現代版 PC 態度尺度を用いた PC に対する態度変化の測定

2012 PC Conference
現代版 PC 態度尺度を用いた PC に対する態度変化の測定
河野賢一*1・落合 純*1・和田裕一*1
Email: kono@cog.is.tohoku.ac.jp
*1: 東北大学大学院情報科学研究科
◎Key Words コンピュータに対する態度,情報教育,質問紙
1.
はじめに
配布し,回答してもらうことで実施した.2010 年度の
調査では現代版PC態度尺度とPCセルフエフィカシー
尺度,PC 操作スキル尺度より構成された質問紙を使用
し,2011 年度の調査では現代版 PC 態度尺度のみで構
成された質問紙を使用した.欠損がある回答および授
業開始時と授業終了時の対応がとれない回答は除外し,
最終的に分析対象としたのは,
現代版 PC 態度尺度にお
いては152 名
(2010 年度が 71 名,
2011 年度が81 名)
,
PC セルフエフィカシー尺度においては 74 名(2010 年
度のみ)
,PC 操作スキル尺度が 59 名(2010 年度のみ)
であった.
情報科目は教科の性質上,個々の受講生の能力や学
習効果を筆記試験等の成績のみから客観的に把握し評
価することは困難であり,提出物や作成課題の主観的
評価といった方法に頼らざるを得ないのが現状であろ
う.また,情報科目の授業は実習形式で行われること
が多く,一度に多数の受講生を対象に教える場合が多
いため,個々の受講生の能力や学習効果,達成度を的
確に把握することは容易ではない.ゆえに,受講生の
心理的な側面の変化を客観的かつ定量的にとらえ,こ
れらの情報を基にして多角的な評価を行うことにより,
従来よりも的確な成績評価や教育効果の確認を行うこ
とができる可能性があると考えられる.
受講生の心理的な側面の変化を評価に適用する試み
として,授業の前後における受講生のパーソナルコン
ピュータ(以下,PC)に対する態度変化を測定し,そ
の結果を基にして授業内容の改善・効果検証を行うと
いう取り組みが以前よりなされているが(たとえば,
水野,2004)(1),このような先行研究の例はそう多くは
ない.また,態度変化を測定するために使用する質問
紙や尺度,受講生の特徴,授業内容などの諸条件の組
み合わせは様々なものが考えられるため,PC に対する
態度変化が授業内容の改善・効果検証に適用できるか
どうかを明らかにするためには,できるだけ多くの調
査・検証を行う必要があると思われる.
そこで本研究では,情報科目を履修している初年度
の大学生を対象に,情報科目の授業を受講することに
よって受講生の PC に対する態度がどのように変化す
るのか調査した.具体的には,情報科目の初回の授業
と最終回の授業において,受講生の PC に対する態度を
現代版 PC 態度尺度(落合ほか,2011)(2)を用いて測定
し,結果の比較・検討を行った.また,PC スキルの主
観評価と PC セルフエフィカシーについても同様に測
定し,PC に対する態度の変化とこれらの要因の関連に
ついても分析を行った.
2.2
調査材料
現代版 PC 態度尺度
PC に対して,ユーザーがどのような態度をもってい
るのかを調べるために,落合ほか(2011) (2)が作成した現
代版 PC 態度尺度を用いた.この尺度は,
「PC に対す
る肯定感」
「PC 使用による人間性喪失不安」
「PC から
受ける心身的不快感」
「PC 使用による生活向上感」の
4つの下位因子から構成されており,一定の信頼性が
確認されている.
「PC に対する肯定感」には,
「コンピュータに対し
て親しみを感じる」といった,PC に対するポジティブ
な感情を示す項目がまとまっている.
「PC 使用による
人間性喪失不安」には,
「コンピュータを使い始めたら,
それに依存するようになり,自分の書いたり計算した
りする能力が失われていく」といった,コンピュータ
の使用が人々にもたらす悪影響への不安を示す項目が
まとまっている.
「PC から受ける心身的不快感」には,
「コンピュータを見るとうんざりする」や「コンピュ
ータの前に座ると,息切れするような感じがする」と
いった,心理的・身体的な不快感を表す項目がまとま
っている.
「PC 使用による生活向上感」は,
「コンピュ
ータはわれわれの生活にとって必要な道具だと思う」
や「コンピュータは人間の弱点を補ってくれる便利な
機械だ」といった,ユーザーが持つ PC 利用が人々の生
活にもたらす恩恵についての意識や考えを表す項目が
まとまっている.
項目数は,
「PC に対する肯定感」が5項目,
「PC 使
用による人間性喪失不安」が6項目,
「PC から受ける
心身的不快感」が6項目,
「PC 使用による生活向上感」
が4項目の,計 21 項目であった.評定は,
「1:あて
はまらない」から「5:あてはまる」までの5件法で
あった.
2. 方法
2.1 調査対象者および調査手続き
調査は初年度の大学生を対象とした情報リテラシー
科目(コンピュータや Microsoft 社の Word,Excel,
PowerPoint の基本的な操作方法といった,いわゆるコ
ンピュータリテラシーの習得を目的とした半期の授
業)の受講生に対して 2010 年度と 2011 年度において
行われ,各年度の授業開始時と授業終了時に質問紙を
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が PC に対する態度変化にどのような影響を与えたの
かを確認するため,2(年度:2010 年度,2011 年度)
×2(回答時期:授業開始時, 授業終了時)の 2 要因混
合計画の分散分析を,
現代版 PC 態度尺度の合計得点お
よび現代版 PC 態度尺度の各下位尺度の得点に対して
行った.
その結果,
「PC に対する肯定感」と「PC 使用による
生活向上感」においては回答時期による主効果が有意
であり,(PC に対する肯定感: F(1,150)=48.682,
p<.001;PC 使用による生活向上感:F(1,150)=6.261,
p<.01),授業終了時の「PC に対する肯定感」の得点
(17.5)は,授業開始時の得点(15.7)に比べて高く,
授業終了時の「PC 使用による生活向上感」の得点
(16.7)は,授業開始時の得点(16.3)に比べて高いこ
とが示された.
また,現代版 PC 態度尺度の合計得点と「PC から受
ける心身的不快感」においては交互作用が有意であっ
た(現代版 PC 態度尺度:F(1,150)=6.107, p<.05;PC
から受ける心身的不快感:F(1,150)=5.914, p<.05)
.下
位検定の結果,
現代版 PC 態度尺度の合計得点について
は 2010 年度における回答時期の単純主効果が有意で
あり(F(1,150)=27.73, p<.001)
,2011 年度のそれは有
意傾向であった(F(1,150)=3.13, p=.08)
.このことか
ら,
授業終了時の現代版 PC 態度尺度の合計得点は授業
開始時と比べて高くなる傾向にあることが認められた
が,その変化の程度は 2010 年度においてより顕著であ
ったことがうかがえた.また,
「PC から受ける心身的
不快感」の得点に関しては授業開始時における年度の
単純主効果ならびに 2010 年度における回答時期の単
純主効果がそれぞれ有意であった(F(1,300)=4.78,
p<.05; F(1,150)=18.87, p<.001)
.このことから,授業
終了時の「PC から受ける心身的不快感」は授業開始時
と比べて低くなる傾向にあることが認められたが,そ
の変化の程度は 2010 年度においてより顕著であった
ことがうかがえた.また,授業開始時の「PC から受け
る心身的不快感」は 2011 年度のほうが 2010 年度より
も低かった.
さらに,
「PC 使用による人間性喪失不安」において
は年度による主効果が有意であり(F(1,150)=4.208,
p<.05)
,2011 年度の「PC 使用による人間性喪失不安」
の得点(18.6)は,2010 年度の得点(17.4)に比べて
高いことが示された.
PC セルフエフィカシー尺度
PC に対する自己効力感の程度を測るために,落合ほ
か(2011) (2)が作成したPCセルフエフィカシー尺度を用
いた.項目数は 5 項目であった.評定は,
「1:あては
まらない」から「5:あてはまる」までの5件法であ
り,得点が高ければ高いほど,PC 操作における自信が
高いことを意味している(5項目中3項目は逆転項目)
.
PC 操作スキル尺度
PC 操作においてどの程度のスキルや知識を持って
いるのかを調べるため,Computer Understanding
and Experience Scale(Potosky & Bobko, 1998)(3)を
参考に独自に作成したものを使用した.項目数は 37 項
目であった.評定は,
「1:あてはまらない」から「5:
あてはまる」までの5件法であり,得点が高ければ高
いほど,PC 操作におけるスキルや知識が高いことを意
味している.
3. 結果
3.1 PC に対する態度変化の検討
まず,2010 年度の授業の授業開始時と授業終了時に
おける現代版 PC 態度尺度の合計得点の差を検討した.
その際,
得点が高ければ高いほど PC に対しポジティブ
な態度を持っているとみなすことができるようにする
ため,
「PC から受ける心身的不快感」および「PC 使用
による人間性喪失不安」の各項目を逆転項目として扱
い,全体得点を算出した(得点範囲:21-105)
.対応
のある t 検定による検討の結果,授業開始時と授業終了
時における現代版 PC 態度尺度の合計得点の平均には
有意な差が見られ(t(70)=4.628, p<.001),授業終了時
の合計得点の平均(75.5)は,授業開始時の合計得点
の平均(70.4)に比べて高いことが示された.
また,現代版 PC 態度尺度の各下位尺度の得点差を t
検定で検討したところ,
「PC に対する肯定感」および
「PC から受ける心身的不快感」において有意な差がみ
られ(PC に対する肯定感:t(70)=5.712, p<.001;PC
から受ける心身的不快感:t(70)=4.060, p<.001)
,授業
終了時の「PC に対する肯定感」の得点の平均(17.7)
は,授業開始時の得点の平均(15.5)に比べて高く,
授業終了時の「PC から受ける心身的不快感」の得点の
平均(13.8)は,授業開始時の得点の平均(15.7)に比
べて低いことが示された.
さらに,PC セルフエフィカシー尺度と PC 操作スキ
ル尺度の得点差を t 検定で検討したところ,両方とも有
意な差がみられ,(PC セルフエフィカシー尺度:
t(73)=5.661, p<.001;PC 操作スキル尺度:t(58)=12.266,
p<.001)
,授業終了時の「PC セルフエフィカシー尺度」
の得点の平均(11.9)は,授業開始時の得点の平均(9.8)
に比べて高く,授業終了時の「PC 操作スキル尺度」の
得点の平均(91.8)は,授業開始時の得点の平均(74.4)
に比べて高いことが示された.
3.2
4.
考察
本研究では,現代版 PC 態度尺度を用い,初年度の大
学生が情報リテラシー科目を受講することによってPC
に対する態度がどのように変化するかを調査した.
2010 年度の調査においては,現代版 PC 態度尺度の
合計得点,
「PC に対する肯定感」尺度得点,
「PC から
受ける心身的不快感」尺度得点,PC セルフエフィカシ
ー尺度得点,PC 操作スキル尺度得点において,授業開
始時と授業終了時の得点間に有意な差が見られた.こ
れらの結果より,情報リテラシー科目の授業を受ける
ことによって受講生は PC に対してよりポジティブな
態度を持つようになる可能性が示唆された.授業では
PC を使った実習が中心となるため,必然的に PC に触
授業内容が PC に対する態度変化に及ぼす影
響の検討
2011 年度の授業においては東日本大震災の影響によ
り,2010 年度の内容とほぼ同一の内容を通常よりも限
られた授業回数で実施せざるを得なかった.このこと
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れる機会が増えることによってそれまでに抱いていた
PC に対する抵抗感が軽減され,PC に対してよりポジ
ティブな態度を持つようになることは想像に難くない.
一方,
「PC 使用による生活向上感」尺度得点と「PC
使用による人間性喪失不安」尺度得点には,授業開始
時と授業終了時の得点間に有意な差は見られなかった.
「PC 使用による生活向上感」は,PC 利用が人々の生
活にもたらす恩恵についての意識や考えを表す尺度で
あり,
「PC 使用による人間性喪失不安」はコンピュー
タの使用が人々にもたらす悪影響への不安を示す尺度
であることから,日常生活に関連した実用的な内容を
授業に多く組み込むことによって,これらの態度にも
変化が現れるかもしれない.
次に,年度×回答時期の交互作用について考察する.
先述の結果より,2010 年度,2011 年度ともに,授業
開始前に比べて終了時における現代版 PC 態度尺度の
合計は向上し,
「PC から受ける心身的不快感」は低下
するといったように,ポジティブな方向への態度変化
が認められたが,その変化の程度は 2010 年度のほうが
顕著に認められた.このことは,見方を変えると,2011
年度における授業内容の一部変更および授業時間の削
減によって,例年と比べて十分な教育・指導ができな
かったことの影響が反映されたものと解釈可能かもし
れない.また,授業開始時の「PC から受ける心身的不
快感」が 2011 年度のほうが 2010 年度よりも低かった
理由は定かではないが,高い PC スキルを持つ受講生
(PC に対してポジティブな態度をとる受講生)の割合
が 2010 年度よりも 2011 年度のほうが多かったためで
はないかという仮説が考えられる.本研究では 2011 年
度の調査で PC 操作スキルの測定を行わなかったため,
この仮説を検証することはできなかったが,今後の検
討課題としたい.
5.
Computers in Human Behavior, 14, pp.337-348, (1998).
(4) 辻 義人:"コンピュータ学習者の操作技能を規定する背
景要因の検討",日本教育工学会論文誌,29,pp.185-188,
(2005)
.
おわりに
本研究の結果より,情報リテラシー科目の授業を受
けることによって受講生は PC に対してよりポジティ
ブな態度を持つようになり,また,授業内容の変化が
受講生の PC に対する態度の変化という形で現れる可
能性が示唆された.PC に対する態度が積極的になるこ
とで PC 操作技能に影響を及ぼすという報告(4)もあるこ
とから,受講生の PC に対する態度の変化の測定は,情
報リテラシー科目の授業の効果測定を行う際の判断基
準のひとつとして応用できると考えられる.
なお,本研究における調査は初年次の大学生を対象
としたものであり,ここでの知見を他の対象にまで一
般化できるかについては今後も調査・検討していく必
要があるだろう.
参考文献
(1) 水野 りか:"心理学科 1 年生の教育前後のコンピュータ
に対する態度の変化 : 2002 年度入学生と 2003 年度入学
生の比較", 中部大学人文学部研究論集, 12, pp.1-18 (2004)
(2) 落合 純,石渡陽子,彭志春,和田裕一:"現代版パーソ
ナルコンピュータ態度尺度作成の試み",CIEC 研究会論
文誌,2,pp.25-32,
(2011)
.
(3) Potosky, D. & Bobko, P:"The computer understanding and
experience scale: a self-report measure of computer experience",
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