多結晶シリコンの高品質化と低温形成: 高性能ディスプレイの実現を

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Title
多結晶シリコンの高品質化と低温形成 : 高性能ディ
スプレイの実現を目指して
Author(s)
河東田, 隆, 西田, 謙, 牧田, 寛, 平木, 昭夫, 加納
, 剛太
Citation
Date of issue
URL
高知工科大学紀要, 1(1): 79-86
2004-03-31
http://hdl.handle.net/10173/108
Rights
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publisher
Kochi, JAPAN
http://kutarr.lib.kochi-tech.ac.jp/dspace/
多結晶シリコンの高品質化と低温形成
̶̶高性能ディスプレイの実現を目指して̶̶
河東田隆 西田 謙 牧田 寛 平木昭夫 加納剛太
高知工科大学工学部
〒 782-8502 高知県香美郡土佐山田町宮ノ口 185
E-mail: katoda.takashi@kochi-tech.ac.jp, nishida.ken@kochi-tech.ac.jp,
makita.hiroshi@kochi-tech.ac.jp, hiraki.akio@kochi-tech.ac.jp,
kano.gota@kochi-tech.ac.jp
要約:石英基板上の a-Si 層の膜厚が厚い場合には界面からではなく表面から結晶化が始まることをレー
ザラマン分光法と SEM 像により示し、これを a-Si 中の歪みにより説明した。また、Si3N4 キャップ
により a-Si 中の歪みを加えることにより、結晶化遅延の効果があるということを示し、そのモデル
を示した。
Abstract : Effects of stress on solid-phase crystallization of amorphous silicon (a-Si) were studied. Compressive
stress was introduced in a-Si with a Si3N4 cap. The speed of crystallization decreased with the increase
of the stress while it increased again with an additional cap of SiO2 on a Si3N4 cap. A SiO2 cap introduced
tensile stress in an a-Si film and relaxed compressive stress by a Si3N4 cap. The reason why crystallization
of a-Si is suppressed is that the stress is elastic one and that it does not relax with crystallization.
1.はじめに
シリコン (a-Si) が使われている。しかし、a-Si
最 近、 液 晶 デ ィ ス プ レ イ な ど に 欠 か せ な
には低温プロセスには向いている反面、長期安
い TFT (Thin Film Transistor) や薄膜太陽電
定性に欠けるという問題がある [1, 2]。さらに、
池、CMOS 回路で問題となるラッチアップを
a-Si は移動度が小さいため、駆動用トランジス
原理的に回避し、3次元 LSI につながる SOI
タに向かないなどの問題もある。その点、多
(Semiconductor on Insulator) の研究が盛んに行
結晶シリコン (poly-Si) は安定であり、移動度も
われている。
a-Si よりも 1 ∼ 2 桁大きく、駆動用トランジス
ディスプレイのようなヒューマンインター
タに利用できる [3]。また、薄膜太陽電池ではこ
フェイスには、望ましい大きさというものが
れまで a-Si:H が使われてきたが、光照射によっ
あり、比較的大きな面積を必要とする。しか
て水素が抜けてしまうことによる特性の劣化が
し、そのような大面積のガラス板の上に無欠陥
間題となっており 、 最近 a-Si に吸収係数が近い
の半導体薄膜を堆積させることは非常に困難で
微結晶シリコン ( 結晶粒径が 50 ∼ 100nm の多
ある。そのため、現在では、主にアモルファス
結晶シリコン ) が注目を集めている。SOI デバ
79
イスの集積回路への応用を考えた場合、確かに
ると線成長速度 u は時間 t によらず一定である。
絶縁膜上のシリコン層は単結晶であることが望
_ t)
結晶化開始からの時間を t とすれば、τ ( τ<
ましい。しかし、絶縁膜上に半導体薄膜をエピ
秒後に核生成した poly-Si の体積 Vp は
タキシャル成長させるのは非常に困難であり、
Vp = gu3(t- τ )3
多くのプロセスを必要とする。一方、poly-Si は
とあらわせる。ただし、線成長速度 u は等方
既存の技術を利用して容易に得ることができ、
的であると仮定し、g は結晶粒の形状で決まる
ある限られた範囲においては、poly-Si をその
まま使ったトランジスタで十分な性能が得られ
定数で球状の場合 4 π /3 である。また、結晶
・
化率がχ (t) であるときの核生成頻度は N( τ )(1-
る場合もあり、高密度、高集積化など、3 次元
χ (t)) であるから、τ ∼ τ +dτ間の結晶化率の
LSI の利点を生かすことができる。
変化 dχは
(1)
・
d χ = VpN tne( τ )(1- χ (t)) (2)
である。したがって結晶化率χは
2.本研究の目的
poly-Si の作製法は CVD などいくつかあるが、
(3)
本研究ではその中でも最も一般的な作製法の一
つである a-Si を熱処理する方法をとりあげる。
Poly-Si は先述のように優れた特性を持っている
が製膜温度が高いなど問題もある。また、デバ
で与えられる。一般的には、
イスの性能を向上させるためには結晶性の向上
χ =1-exp (-B tk) (4)
や粒径、配向性、さらには結晶粒の形の制御と
と表すことができ、この式を Johnson-Mehl の
いったことが重要である。そのためには a-Si の
式という [6 - 9]。
結晶化の機構を解明する必要がある。
線成長速度は時間によらず一定であると仮定
一般的には結晶化は界面から始まると考えら
したが、実際には図 1 に示すように、結晶がほ
れているが、清浄な a-Si 薄膜表面が得られてい
とんど成長せずに結晶粒が十分小さいときには
る場合、表面から結晶化が始まるという報告も
結晶粒は自由に成長できるが、結晶化が進み結
ある [4, 5]。また、膜厚が 1 μ m のような厚い
晶粒径が大きくなると互いに接触し自由には成
場合についてはほとんど研究されていない。こ
長できなくなり、実効的な線成長速度は遅くな
のように、結晶化が膜のどこから始まるかなど
る。つまり、Johnson-Mehl の式は、熱処理時間
といった基本的な事柄ですらよくわかっていな
が短く、結晶粒径が十分小さいときに成立する
い。さらに、結晶化に及ぼすストレスの効果と
式である。
いうことについてはほとんど研究されておらず
全く解明されていない。
本研究では a-Si の結晶化に及ぼずストレスの
効果を中心に結晶化の機構を解明することが目
的である。
3.理論
・
結晶化の速度は核生成頻度 Nと結晶の線成長
速度 u によって決まる。ここで、結晶化率が十
分小さく、互いの結晶粒は接触しないと仮定す
図 1 実際の成長速度
80
核のできる場所が決まっている場合、残存し
と厚い場合について表面と界面とでの結晶化の
ている核のできうる場所の数は Nexp(- νt) で与
違いを測定する。
えられる。ここでνはその場所での核生成頻度
であり、時間には依存しないと仮定すると、全
−
体での核生成頻度 N は N νexp(- ν t) となる。
4.2.1 実験の方法
νが非常に大きいと仮定し、式 (3) は
−
χ = 1- exp(-gN u 3t 3) (5)
リングにより約 3 μ m 堆積させたものを使い、
となる [8]。実際に、a-Si の結晶化が式 (4) の時
ラマン散乱が非常に強いため、ラマン散乱測定
間 t の次数である k は 4 次よりも 3 次の方が
の際は、図 2 に示すように試料と分光器との間
より実験結果と合致するという報告がある [10,
には入射光の偏光と直角になるように偏光子を
11]。そこで、今後、式 (5) を使うことにする。
置き石英基板からのラマン散乱を除去し、試料
試料は溶融石英基板上に a-Si を RF スパッタ
750,1000℃の熱処理を施した。石英基板からの
の表面と界面からのラマン散乱を測定した。結
晶率χの計算には次式を使った。
4.実験
4.1 ラマン分光法の原理とその利点
(6)
本研究の主な測定法であるラマン分光法につ
いて、その原理と本研究における利点を簡単に
述べる。物質に光が入射したときその光の一部
ここで
はその物質に特有なフォノンによって散乱され
Si からのラマンピークの面積、480 cm-1 付近の
る。このフォノンによる散乱をラマン散乱と呼
a-Si のラマンピークの面積、poly-Si と a-Si の散
んでいる。この散乱光を分光し、
その物質の様々
乱断面積の比を意味する。
はそれぞれ 520 cm-1 付近の poly-
な特性を評価するのがラマン分光法である。し
たがって、ラマン分光法によって得られる情報
はフォノンからの情報であり、その物質の結
晶性に非常に敏感である。そのため、本研究の
ようにアモルファスから多結晶へというような
相転移を研究するにはラマン分光法は非常に好
都合な測定法であるといえる。また、ラマン分
光法はプローブ光として可視光を利用できるた
図 2 ラマン散乱測定系
め、X線回折法とは異なり空間的な分解能があ
る。この空間的な分解能は多結晶シリコンの成
4.2.2 結果と考察
長機構を解明するにあたって欠くことのできな
図 3 に表面と界面の熱処理時間と結晶化率と
いものである。このようにラマン分光法は結晶
の関係を示す。明らかに界面では表面よりも結
成長に関する多くの情報を提供してくれる優れ
晶化が遅れているということがわかる。また、
た測定法である。
熱処理温度 1000℃の表面や熱処理 750℃の表面
と界面では結晶化率が 0.8 程度であるのに対し、
熱処理温度 1000℃の場合の界面では 0.5 程度の
4.2 a-Si 膜表面と a-Si/SiO2 界面からのラマン
ところで飽和してしまっていることがわかる。
散乱の測定
膜厚が厚い方が結晶化に及ぼす応力の効果が
次に、図 4 に熱処理時間と結晶シリコンのラマ
大きく現れると予想される。そこで膜厚が 3μm
ンピークのシフトとの関係を示す。低波数にシ
81
フトしているほど引っ張り応力が加わっている
のであるが、明らかに界面では表面よりも強い
応力を受けていることがわかる。すなわち、応
力が加わっているほど結晶化が遅れるというこ
とがわかる。さらに、図 5 に 750℃ 20 時間の熱
処理をした試料の表面と界面のラマンスペクト
ルを示す。結晶シリコン (c-Si) を示す 520 cm -1
付近のラマンピークの半値全幅は結晶性が悪い
ほど大きくなるのであるが、図 5 によれば、界
面の方が表面よりも約 l cm -1 だけ大きい。すな
わち、結晶化率が同程度であっても、界面の結
品性は表面の結晶性と比べると悪いということ
図 5 表面と界面での半値全幅の違い
である。
図 6 に 750℃で熱処理したときの試料断面の
SEM 像を示す。ただし、試料は secco エッチン
グをした後、帯電防止のため真空蒸着法によっ
て 25 nm の Au 薄膜をコーティングしている。
これからも明らかに表面から結晶化が始まって
いる様子がわかる。また、750℃、20 時間の熱処
理をした試料の断面の SEM 像からわかるよう
に表面では結晶粒が見えているのに対し界面は
secco エッチャントによって大きくエッチング
されていることから、界面での poly-Si の結晶
性は悪い、あるいは粒径が小さいということで
ある。これは界面でのラマンピークの半値全幅
図 3 表面と界面での結晶化率の違い
が表面よりも大きいという結果と一致する。さ
らに詳しくみてみると、poly-Si 層はおよそ 3 層
に分かれており、中心付近の層はその他の層と
比べて深くエッチングされていることがわか
る。
これは図 7 のように考えられる。歪み量の大
きい界面からの結晶化が遅れ、まず表面から結
晶化が始まる。次いで、SiO2 の界面による核の
活性化エネルギーの低下の効果によって界面か
らも結晶化が始まる。これによって中心付近の
結晶化がもっとも遅れた。
図 4 表面と界面でのラマンシフトの違い
4.3 Si3N4/a-Si/Si3N4/Si Sub. の結晶化
さらに応力の効果を定量的に扱うため、Si3N4
82
キャップにより a-Si 膜に応力を加え、Si3N4 の
し、その際には Si3N4 キャップをフッ酸により
膜厚を変化させることにより a-Si に加える応力
除去した。結晶化率は、式 (6) によって計算し
を変化させ、結晶化に及ぼす応力の効果を明ら
た。ただし、散乱断面積の比γは 0.88 を使っ
かにする。
た。ここでγ = 0.88 という値は結晶化率が約 0
∼ 20 % で結晶粒径が十分小さいときに測定さ
4.3.1 実験の方法
れた値 [12] であり、結晶化率とともにγの値が
試 料 の 構 造 は、Si3N4 (50 ∼ 1000nm) / a-Si
変化することから結晶化率が大きいときには計
(1.5 μ m) / Si3N4 (50nm) / Si Sub. であり、いず
算によって求められた値は真の値からずれてい
れの膜も RF スッパタリングにより堆積した。
る。しかしながら、Johnson-Mehl の式 (4) もま
その試料を結晶化させる前に Si3N4 自体と界面
た結晶化率が小さいところでしか成り立たない
を安定させるために 500℃ , 6 時間の熱処理を施
のでこれで十分である。これ以後は結晶化率が
してから 750℃の熱処理をし結晶化させた。結
十分小さいところを扱うことにする。
晶化の様子はレーザラマン分光法を用いて測定
図 7 SEM 像を説明する結晶化のモデル
4.3.2 結果と考察
図 8 に Si3N4 キャップの膜厚が異なるときの
熱処理時間に対する結晶化率の変化を示す。明
らかに、Si3N4 キャップの膜厚が厚いほど結晶化
が遅れていることがわかる。a-Si 層は 500 ℃ , 6
時間の熱処理により 500 ℃でストレスフリーに
なっていると考えられる。したがって、表1に
示す熱膨張係数の違いにより、750 ℃の熱処理
中は a-Si 層には引っ張り応力が加わっている。
キャップの膜厚の増加とともにこの引っ張り応
力も増加することにより、結晶化が遅れたと考
えられる。この結果は先の実験の結果に一致す
る。
図6 熱処理温度750 ℃のpoly-Si層の断面SEM像
83
図 8 Si3N4 キャップの膜厚が異なるときの結晶化
図 9 未結晶化率 ln(1- χ ) と時間 t3 の関係
率の違い
表 1 a-Si, c-Si, Si3N4 の熱膨張係数
図 9 に Y 軸を ln(1- χ )、x 軸を t3 としたグラ
フを示す 。 式 (5) によれば 、 未結晶化率の対数
ln(1- χ ) と時間の 3 乗 t3 は直線にのるはずであ
る。実際に今回の実験でもグラフ上の点がきれ
いに直線にのっている。すなわち、結晶化率が
図 10 Johnson-Mehl の式と結晶化率
小さいときには式 (5) がよく成り立っていると
いうことである。そのグラフの傾きは -gNu3 を
表している。しかしながら、図 10 に示すよう
に結晶化率が大きいところでは式 (5) はまった
く成立していない。これは、散乱断面積γが結
晶化率が大きいところでは 0.88 から大きくずれ
ているということと、結晶粒が接触して実効的
な線成長速度が遅くなっているためであると考
えられる。次に、図 11 に Si3N4 キャップの膜厚
と gu の関係を示す。明らかに、Si3N4 キャップ
の膜厚が厚くなるにつれて線成長速度 u が小さ
くなっているのがわかる。つまり、Si3N4 キャッ
図 11 成長速度と Si3N4 キャップ膜厚との関係
プの膜厚の増加による膜中のストレスの増加に
よって成長速度が遅くなり、結晶化が遅れてい
4.4 応力による結晶化遅延のモデル
ることがわかる。
線成長速度 u は活性化エネルギー Fa と a-Si
84
と c-Si とのギブスの自由エネルギーの差Δ Fv
a-Si との歪みエネルギーの差ΔEpa は、
によって
(10)
(7)
のように与えられる。ただし、u0 は定数で、k B,
T はそれぞれボルツマン定数、温度である。こ
表 2 a-Si と c-Si のヤング率
こで、
図 12 に示すように応力の効果を取り入れ、
Ea, Ep をそれぞれ a-Si, poly-Si 中の歪みエネル
ギーとすると、線成長速度 u は次式で与えられ
る。
となり、ヤング率の分だけ c-Si 中の歪みエネル
ギーは a-Si のそれよりも大きくなる。つまり、
ΔE pa は正値ということになる。また、歪みε
と Si3N4 キャップの膜厚dは、基板が十分厚い
(8)
ので、
ε ∝ d (11)
ただし、Δ Epa = Ep - Ea である。Ep ≪ Ea を使っ
という関係にある。したがって、Si3N4 キャップ
は
による応力の増加とともに線成長速度 u が減少
た。単位体積あたりの歪みエネルギー E
strain
E をヤング率とすると、
する。
Estrain = Exstrain + Eystrain= E ε2 (9)
5.まとめ
と表せる。表2に示すように、a-Si のヤング率
石英基板上の a-Si 層の膜厚が厚い場合には界
は c-Si のそれのおよそ 60 % である。
面からではなく表面から結晶化が始まることを
レーザラマン分光法と SEM 像により示し、こ
れを a-Si 中の歪みにより説明した。また、Si3N4
キャップにより a-Si 中の歪みを加えることによ
り、結晶化遅延の効果があるということを示し、
そのモデルを示した。一般的には歪みは結晶化
を促進すると言われてきているが、これまでの
歪みと結晶化の関係についての研究は金属に塑
性歪み加えて行われてきたものであり、今回の
ような a-Si の結晶化と弾性歪みに関する研究
はほとんどなく、塑性歪みと弾性歪みとでは異
なった機構で結晶化に影響を与えているものと
考えられる。
参考文献
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つまり、結晶化率が十分小さいときには膜の歪
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