対日直接投資が国内企業の生産性に与える影響に関する実証分析

対日直接投資が国内企業の生産性に与える影響に関する実証分析
The Effect of Foreign Direct Investment on the Productivity of Domestic Firms through Spillovers
公共システムプログラム
11M43098 吉川 達也
指導教員 樋口 洋一郎
Public Policy Design Program
Tatsuya Kikkawa
Adviser Yoichiro Higuchi
ABSTRACT
Many countries have tried to attract foreign direct investment from multinational companies, hoping that knowledge brought
by multinational companies will spill over to domestic ones and increase their productivity and competitiveness. Although
the occurrence of productivity spillovers has been empirically investigated, the results are mixed. In order to make it clear,
this paper focuses on determinants of productivity spillovers. The analysis, based on firm level data in Japan, produces
evidences consistent with positive productivity spillovers as a whole, but need time lags to occur. Considering the
characteristics of host firms, we find that firms with smaller employees, higher productivity and more dependence on export
benefit more than other companies. In terms of ownership structure of multinational companies, we also find that
100%-owned subsidiaries lead to higher productivity spillovers to domestic companies.
Key Words: Foreign Direct Investment, Spillovers, Multinational companies, Productivity Function Estimation
1. はじめに
する技術, 経営・マーケティング手法の実演を国内企業が模
近年, 多くの国で外資系企業による直接投資を促進させる
倣することで生じる生産性スピルオーバー効果の伝播経路で
政策が考案・実施されてきている. この政策には, 外資系企業
ある. 労働者移動は, 国内企業が外資系企業で働いていた労
の技術・経営手法等が生産性スピルオーバー効果を通じて国
働者を雇用し, その労働者が持っている技術に関する知識・
内企業の生産性を上昇させることに対する期待が込められて
経験等を利用・適用することで生じる生産性スピルオーバー
いる.
効果の伝播経路である. 輸出は, 外資系企業の持つ海外での
Markusen and Venables(1999)では, 外資系企業が海外に投資
流通網の設置、輸送基盤、顧客情報等が国内企業の輸出能力
する際, 現地企業との競争に備え所有技術を持っていく, と
に影響を与えることから生じる生産性スピルオーバー効果の
いうことが指摘されている. もし外資系企業の方が高い生産
伝播経路である. 競争は, 外資系企業が参入してくることで,
性を保持しているならば, 生産性スピルオーバー効果は現地
国内企業に製品製造過程での投入物の使用や既存技術のより
企業に多くの恩恵を与えると考えることができる.
効率的な活用, また新技術の導入を促すことで生じる生産性
直接投資と生産性スピルオーバー効果については, 多くの
スピルオーバー効果の伝播経路である. 前方連関は, 国内企
研究蓄積があるが, 一貫した結果が得られておらず, また日
業が他産業にいる外資系企業による高品質・低価格な投入財
本においては 1990 年代から対日直接投資が非常に政策的重
を調達, また外資系企業からの技術サポートを受けることで
要性を持っていたにも関わらず研究の蓄積が乏しい. この 2
生じる生産性スピルオーバー効果の伝播経路である. 後方連
点を踏まえ, 本研究の目的は, 外資系企業の参入によって外
関は, 他産業にいる外資系企業の需要増加, 外資系企業への
資系企業が持つ優れた技術やノウハウが国内に持ち込まれる
財供給の際に, 外資系企業から財の質向上やイノベーション
ことで生産性スピルオーバー効果が生じるのかどうかを企業
導入といった技術サポートを受けることで生じる生産性スピ
レベルのデータを用いて実証分析を行うこととする.
ルオーバー効果の伝播経路である.
2. 対内直接投資と生産性スピルオーバー効果
2.1. 生産性スピルオーバー効果と伝播経路
生産性スピルオーバー効果は水平スピルオーバーと垂直ス
ピルオーバー2 つに大きく分類できる. さらに水平スピルオ
ーバーは実演・模倣, 労働者移動, 輸出, 競争の 4 つに, 垂直
スピルオーバーには前方連関, 後方連関の 2 つに分けられる.
生産性スピルオーバー効果が生じる概略図については図 2.1
に示している.
実演・模倣は, 外資系企業による製品・製造プロセスに関
図 2.1
生産性スピルオーバー効果概略図
2.2. 企業・直接投資特性と生産性スピルオーバー効果
ン)により垂直スピルオーバー効果が生じるのではないかと
実証研究で一貫した結果が得られていないことに対して,
いうのが基本的な考えである. 結論として, 水平スピルオー
Crespo and Fontoura (2007)では「生産性スピルオーバーを促進
バー効果は無いが, 正の垂直スピルオーバー効果(後方連関)
するかしないかは各国の政策や環境, 企業特性の違いが関係
は生じているとしている.
している」と指摘している. そこで本研究では, 企業特性とし
3.2. 本研究の特徴
て, 企業規模・生産性・輸出の 3 つの観点から, また直接投資
本研究ではこれまでの研究を踏まえ, 水平スピルオーバー
特性として外資系企業の所有構造に注目する. それぞれ指標
及び垂直スピルオーバーを含んだ包括的な分析を行う. 特徴
の違いによる期待される結果を表 2.1, 2.2 に示している.
としては, (ⅰ)全要素生産性を Levinsohn and Petrin(2003)(LP)
表 2.1 企業特性と生産性スピルオーバー効果
によって提案された手法を用いて算出, (ⅱ) 時間差, 企業・直
接投資特性を考慮した分析への拡張と主に 2 点が挙げられる.
企業特性
大小
スピルオーバー
効果
要因
水平
+ or -
技術収容力, 外資系企業との競争
水平
+ or -
外資系企業の技術の適用
小
企業規模
大
4.1. データ
小
大
生産性
小
-
垂直
外資系企業からの調達した財への適用
大
+
小
輸出
4. 推定
データは日本経済新聞社による『NEEDS
+
水平スピルオーバーを受ける余地有
無
すでに海外市場で外資系企業による影響を受けている
水平
大
本研究は 1999-2006 年までの製造業に属する企業を対象
としたアンバランスパネルデータを用いて分析を行う. 企業
企業規模はAitken and Harrison(1999), TFPレベルはCrespo Crespo and Fontoura(2007), 生産高輸出比
率は戸堂 他(2008)を参考
表 2.2 直接投資特性と生産性スピルオーバー効果
日経財務データ
(2007 年版)』, 外資系企業に関するデータは経済産業省『外資
系企業動向調査』, その他データは, 経済産業省『外資系企業
動向調査』, 経済産業省『簡易延長産業連関表』, 経済産業省
『工業統計調査』, 経済産業研究所『JIP データベース』, 内
閣府『国民経済計算確報』を利用した. 産業分類は, 総務省統
直接投資特性 スピルオーバー
効果
要因
水平
+
外資系企業と国内企業との技術・経営手法等の共有
後方連関
+
前方連関
+
計局『日本標準産業分類(平成14年3月改定)
』に基づき全
部分子会社
水平
完全子会社
無 or +
国内企業との産業間関係の早期構築
より国内から調達
国内企業との産業間関係の早期構築
完全な経営権保持による技術・経営手法等の漏洩防止
部分所有子会社より多く, 高度な技術・経営手法の保持
4.2. 推定モデル
国内企業の全要素生産性と各生産性スピルオーバー効果指
標 の 関 係 を 分 析 す る た め に 式 (5.1) の よ う に 定 式 化 す る
(Javorcik(2004), Haskel et al.(2007), Barrios et al.(2011)を参考).
後方連関
無 or +
前方連関
ての統計を再構築したものを使用した.
国内企業との産業間関係構築に時間が必要
より高度な技術・経営手法等による財の品質, 技術サポート
∆ln = 0 + 1 ∆ + 2 ∆
3. 既存研究及び本研究の特徴
+ 3 ∆
3.1. 既存研究整理
+ 4 ∆ℎ +  +  + 
直接投資と生産性スピルオーバー効果に関する初期の研究
(5.1)
+ 
では水平スピルオーバー効果について分析を行っている .
Aitken and Harrison(1999)ではヴェネズエラを対象としてパネ
ここで, ln は企業 i の年 t における全要素生産性の対数
ル分析を行っている. この研究以前までは, 主にクロスセク
値を示している. j は産業を示している.  は水平
ション分析を行い, 正のスピルオーバー効果の結果を得てい
スピルオーバー効果を示し, 各産業の生産額に対する外資系
る研究が多かった. しかしこの研究ではパネル分析を導入し
企業の生産額比率と式(5.2)で表される. Foreign_Output ijt は外
て新たに各産業の特性を考慮することで, それまでの研究と
資系企業(外国資本比率 > 1/3)ならその企業の生産額, そうで
は違って, 実は直接投資によって負のスピルオーバー効果を
なければゼロをとる.
受けているということを明らかにした. 先進国を対象とした
研究ではイギリスの Haskel et al.(2007)が挙げられる. 他にも
Horizontaljt =
∑ i∈ Foreign_Output ijt
∑i∈ Output ijt
(5.2)
多くの研究が行われてきたが(eg. Konings(2001)は Bulgaria,
 は後方連関スピルオーバー効果を示し, 各産業
Poland, Romania を; Görg and Strobl(2002)は Ghana を; Girma
の産出のうち川下産業に属する外資系企業に供給された産出
and Görg(2002)は UK を; Keller and Yeaple(2009)は US を対象),
額の比率と式(5.3)で表される. γjk は簡易延長産業連関表を
一貫した結果が得られていないというのが現状である.
用いて算出した投入比率である.
そこで Jarvocik(2004)は新たに垂直スピルオーバーに注目
しリトアニアを対象として分析を行った. もし外資系企業が
Backwardjt = ∑
k if k≠j
γjk Horizontalkt
(5.3)
技術流出を防ぐとしたら水平スピルオーバー効果は生じにく
 は前方連関スピルオーバー効果を示し, 各産業が
いが, 他産業にいる国内企業との関係においては, 品質が良
投入した中間財のうち川上産業に属する外資系企業から供給
い財の調達等を目的とした技術支援(品質向上, イノベーショ
された中間財の比率と式(5.4)で表される. δjk は, 簡易延長産
表 4.1 同時期, 時間差, 企業特性別推定結果(LP)
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
0-25%
TFP
25-75%
75-100%
(9)
(10)
LP
RE
Baseline
D.horizontalt
0-25%
Employment
25-75% 75-100%
Export ratio
0-50%
50-100%
0.307
(0.541)
0.302
(0.559)
-0.616
(0.518)
0.791***
(0.290)
0.710
(0.526)
0.187
(0.633)
1.269**
(0.609)
0.431
(0.585)
-0.513
(0.557)
0.803***
(0.251)
-0.324
(0.547)
-1.424**
(0.559)
0.453**
(0.211)
0.770
(1.219)
-0.299
(1.337)
1.008
(0.734)
0.931*
(0.556)
0.145
(0.573)
0.829***
(0.155)
0.251
(0.426)
0.362
(0.630)
0.914**
(0.417)
0.323
(0.479)
-0.853
(0.614)
0.880***
(0.341)
-2.159
(1.646)
-1.013
(0.999)
0.811*
(0.484)
-0.699
(7.172)
4.580
(3.629)
11.28***
(4.035)
18.98***
(4.610)
3.122
(8.274)
12.42**
(6.142)
11.40**
(4.855)
5.638*
(2.983)
8.653**
(4.164)
21.14***
(5.354)
4.135
(6.696)
15.25***
(5.538)
20.50***
(4.497)
10.48
(29.48)
15.11
(10.79)
37.94
(34.10)
8.774*
(4.499)
12.95***
(3.111)
18.44***
(6.242)
14.15***
(3.542)
25.70***
(4.881)
25.48***
(7.296)
0.507
(3.940)
9.889*
(5.691)
18.01**
(7.016)
-32.91
(31.35)
51.47**
(23.16)
25.47
(15.59)
0.155
(6.648)
12.17
(9.064)
16.93***
(5.583)
9.867*
(5.576)
21.52
(17.23)
30.44***
(11.49)
16.11
(12.07)
10.27**
(5.179)
11.69***
(4.041)
9.946**
(3.878)
10.19
(8.853)
11.04*
(6.104)
2.781
(5.406)
-0.0145
(11.90)
16.35
(11.96)
1.113
(5.224)
24.42***
(6.079)
31.04***
(4.092)
20.21***
(5.276)
13.27***
(3.261)
24.38***
(6.157)
14.72**
(5.797)
7.222
(7.450)
15.66**
(7.567)
10.07
(6.301)
11.91
(18.57)
4.300
(9.898)
-1.676
(6.516)
D.herfindahlt
-1.686
(3.126)
-0.558
(1.459)
-1.753
(2.399)
0.888
(1.903)
-1.029
(2.980)
3.586
(7.062)
-2.653
(2.147)
-5.480***
(2.008)
-1.687
(2.560)
-4.981
(4.363)
Observations
R-squared
8,533
0.152
5,489
0.104
1,187
0.0925
2,507
0.114
1,258
0.184
1,028
0.153
1,672
0.166
1,905
0.138
3,062
0.129
423
0.123
D.horizontalt-1
D.horizontalt-2
D.backw ardt
D.backw ardt-1
D.backw ardt-2
D.forw ardt
D.forw ardt-1
D.forw ardt-2
Robust standard errors in parentheses, which have been corrected for clustering for each industry in each year. Industry and year dummy are included but not reported. *** p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
業連関表を用いて算出した調達比率である.
Forwardjt = ∑
k if k≠j
δjk Horizontalkt
プルを 2 つに分割したものを使用した.
(5.4)
企業規模別の結果は(3)-(5)列に示している. 水平スピルオ
ーバーについては, 各サンプルとも 2 期前の係数が正で有意
ℎ はハーフィンダール・ハーシュマン指数を示し
となっていて, その係数の大きさは企業規模が小さいほど大
ており, 各産業に属する全ての企業の市場占有率の二乗和と
きくなっている. これは, 企業規模が小さければより柔軟に
した.  ,  はそれぞれ, 産業ダミー, 年ダミーを示していて,
経営ができるため, 外資系企業による負の効果が支配的にな
それぞれある産業であれば 1, またある年であれば 1, そうで
ることはないが, 企業規模が大きいと経営の柔軟性の欠如か
ないならば 0 をとるダミー変数を用いている.  は個別効果
ら正の効果より負の効果が支配的になる(模倣等による正の
を示しており, ハウスマン検定の結果, 変量効果モデルが採
効果より競争による負の効果が支配的)と解釈できる.
用されたため,  は識別できたこととなる.
4.3. 推定結果
生産性別の結果は(6)-(8)列に示している. 水平スピルオー
バーについては, 生産性が中・高(25-75%, 75-100%)である
結果を表 4.1 に示している. 被説明変数は LP で算出した
サンプルにおいて 2 期前の係数が正で有意となっている. ま
TFP を使用した. (1)列より, 同時期の各スピルオーバー指標
た有意である係数の大きさは生産性が高いほど大きくなって
について有意な結果が得られていない. これは, 同時期の各
いる. 一方, 生産性が低いサンプルにおいては, 1 期前の係数
スピルオーバー指標の変化は各企業の TFP の変化に影響を与
が有意ではないが負となっているのが分かる. これは生産性
えないことを意味する. 続いて, 式(5.1)に各スピルオーバー
が低ければ, 模倣等による正の効果を競争による負の効果が
指標のラグ項を入れた推定結果について見ていく. (2)列より,
上回るためだと考えられる. また生産性が低いサンプルに正
水平スピルオーバーは 2 期前が, 後方連関スピルオーバーは
の水平スピルオーバー効果が見られないことから, 模倣や競
1, 2 期前が, そして前方連関スピルオーバーは 1 期前が正で有
争による生産性向上によって, 生産性が高い企業にキャッチ
意になっている. ここから, 生産性スピルオーバー効果が生
アップするような効果はないと考えることができる. 垂直ス
じるまでには時間がかかるということが明らかとなった.
ピルオーバー効果については, 後方連関・前方連関スピルオ
次に, 企業特性別に推定を行った結果について見ていく.
ーバー共に生産性が中・高(25-75%, 75-100%)であるサンプ
企業規模については各企業の従業員数を, 生産性については
ルにおいて係数が正で有意となっている. 生産性が低い企業
LP で求めた TFP を, 輸出については輸出売上高比率を指標と
においては共に有意な結果とならなかった. 解釈としては,
して用いて, サンプルを第Ⅰ四分位(0-25%), 第Ⅱ・第Ⅲ四分
生産性が低いと, 後方連関においては外資系企業による技術
位(25-75%), 第Ⅳ四分位(75-100%)に分割し, 各サンプルを
支援等に適用できない, または外資系企業と産業間関係を築
用いて推定を行った. 輸出については, 50%を基準にしてサン
くことができない, 前方連関においては高品質な財や技術サ
ルオーバーは部分・完全子会社共に正で有意となっているこ
表 4.2 直接投資特性別推定結果
RE
D.horizontal_sharedt
D.horizontal_sharedt-1
D.horizontal_sharedt-2
D.horizontal_100foreignt
D.horizontal_100foreignt-1
D.horizontal_100foreignt-2
D.backward_sharedt
D.backward_sharedt-1
D.backward_sharedt-2
D.backward_100foreignt
D.backward_100foreignt-1
D.backward_100foreignt-2
D.forward_sharedt
D.forward_sharedt-1
D.forward_sharedt-2
D.forward_100foreignt
D.forward_100foreignt-1
D.forward_100foreignt-2
D.herfindahlt
(1)
LP
-1.035
(0.875)
-1.953***
(0.756)
1.464***
(0.430)
0.454
(0.721)
0.327
(0.581)
0.803
(0.714)
7.141
(8.769)
12.65***
(4.609)
30.78***
(10.93)
9.555*
(5.099)
16.67***
(3.959)
25.10***
(6.028)
-0.386
(16.88)
16.09
(13.31)
5.833
(8.593)
14.10**
(6.616)
23.24***
(5.702)
13.71***
(4.840)
-1.359
(2.255)
ポートに適用できないた
とから 2.2 節で期待したような違いは見られなかった. 前方
め正の効果がない, とそ
連関スピルオーバーについては, 部分子会社では有意な結果
れぞれ考えることができ
が得られなかったが, 完全子会社では正で有意な結果となっ
る.
た. これは国内企業が受ける高品質な財や低価格の財, もし
輸 出 別 の 結 果 は (9) -
くは財と共に提供される技術支援を通じた生産性スピルオー
(10)列に示している. 水平
バー効果は完全子会社によるものと考えることができる. 外
スピルオーバーについて
資系企業が完全子会社を選択する理由としては国内企業への
は, 輸出売上高比率が
技術漏洩を避けることが挙げられ, つまりそれまで他の国内
50%未満であるサンプル
企業が保持している技術や経営手法等とは違うものを保持し
の係数が正で有意となっ
ていると考えられるので, この外資系企業と産業間関係を築
ており, また係数も 50%
くことで, それまで得られなかったものから新たに生産性ス
以上のサンプルと比較し
ピルオーバー効果が生じていると解釈することができる.
て大きいということが分
かる. つまり, 50%以上で
5. おわりに
ある企業は既に海外市場
5.1. 結論
において外資系企業と接
本研究の分析結果に基づけば, 外資系企業による日本への
点を持っているため, 国
直接投資は, 全体として国内企業の生産性を高める効果があ
内で外資系企業によって
ること思われる. これは既存研究で様々な結果が得られてい
新たに生産性スピルオー
たことに対して新たな視点を与えたと言える. つまり, これ
バー効果が生じる余地が
までは経済全体に与える影響を分析していたために国によっ
少ないのに対し, 50%未満
ては違う効果が見られたが, 国内の企業や直接投資の特性に
である企業は国内におい
注目することで, 生産性スピルオーバー効果が生じる要因を
てでしか外資系企業との
明らかにすることができるということである. 本研究でこれ
接点を持たないため生産
らの要因を解明できたことは, 今後の直接投資に関する政策
性スピルオーバー効果が
を考える上での重要な示唆を与えたと思われる.
生じたと解釈することが
5.2. 今後の課題
できる.
第一に, 非製造業も対象とした分析の必要性が挙げられる.
最後に直接投資特性別
対日直接投資の特徴として, 非製造業が大きな割合を占めて
に推定を行った結果につ
いる. また製造業と非製造業は多くの部分で密接に関係して
い て 見 て い く ( 表 4.2).
いるため, それを考慮することで日本経済全体としてより包
shared (1/3 < 外国資本比
括的な政策評価ができると考えられる. 第二に, より細かい
率 ≦ 99%)と 100% (外国資本比率 = 100%)は, それぞれ部分
産業分類を用いて分析することが挙げられる. 本研究ではデ
子会社, 完全子会社を表している. 各指標は外国資本比率別
ータの制約のため細分類を使用しての分析ができなかった.
に作成している.
産業連関表からは, 同産業内での調達・供給が大きな割合を
Observations
R-squared
5,489
0.113
Robust standard errors in parentheses, which have been
corrected for clustering for each industry in each year.
Industry and year dummy are included but not reported. ***
p<0.01, ** p<0.05, * p<0.1
水平スピルオーバーについては, 部分子会社について 1 期
占めていることが分かる. そこには中分類だと水平スピルオ
ラグが負で有意, 2 期ラグが正で有意となった. 一方, 完全子
ーバーとなるが細分類だと垂直スピルオーバーとなるケース
会社については 1 期ラグ, 2 期ラグ共に正であるが有意な結果
も考えられるため, その違いを考慮する必要がある.
とはならなかった. ここから表 4.1(2)列において 1 期ラグで有
意ではないが負となったことと, 2 期ラグが正で有意となって
主要参考文献
いることは, 部分子会社による生産性スピルオーバー効果と
[1] Aitken, B. and Harrison, A. (1999). “Do domestic firms benefit from
いうことができる. 1 期ラグが負で有意となっていることにつ
direct foreign investment? Evidence from Venezuela”. American
いては, 深尾 他(2006)において外資系企業は生産性が高い国
Economic Review, 89-3, 605–618.
内企業に対して M&A を行う傾向があることを指摘している
[2] Javorcik, B. S. (2004). “Does foreign direct investment increase the
ことから, 競争力がある外資系企業によって国内企業は負の
productivity of domestic firms? In Search of spillovers through
生産性スピルオーバー効果を受けると考えることができる.
backward linkages”. American Economic Review, 94 -3, 605–627.
また完全子会社については, 係数を見ると有意な結果が得ら
[3] 深尾京司・権赫旭・伊藤恵子 (2006) . 「対日直接投資は日本の生
れていないことから, 外資系企業は技術漏洩を防ぐことがで
産性向上をもたらすか? ―『企業活動基本調査』個票データ
きていると考えることができる.
に基づく実証分析―」, 『フィナンシャル・レビュー』, 財務
次に垂直スピルオーバーについて見ていく. 後方連関スピ
総合政策研究所, 81, 125-153.