中所武司 - ソフトウェア工学研究室 - 明治大学

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE
業務の知識を有するエンドユーザ主導のアプリケーション開発技法
-フレームワーク・ドメインモデル・サービス連携-
中所 武司†
†明治大学理工学部情報科学科 〒214-0033 神奈川県川崎市多摩区東三田 1-1-1
E-mail:
[email protected]
あらまし 変化の激しい時代には,業務の知識を有するエンドユーザ主導のアプリケーション開発とその保守が
重要になる.特に,小さな部門や個人の業務を対象とする中小規模の Web アプリケーションに関して,低コストで
短期間に開発するとともに,頻繁な機能変更を伴う保守に対応する必要性が高まると考え,その分野の業務の専門
家主導で開発・保守できるような技法を研究してきた.具体的には,アプリケーションとコンポーネントの間の粒
度的なギャップは,フレームワークやビジュアルモデリングツールで解決するとともに,ビジネスモデルとアプリ
ケーションの間の意味的なギャップは,フォームベースのサービス連携で解決するアプローチをとってきた.本論
文では,その研究成果と課題について述べる.
キーワード エンドユーザコンピューティング,フレームワーク,ビジュアルモデリング,Web サービス
Enduser-Initiative Application Development Methods
with Business Knowledge
-Framework, Domain Model, Service Integration-
Takeshi CHUSHO†
†Department of Computer Science
E-mail:
1-1-1 Higashimita, Tama-ku, Kawasaki, 214-0033 Japan
[email protected]
Abstract Enduser-initiative application development and modification become important because business models are
changing rapidly. Especially, Web application for small groups or individuals should be developed in short term with low cost
and be maintained frequently with functional specification change. The granularity gap between applications and software
components is bridged by frameworks and visual modeling tools. The semantic gap between business models and applications
is bridged by form-based Web service integration.
Keyword End-User Computing, Framework, Visual Modeling, Web Service
1. は じ め に
イ ン タ ー ネ ッ ト の 普 及 と と も に , Web ア プ リ ケ ー シ
ョ ン が 増 大 し , ASP(Application
Web
Service Provider) や
サ ー ビ ス に 加 え て , SOA(Service-Oriented
2. 研 究 の 背 景
2.1. IT による豊 かな生 活 の実 現
情 報 シ ス テ ム は ,従 来 ,情 報 処 理 の 専 門 家 が 開 発 し ,
Architecture), SaaS(Software as a Service)な ど の キ ー ワ
限られた人たちが利用してきた.しかし,90年代以
ードが注目されるなど,ソフトウェアのサービス化が
降,パソコン,ネットワーク,インターネットの普及
促進されている.
とともに,オフィスの内外でエンドユーザが増加し,
我々は,変化の激しい時代には,エンドユーザ主導
のアプリケーション開発とその保守が重要になるとい
情報化の第一義的な目的は,すでに業務の効率化とい
った従来の枠組みを超えていると考えられた.
う観点から,10年来の研究を行ってきた.特に,小
そ こ で , 我 々 は , 文 献 [ 5] に お い て , ITに よ る 豊
さ な 部 門 や 個 人 の 業 務 を 対 象 と す る 中 小 規 模 の Web ア
か な 生 活 の 実 現 を 意 味 す る ” CS-life”
プリケーションに関して,低コストで短期間に開発す
( Computer-Supported Life)を 研 究 目 標 と し て 掲 げ た .
るとともに,頻繁な機能変更を伴う保守にも対応する
文 献[ 6]で は ,生 産 者 中 心 の 視 点 か ら 利 用 者 中 心 の 視
ために,その分野の業務の専門家主導で開発・保守が
点への転換の必要性を唱え,仕事の効率化よりも生活
で き る よ う な 技 法 を 研 究 し て き た [ 11].
を豊かにすることにもっと知恵を絞るべきと述べた.
このような考えは,その後,内閣のIT戦略本部が
発 表 し た 2001 年 の e-Japan 戦 略 で も「 す べ て の 国 民 が
情 報 通 信 技 術 ( IT) を 積 極 的 に 活 用 し , か つ そ の 恩 恵
UCが主要技術になると考えられる.
また,プログラミング言語の発展過程を図2のよう
に表した.
を 最 大 限 に 享 受 で き る 知 識 創 発 型 社 会 の 実 現 」と し て ,
ま た ,2006 年 の IT 新 改 革 戦 略 に お い て は 「
,いつでも,
ど こ で も , 誰 で も IT の 恩 恵 を 実 感 で き る 社 会 の 実 現 」
と し て 掲 げ ら れ て い る .し か し な が ら ,そ の な か で「 使
い勝手が利用者の視点に立ったものとなっていない等
の理由から,国民・企業等による電子政府の利用は進
んでおらず,また,住民サービスに直結する地方公共
団体の電子化が十分ではないなど,国民・企業等利用
者が利便性・サービスの向上を実感できていない」と
図 2 プ ロ グ ラ ミ ン グ 言 語 の 発 展 過 程 ([ 4] の 表 3 )
反 省 が 述 べ ら れ て い る .[ 17]
2.2. エンドユーザ主 導 開 発 の位 置 づけ
その実現のための一つのシナリオとして,全ての日
業務の専門家がアプリケーション開発を主導する
ためには,プログラミングの概念を必要としないソフ
常的仕事はコンピュータが代行すべきであるという立
トウェア構築技術が必須である.
場 で ,エ ン ド ユ ー ザ が 自 分 の エ ー ジ ェ ン ト を 自 ら 作 り ,
3.2. 脱 プログラミング
自ら利用するためのツールを開発することによって,
オフィスにおいては,創造的な仕事により多くの時間
をかけるとともに,家庭においては,余暇を楽しむ時
間 を 増 や す 効 果 を 期 待 し た [ 5].
ここでは簡単に脱プログラミングに関連すると思
われる従来技術の一部を紹介する.
1989 年 4 月 の 情 報 処 理 学 会 の 特 集 号「 新 し い プ ロ グ
ラ ミ ン グ 環 境 」 の 視 覚 的 プ ロ グ ラ ミ ン グ 環 境 [ 19] の
解説論文では,ソフトウェア設計やプログラム作成の
3. 従 来 の 技 術
ために直接的に2次元の視覚的表記を用いる視覚的言
3.1. エンドユーザコンピューティング
語 を そ の 図 的 表 現 形 式 の 違 い に よ り ,グ ラ フ 指 向 言 語 ,
エンドユーザコンピューティング(EUC)という
フ ォ ー ム 指 向 言 語 ,ア イ コ ン 指 向 言 語 に 分 類 し て い る .
言 葉 は 80 年 代 に よ く 目 に す る よ う に な っ た が ,エ ン ド
支援対象に関しては,データの視覚化,プログラムと
ユーザ及びエンドユーザコンピューティングの定義と
そ の 実 行 の 視 覚 化 ,上 流 工 程 の 設 計 の 成 果 物 の 視 覚 化 ,
分 類 に つ い て は 文 献[ 12]に 詳 し い .ま た 文 献[ 3]で
プログラミング工程の視覚化が紹介されている.最後
は,エンドユーザコンピューティングの管理に関する
のプログラミング工程の視覚化が脱プログラミングの
論 文 90 件 以 上 を 調 査 分 析 し て い る が ,技 術 的 な 内 容 は
概念に近い.
少ない.
先 に 述 べ た 1991 年 の 文 献 [ 4] で は , エ ン ド ユ ー ザ
筆者の解説論文「エンドユーザコンピューティン
がプログラミング言語を用いないで業務のコンピュー
グ 」[ 4] で は , 業 務 の 知 識 を 有 す る エ ン ド ユ ー ザ , す
タ 化 を 行 な え る た め の 現 実 的 な 技 術 と し て ,4 G L( 第
なわち業務の専門家が自らの業務を自動化するソフト
4 世 代 言 語 ),日 本 語 プ ロ グ ラ ミ ン グ ,ビ ジ ュ ア ル プ ロ
ウェアを自ら開発する,という意味で用いている.そ
グ ラ ミ ン グ , AI( ル ー ル , フ ァ ジ ー , ニ ュ ー ロ ) の 4
こでは,ソフトウェア産業の進化過程を図1のように
項目を取り上げた.ただし,いずれも脱プログラミン
表した.
グの概念に基づいているが,実際には脱プログラミン
グ言語のレベルであり,プログラミングの概念やセン
スが不要というわけではない.
4 GL の 特 徴 に つ い て は ,James Martin が ,非 職 業 的
プログラマが使用可能であること,非手続的記述形式
で あ る こ と , 記 述 量 と 作 成 工 数 が COBOL よ り 1 桁 少 な
いことなどを挙げている.
図 1 ソ フ ト ウ ェ ア 産 業 の 進 化 過 程 ([ 4] の 表 2 )
日本語プログラミングについては,業務用語辞書作
成保守機能やプログラミング言語の知識を不要とする
プログラムをすべて手作りする時代から業務用パ
開発保守環境に加えて,日本語表現が持つ本来的なあ
ッケージを利用する時代を経て,業務の専門家が知恵
いまい性を避けながら,自然な表現を保持した文法規
を絞ってビジネスモデルを構築する時代になれば,E
則の導入などが課題である.
ビジュアルプログラミングについては,先に述べた
いる.以下では,これらについて述べる.
視覚的言語の図的表現形式について言及した.
AIについては,推論機能ではなく,簡易プログラ
ミングという観点から,エキスパートシステム構築ツ
ールについて言及した.
4. フ レ ー ム ワ ー ク を 用 い た 開 発 方 法
4.1. 基 本 方 針
ア プ リ ケ ー シ ョ ン フ レ ー ム ワ ー ク [ 9] は , あ る 程
著 者 が 編 集 に 参 加 し た 1998 年 の 単 行 本 「 コ ン ポ ー
度アプリケーションの分野を特定することにより,そ
ネ ン ト ウ ェ ア 」[ 2] で は , 完 成 度 の 高 い 部 品 の 組 み 合
のソフトウェアアーキテクチャの基本的な枠組みと,
せ に よ る シ ス テ ム 構 築 ツ ー ル と し て , APPGALLERY,
その枠組みを構成する基本的なクラスライブラリを備
HOLON/VP, IntelligentPad, VisualAge な ど が 紹 介 さ れ
えたものである.個々のアプリケーションは,そのフ
ている.
レームワークをカスタマイズして作成することになる
2000 年 3 月 の CACM の Programming by example 特
集 [ 18] で は , 操 作 例 か ら ユ ー ザ の 意 図 を 推 測 し , 類
ので,短期開発と低コストと高品質を実現する.
カスタマイズのレベルとしては,図3に示すように,
似の操作を自動化するシステムがいくつか紹介されて
コンポーネントの属性値の設定や既存のコンポーネン
い る .ま た ,デ ー タ ベ ー ス の 問 い 合 わ せ に 関 し て ,Query
ト群から必要なものを選択するだけの簡単なものから,
by example (QBE) [ 21]が あ る .こ れ も ,SQL の よ う
部品として用意されたクラスにソースコードを書き加
な問い合わせ言語を使わないで,具体例を用いて問い
えるものや,新たに追加すべきクラスを開発するもの
合わせ内容を指定するものである.
もある.カスタマイズのレベルによって開発者に要求
2004 年 9 月 の CACM の End-user development 特 集
されるスキルが異なるが,既にソフトウェアのアーキ
[ 22]で は ,IT 技 術 者 の 支 援 な し で ,ユ ー ザ 自 身 の 問
テクチャとそこで必要とされるクラス群におけるクラ
題解決ソフトを自ら開発する技術の研究動向をまとめ
ス間の静的構造が決定しているので,設計作業は大幅
ている.
に削減できる.
エンドユーザ主導開発の事例としては,長崎県庁で
職員が画面設計と業務要件を決定後,詳細仕様書に基
づ き 入 札 を 実 施 し ,業 者 に 発 注 す る 例 な ど が あ る[ 15].
3.3. 研 究 アプローチ
筆者が最初にエンドユーザコンピューティング技
術 と し て と り あ げ た の は ,80 年 代 後 半 の 知 識 ベ ー ス シ
ス テ ム で あ る .文 献[ 5]の 研 究 経 過 で も 述 べ た こ と で
あるが,
「エンドユーザが頭の中に作成したプログラム
図3 フレームワークを用いた開発
を自らコンピュータ化するためには,その業務モデル
あるいは計算モデルをそのまま表現し,入力できるよ
アプリケーションフレームワークの適用分野に関
うにする必要がある.そのためには,マルチパラダイ
しては,特定業務に特化したものと,業務は特定しな
ム 化 は 避 け ら れ な い が ,実 際 に は ,
「 多 機 能 ,即 ,複 雑 」
いがユーザインタフェースの処理が主になるフロント
という技術的課題を解決しなければならない」という
エ ン ド 系( Struts[ 1]な ど )や デ ー タ ベ ー ス 処 理 が 中
考えから,知的電子秘書システムを開発した経験があ
心 の バ ッ ク エ ン ド 系( Hibernate[ 14]な ど )の よ う に ,
る.しかし,残念ながら,エンドユーザが利用するに
特定の情報処理内容に特化したものがある.特定業務
は複雑すぎるものになってしまった.
に特化したものは,既に業務の知識が業務コンポーネ
90 年 代 に は ,コ ン ポ ー ネ ン ト ベ ー ス の エ ン ド ユ ー ザ
ントとして用意されているので,カスタマイズは比較
主導型アプリケーション開発技法として,特定分野の
的 容 易 で あ る .特 定 の 情 報 処 理 内 容 に 特 化 し た も の は ,
アプリケーションの枠組みをフレームワークとしてあ
アプリケーション固有の業務処理(業務ロジック)を
らかじめ開発し,個々のアプリケーション固有の処理
新たに付加する必要があるが,業務に横断的に適用可
部分のみを後から追加するというUI駆動型の開発技
能である.
法と,ビジュアルツールと業務コンポーネント(ビジ
エンドユーザ主導開発では,業務の専門家が主体な
ネスオブジェクト)を用いて業務モデルを構築し,そ
ので,特定業務に特化したフレームワークに着目し,
の上でのシミュレーション検証を繰り返しながらアプ
その中でも汎用性が高いと思われる窓口業務を取り上
リケーションを開発するモデル駆動型の技法を研究し
げ て 研 究 し て き た . 文 献 [ 5] で 述 べ た よ う に ,「 こ れ
てきた.最近では,Webサービス連携技法を用いて
らの窓口業務の担当者も毎日同じような質問を受け,
これらを統合したフォーム駆動型開発技法を研究して
<中略>ルーチンワーク化した判断処理をしている.
これらの処理がコンピュータ化されれば,その分サー
また,実際のアプリケーション開発は,主要な機能か
ビスの向上や費用の低減につながる.急速な老齢化社
ら少しずつモデリング&シミュレーションを繰り返し
会の到来と若年労働者の減少への対応としても,これ
ながら機能拡張していく方式なので,アジャイル開発
ら の 技 術 は 大 い に 役 立 つ は ず で あ る .」 と い う わ け で
の手法といえる.
ある.
4.2. 窓 口 業 務 フレームワーク
一 般 に , オ ブ ジ ェ ク ト 指 向 分 析 の 場 合 は , UML を 用
いてオブジェクトモデルを定義するものが多く,通常
身近な例題として,研究室の図書管理業務を取り上
は ユ ー ス ケ ー ス 定 義 か ら 開 始 さ れ る .MDAで は ,最 初 に
げて,そのフレームワークを構築し,いくつかのアプ
プラットフォーム非依存のモデルを定義し,次にそれ
リケーション開発に適用する実験を行った結果,図書
を特定のプラットフォームに依存するモデルに変換し,
管理システム及び,それと類似ルールの備品管理シス
さらに特定の言語のソースコードを自動生成する方式
テムへの適用では,再利用率が86%を達成した.一
を追求している.そのためにはモデルを厳密に記述す
方,この再利用率は,ユーザインタフェースが複雑な
る 必 要 が あ り ,UML2.0 が 策 定 さ れ て い る が ,エ ン ド ユ
アプリケーションでは電子フォームの数に依存し,ワ
ーザには使いこなすのが難しいと思われる.
ークフローが複雑なアプリケーションでは事前に業務
5.2. モデルベース開 発
コンポーネントが用意されているか否かに依存する
M-baseを 用 い た ア プ リ ケ ー シ ョ ン 開 発 は , 次 の 手 順
[ 13].そ の 後 ,予 約 業 務 を 例 題 と し て ,ユ ー ザ イ ン タ
で 行 わ れ る [ 16] .
フ ェ ー ス 部 分 に オ ー プ ン ソ ー ス フ レ ー ム ワ ー ク Struts
( 1 ) ドメインモデルの作成
を 適 用 し た 結 果 で も , こ の 傾 向 は 同 様 で あ っ た [ 10].
( 2 ) UI と UI 遷 移 図 の 自 動 生 成
エンドユーザ主導開発の視点では,ユーザインタフ
( 3 ) シミュレーション実行による検証
ェ ー ス 定 義 に 関 し て は , 仕 様 は 定 義 で き る が , JSP な
ど に よ る 実 装 は IT の 専 門 家 の 支 援 を 必 要 と す る .モ デ
ルあるいはビジネスロジックの定義に関しても,新た
なコンポーネント(業務オブジェクト)の開発が必要
な場合は同様である.データベース定義に関しては,
簡単なテーブル設計は,ビジュアルツールで可能であ
る が ,複 雑 な も の は ,や は り IT の 専 門 家 の 支 援 が 必 要
である.
5. モ デ ル ベ ー ス の 開 発 方 法
5.1. 基 本 方 針
業務の専門家が自ら作り,自ら使うようなエンドユ
-ザコンピュ-ティングの促進のためには,プログラ
ミングの概念を排した新しいパラダイムが必要である
との観点から,
・ A domain model ≡ a computation model
(業務モデルと計算モデルの一致)
・ Analysis ≡ design ≡ programming
(分析,設計,プログラミングの一体化)
という基本コンセプトを設定した.オブジェクト指向
概念に基づく分散協調型問題解決モデルを用いて業務
モデルの動的ふるまいを最初に構築する具体的な開発
手順を形式化し,それを支援するビジネスモデリング
ツ ー ル M-base[ 7] を 開 発 し て き た .
このモデルベースの開発技法は,業務コンポーネン
トを組合せてドメインモデルを構築した時点で開発を
完 了 さ せ る の で ,徹 底 し た モ デ ル 駆 動 型 開 発 と い え る .
図4 ビジュアルモデリングツールの使用例
この方式の課題の1つは,複雑な業務ロジックの記
6.2. サービス授 受 のメタファー
述 方 法 で あ る が , 図 4 は M-baseを 用 い て 国 際 会 議 の プ
ワ ー ク フ ロ ー が 本 質 的 な Web ア プ リ ケ ー シ ョ ン の
ログラム委員長の業務を開発する例である.ドメイン
要求分析では,詳細なワークフローを記述する必要が
モ デ ル の 構 築 は ,UML の コ ラ ボ レ ー シ ョ ン 図( UML2.0 の
あ る .こ の モ デ ル は ,M-base で は お 互 い に 協 調 し て 動
コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 図 )に 似 た メ ッ セ ー ジ フ ロ ー 図( 図
作するオブジェクト間を流れるメッセージフローとし
4の①)の記述から始め,その各要素の詳細を専用の
て表現する.ここで抽出したオブジェクトに対応する
エディタ(図4の②)を用いて定義して完成させる.
業務コンポーネントが存在する場合は,この段階でア
そのとき,フローで表現できない業務ロジックをルー
プリケーションを構築できるが,通常は,新規に開発
ル形式で定義できるようにした.図4の③は自動生成
すべきコンポーネントが存在する.
されたUI画面,図4の④はシミュレーション実行に
よる検証の様子である.
そこで,エンドユーザ主導開発の一環として,新規
コンポーネントの要求仕様は,業務の専門家になじみ
もう1つの課題は,必要な業務コンポーネントが存
のあるフォームとして定義することとする.さらに,
在 し な い 場 合 で あ る .現 状 で は ,IT 技 術 の 専 門 家 に 外
ワ ー ク フ ロ ー を Web サ ー ビ ス 化 す る こ と に よ り ,業 務
注せざるを得ないが,要求仕様はエンドユーザが定義
コンポーネントをサービスプロバイダと見なすことが
すべきものである.その実現方式として,業務コンポ
でき,ビジネスレベルでの理解が可能となる.
ー ネ ン ト を Web サ ー ビ ス と み な す ア プ ロ ー チ を と る .
すなわち,窓口業務をサービス授受のメタファーと
この場合,メッセージをフォームで表現することによ
みなして,そのインターフェイスをフォームとするこ
り ,先 に 述 べ た UI 駆 動 型 の 窓 口 業 務 フ レ ー ム ワ ー ク と
とにより,ワークフローを以下のようにとらえる.
同じレベルで扱うことができる.
・業務コンポーネント
→
Web サ ー ビ ス ,
・メッセージフロー
→
フォームフロー
6. Web サ ー ビ ス 連 携 を 用 い る 開 発 方 法
・メッセージ変換
→
フォーム変換
6.1. エンドユーザ主 導 のシステム構 築 技 術
図6は,従来のワークフロー,図7はフォーム変換
エンドユーザ主導の基本的なシステム構築技術を
の一般形を示す.
図 5 に 示 す [ 8]. ビ ジ ネ ス レ ベ ル で エ ン ド ユ ー ザ ( 業
務の専門家)が構築したビジネスモデルは,サービス
レベルでは,ドメインモデル(ワークフローを示す業
務モデルなど)に変換され,アプリケーションの原型
ができる.最後にソフトウェアレベルで,コンポーネ
ントを組み合わせたアプリケーションを構築する.こ
のとき,サービスとソフトウェアの間の粒度的なギャ
図6 ワークフローの例
図7 フォーム変換
ップは,フレームワークやパターンあるいは業務コン
ポ ー ネ ン ト な ど の CBSE ( Component-Based Software
6.3. フォーム変 換
Engineering) 技 術 で 解 決 で き る . 一 方 , ビ ジ ネ ス と サ
フォーム変換については,いくつかの方法が考えら
ービスの間のギャップについては,エンドユーザに理
れ る が ,XSLT を 用 い る 方 法 を 研 究 試 作 し た [20].図 8
解容易な電子フォームで解決する.
は ,XML 形 式 の 個 人 別 履 修 情 報 と 試 験 時 間 割 表 の 2 つ
の入力から個人別試験時間割表を出力する例である.
こ の 方 法 で は , エ ン ド ユ ー ザ 向 け に XSLT 記 述 を 支 援
するビジュアルツールを開発した.
図 8 XSLTに よ る フ ォ ー ム 変 換 の 例
図5
エンドユーザ主導のシステム構築技術
エ ン ド ユ ー ザ に XML や XSLT の 構 造 を 一 切 意 識 さ せ
ない方法としては,入力フォームと出力フォームの項
目間の関係をマウス操作だけで定義する方法が考えら
れる.図9に示すように,特定の入出力フォームに関
して定義した変換手順を用いて,同じ形式の入出力フ
ォ ー ム 間 の 変 換 を 自 動 実 行 す る [ 23].
図9 フォーム変換手順の定義と実行
図 10 は , 商 品 販 売 シ ス テ ム の フ ォ ー ム フ ロ ー の 一
部である.エンドユーザ主導開発の特徴として,ユー
ザインタフェースの必要のない内部のフロー部分もビ
ジュアルなフォーム(抽象フォーム)を用いている.
図 10 フ ォ ー ム 変 換 と フ ォ ー ム フ ロ ー の 例
7. お わ り に
以上,業務の知識を有するエンドユーザ(業務の専
門家)が,自らの業務をコンピュータ化する技法につ
い て 述 べ た .主 に 80 年 代 か ら エ ン ド ユ ー ザ コ ン ピ ュ ー
ティングとして注目されてきたこの分野の従来技術を
概観するとともに,我々がエンドユーザ主導開発の基
本技術として注目した,アプリケーションフレームワ
ー ク , ビ ジ ュ ア ル モ デ リ ン グ , Web サ ー ビ ス 連 携 に 関
する研究状況について報告した.
文
献
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B-016, 113-116, Sep. 2007.