第19巻2号、Jun. 2007 - 会津大学

第 19 巻 第 2 号 15
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惑星地質ニュース
PLANETARY GEOLOGY NEWS
Vol.19 No.2 June 2007 発 行 人:惑 星 地 質 研 究 会 小 森 長 生・白 尾 元 理・出 村 裕 英
TEL & FAX: 042-665-7128
E-mail: motomaro@ga2.so-net.ne.jp
事務局:〒193-0845 八王子市初沢町 1231-19-B410 小森方
郵便振替口座:00140-6-535608
種子島道中記
浅田智朗 ASADA Noriaki 暖冬とはいえ、まだまだ雪の残る会津から 3 月 1 日、我が会津大学種子島ツアー一行は会津を出
発、羽田、鹿児島経由で種子島に着いた。会津との気温差は 10℃以上、種子島には間違いなく春
が来ていた。
種子島に入るには、航空機と船の 2 種類の方法がある。航空機は鹿児島空港と伊丹空港(大阪)
から飛んでおり、時間が早いので便利である。船の場合は、鹿児島本港まで、鹿児島空港からリム
ジンバスとタクシーを乗り継いで 1 時間程かかる。種子島へのフェリーは 3 時間 30 分かかるが、
高速船 トッピー またはジェットフォイル ロケット だと 1 時間 35 分ですむのでお薦めである。
なぜかロケットの方が千円以上安い上、
学割まであるので、事前に発着時間を調
べておいて損はなさそうである。
高速船に乗り種子島、西之表港に着く
と、まずロケットが出迎えてくれる。種
子島には、至る所にロケットがあり、島
とロケットとの結びつきが窺える。
西之表港から徒歩 10 分程の所に、鉄
砲館(種子島開発総合センター)がある。
南蛮船をイメージしたつくりの建物がひ
ときわ目を引く。ポルトガルから初めて
伝わった銃、国産初の火縄銃をはじめ、
内外の旧式銃約 100 丁が展示されている
他、日本最古の 山 の文字が刻まれた広
田遺跡(ロケット発射場のそば)発掘の
貝符のレプリカが展示されている。ここ
は、一見の価値がある。
種子島は南北に長い島であるが、大き
く三つに分かれ、南の端 1/4 が南種子町、
残りを半々に分け、北側の西之表市、真
ん中の中種子町から成っている。鉄砲館
(地図の原図は「YAHOO!地図情報」を使用)
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写真 1.
(左)種子島には、至る所にロケットがある。写真は島間港のロケット。
写真 2.
(右)坂井神社の「日本一の大ソテツ」
見学後、バスで国道 58 号線を南下して、しばらく行くと右手海沿いに雄龍・雌龍(おたつ・めた
つ)の岩が現れる。左手の大きな岩(雄龍)とやや小ぶりの岩(雌龍)が隣り合って並んでおり、
種子島と住人を作った神様の岩だと言い伝えられている。しめ縄で結ばれた 2 つの岩の姿は、伊
勢の夫婦岩を思い出させる。
国道をそのまま南下すると、
「日本一の大ソテツ」なるものに出会う。五穀豊穣の神を祀る坂井
神社の道路沿いの鳥居をくぐり、階段を上ると、樹高 8m、樹長 12m、根回り 2m という、樹齢 600
年の雌ソテツが現れる。ソテツというと南国情緒のある、比較的シンプルな姿を思い浮かべるが、
これぐらいになるとくねくねと曲がったたくさんの枝が生えており、枝を支える柱とあいまって、
異様ともいえる姿をしている。因みにインターネットで「大ソテツ」
「国指定天然記念物」として
検索してみると、各地に同様の大ソテツはあるようである。
坂井神社を過ぎて東側に国道を外れ海岸沿いに出ると、熊野海岸一帯の奇岩群に出会う。太平
洋の荒波に浸食された風景は、まさに絶景といって良い。特に、
「千座(ちくら)の岩屋」は浸食
された洞窟が迷路のようにつながっており、千人は座れるといわれる岩屋で、是非訪れたい場所
の一つである。中に入ると、真っ暗なトンネルの中で波の音だけが聞こえて、そのうち目の前が
開けてくる。波の切れ間に砂を渡ると広い洞窟に出るといった具合である。
この付近一帯は浜田海水浴場とよばれ、真っ白な砂浜をよく見ると、珊瑚のかけらがそこら中
に見られる。種子島に来るのは、やはり夏がお勧めで、真っ青な透き通った海、白い珊瑚の砂浜、
種子島のどこに行っても、泳ぐなり、スキンダイビングなり、サーフィンなり、夏のレジャーには
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うってつけである。海に飽きた
り、ま た 家 族 連 れ の た め に は、
あ っ ぽ ∼ ら ん ど、太 陽 の 里、と
いったレジャー施設でもゆっくり
楽しめるようである。
さらに南下し、日本最古の文字
が書かれた貝符の出土した広田遺
跡の脇を通り、種子島宇宙セン
ターへと向かう。道路脇では、3
月 1 日にすでに桜が満開であっ
写真 3.「千座の岩屋」から海を望む。
た。このあたりから、大型ロケッ
ト発射台が見え隠れし、すでに宇
宙センター敷地内に入っているよ
うであるが、バスはお構いなしに
入って行く。後で聞いた話である
が、この道路は、発射場建設時に
写真5.打上げ時の焼け焦げ跡が生々しい大型ロケット発射台。
地元漁民との漁業補償と、生活道
路の確保のために一般開放され、
自由に通行できるとのことである
が、昨今のセキュリティ上の問題
と、建設後 40 年経ち、地元との合
意が取れたことから、4 月からは
写真 4.ロケットの丘から見た大型ロケット発射場。
一般には開放されなくなるそうで
ある。
大型ロケット発射場の全景を見渡せる最高の場所といえば、まずロケットの丘展望台であろう。
ここからは発射台の大きさを十分に感じられ、遥か水平線を見渡せる絶好の場所であるが、残念
ながら打上げ時には立ち入り禁止となる。
打上げ時の TV 中継に使われる竹崎展望台は、発射台から約 3km 離れた場所にある。我々は、
階段状の竹崎展望台の建物の横の、120 数段の階段を登って屋上に出た。放送局名を書いたガム
テープ等が各所に残っており、プレス席の場所取りの生々しさと、放送局間の力関係(?)が窺わ
れる。報道関係者は当然、館内のエレベーターを使って機材を搬入するのであろう。発射台の反
対側を見ると、竹崎海水浴場があり、その横には南紀白浜の円月島を思わせるような浸食洞窟も
あり、水も大変きれいである。この風景には、世界一美しい射場 といわれるのも納得する。
竹崎エリアの入り口にある「宇宙科学技術館」の横には、種子島から打ち上げた初の中型ロケッ
ト、N- Ⅰの実物大模型が立っている。館内(入館無料)に入ると、まず目を引くのが歴代ロケット
の写真パネル。人工衛星、探査機、国際宇宙ステーション「きぼう」の実物大模型等の展示がある
18 惑星地質ニュース 2007 年 6 月
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が、その中で H- Ⅱロケットのメインエン
ジン LE-7、第 2 段エンジン LE-5A の実物
の展示は一見の価値がある。その他、ど
この宇宙関連展示場でも見られるような
ものではあるが、退屈しないつくりに
なっている。
個人による事前予約が必要だが、専任
のガイドによる解説付きで案内してくれ
る 施設案内ツアー に申し込むと、種子
島宇宙センター内の打ち上げ関連施設を
見学できる。我が会津大学ツアー一行
は、まず総合指令棟(RCC)を訪れ、指令
管制室を見学した後、大型ロケット発射
場に向かった。遠くの展望台から見ても
でかい と思っていたが、近寄るとその
大きさに目をみはる。さすがに 60m 以
上の高さは圧巻である。
現在運用している H- Ⅱ A ロケットに
は衛星打ち上げ能力に応じて、メインエ
写真5.打上げ時の焼け焦げ跡が生々しい大型ロケット発射台。
ンジン(LE-7A)のみを搭載する H2A202、
固体補助ロケット(SSB)2 機を補助エンジンとして用いる H2A2022、4 機を用いる H2A2024、固
体ロケットブースター(SRB-A)2 機を補助エンジンとして用いる H2A204 の種類がある。我々が
訪れたのは、2 月に情報収集衛星レーダ 2 号機、光学 3 号機を載せた(H2A2024)を打ち上げた
直後であり、右側の柱にはまだ打上げ時の焼け焦げが残っていた(左側の柱は修復済み)
。背面の
焼け焦げは、12 月に技術試験衛星「きく 8 号」を打ち上げた 11 号機(H2A204)時のもので、そ
の打上げ推力の凄まじさが写真の焼け焦げから見て取れる。
発射場の向かいにある、大型ロケット組立棟では H- Ⅱ A 2機を同時に整備可能とのことであ
る。この棟の引き戸は、高さ 67.46m、幅 26.95m、厚さ 2.5 m、重さ 400t という巨大なもので、
「世界最大の引き戸」としてギネスブックに載っているそうだ。ロケット運搬用の台車も巨大なも
ので、一見の価値はある。
次にわれわれは、大崎第一事務所を訪れ、保存してある H-II ロケット 7 号機の実機を見物した
が、とにかくその大きさに驚かされる。宇宙科学技術館前の広場に横たえてある、記念撮影用の
H- Ⅱ A ロケットの実物大模型とは比べ物にならない迫力を感じる。打ち上げ準備中に、H- Ⅱ 8 号
機が失敗したため、打上げ中止になった機体である。この 7 号機のエンジンが宇宙科学技術館に
展示してあり、機体がここにあるというわけである。なお、8 号機の失敗理由を探るために墜落し
たロケットエンジン本体を太平洋の海底に捜し求めた顛末が、NHK「プロジェクト X」で紹介され
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ていることは、ご存知の方も多いと思う。
製作後、つくばで各種検査を経た H- Ⅱ A ロケットは、船で種子島の島間港に運び、宇宙セン
ターまでの約 15km を 4 ∼ 5 時間かけて専用トレーラで陸送するとの由、深夜とはいえ、道路全面
を塞ぐ搬送は地元住民には大変な迷惑だろう。
宇宙センターの西に「宝満の池」と「宝満神社」があり、自然が豊富で冬には水鳥も来ると紹介
されているが、会津の自然を見慣れた我々に、これといって感じるものはなかった。
宝満神社のすぐ目の前には「たねがしま赤米(あかごめ)館」がある。古代米である、赤米をめ
ぐる文化に関して展示、紹介している。試食でもと思ったが、残念ながら稀少で高価で、気軽に
というわけにはいかないようだ。
少し西に行った所の道路わきに「インギー鶏」を見ることができる。百余年前、座礁した英国船
の船員達を厚くもてなしてくれた島民に、お礼として贈られたニワトリの子孫のことで、
「イング
リッシュ」の発音を村人が「インギー」として聞き取り、インギー鶏と名づけたとのことだ。
さらに西へ行くと、ポルトガル船「サンガブリエル号」が難破、漂着し、鉄砲を伝来したゆかり
の地である、種子島最南端の岬「門倉岬」に着く。展望台はポルトガル船を形どっており、はるか
水平線を望むことができる。岬の先端は断崖絶壁になっていて、どうやって村人が船員を助けた
のか不思議に思ったが、小船で横の砂浜の方に上陸し、助けを求めたとの記述にようやく納得し
た。
門倉岬から北へ向かうと、宇宙ヶ丘公園がある。少し遠望になるが、ロケット発射台も十分見
え、打上げ時には観望者で賑わう場所とのことである。西には屋久島連峰も見え、まさに絶好の
眺めである。
種子島のホテルはそれほど多くなく、南種子では、宇宙センターのそばにあるコスモリゾート
種子島いわさきホテルと大和温泉ホテルぐらいである。セレーネ打上げ時には、打上げ関係者と
報道関係者、観光客とで千人ぐらいにはなりそうだが、島の宿泊施設がパンクすることはほぼ間
違いない。打上げ見物したい向きは、是非早めに宿の確保を……。
(会津大学)
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画像処理ソフト
ImageJ
を試す
寺薗 淳也 TERAZONO Jun-ya
ImageJ とは
以前この「惑星地質ニュース」上で、手軽にできる画像処理ソフトとして、アメリカ国立衛生研
究所(NIH: National Institutes of Health)がパブリックドメインソフトウェアとして開発してい
る NIH Image を紹介した[1]。NIH Image は Mac における(特に医療分野での)画像解析ツール
としては定番となり、それが Windows に移植されて Scion Image[2]としてリリースされた。
その後、オペレーティングシステムの進歩に伴い、この NIH Image の事実上後継ともいえるソ
フトウェアが開発されてきた。それが今回紹介する ImageJ である。
ImageJ も、NIH により開発されているソフトウェアであるが、以下のような特徴を持つ。
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図1
図2
・クロスプラットホーム(Java で記述されており、Mac、Windows、Linux など、Java 実行環
境がある OS なら動作可能)
・8 ビット∼32 ビットの画像をサポート。TIFF や PNG など各種フォーマットに対応。
・プラグインにより機能を追加できる。また各種のプラグインが公開されている。
ま ず は と も あ れ、配 布 サ イ ト[3]に 行 き、適 切 な OS 用 の ImageJ を ダ ウ ン ロ ー ド し よ う。
Windows 用には Java ランタイムのあり / なしに対応した版が用意されている。どちらもインス
トーラ形式になっているので、ダウンロードして実行すれば自動的にインストールされる。
起動すると、図 1 のような細長いウィンドウが現われる。字数の関係で細かい説明は省略する
が、
[Process]では比演算をはじめとする画像演算、
[Analyze]では種々の画像測定が可能である。
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手許に TIFF や JPEG の画像をお持ちの方
は、読み込ませていろいろと遊んでみるの
もよいだろう。
PDS プラグインを入手
さて、惑星探査で得られた画像は、たいて
いの場合 PDS(Planetary Data Format)と
いう形で配布されている。この PDS は先頭
にヘッダを持ち、後ろに画像があるという
形式をしており、普通の画像ソフトではデ
フォルトで読み込めるものはそれほど多く
ない。
ImageJ もこのままでは読み込めないのだ
が、プラグインを利用することによって読
み込むことが可能である。先ほどの ImageJ
の配布サイト[3]を再び訪れて、
「plugins」リ
図3
ンクから「Input/Output」を選び(相当な数
があることがわかるだろう)、そこから「Open PDS Images」を選ぶ。Installation の説明に従い、
PDS_Reader.class というファイルをダウンロードし、これを ImageJ のプラグインフォルダ
(Windows であれば、C:¥Program Files ¥ ImageJ¥plugins)にコピーまたは移動する。
一緒に配布されているサンプルイメージ(ZIP 圧縮されている)もダウンロードして、解凍してお
こう。pds.img という名前のファイルができているはずである。一度 ImageJ を終了して再起動す
れば、プラグインが有効になる。
このファイルを開くためには、
[File]→[Open]ではなく、
[Plugins]→[PDS Reader]を使う。そ
うするとファイルを開くダイアログ(図2)が表示されるので、pds.img を選ぶ。そうすると、図
3 のような火星の画像が表示される。ファイルをエディタなどの何らかのツールで無理やり開い
てヘッダを表示すれば分かるが、これはバイキングが撮影したオリンポス山火口の画像である。
この画像が開ければ、他の PDS フォーマットの画像を開くことも可能である。惑星探査関係の
サイトや CD-ROM などから画像を開いてみるのもよいだろう。
〈注記〉
ImageJ は日本語版もリリースされている[4]が、こちらはシェアウェアとなる。また、用意され
ているのは Windows 版と MacOS X 版のみである。また、オンライン百科事典 Wikipedia にも
ImageJ の解説[5]がある。
また、NIH Image や ImageJ を使った画像解析のテキストが医療関係を中心に何冊か出版され
ている[6]。さらに高度な画像処理を目指したり、徹底的に使いこなしたい人は、お手許に一冊置
いておいても損はないであろう。
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ImageJ に関する情報については、私のウェブサイト(http://www.terakin.com/ja/)において公
開していく予定である。
<参考資料・注>
[1] 惑星画像を解析しよう! ­「みんなで画像解析」のすすめ ­, 寺薗淳也・齊藤潤,惑星地質ニュース,
vol.12, No.1, 2000.
[2] http://www.scioncorp.com/ なお、ダウンロードはここから「Download Scion Image Software
Now」をクリックし、個人情報を登録する必要がある。
[3] http://rsb.info.nih.gov/ij/
[4] http://www.bioarts.co.jp/products/ijjp/ij_download.html
[5] http://ja.wikipedia.org/wiki/ImageJ
[6] Google で「NIH Image」をキーワードに検索するとヒットする。
(会津大学)
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論文紹介
メッセンジャーいよいよ水星へ
Dorminey, B., 2007, The deep plunge Sunward. Mercury, Vol.36, No.1 (Winter 2007), 12-19.
2004 年 8 月 3 日に打ち上げられた NASA の水星探査機「メッセンジャー」の第 1 回水星フライ
バイが、いよいよ 2008 年 1 月にせまってきた。そこでこの機会に、水星の謎と探査の課題をさ
ぐってみることにしよう。
謎にみちた水星
太陽系で一番内側の惑星であり、太陽にひじょうに近いところを回る水星は、いろいろな点で観
測と研究が困難である。一般に水星が人びとの関心をあつめるのは、金星と同様にときたまおこ
る、太陽面通過という現象のときだけのように思える。
地球上から見ると、水星の太陽からの最大離角は 28 をこえることがない。そのため、望遠鏡を
向けることのできる時間はきわめて限られたものとなり、ハッブル宇宙望遠鏡も水星には向けら
れないままになってきた。
地上からできる最も効果的な観測は、レーダーで表面の状態や性質をさぐることと、反射スペク
トルの観測である。これらのデータから、水星表面の多くは、おそらく月の高地に似た、アノーソ
サイト(斜長岩)質の組成をもっているのではないかと考えられる。そして表面の状態は、月の高
地よりもやや暗いレゴリスでおおわれているようである。
水星の公転周期(88 日)と自転周期(58.6 日)は 3:2 の比で同期しており、1昼夜は 176 日
間(昼と夜がそれぞれ 88 日間)となる。昼間の水星表面に立って太陽を眺めると、それは地球か
ら見る大きさの 2.5 倍もの大きさに見えるだろう。これほど太陽に近いので、昼間の表面温度は
630K にもなるが、夜は 93K まで下がる。
水星の半径は 2439km で地球の 1/3 程度の大きさである。ところがその平均密度は 5.44g/cm3
もあり、これは地球や金星の平均密度に近い値である。このことから、水星内部には大きな鉄のコ
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アがあると推定されている。
1974 年に水星に初めて接
近したマリナー 10 号の観測
によって、水星にも、地球と
よく似た双極子磁場が存在
することが明らかになった。
惑星の双極子磁場は、解けた
金属コアの回転によるダイ
ナモ効果で生成すると考え
られている。もし本当に水
星の金属コアが溶けている
のだとしたら、鉄の溶融温度
を下げるために、コアに硫黄
が含まれているかもしれな
(NASA 画像)
いと推察される。しかし硫
黄は、太陽に近い高温領域では、本来不安定なはずであるから、存在するとしてもそれはどうして
なのだろうか。
水星は小さな惑星なのに、どうして地球に似たグローバルな双極子磁場をもっているのか。こ
の疑問をとく鍵は、原始太陽系星雲の歴史の初期と、それにつづく惑星形成の時代にかかわってい
る。
今日見られるクレーターにおおわれた水星の姿は、約 38 億年前の集中衝突期後期(LHB)にで
き上がったようにみえる。LHB 期のあるとき、水星北半球の中緯度でおこった大衝突によって、
直径 1300km のカロリス盆地が形成された。一方、マグマもあちこちで流れ出し、クレーター間
平原を形成した。その後水星が冷却しはじめると、全体が収縮してマグマの出口は閉じられ、逆断
層やスラストなどの断裂が多数生成した。
しかしながら、惑星全体が冷却によって収縮したというのは本当なのだろうか。何か別のこと
がおこった可能性はないだろうか。水星表面にはまだ未撮影の部分が半分以上ある。そこに正断
層などがあるだろうか。メッセンジャーの探査に期待がかけられるゆえんである。
メッセンジャーの飛行と任務
マリナー 10 号の初の水星探査からすでに 30 年以上が経過した。今回のメッセンジャーによる
彗星探査復活まで、どうしてこんなに時間がかかったのだろうか。それは、純粋に学問的な面か
ら、というよりはむしろ、打ち上げロケットの軌道とミッションスケジュールのほうに問題があっ
たからだといえる。
最大の問題は、反重力アシスト航法によって探査機を飛ばす方法が、ようやく 1980 年代に入っ
て確立されたことにある。すなわち、地球軌道の内側に向かって、金星と水星を何回かフライバイ
し、これによって探査機の速度をしだいに落とし、最終的に水星周回軌道にのせる、という方法で
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ある。
ところが、せっかく新しい航法が見出されたにもかかわらず、NASA は 1980 年代半ばごろか
ら、探査機をスペースシャトルで軌道上に運び、放出することに方針を変更した。しかるに、チャ
レンジャー事故によって打ち上げ計画が滞ることになり、再び方針を変えはじめたのだ。こうし
てメッセンジャーが実現する運びになったのである。
メッセンジャー探査機は、マリナー 10 号と同様に、まず水星を 3 回フライバイする。2008 年 1
月と 10 月、そして 2009 年 9 月に、である。この 3 回のフライバイで速度を十分に落とし、2011
年に水星周回軌道に入る予定である。その後少なくとも 1 年間、水星を回りながら観測をつづけ
る。
水星は公転周期が短く、空での見かけの動きが速いことから、古代ローマ人たちによって、足の
速い神の使者(メッセンジャー)の名 Mercury があたえられてきた。だから、メッセンジャーはま
こ と に 水 星 探 査 機 の 名 に ふ さ わ し い と い え よ う。も っ と も、探 査 機 の メ ッ セ ン ジ ャ ー
(MESSENGER)なる語は、表向きは MErcury、Surface、Space ENvironment、GEochemistry、
and Ranging という長いことばからの造語とされているが、これはあとからのこじつけのような
印象もうける(これは紹介者の弁)
。
さて、メッセンジャーには7つの観測機器が搭載されており、水星全表面の撮影と地形の探査、
化学組成のマッピング、外気圏や磁気圏の探査などをすすめる予定である。また、かつてレーダー
観測で極地に氷がありそうだといわれてきたこともあるので、本当に氷堆積物があるかどうかも
調べる。さらに、水星のコアと磁場のかかわりなども探査する。
メッセンジャーからのメッセージ
メッセンジャーに課せられた大きな期待の1つは、何といっても、高い平均密度と、巨大金属コ
アの起源についての何らかの手がかりをつかむことである。
水星の異常に大きな鉄/シリケート比を説明するために、次のような3つのシナリオがこれま
でに提唱されてきた。
①原始太陽系星雲内における、鉄に富んだ微惑星の選択的集積によって水星が形成された。
②原始太陽系星雲の高温領域で、シリケートの蒸発によって、鉄に富む水星が形成された。
③惑星形成期の初期におこった巨大衝突によって、シリケートの外殻がはぎとられ、現在の水星
が形成された。
第1のシナリオは、よく知られた流体力学的な選別過程である。すなわち、原始太陽系星雲の内
側領域では、シリケート質微惑星のほうが軌道上にとりのこされ、速度がおそくなって太陽に落ち
込んでしまう。その結果、より重い金属質微惑星の比率が高くなり、これらが水星の巨大コアを形
成した、というものである。
第2のシナリオは、高温の原始太陽系星雲の中で、太陽の強い放射と太陽風によって、水星のシ
リケート分が蒸発してしまったとする。
そして第3の、いま最も人気の高いシナリオは、巨大衝突天体が、水星のシリケート質外殻をは
ぎとってしまったとする。はぎとられた物質はふたたび水星にもどることなく四散してしまった。
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地球型惑星の形成についての現代の理論によれば、水星本体は約 45 億年前に 5000 万年以内の
時間で形成された。そしてこの惑星を変えた巨大衝突は、つづく 5000 万年後におこったものだと
いう。もし、この巨大衝突仮説が正しいとすると、もともとの水星は火星と金星の中間ぐらいの大
きさをもっていたことになるだろう。
メッセンジャーは、この3つの仮説のどれが一番もっともらしいかを明らかにする重要なデー
タをもたらしてくれるだろう。いやそれよりも、この3つのモデルのどれをもくつがえすような
データが得られるかもしれない。
メッセンジャーがどんなデータをもたらすにせよ、さらなる探査は次のベピ・コロンボ計画が引
き継ぐだろう。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)と日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の共同によ
るベピ・コロンボ探査機は、2013 年 8 月に打ち上げられ、2019 年に水星に到着する予定である。
この計画が首尾よくすすめられることを祈りたい。
〈紹介者付記〉
本論の著者 Bruce Dorminey はアメリカの科学ジャーナリストで、天文学、宇宙科学にくわし
い。
「Aviation Week & Space Technology」誌の前香港支局長をつとめ、多くの著作もある。掲載
誌の「Mercury」は米国太平洋天文学会(Astronomical Society of the Pacific, ASP)の機関誌。
なお、メッセンジャー計画については、すでに本誌 Vol.13, No.2 (June 2001) p.25 と Vol.14, No.3(Sept. 2002)p.25∼30 に、いずれも白尾元理氏によるくわしい紹介記事がある。あわせて
参照いただければ幸いである。
(小森長生)
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INFORMATION
●はやぶさサイエンスデータ公開される
今年 4 月 24 日に、JAXA の右サイト( http://hayabusa.sci.isas.jaxa.jp/ )で小惑星イトカワの
観測データが公開されました。可視分光撮像カメラ(AMICA)
、レーザー高度計(LIDAR)、近赤外
分光器(NIRS)
、蛍光 X 線スペクトロメータ(XRS)
、そして探査機位置姿勢の SPICE データと形
状モデルが提供されています。機器説明や発表論文紹介もありますが、全世界公開なので英語で書
かれています。例えば、画像データは AMICA を選んで観測フェイズ・日を選べば JPEG 画像の一
覧が現れて簡単に楽しめます。フェイズには、巡航 cruse、地球スイングバイ、ゲートポジション
(距離∼20km)、ホームポジション(距離∼7km)、降下&タッチダウン Decent & Touching-Down、
較正 calibration の6つがあり、見栄えがするのは2つめ Earth Swingby と5つめ Decent &
Touching Down でしょうか。ダウンロードされるのは天文分野で一般的な fits フォーマットです。
是非、瓦礫の山イトカワを堪能されてはいかがでしょう。
●バイキングは火星生命の活動を絶ったのか
1976 年に初の火星軟着陸を果たした NASA のバイキング 1 号と 2 号のランダーは、表面土壌中
に何らかの生命体(おそらく微生物)が存在するかどうかを調べる実験を行ったことで有名であ
る。この実験によって、火星に生命は存在しないという結論が一応だされたのであったが、これに
26 惑星地質ニュース 2007 年 6 月
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対する興味深い異論がこのほど発表された。
2007 年 1 月 7 日、シアトルで開かれたアメリカ天文学会(AAS)の会合で、ワシントン州立大
学の地質学者 Dirk Schulze-Makuch たちは、次のような考えをのべた。
現在の火星の、寒冷でドライなきびしい環境のもとで生命が存在しているとすれば、それは地球
型生命の常識とは異なるものであろう。たとえば、1 つ考えられるのは、水と過酸化水素(H2O2)
の混合液体を体液にもつ生物がいるかもしれない、ということである。H2O-H2O2混合気体は、
-56℃という低温のもとでも液体の状態を保ち、生命体の細胞を破壊することはない。
バイキングの生命探査実験では、火星土壌をすくって加熱したり、水をかけたりして、生命活動
の徴候はないかどうかを調べた。しかしこのような火攻め、水攻めで、火星の過酸化水素水生物は
死滅してしまったのではないか、と Schulze-Makuch たちは推理する。
とはいえ、過酸化水素水生物などというものが、本当に存在すると考えられるのだろうか。じつ
は地球上でも、防衛のための武器として 25%の過酸化水素水を放出するホソクビゴミムシという
微生物がいる。こういった例もあるのだから、さまざまな異質な環境下で発生・進化した地球外生
命体の可能性がないわけではけっしてないだろう。
今年 8 月、NASA の新しい火星探査機フェニックスランダーが打ち上げられる。この探査機で新
しい仮説をテストしたいと考えている科学者もおり、成り行きが注目される。
(「Astronomy」May 2007, 「The Japan Times」Jan. 9, 2007 による)
●セレーネの愛称は「かぐや」に決定、打ち上げは 8 月 16 日に
6 月 6 日、JAXA は、日本の月周回探査機セレーネの愛称を「かぐや」に決定した。
「かぐや」は、
本年の 4 月∼5 月にかけて行われた愛称募集キャンペーンで第 1 位となった名称で、このキャン
ペーンには合計 11596 件の応募があり、1 位かぐや(1701 件)
、2 位かぐやひめ(804 件)
、3 位う
さぎ(495 件)、4 位げっこう(480 件)の順であった。
また 6 月 13 日、
「かぐや」の打ち上げ日時を 8 月 16 日(木)午前 9 時 30 分 48 秒と予定されて
いることを発表した。第 2 段エンジンから「かぐや」の分離は打ち上げ 46 分後、月周回軌道投入
は約 18 日後、月観測軌道投入は約 37 日後である。なお打ち上げの予備期間は 8 月 17 日∼8 月 23
日、および 9 月 13 日∼9 月 21 日となっている。
(JAXA の HP(http://www.jaxa.jp/)による)
●本会事務局の所在地が変わります
今年 7 月 3 日から、惑星地質研究会の所在地が下記のように変わります。
〒187-0044 小平市喜平町 3-1-7-301,小森方
電話番号は未定につき、次号でお知らせします。ご了解ください。
編集後記:今回はちょっと趣向を変えて、日本の宇宙探査の最前線基地・種子島の探訪記を、会
津大学の浅田さんに書いていただきました。ときにはこういう肩のこらない記事も、と思って
います。その種子島から「かぐや」がまもなく打ち上げられます。片や海の向こうでは、NASA
の火星ランダー「フェニックス」が飛び立ちます。そしていよいよ「メッセンジャー」の水星フ
ライバイも間近に。目の離せないできごとがつづきます。
(K)