると考えられる。今回は胸郭出口症候
群の理学療法の授業に『同教材』を用いたが、今後様々
な授業で『同教材』を利用し、その効果を検証していき
たい。また、今回の研究は、60 件の学生の感想文を分析
したものである。今後は、教員側からの評価・意見など
や対象数を増やす事で更に研究を進めていきたい。
謝 辞
稿を終えるにあたり、コ・メディカル領域の解剖学に
多大なご理解を頂き、ご指導を頂いている愛知医科大学
医学部解剖学講座の先生方、ならびに医学の発展のため
にご献体された方々と御遺族に深謝いたします。
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2008 年 3 月 『解剖画像教材』を用いた授業とその効果 141
Investigation on the effects of the lesson with “photographic teaching
material of anatomy” in co-medical schools
Shintarou Kudou1, 3), Tetsuya Fujii2), Ken Asamoto3),
Takashi Nakano3)
1)
Department of physical therapy,International institute of medical therapy
of nursing,Nagoya University,School of health sciences
3)Department of anatomy,Aichi medical university
2)Department
Keyword
Photographic teaching material of anatomy,anatomical education,Problem Based Learning,lesson
effect
Abstract
For co-medical education in Japan, it’s difficult to dissect of the human body, because of restriction in
the eye of the law. In recent years, increase in number of the co-medical schools affects burden to the
department of anatomy of medical university and it’s making the problem more serious. On the
anatomical education, there exists difference in quality among the co-medical schools. We considered
that the teachers of co-medical schools in themselves have to attempt to improve the level of anatomical
education. In the Aichi Medical University Anatomical Seminar, the teachers of co-medical schools and
the supervisors in practical hospitals made the “photographic teaching material of anatomy”, from the
viewpoint of clinical medicine and technical education. We own this “teaching material” jointly among
some co-medical schools and practical hospitals. In this study, we used this “teaching material” in a
lesson, and investigated the effect. This “teaching materials” had direct effects such as ‘facilitation in
ability of imaging’, ‘progress of ability to apply knowledge’, ‘construction of a novel process of thinking’,
and some indirect effects such as ‘progress of motivation’, ‘idea on a novel learning methods’. That is to
say, this “teaching materials” contributes to improve the level of anatomical education.