Structured Finance - フィッチ

Structured Finance
CMBS
日本
格付基準レポート
日本の CMBS のサーベイランスに関
する格付基準
アナリスト
要旨
橋本 浩平
03-3288-2674
kohei.hashimoto@fitchratings.com
斉藤 直毅
03-3288-2631
naoki.saito@fitchratings.com
小林 亨
03-3288-2642
toru.kobayashi@fitchratings.com
工藤 仁章
03-3288-2630
masaaki.kudo@fitchratings.com
関連リサーチ
• 日本におけるパフォーミングローンプール
の格付について (2002 年 10 月)
• Coercive Debt Exchange Criteria for
Structured Finance (2009 年 6 月)
• 格付基準の適用と影響 - CMBS サーベイラ
ンス (2009 年 9 月)
このレポートは、フィッチ・レーティングスが日本の CMBS 案件のパフォーマンスを
レビューするにあたって用いる分析手法について、詳細を示したものである。近時
の市場環境の変動は、日本の不動産や CMBS のパフォーマンスに強く影響を与えてお
り、本レポートに含まれる内容の多くは、現在の市場の状態や付与されている格付
水準と密接な関係を有している。
フィッチは日本の CMBS 案件について、裏付ローン(本レポートにおいて「裏付ロー
ン」または「ローン」とは、別途明示する場合を除き、広く CMBS の裏付債権となっ
ているノンリコースローンや特定社債等を指すものとする)レベルでサーベイラン
ス情報を管理している。当初案件のクロージングに先立ってはアレンジャーから、
それ以降は案件のサービサーや信託受託者などから提供されるこれらの情報は、テ
ナント、物件、裏付ローン及び案件レベルのものが追加的に送付されることによっ
て定期的に更新されている。そのため、他の市場関係者と同様、サービサー、資金
管理者や信託受託者など発行体の事務代行者等からのタイムリー、正確かつ詳細な
情報の提供に依存して、フィッチは格付業務を行っている。フィッチはこれらロー
ンレベルの情報に加えて、マクロ経済データやフィッチのソブリン部門のアナリス
トが示す経済見通しやフィッチが有する市場(セクター)の方向性への見解を活用
し、格付レビューのためのシナリオ分析を行っている。
日本の CMBS のサーベイランス分析においては、フィッチは当初の格付付与の際に適
用したものと同様の分析アプローチを採用している。このレポートは、特にサーベ
イランス分析において重要と判断される点について重点的に記載しており、読者が
フィッチの日本の CMBS 分析における物件レベルの分析手法について、一定の知識と
理解を有することを前提としている。
日本の CMBS のサーベイランス分析における主要なポイントとして、以下のものが挙
げられる。
•
ローン・トゥ・バリュー(LTV)の重視:日本の CMBS の裏付ローンの多くは、
ローン期間中の元本返済がわずか、もしくは全くない期日一括ローンである。期
日において、ローンはリファイナンスされるか、または元本の償還に充当するた
めに物件を売却することが必要となる。現在のマーケットではボロワーはリファ
イナンスの選択肢が限られており、フィッチは担保物件の処分価値に基づく、回
収見通しをこれまで以上に注視する必要があると判断しており、LTV 水準に基づ
く分析を重視する。ストレスのかかった市場環境下では、ファイナンスソースの
不足により、キャッシュフローが概ね維持されている場合でも、期日を迎える
ローンの大半がデフォルトする状況が想定されうる。このような状況でデフォル
トしたローンの回収は、担保物件の処分を通じて行われるケースが多くなると考
えられる。
•
担保物件の再評価:フィッチは、担保物件の価格下落を招く可能性のあるあらゆ
る要因を考慮し、将来を見据えて評価額を見直す。将来動向の想定には担保物件
のパフォーマンスの変化、経済のファンダメンタルズや市場全般の動向などの反
映が考えられる。日本の CMBS 市場では担保物件の不動産鑑定評価書について定
期的な更新を受けることは一般的な慣習となっていない。本件レポートにおいて
www.fitchratings.com / www.fitchratings.co.jp
2009 年 9 月 2 日
Structured Finance
「評価」とは、別途明示される場合を除き、分析に際して行うフィッチによる価
格査定を指す。
•
ローンの残存期間への着目:フィッチは格付ストレスシナリオにおいて、ローン
の期日が近づくに従って、担保評価を市場における第三者間の正常な取引を想定
した水準から、所謂「売り急ぎ」によるストレスのかかった水準に徐々に引き下
げていく。
•
CMBS の残存期間への着目:一定以上のストレスのかかった市場環境では、ロー
ンの債権回収が長期化することが考えられるほか、サービサーが難しい状況や事
情への対応を迫られることが想定される。CMBS の最終償還期日までの残期間が
短くなると、期日通りの支払い可能性に関する不透明感が増大し、格付が付与さ
れている全てのクラスが大幅に格下げされる可能性が生じてくる。
本レポートの内容は CMBS のサーベイランス分析における定量的な側面を中心として
いるが、これらの分析結果は格付レビューのコミッティーが行う判断において考慮
される要素の一つとなる。上記の 4 つのポイントは、「具体的な分析手法・手順」
の項における手順に直接または間接的に反映されている。
市場における動向の反映
世界的な金融危機の日本への影響はやや遅れて波及したが、最終的には市場におけ
るファイナンス提供者の多くの撤退という形で現れ、特に不動産に向けたファイナ
ンスの不足を招くこととなった。
現状の不動産市場環境とファイナンスの提供が限られた状態が続く場合、裏付ロー
ンは顕著な期日デフォルトのリスクにさらされる可能性が高い。一方で、日本の裏
付物件におけるキャッシュフローの実績はこれまでのところ概ね安定的に推移して
おり、期中デフォルトは主力テナントのデフォルトなど限定的な場合にとどまると
考えられる。このためフィッチのサーベイランス分析は、期日デフォルトのリスク
に対して、より強く着目していく。
フィッチのサーベイランスの格付基準では、商業不動産価格の下落が反映されるよ
う設計されているが、同時に将来の不動産ファイナンスの環境や価格の見通しを含
めた視点も格付に盛り込まれるような基準としている。市場価格の動きは継続して
モニターされることが必要であり、サーベイランスにかかる分析上の想定等は必要
に応じてアップデートする。
正常時においては、ローンの借入人(またはそのアセットマネージャー)は、リ
ファイナンスを行うか、担保不動産を売却することによって、ローンを期日までに
返済する。しかし、ストレスのかかった市場環境ではファイナンスの機会が限られ
るため、リファイナンスに著しい困難が伴う可能性があり、格付分析上、ローンデ
フォルト後の担保処分による回収見通しがより重要になる。
フィッチは将来の市場の動向が既存
の格付に影響を与える可能性にかか
るその時々の判断に基づき、コメン
タリーやスペシャル・レポートを通
じて分析上の想定等のアップデート
を行う。
債権回収や担保処分による回収金を査定するにあたって、フィッチは市場が「正常
な状態」において第三者間の自発的な売買により成立する価格と、強制的な売却圧
力がかかった状態での売買において成立する価格には、大きな乖離があると考えて
いる。ローンの期日が近づくにつれて、ボロワーには強制売却の圧力が加わり、売
買金額はストレス下での売却価格(「ストレスセール」または「ストレスセール・
バリュー」)にシフトしていく可能性が高い。フィッチでは、しばらくの間はこう
した圧力が続くと考えており、これらの物件価格の傾向をサーベイランスの格付分
析に反映させる。
「正常な状態」におけるバリューとストレスセール・バリューの乖離の幅は、マー
ケットの状態や市場のストレスのレベルを反映して、その時々において異なる。ま
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
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Structured Finance
た市場の状態が、案件当事者にとってのインセンティブや、行動に影響を与えるこ
とも考えられる。特にストレスがかかった市況においては、市場に影響を与えてい
る要因を捉え、それを分析に反映させることが重要である。サーベイランス分析に
対して、(限定された期間、または範囲内で)強く影響を及ぼす想定条件や要因が
ある場合には、格付基準とは別のスペシャル・レポートという形で適宜その内容を
公表していく。
具体的な分析手法・手順
フィッチのサーベイランス分析は以下の手順で行われる。
1.
裏付物件のキャッシュフローのパフォーマンス実績のレビューを行い、維持可
能なキャッシュフローの水準を視野にフィッチ・ネット・キャッシュフロー
(「フィッチ NCF」)を調整;
2.
維持可能な安定的な水準としてのキャップレートの査定-現在の市況における
水準と将来のキャップレートの変動見通しを踏まえたもの-「修正フィッチ・
バリュー」の算定に使用;
3.
「フィッチ・ストレスセール・バリュー」の査定-ローンの期日までの残期間
が 24 ヶ月以下である場合に使用し、価格調整を行う;
4.
前記 1 から 3 の結果を用いて、物件レベルの LTV 分析(調整後フィッチ LTV 分
析、後述)を行う;
5.
余剰キャッシュフロー(CF)を原資とするクレジットの評価;
6.
調整後の LTV 水準(余剰 CF 評価後)により、ローン単位でのクレジット評価を
実施;
7.
キャッシュフローの支払順位(ウォーターフォール)、流動性補完のための仕
組または準備金等による信用補完、CMBS 法定最終償還までの期間やサービシン
グなど案件固有の様々な要素の検討・分析
分析手法の適用
物件価値の評価
サーベイランス分析における維持可能なネットキャッシュフロー(NCF)水準の査定
は、実際の運営実績に基づいて行われ、実質的にはフィッチが当初の分析と同様の
方法による。フィッチは物件の CF 実績のデータを受領し、これをフィッチが当初査
定した CF 水準や、将来の予測に照らして比較する。フィッチの NCF 査定においては、
実績が大幅に乖離した場合などでは維持可能な CF 水準に適宜見直しを行う。別途、
フィッチはストレス下にあることが確認された特定の物件タイプについて、収入
ベースの想定を見直すことがある。
キャップレートについては、その時々のマーケット状況を踏まえて見直しを行う。
これらはフィッチが考える中長期的に維持可能な収益価格を反映しており、物件タ
イプ・所在地域に対応してキャップレートが付される。査定される個々のキャップ
レートは物件の個別特性(築年数、立地、建物品質)などを反映する。
特定の物件に付されるキャップレートは、その時々の不動産取引市場における価格
及び利回り期待を反映させることを視野に入れている。CMBS の裏付となっている各
物件に対して、上記を踏まえた修正後のフィッチ・キャップレートを個々に査定し
た上で、維持可能な水準としての「修正フィッチ・バリュー」を改めて算定する。
一方、今後 12 ヶ月以内に期日を迎えるローン、またはデフォルトしたローンについ
ては、強制的な売却が強いられる可能性が高まっている。一般に日本の CMBS におい
ては裏付ローンがデフォルトした場合、契約書類にとられるべきアクションが規定
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
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されている。メザニン債権者がいる場合は、メザニン債権者に一定期間の物件売却
またはローン全体のリファイナンスを主導する権利が認められ、その後、スペシャ
ル・サービサーが CMBS ノートの保有者のための物件売却を開始するケースが多い。
売り急ぎによる一層の価格下落ストレスの影響を受けるリスクを反映して、フィッ
チは対象となる担保物件について、強いストレスを想定したキャップレートに基づ
く「フィッチ・ストレスセール・バリュー」を設定する。
「フィッチ・ストレスセール・バリュー」については、ネット・プレゼント・バ
リュー(NPV)ベースでの回収最大化を図る、スペシャル・サービサー策定の回収計
画について、想定をおきながら査定することになる。
また、フィッチが「フィッチ・ストレスセール・バリュー」を算定するにあたって
は、以下の点が考慮される。
•
物件価値下落の市場リスク;
•
物件からの余剰 CF によるローン元本の回収可能性;及び
•
デフォルトしたローンからの回収の完了が CMBS ノートの法定最終償還日までに
完了する蓋然性
「フィッチ・ストレスセール・バリュー」として付されるキャップレートは、ファ
イナンス及び不動産市場の状況を反映して「修正フィッチ・バリュー」における
キャップレートを一定程度上回るよう設定される。なお、分析における債権回収可
能額の確実性が非常に高いケースでは、「フィッチ・ストレスセール・バリュー」
を当該水準とする場合がある。
LTV ハードルの調整
ここで示すサーベイランス手法は、2009 年に日本市場でみられたような、高いリ
ファイナンス・リスクと不動産売買市場におけるストレスの影響を反映させること
を主な目的としている。このため、評価見直し後に担保物件がどれだけのデットを
支えられるかを判定するにあたっては、(ローン期日におけるデフォルトの発生を
念頭に)担保物件からの回収可能性に分析の軸足を置くことにしており、フィッチ
が新規案件において用いてきたデット・サービス・カバレッジ・レシオ(DSCR)分
析を重視するアプローチと異なる側面がある。DSCR は債務支払いのカバレッジを示
しており、一義的には代替的なファイナンスの容易さを表す指標と考えられるが、
ファイナンスのし易さはファイナンスの選択肢が限られた環境では、予見が難しい
ことが考えられる。強いストレスのかかった環境では、キャッシュフローと物件価
格のいずれか、または両方にストレスがかかっている可能性があるが、どのケース
でも物件価格には下方圧力がかかる可能性が高い。フィッチの LTV 分析にあたって
は、二つの異なる評価「修正フィッチ・バリュー」と「フィッチ・ストレスセー
ル・バリュー」を査定し、それぞれがローンの置かれた状況に対応して用いられる。
物件タイプ毎に設定される LTV のパラメーター(ハードル)は、従前どおり下表の
とおりであり、この LTV のレンジが、後述の LTV ハードル調整を行う際の起点と
なっている。
オフィス及び共同住宅の LTV ハードルのベースレンジ
物件タイプと格付
AAA
AA
A
BBB
BBBBB
B
オフィスの LTV (%)
35.5-40.5
42.5-47.5
50.0-55.0
57.5-62.5
63.0-68.0
69.5-74.5
75.5-80.5
集合住宅の LTV (%)
42.5-47.5
48.5-53.5
54.5-59.5
61.0-66.0
65.5-70.5
71.0-76.0
77.5-82.5
出所:フィッチ
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
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修正フィッチ・バリューを用いた分析
期日までに 24 ヶ月以上を残しているローンの担保不動産の評価としては、修正
フィッチ・バリューを用いる。修正フィッチ・バリューは、現在見られる強いスト
レス環境下にある不動産市況をある程度考慮しながら、中長期的に安定的な対象物
件の価値に対するフィッチとしての保守的な評価を示すものである。必要に応じて、
フィッチは①ストレス下の市況、②物件処分までの想定期間の短さ(CMBS 発行時点
との比較)を勘案して、格付シナリオ毎の LTV ハードルを調整する。これは CMBS 発
行時点における評価と比べて、担保物件処分プロセスに入った段階における回収価
値見通しの方が信頼度は高い(現在の市場価格と比べても)とのフィッチの判断に
よる。
フィッチ・ストレス・セール・バリューを用いた分析
フィッチ・ストレス・セール・バリューは現在のストレス環境下における、限られ
た時間内での債権回収を前提とした評価である。フィッチ・ストレス・セール・バ
リューは、期日を迎えてデフォルトしたローンと、期日まで 12 ヶ月に満たないロー
ンについて適用する。ローンの期日までの期間が 12 ヶ月超で 24 ヶ月未満のものに
ついては、フィッチは残存期間に応じて、修正フィッチ・バリューとフィッチ・ス
トレス・セール・バリューを直線的に補完して分析を行う。既にデフォルトしてい
るローンについては、実際の債権回収活動を通じて、より適切と判断される価格が
認められる場合を除き、フィッチ・ストレス・セール・バリューを用いる。
フィッチは、フィッチ・ストレス・セール・バリューを将来における市場価格下落
(Market Value Decline, MVD)リスクの相当部分を織り込んだ水準に設定しており、
評価そのものが強いストレスを前提としているため、比較的短い期間内で当該評価
額と同等またはそれ以上の価格での物件売却実現の可能性を示唆するものと考えて
いる。このような状況で、フィッチは分析上 MVD を二重で適用することを回避する
ため、標準の LTV ハードルの調整を行う。
それぞれのバリューに適用されるキャップレートの違い、及び以下で説明される LTV
ハードルの調整方法により、フィッチ・ストレスセール・バリューで分析される
ローンの方が修正フィッチ・バリューで分析されるローンより強いストレスがかけ
られる。
LTV ハードルの調整方法
トリプル A ストレスレベルの設定
フィッチはこれまでにも用いてきた物件タイプや物件のクオリティ毎に LTV ハード
ルとして、35.5%~47.5%の範囲で設定してきた。フィッチは引続きこれらのハード
ルはトリプル A シナリオにおけるリスクを概ね適切に反映するものであると考えて
いる。
CMBS 発行当初に想定した担保物件の市場価格下落(MVD)リスクと、既に相当の価
格下落を経験した物件の更なる価格下落リスクを比較した場合、多くの場合、後者
のリスクの方が相対的に低いと考えられる。フィッチはケース・バイ・ケースで検
討は行うものの、一般的にはこの考え方を LTV ハードルの各格付レベルでの調整に
織り込むことが合理的と判断した。今後の価格下落リスクに関するフィッチの見解
を踏まえ、修正フィッチ・バリューまたはフィッチ・ストレスセール・バリューに
対応する LTV ハードルの調整を行う。調整そのものはすべての物件について同じ手
法で行う。
シングル B ストレスレベルの判定
トリプル A シナリオとは対照的に、シングル B シナリオはその時々の時点における
ベースケース・シナリオの信用特性を反映するものとして位置付けられる。ベース
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
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Structured Finance
ケースのシナリオは、シングル B 格付における LTV のハードルとして表される。
これまでに確認された不動産価格の下落を考慮して、フィッチは回収にかかるスト
レスレベルを検討し、修正フィッチ・バリューに対応するシングル B シナリオの LTV
水準は 85%から最大 88%の範囲で設定されるケースが一般的となると考えている。こ
れはフィッチの今後もう一段の価格下落進行に対する見解を反映している。
フィッチ・ストレスセール・バリューに基づく分析でのシングル B シナリオでは、
フィッチは物件タイプに関係なく、物件売却の結果として最大で評価額の 95%が回収
されるものと想定する。これは売却価格から 5%相当の想定処分コストを除いた全額
がローンの回収に充当されるとの想定に基づいている。
物件及びローンレベルの分析が終了した段階で、修正フィッチ・バリューが適用さ
れるローンについては LTV が 85%から 88%を超えるもの、フィッチ・ストレスセー
ル・バリューが適用されるローンについては LTV が 95%を超えるものについて、
ローンの個別の条件や事情を考慮した上ではあるが、ベースケース・シナリオで元
本が損失を被る可能性があることになる。
オフィス及び集合住宅の LTV ハードルの上限値(調整後)a
適用バリュー
格付
AAA
AA
A
BBB
BBBBB
B
オフィス
集合住宅
物件タイプ
修正フィッチ
59.5
63.5
69.5
75.5
77.5
81.5
87.5
ストレスセール a
66.0
70.1
76.4
82.6
84.6
88.8
95.0
修正フィッチ
55.0
59.6
66.6
73.6
75.9
80.5
87.5
ストレスセール a
62.5
67.1
74.1
81.1
83.4
88.0
95.0
a
上表における値はフィッチ・ストレスセール・バリューが適用されるケースにおける LTV ハードルの上限値またはそ
の物件タイプにおける調整後の最大値を示しており、最も強い価格ストレスを経験した物件に適用される。より緩やか
な価格ストレスを受けた物件に適用される LTV ハードルは、修正フィッチ・バリューが適用されるケースにおける LTV
ハードルに近いものとなる。
出所:フィッチ
余剰キャッシュフローによる元本返済の想定
前記の分析は原則として物件単位で行われ、その結果はローンレベルの分析のため
に集計される。ローンレベルでは、フィッチはトリガー事由の発生、残存担保物件
の状況や最新の元本残高の確認等を通じて、裏付ローンの分析と検討を行う。
2009 年半ばで見られるような、物件の運営キャッシュフローが総じて安定的に推移
し、かつ低金利が継続している状況においては、フィッチは合理的な範囲で、ロー
ン元本が余剰キャッシュフローによって償還される可能性を考慮する。フィッチは
多くの場合でローンがデフォルトした場合でも、キャッシュフローの持続が見込め
ると考えており、これはかかる余剰キャッシュフローによるローン元本の償還可能
性を示唆している。
あるローンについて、期日デフォルトを想定すると、そのローンが理論上債権回収
に充当できる最長の期間は、ローンの期日から CMBS ノートの法定最終償還日までと
なる。日本の CMBS 案件では、予定償還日は通常、裏付ローンプールの中で最も遅く
期日が到来するローンに合わせて設定され、CMBS 案件の法定最終償還日は通常、予
定償還日の 2 年後に設定される。そのため、CMBS 案件には、サービサーがリファイ
ナンス、または担保物件の一部ないし全部の処分を通じて、デフォルトしたローン
の債権回収を完了させるためのテール期間が、最低 2 年間あることになる。
フィッチは元本返済への充当が可能な余剰キャッシュフローの安定性と実現性を査
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
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Structured Finance
定し、ローンの回収可能額への寄与度を検討する。物件がより短期間で、しかも
ローン残高を下回る価格で売却されるリスクは常にある。このため、フィッチは
ローンの置かれた状況や債権回収手続きの状況を踏まえ、余剰キャッシュフローに
よる元本返済の可能性を検討する。
スペシャル・サービサー(SS)は物件の状況、不動産市場、ローン残高及び契約等
諸々の規定に基づき、それぞれのローンについて CMBS 案件の投資家全体のための債
権回収プランを策定することが一般的である。しかし、ローンの元本が毀損する可
能性が高い状況で、担保物件が安定的な運営キャッシュフローを継続して生むこと
が見込まれる場合、SS は債権回収の最大化を図るという観点から、当該余剰キャッ
シュフロー用いてローン元本を減額させつつ、長い目で物件購入者を探索すると
いった回収方針で臨む場合も考えられる。
この点を踏まえ、ローンレベルでの分析にあたって、フィッチは合理的に妥当と見
込まれる範囲で、また格付レベル毎に一定の想定をおいた上で、余剰キャッシュフ
ローの一部がローン元本の回収に充当されるものとして、分析上考慮している。
売却型ローンにかかわる検討事項
日本では多くの債務者(典型的には民間の不動産投資ファンドなど)が証券化レン
ダーからのデットの調達により、物件ポートフォリオを購入してきた。この中には、
当初の契約上の規定等に、債務者が期間中に担保物件の一部または全部を売却し、
決められたスケジュールで元本を減少させることを定めた「売却型ローン」と呼ば
れる裏付債権が含まれている。つまり「売却型ローン」とは、債務者またはアセッ
ト・マネージャー(AM)が、予め定められたローン契約上のルールと価格に基づき、
ローン期間中に裏付物件プールの一部または全部を売却することが想定される裏付
債権をいう(尚、一義的には債務者に物件売却を促すと考えられるローンの契約条
件の有無が、フィッチがそのローンが売却型ローン、リファイナンナンス型ローン
のいずれとして分析を行うかの判断材料となっている)。世界的な金融危機や 2008
年から 2009 年にかけての不動産取引の減少により、多くのケースで、フィッチが当
初の分析で想定していたペースの物件売却を見込むことが難しくなっている。
いずれのケースでも、フィッチは AM による直近の担保物件売却プランについて今後
の実現可能性を検討し、それに対するフィッチの見解に基づき、分析上の売却想定
を見直す。例えば、高いリリースプライスが設定されている物件を担保とするロー
ンの場合、フィッチはすべての格付シナリオにおいて今後物件売却は行われないと
想定することがある。その場合当初の分析で想定した(物件売却の進行による)レ
バレッジの引き下げが起こらないため、結果として裏付ローンの分析や信用力にネ
ガティブな影響を及ぼす。
売却型ローンを含む CMBS 案件は、売却想定の見直しによって、前記物件評価の見直
しに基づくストレスに加えて、もう一段のストレスかかかることになる。このため、
売却型ローンの比率が大きい CMBS 案件は、売却型ではない(リファイナンス型ロー
ンを裏付ローンプールとする)CMBS 案件に比べて、より大幅な格下げの格付アク
ションに繋がる可能性が高い。
尚、売却型ローンにおいては、契約に売却率トリガー等が設定され、予定通り物件
売却が進まない場合は、期間中でも担保物件の運営キャッシュフローを原資とする
余剰キャッシュフローを留保したり、元本償還に充当したりする仕組となっている
ことが多い。分析上、今後の物件売却をゼロとする売却想定の見直しが行われる場
合、フィッチは契約規定に基づき、余剰キャッシュフローの一部として留保される
金額を査定し、ローン元本の回収に充当されるものとして(デフォルト後に発生が
見込まれるものに加えて)考慮する。
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
2009 年 9 月
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Structured Finance
案件レベルの検討事項
支払いウォーターフォール
フィッチはローンの特性、発行時の CMBS 市場の状況及び金利環境、発行形態や支払
ストラクチャーが異なる、様々な案件に格付を付与している。どの案件についても
各クラスの適切な格付水準を判定するためにはローンレベルの分析完了後に案件レ
ベルの分析・検討が必要となる。
支払順位は大きくシークエンシャルとプロラタの二種類に分類され、その二つを組
み合わせて用いるものも多い。期限前または期日において償還されたローンについ
ては、その案件が採用する支払ストラクチャーによってシークエンシャルまたはプ
ロラタ方式で充当されるが、デフォルトしたローンの元本回収金については多くの
場合、キャピタル・ストラクチャーの上位の証券から優先して支払われる。
プロラタ形式の支払いを採用する案件の当初の分析においては、ローンの期限前弁
済の発生シナリオに応じて、CMBS ノートクラスの信用補完水準がどのように推移す
るかの検証に重点が置かれることが多い(即ち、最も保守的となるのはローンとし
ての信用評価が高いものが先行して返済され、信用評価が低いローンが残るシナリ
オである)。但し、現在の市場環境では期限前弁済のリスクは大きく低下している
と考えられ、通常はデフォルトしたローンの回収金はプロラタ形式の案件でもシー
クエンシャルでノートの償還に充当されるため、この点を反映した分析を行うこと
になる。
法定償還期限までの時間的猶予
厳しい市場環境において、法定償還期限が迫っている CMBS 案件は、最も上位の
CMBS ノートであっても、期日デフォルトのリスクにさらされる可能性が考えられる。
ローンのデフォルト発生後、状況によっては、投資家は現在の市況で物件を売却す
るよりも、長い時間をかけた秩序だった物件売却手続きを選択する可能性がある。
このようなケースでは、上位クラスの最終的な回収可能性が非常に高いと見込まれ
る場合でも、案件の最終償還期限までの回収手続きや元本回収の完了時期に関する
リスクが上昇したと判断される場合には、最上位のクラスであっても、大幅な格下
げが行われる可能性がある。CMBS ノートについて期日デフォルトが発生した場合、
規定上のデフォルト発生を反映して、フィッチは全クラスを「D」に格下げする。
CMBS 投資家がノートにかかわる条件や規定の変更に合意した場合、状況によって
フィッチはその合意が実質的な強制債務交換(coercive debt exchange, CDE)とみ
なす可能性がある。このようなケースで、フィッチはノートの当初の条件や規定上
のデフォルトであることを示すため、一旦「D」に格下げした後、新たな合意による
条件や規定に基づき、改めて格付を付与することとなる。詳細については、フィッ
チのウェブサイト www.fitchratings.com で公表されている 2009 年 6 月 3 日付レ
ポート「Coercive Debt Exchanges Criteria for Structured Finance」を参照されたい。
デフォルトしたローンにおけるサービシング
不動産市場の混乱は、不動産ファイナンスの資金供与主体の縮小とともに、デット
の調達を伴う不動産投資家層の活動に大きな影響を与えた結果、商業用不動産の流
動性は大幅に低下させることとなった。このため、債権回収計画の策定において最
も重要である、市場における担保物件からの回収額(処分価格)の予見性が低下し
ている。同様に、回収戦略の方向性、回収見込額や最低回収価格の設定、その手続
きに要する期間の見積もり等に大きなばらつきが見られる。
フィッチは原則として、その時点で入手可能な情報をもとに、フィッチの考える債
権回収の見通しに基づく格付アクションをとる。当然ながら、実際の債権回収手続
きの進行や関連する情報の更新に伴い、債権回収の見通しは適宜上方または下方修
日本の CMBS のサーベイランスに関する格付基準
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Structured Finance
正され、債権回収の終結に向けてその信頼度は上昇、確定していくこととなる。
フィッチのこれらデフォルトしたローンを分析するアプローチは LTV ハードルに基
づく格付シナリオ分析を原則としている。しかしながら、債権回収手続きが回収金
額を予測できる段階まで進行したローンや、サービサーの計画に基づく債権回収の
実現性が高いと判断されるローンがある場合、フィッチは基本的な分析手法から離
れたアプローチを取ることがある。このようなケースでフィッチは、該当するロー
ンの債権回収が実現した場合の(償還による)CMBS 残高の異動、及び残るローン
プールの構成を考慮して格付アクションをとることがある。
(本レポートは 2009 年 9 月 2 日に公表された英語版「Criteria for Japanese CMBS
Surveillance」に基づいて作成されています。内容に関するご質問・ご不明の点は、
担当アナリストにお問い合わせください。)
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