座談会「同種造血細胞移植における地域連携パス運用による病病連携の

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造血細胞移植における病院間チーム医療の実践
座談会「同種造血細胞移植における地域連携パス運用による病病連携の実際」
造血細胞移植はすでに確立された医療であり、実施件数が増加しているにもかかわらず、
いまだ病病連携のあり方が明
確には示されていないのが現状だ。
香川県では、
より質の高い、
そして患者さんによりよいQOLをもたらす造血細胞移植の実現を目指し、紹介病院と移植病
院の連携強化に早くから力を入れてきた。
その最初の重要な取り組みが、地域連携パスの作成であった。
準備段階から作成、
そして運用までを振り返り、今後の課題、
さらには地域連携で取り組むチーム医療の可能性などにつ
いて、香川県内の4つの病院の医師、歯科医、看護師にお集まりいただき、
それぞれのお立場から話し合っていただいた。
■出席者
大西 宏明
香川大学医学部附属病院 内分泌代謝・血液・免疫・呼吸器内科講師(司会)
大林 由美子
香川大学医学部附属病院 歯科口腔外科講師
大上 幸子
香川大学医学部附属病院 看護部
重田 宏恵
香川大学医学部附属病院 看護部
近藤 香
香川大学医学部附属病院 看護部
川上 公宏
香川県立中央病院 血液内科部長
萱原 沙織
香川県立中央病院 看護師
井出 眞
高松赤十字病院 血液内科副部長
植村 麻希子
高松赤十字病院 血液内科
滝本 秀隆
香川労災病院 血液内科部長
坂本 路代
香川労災病院 看護部
(順不同)
質の高い造血細胞移植実施に欠かせない
病病連携
大西 香川大学では1988年に造血細胞移植がスタートし
ていますが、
当初、対象は自施設の患者さんに限られていま
べき問題点がありました。第一に、病院間で移植の適応
に違いがあることが挙げられます。日本造血細胞移植学
会 に よ る『 造 血 細 胞 移 植 の 適 応 ガ イド ラ イ ン 』
(http://www.jshct.com/guide_pdf/2002.pdf)が
示されていますが、国内の主要病院の間でも考え方が異
した。
しかし2002年に骨髄移植推進財団(骨髄バンク)
の認
なるのが現状です。
めるようになりました。移植後には再び紹介病院へ、
あるいは
でしょう。合併症があれば絶対に移植をしない病院がある一
を続けていただくという流れのなかで、
より円滑に、
そして患
る病院もあります。
介病院、移植病院、逆紹介病院の間の病病連携が欠かせな
心理面での支援が必要ですし、退院後には移植合併症への
定施設となって以降は、他施設からの紹介事例が多数を占
新たに他の病院へ患者さんを逆紹介し、
そこで長期フォロー
者さんの高いQOLを維持しながら移植をするためには、紹
い課題となっています。
しかし、病病連携を進めていくには、いくつかの解決す
移植に対する病院間の温度差が大きいことも問題になる
方で、合併症よりも適応、
つまり患者さんの必要性を重視す
また患者さんへの対応としては、移植前から身体面および
フォローが必要になります。
ところが、病院間で取り組みが異
なり、患者さんへの説明に少しでも食い違いがあれば、患者
さんを不安にさせてしまうでしょう。
たりました。
足が挙げられます。脳死ドナーからの臓器移植に取り組む
パスの作成を進めていった過程をご紹介ください。
病院間の連携を難しくしていると考えられます。
大上 他の病院からの紹介例が増えるにつれて、
当院へ入
たちは地域連携パスの作成に取り組みました。
なりました。医師同士では患者さんについての医学的な情報
さらに重要なポイントとして、各移植病院のマンパワー不
大規模病院では設置されているコーディネーターの不在も
こうした問題点を解決していくための1つの手段として、私
香川大学医学部附属病院看護部の大上さん、地域連携
院する前の患者さんの状況を、
もっと知りたいと考えるように
が共有されますが、看護に関わる部分の情報が不足してい
るため、受け入れ準備の段階で困るといったことが起こるよ
地域連携パス作成に向けて
うになったのです。一方、退院後の患者さんをフォローする
前医療機関における患者情報と患者・家族の理解度を
知りたい!
受けたかなどの情報を知りたいといった声も聞かれるように
なりました。
大西 チーム医療を主体に進められる造血細胞移植で
くとき、
また、移植が終わって移植病院から紹介病院に戻っ
ム間で診療情報を共有することが望まれます。
そこで私た
成できないかと考えました。
は、血液内科医のみならず、歯科医、看護師らを含むチー
ちも、歯科医、看護師と協力して地域連携パスの作成にあ
施設の看護師からは、患者さんがどのような状況で移植を
そこで、紹介病院から移植病院へ患者さんを紹介いただ
ていただくときに、地域連携の一環として地域連携パスを作
最初に、香川大学に患者さんを数多く紹介いただいてい
る県立中央病院の川上先生に相談したところ、
「ぜひ作って
みましょう」
とご賛同いただき、連携パス作成へ向けた具体
的な活動を開始することになりました。
それぞれに多忙な日々のなかで、多施設の医師や看護師
が集まるのは難しかったのですが、種々の研究会の後などに
時間をいただいて、紹介病院と移植病院の医師、看護師が、
それぞれの情報のすり合わせを行いながら、地域連携パス
の作成を進めていきました。
大西 宏明[司会]
香川大学医学部附属病院
内分泌代謝・血液・免疫・呼吸器内科講師
大林 由美子
大上 幸子
重田 宏恵
近藤 香
川上 公宏
萱原 沙織
井出 眞
植村 麻希子
滝本 秀隆
坂本 路代
香川大学医学部附属病院
歯科口腔外科講師
香川県立中央病院
看護師
香川大学医学部附属病院
看護部
高松赤十字病院
血液内科副部長
香川大学医学部附属病院
看護部
高松赤十字病院
血液内科
香川大学医学部附属病院
看護部
香川労災病院
血液内科部長
香川県立中央病院
血液内科部長
香川労災病院
看護部
たがいに異なる部分をつなげていくために
大西 川上先生、実際に連携パスの作成を進めていく過程
で、
どのような点を重視されましたか。
川上 連携パスの究極の目標は、患者さんに最大限のメ
リットをもたらすことにあります。
たとえば、発熱などの感冒様
事前の抜歯がされていない場合には
感染巣処置ができないことも
大西 歯科には入院直後から関わっていただきますが、大
林先生、
最初の1カ月間に問題になることはありますか。
大林 通常、抜歯してから治癒までに1週間ほどかかります
症状があるときに、近くの医療機関に受診したいけど、移植
が、血液疾患の患者さんではそれまでの治療の影響で、治
かるしかないこの現実を改善するのが目的です。
そのために
ができていないケースが多々あり、移植予定日までに感染巣
を受けているのでかかりづらいため、不便でも移植病院にか
療までには長期間必要です。
ところが、入院前に必要な抜歯
まずは病病連携を行って、
うまくいったら病診連携に進めた
の除去が困難になるケースもありました。
連携パスの作成を進めていくにあたって大前提としたの
の状態が悪くて抜歯が困難だったためだと考えられます。
いと考えています。
は、
「自分の常識は、他人にとっては非常識」
ということでし
た。
自分にとって必要だと考える情報と、他施設の医師が欲
入院前に抜歯が行われていない一番の理由は、患者さん
者の職種間でも異なるでしょう。地域連携パスの作成を通じ
地域連携パスの運用状況
̶ 紹介病院における状況
業にとりかかりました。
移植病院への十分な情報提供が可能に
へ、移植病院から紹介元の病院、
あるいはまったく別の病院
大西 地域連携パスは2010年1月から運用を開始しまし
する情報はまったく異なるものかもしれない。
また医療従事
て、
たがいに異なる部分をつなげていくことを考えながら、作
移植を受ける患者さんが、紹介元の病院から移植病院
へ移られるときに、医療がスムーズに流れるようなパスを作
成しようと考えました。
そこで、
たがいに最低限の情報を提供
た。
川上先生、実際に使用してみて、
どのようなメリットを感じ
ていらっしゃいますか。逆にデメリットと思われる点などあり
し合えるようにして、
あまり大量の情報を提供し合うことはや
ますでしょうか。
今回のパスで特徴的なのは、患者さんへの説明内容を、
川上 メリットとしては、紹介病院から提供すべき情報が明
しょう。紹介病院でも、移植病院で使っている患者さんへの
紹介病院でどこまで移植前の検査をするべきか迷うこともあ
めようという内容にしました。
紹介病院と移植病院でまったく同じにするよう決めたことで
説明書をベースに説明することを基本方針とし、患者さんを
中心にした事です。
患者さん自身のことを伝えられるよう
「移植看護添書」
を独自に作成
大西 萱原さん、紹介病院の看護師として、
パス作成をどの
確になったことが挙げられると思います。
たとえば、以前なら
りましたが、新しい地域連携パスでは、麻疹や風疹を含むウ
イルス抗体価検査や細菌検査、脳脊髄検査は移植施設で
実施することが明記されています。紹介病院と移植病院の
機能が明確に分化されたことで、必要以上の検査が行われ
ることがなくなり、患者さんも同じ検査を重複して受けるよう
なことがなくなりました。患者さんにメリットをもたらすことが
地域連携パスを作成した最大の目的ですから、非常によ
ように受け止め、
またどのような取り組みをされましたか。
かったと感じています。
萱原 ただ 送る のではなく、 連携 をしていきたいという
現在の連携パスに新たに情報を追加する必要が生じた場合
立場で、今回の地域連携パスの作成に関わらせていただき
ました。移植病院だけの問題ではなく、
また紹介する側だけ
の問題でもないということを前提に、看護師サイドで何がで
デメリットは特に感じていません。
あえて挙げるとすれば、
に、即時に変更するのは難しいかもしれないとうことでしょう
か。
いまのところ、
メリットのほうが多いと思っています。
きるのかということを考えていきました。
チェックリストとして有意義に活用
たいと考え、通常の看護サマリーの形式ではなく、患者さん
大西 香川労災病院の滝本先生からも、
これまで患者さん
そのなかで、患者さんご自身のことをよく理解していただき
の移植に対する思いや受け止めなどを記入できる様式の
「移植看護添書」
を新たに作成しました。医師からの診療情
報提供書と一緒に、移植病院に送るようにしています。
をご紹介いただいています。今回作成した連携パスについ
て、
お気づきの点などありますか。
滝本 一般に、手術などを他の病院に依頼する場合、患者
るのかといったことです。
このような不安を少しでも軽減して
応の決定や術前検査などをしていただくことが多いと思い
識がなく、情報提供もためらわれました。書籍などで得られ
さんには事前にそちらの病院に行っていただいて、手術適
あげたいという気持ちはあるのですが、私たちには十分な知
ます。
しかし造血細胞移植を行う場合、必要な検査はこち
る情報をそのまま伝えて、移植病院での実情とくい違いが
先生とご相談しながら決めていくケースが多いので、患者
せん。
そのため、看護師として十分な関わり方ができないま
らで終えて、適応についても患者さんを通さず、直接大西
あったりすれば、かえって不安を募らせてしまうかもしれま
さんが最初に移植病院に行くのは入院する日になります。
ま、
転院していただいていた状況でした。
だと思います。
介に関わらせていただきましたが、
サマリーに何を書けばよ
これはほかの疾患にはない、造血細胞移植の特殊性の1つ
今回初めて、移植の地域連携パスを使った患者さんの紹
地域連携パスを拝見して、患者さんが移植病院入院まで
いのかが非常にわかりやすく、従来に比べて充実した情報を
れていると感じました。
当院であれば、
たとえば岡山県の移
先ほど萱原さんからお話がありましたが、私も移植患者さ
にすべきこと、
また患者さんに提供すべき情報が明確に示さ
植病院に患者さんを紹介することもあるのですが、
それぞれ
の病院で移植適応や、術前に行うべき事項に若干の違いが
あります。
でも、
こうした地域連携パスをチェックリストとして
活用することで、漏れなく、必要な情報を揃えることができる
ので、
とても効果的だと思います。
移植看護の実際を知り、関心が高まる
お送りできたのではないかと思っています。
ん専用の添書が必要だと感じていましたので、今後、
そのあ
たりの情報共有もさせていただけたらと感じています。
ICで重篤な合併症のリスクを明確に伝えることの是非
大 西 香 川 大 学 で 現 在 使 用している説 明・同 意 書
(http://hsct.jp/focus/1107/fc2.php)
には、
「造血細胞移
植を受けた人の3分の1ぐらいは早期に死亡します」
「うまく
大西 萱原さんからは先ほど、新たに移植看護添書を作成
いくのは3分の1ぐらいで、
それもかろうじて日常生活に復帰
をご紹介いただいた現在、
そのメリット、
デメリットについて、
も長期にわたり合併症で苦しむなど大変です」
という記述が
したことを紹介していただきました。
すでに数例の患者さん
どのように感じていますか。
萱原 これまで県立中央病院の看護スタッフは、移植につ
いて十分な知識がありませんでした。今回、地域連携パスの
できるくらいです」
「残る3分の1はその中間で、病気が治って
あります。
これを作成するときは、
「 3分の1が早期に死亡す
る」
と伝えることがよいのかどうか、迷いもありました。2002
∼06年の5年間に骨髄バンクを介して非血縁者間同種骨
髄移植を受けた患者さんの1年生存率は60%強と報告され
作成を通して地域連携に関わることで、造血細胞移植では
ていますので、記述内容としては間違いではないわけです
た。
いまでは移植看護が大きな関心事となり、考えるきっか
をお聞かせいただけますか。
また、患者さんを送り出して終わりではなく、患者さんが
滝本 私は、大西先生が説明される内容を知っていますの
どのような看護が行われているのかを知ることができまし
けになったことは大きなメリットだと思っています。
戻ってきてくださるようになって、移植後にどのような合併症
が、患者さんへの説明として適切かどうか、先生方のご意見
で、患者さんにはまったく同じように
「3分の1は死亡します」
が生じるのか、何を観察すべきなのか、免疫抑制がかかって
と説明しています。
その一方で、通常の化学療法では治らな
を得ることができました。
まだまだ勉強不足ですが、
これから
できる」
という説明に可能性を見出そうとする患者さんが多
いるというのはこういうことなのか、
といったことを学ぶ機会
もどんどん移植看護について学び、地域の看護師が広く連
携していくきっかけにさせていただければと思います。
充実した情報提供が可能に
大西 看護師の坂本さん、パスを実際に使われてみて、
い
かがでしたか。
坂本 移植病院に移られる場合、患者さんやご家族が心配
されるのは、入院期間はどのぐらいなのか、
どのような治療
をするのか、副作用はどの程度のものなのか、食事はどうな
いとも伝えているので、
むしろ
「3分の1はよくなって社会復帰
いように思います。
井出 大西先生の
「3分の1理論」
はとてもわかりやすく、患
者さんもスッと頭に入るようです。説明を聞いたうえで、
すぐ
に移植を決断できず躊躇する患者さんには、結論を急がず、
よく考えていただくようにしています。
その間に状況が悪く
なってしまう可能性もありますが、患者さんの納得を優先し
たいと考えています。
地域連携パスの運用状況
̶ 移植病院において
くらいです。
入院前に患者さんと面談する機会を設けたい
態が悪くて転院されてくる患者さんであれば、入院から2週
大西 高松赤十字病院では、紹介病院と移植病院、両方の
立場を経験されていますが、井出先生、紹介を受けるお立場
紹介病院で行われた検査に基づく情報もあるので、安定
している患者さんであればなんとかクリアできるのですが、状
間後に移植をしなければならない場合もあります。
ですから、
紹介病院ではある程度余裕をもって歯科を受診させたり、
精子保存についても説明をして、方針を決めておいていただ
で、
問題だと感じている点などありますか。
けるとよいと考えています。
井出 先ほどもお話がありましたが、移植のために入院して
患者さんの状態が悪いといったケースを経験したこともあり
地域連携パス導入以前は、紹介状に書かれている以上に
いただくときに初めて患者さんと顔を合わせるケースがほと
ましたが、地域連携パスの導入により、紹介病院での治療内
いる情報とは状態がかなり異なっていたり、
ご家族の理解が
ています。
また、看護添書がとても役に立っています。患者さ
んどです。
いざ患者さんを診察してみると、事前にいただいて
容がわかるようになったのは、非常に大きなメリットだと感じ
十分ではなかったりすることが少なくありません。やはり、紹
んの精神状態や理解度、
ご家族との関係など、患者さんに身
信頼関係を築いていくための体制づくりは非常に大切だと
んやご家族との関係を築いていくうえで非常に有用だと感じ
介病院との情報の共有の仕組みや、患者さんやご家族との
感じています。
可能であれば、入院前に患者さんやご家族と話をする時
近な存在である看護師ならではの細やかな情報は、患者さ
ています。
間を確保したいというのが本音です。1時間くらい話をすれ
歯科医の関与を明記
間もとれないケースが結構あります。
大西 連携パスの作成を進めていくなかで、歯科医の関与
ば、必要なことはだいたい聴取できると思うのですが、
その時
大西 移植の適応については、
どのように考えておられま
すか。
井出 結果を問わないのであれば、移植は誰にでもできる
と思うのです。
そういう意味では、
たとえ成功しないことが予
測されても、
ご本人が希望されていて、
ご家族が納得してい
も大きなテーマとなりました。大林先生、
そのあたりはいかが
だったのでしょうか。
大林 最近の歯科医療というのは、
なるべく抜歯をしない治
療が患者さんのご希望に添っており、多くの歯科医は歯を
残す方針で治療をしています。
しかし、移植患者さんの場合
は感染予防の必要から、
「 現在症状はないけれど、抜きま
るのであれば、基本的には移植をしようと考えています。
ただ
しょう」
と、
かかりつけ歯科医の治療計画に反するような説明
無菌室に入っていただけないので、
お断りしています。
得るのが難しいところがありました。
ところが、地域連携パス
し、非定型抗酸菌や結核菌などが検出されるような場合は、
移植前の1カ月間を有効に使えるように
大西 地域連携パスにのって紹介いただいた患者さんにつ
いては、移植日を決定した後、1カ月前から移植病院に入院
していただきます。移植までの1カ月間、院内のパスに従って
をすることが多々あります。
そのために、紹介病院では同意を
に
「歯科」
の項目を入れていただいたことで口腔への意識が
高まり、現在では
「感染巣のチェックおよび治療」
というパス
に従って、
抜くべき歯は抜いていただけるようになりました。
また、移植中の口腔粘膜炎の改善のために口腔ケアが重
要であることから、
当院でも繰り返し説明をしていますが、
そ
れ以前に歯科医が関わってくれているので患者さんの理解
必要な検査等を行っていくわけですが、植村先生、
この最初
も進み、
以前よりずいぶん楽になったように思います。
は問題点など、香川大学在職時のご経験からお話しいただ
外来フォロー移行時にも看護添書を作成
の1カ月間について、地域連携パス導入によるメリットあるい
けますか。
植村 入院後最初の1カ月間は、種々の検査をはじめ、他科
大西 看護師の近藤さん、実際に地域連携パスにのせた
患者さんを受け持たれてみて、
どのような感想をもたれまし
の診察を受けたり、
リハビリを始めたり、若い男性であれば
たか。
す。
また、医療スタッフと患者さん、
ご家族との間に信頼関係
近藤 事前に話し合った項目に従って看護添書を送ってい
精子保存をしたりと、やるべき項目が非常にたくさんありま
を築いていくための貴重な時間でもあり、1カ月では足りない
ただいているので、必要な情報がしっかり得られ、患者さん
にもスムーズに関わることができるようになりました。
また、紹介病院でも口腔ケアの指導がされるようになっ
て、
とても助かっています。
つらそうな時期でも必ず自分から
口腔ケアに取り組む患者さんの姿を見ると、
しっかり指導さ
れていることがよくわかります。
滝本 ええ。
ただ病床数の問題もありますし、早く自宅に帰り
たいという患者さんのご希望などもありますので、
そのあたり
は難しいですね。
川上 当院でも、治療ではなく全身管理目的の入院は難し
また、従来は転院する場合のみ、当院から看護添書を逆
いのが実際です。個室は少なく、感染予防の観点からも大部
ようになってからは、退院時にも看護添書を作成することに
リアルタイムで診ることができるので、
スタッフの教育という
しするのは、
その後の長期フォローをお願いするうえでも非
移植期間中の患者さんの情報に関しては、看護師からの
紹介病院にお渡ししていましが、新しい地域連携パスを使う
しました。移植中の状況を知っていただくための情報をお渡
屋は避けたいためです。
しかし、移植後の患者さんの様子を
観点から、
なるべく転院していただくようにしています。
常に重要だと思っています。
情報も十分に伝えていただいています。
いまのところ、移植病
大上 看護添書を読むことで患者さんを取り巻く状況が把
せんし、地域連携パスはスムーズに運用されているという印
握できれば、
そこからすぐにスタートできるので、非常に助か
ります。
「前の病院の看護師さんからいろいろ聞いています」
院から戻った後に状態が変わってしまった患者さんもいま
象をもっています。
と伝えるだけで、患者さんの表情が和らぎます。香川県内の
大西 移植後の患者さんを外来でフォローしていくのは負
るよう、患者さんやご家族のメリットを最優先に、今後もより
者さん専門の外来を設け、
できるだけ時間をかけて診察でき
施設が連携することで、患者さんが安心して治療を続けられ
よい地域連携パスにブラッシュアップしていければよいと考
えています。
移植後を見据えた患者フォロー
移植後の診療体制の確立へ向けて
大西 最近では移植成績も向上して、移植後に職場や学業
担が大きいだろうと感じています。香川大学では、移植後患
る体制をとっています。移植後の診療体制づくりは、今後の
課題になるでしょうね。
井出 移植後、長期生存の患者さんが増えるにつれて、
こ
れまで想定していなかったような相談をされるケースが増え
てきました。
たとえば、若い女性の患者さんから移植後の夫
婦生活について相談されるなど、医師には相談しにくい内容
も少なからずあります。
そこで当院では、
まず看護師による看
護相談を行い、患者さんからの質問内容を伝えてもらったう
に復帰される患者さんが増えてきました。
そのぶん、移植後
えで、
外来で診察するようにしています。
労も増えているのではないかと思っているのですが、
いかが
られているので、看護師との連携などでフォローしていく必
滝本 当院ではまだ、連携パスにのって戻ってこられた患者
看護師による移植後患者さんへの長期支援
から送り出して数カ月間のブランクがありますから、
その間の
大西 井出先生のお話にもあったとおり、移植後の患者さ
の長期間にわたるフォローの重要性が増し、現場でのご苦
でしょうか。
さんはいないのですが、逆紹介で戻ってこられる場合、
こちら
外来では1人の患者さんにかけられる時間は約10分と限
要があるだろうと考えています。
状況をすぐに把握するのは難しいところがあります。
んのフォローもまた、医師だけでなく、看護師を含めたチーム
が、落ち着いていれば外来でフォローしていくことになりま
患者さんのQOLの観点から、香川大学でもいろいろな取
患者さんの状態に応じて転院していただく場合もあります
で対応することが重要になると考えています。
す。外来での短い診察時間に、医師からの紹介状から多くの
り組みをしていますが、
重田さん、
いかがでしょうか。
ければ非常にありがたいと思います。GVHDの状態、免疫抑
重田 移植の前後に限らず、患者さんの不安は計り知れな
情報を一度に把握するのは難しいので、看護添書をいただ
制剤の使用状況などの医学的情報のほかに、精神状態や理
解の程度など、数カ月間のブランクを埋めるための情報が多
ければ多いほど有用だろうと考えています。
大西 そういう意味では、転院していただくほうが負担は少
なくてすむと考えられますか。
いほど大きく、
その内容も移植の時期によって変化していき
ます。
こうした不安を軽減するには、情報提供によりイメージ
化を促進することが大切ですが、
それだけでなく、何のため
に移植をするのか、
つらい状況を乗り越えていくために何か
ら力を得ているのかなど、患者さんの強みを伸ばしてあげる
ようなサポートこそが重要だと考えています。
移植後の経過が長期間に及ぶと、生殖機能障害や社会
最後に
す。
そうした問題の解決に、看護師も積極的に関与していけ
シームレスな地域連携を目指して
ターの看護師とソーシャルワーカーによるGVHDサポート
大西 新たに作成し運用をスタートした地域連携パスを、今
不要です。患者さんは好きなときに来院して相談ができま
聞かせください。
復帰など、患者さんのQOLに関わる重要な問題が出てきま
たらと思っています。
その先進的な例として、国立がんセン
外来があります。毎週2時間限定で開催されており、予約は
す。私も参加させていただいたのですが、何人かの患者さん
が集まって、情報交換もできるシステムでした。
ソーシャル
後よりよいものにしていくための課題、展望などについてお
井出 先ほども触れましたが、移植適応は病院ごとに異な
ワーカーも入っているので、社会復帰や社会支援についても
るので、移植を決定する前の安定している時期に、患者さ
ペシャリティとしているがん看護専門看護師なので、
口腔ケ
ムにできたらいいですね。移植をするから受診するのでは
の調整役を果たしたりしています。患者さんの日常的な問題
そこから患者さんとの関係を築いていけるのではないかと
て、
当院でも取り組んでいけたらよいと考えています。
また、免疫抑制剤が切れた患者さんに晩発性障害の問題
情報提供ができます。担当している看護師は、移植をサブス
アなどについてのアドバイスをしたり、必要に応じて歯科医と
解決に、大いに貢献していると感じました。1つの理想形とし
植村 移植中も移植後も、多くの患者さんが「私だけがこん
なにしんどいの?」
と聞いてきます。
「ほかの人もしんどいよ」
と答えると、
すごく安心されますね。
ほかの患者さんのことを
んやご家族に来院していただいて話ができるようなシステ
なく、移植を決定する前の段階で顔を合わせておければ、
考えています。
が生じる可能性があるので、移植後も長期間にわたって地
域連携でフォローしていく体制を構築することが重要な課
題だと考えています。
知る機会がほとんどないので、患者さんどうしが情報交換で
滝本 今日の議論のなかでも、
それぞれの病院における方
や治癒につなげていくことができるのではないかと思ってい
パスの作成を機に、今後も関連施設が一堂に会して議論を
きる場があるのはいいですね。情報を共有できることで、
ケア
ます。
歯科医の地域連携も視野に
大西 移植後の患者さんで問題にあるGVHDですが、
口腔
の症状のかなり重症例がみられます。歯科でも外来でフォ
ローいただいていますね。
大林 いわゆる口腔慢性GVHDで、
口腔粘膜に潰瘍が生じ
針や環境の違いがたくさん出されましたが、今回の地域連携
尽くし、施設間の差異をできるだけなくしていく努力が必要
でしょう。
そうすることで、患者さんのQOLを下げることなく
地域の病院間を行き来していただける、
いわゆるシームレス
な環境をつくることができると考えています。
川上 地域連携パスを活用することで、各病院間でさまざま
な情報を共有しながら、香川県内が1つになっていければい
いですね。 香川県は日本で最も面積の小さい県ですが、
そ
れだけに1つにまとまりやすい。私たちにとっては大きなメ
る患者さんが多くいらっしゃいます。
また、口腔乾燥症も起
リットだと受け止めています。病院間の連携が図られ1つに
場合も少なくありません。可能な限り抜歯しないようにしてい
ので、今後も定期的に移植カンファレンスを開くなどしなが
こってくるので、
う蝕が発生しやすくなり、抜歯が必要になる
まとまっていれば、患者さんには本当に大きなメリットとなる
るのですが、1本の歯の治療には非常に時間がかかります。
ら、
さらに病病連携を強化していきたいと思います。
よりよい
んがご自身の全身状態を不安に感じておられるので、
引き続
また次のステップとして、病診連携のシステム構築につい
かかりつけの歯科医に紹介できればと思うのですが、患者さ
形をみんなで模索しながら進めてきたいですね。
き血液内科との連携がとりやすいこちらで診ているのが現状
ても検討していくことが重要な課題になると考えています。
てくるのではないかと考えています。
大林 現在、移植に対しては、各病院の歯科医の間には温
です。将来的には、地域の歯科医同士の連携も必要になっ
度差がありますので、各病院の歯科医が一緒に話し合う場
をつくっていけたらよいと考えています。
大上 地域連携パスを通して医療者間での情報共有がで
きるようになりましたが、将来的には患者さん用のパスを作
成したいと考えています。
それを見れば、移植施設で行われ
る治療内容について説明ができるような、紹介病院でのメ
リットも考慮したものを作れればよいと思います。
さらに地域連携を進めていくために、移植の説明・同意書
や患者さんへの説明用パンフレットなどを香川県内では共
通のものを使用するのも一案だと考えています。
また今後、
多施設での移植カンファレンスが行われるようになれば、医
師だけでなく看護師も一緒に、 顔が見える 形で情報交換
をしていくことが、大きな推進力になっていくのではないで
しょうか。
さらなる前進のための3つの課題
大西 みなさんのご意見をうかがって、今回新たに作成し、
運用をはじめた地域連携パスは、概ね好評だと受け止めて
います。
今後の課題としては、
まず移植適応の問題があります。
日
本造血細胞移植学会の『造血細胞移植の適応ガイドライ
ン』
にみられるように、疾患の適応は整理されてきています
が、適応から除外すべきリスクの有無や程度などの判断基
準については微妙なところがあります。
身体状況はもちろん、
心理的な側面も含めた判断が必要になる場合は、地域連携
パスにのせるのは難しいかもしれません。
しかし、関係者が集
まって議論を重ねることで境目のない移植が実現すれば、
そ
のあたりも克服できるのではないかと期待しています。
2つ目の課題としては、医療制度(特に高額医療費制度)
の問題があります。病病連携、
さらに病診連携を進めていく
と、複数の医療機関を受診することになり、
このため高額療
養費の払い戻しを受けられない患者さんが出てくる可能性
が懸念されます。制度の見直しを求めていく必要があると考
えています。
そして3つ目の課題は、移植コーディネーターです。移植
病院に患者さんを紹介する際に同行するなど、患者さんと行
動を共にしてくれるコーディネーターがいれば、
よりスムーズ
に移植が進められるだろうと考えています。
こうした課題を視野に入れながら、
まずは地域連携パスを
活用していくことで、患者さんのための病病連携、
さらには病
診連携をより進めていきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました。
◆取材にご協力いただいたみなさん
(敬称略)
前列左から: 萱原沙織、
川上公宏、大西宏明、大上幸子、大林由美子
後列左から: 坂本路代、植村麻希子、滝本秀隆、井出 眞、重田宏恵、近藤 香