nalysis - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報 - 石油天然ガス・金属鉱物

Analysis
JOGMEC HSE審査チーム
suizu-masahiro@jogmec.go.jp
水津 雅裕
アナリシス
国際競争力の強化につながるHSE審査の導入
―JOGMEC出資・債務保証―
石油・天然ガスの探鉱・開発事業は、爆発・火災による人身事故、原油・汚染物質による環境汚染、有
害物質による健康障害等の大規模災害を引き起こすリスクを含んでいる。現に1980年代の後半に2件の大
規模災害*1が起き、当事者であったOCCIDENTALは人材を一気に喪失し、EXXONは多大な財務負担を
被り、その上両者の社会的信用は低落した。このため、石油開発業界、特にSHELL、EXXON等のスーパー
メジャーは、これらの事故を契機として労働安全衛生および環境(以下、「HSE*2」という)に配慮した
操業を行うことが重要と考え、本社組織および操業現場にHSEマネジメントシステム*3を導入し、これら
のリスク低減に関する取り組みを開始した。
一方、産油国も、当然のことながら自国内で引き起こされる人身事故、環境汚染等は受容し難く、1990
年代から特に環境に関する法規制の整備・強化を進めている。
このように、HSEマネジメント能力は技術力、経営能力と並び石油会社の重要な資質の一つであり、産
油国と良好な関係を保つために必要不可欠なものである。国内においては国際協力銀行(JBIC)が融資
の判断に資するため、環境審査を実施している。
1. HSE審査導入の背景
探鉱・開発業務についても、物理探
民間プロジェクト支援事業について
査、坑井掘削、生産施設の建設、生産
も、人身事故、環境汚染および健康障
前述の状況を認識した石油公団は、
作業等の作業工程や作業場所ごとに
害の回避に努めることが探鉱・開発事
探鉱・開発作業におけるHSEリスク
HSEリスクを抽出し、発生の頻度と結
業に係る組織の責務であり、資産・資
の低減や周囲の状況への対応を目的
果の重大性の観点からリスクが顕在化
金の喪失回避にもつながると判断し、
の一つとして、2001年3月に環境マネ
した際にもたらされる結果を一つ一つ
前者については探鉱作業に特化する
ジメントシステムの国際規格である
評価した。この結果、これらのフィー
GS-HSEマネジメントシステム *5を構
ISO14001と労働安全衛生の英国規格
ルドオペレーションには千差万別の
築し、2003年度の地震探査事業から運
であるOHSAS18001の要求事項に基づ
HSEリスクがあり、作業従事者の死傷
用を開始した。また、後者については
くHSEマネジメントシステムの導入と
や原油の流出等、受容不可能な結果を
HSE審査を実施することとし、2004年
認証取得を決意し、全職員を対象とし
もたらすリスクが多数存在することが
度中頃にガイドラインや手法の策定を
た一般研修実施後の同年7月に、全業
明らかとなった。
完了した。これにより、採択審査では
務に潜在するHSEリスク(人身事故、
石油公団では、自らがフィールドオ
従前の技術・経済性・事業実施関連事
環境汚染、健康障害等を引き起こす可
ペレーションを実施する海外地質構造
項審査に加え、HSE審査の実施も可能
能性のある要因)の抽出・評価作業に
調査、国内基礎物理探査等の事業は言
となった。
着手した 。
うまでもなく、探鉱投融資等による
*4
*1:1988年7月、英領北海で操業するOccidental Petroleum(Caledonia)のプラットフォームであるパイパーアルファー号において大量のガスリークを原因
とするガス爆発と火災が起き、作業者232名のうち167名の尊い命が失われた。原因は、安全バルブが取り外されたメンテナンス作業中のパイプにガス
が送り込まれたことによると信じられている。
1989年3月、EXXONのタンカーバルディーズ号がアラスカ沖で座礁し、4万キロリットルの原油が流出した。その結果、10万羽の海鳥と100万頭の海洋
動物の命が奪われ、海洋生態系が極めて大きな打撃を受けた。同社は原油を除去するために1,500隻の船を動員し、12,000人を海岸に派遣した。また、こ
の除去作業のために20億ドル以上もの経費を負担し、生態系破壊の代償として損害賠償金11億ドルを支払った。
*2:HSEはHealth, Safety & Environmentの省略形。日本では馴染みのない言葉であるが、石油・天然ガスの探鉱・開発業界では世界的に広く使用されている。
*3:HSEマネジメントシステムは、HSEリスクの継続的改善を可能にする管理システム。
*4:石油公団は2002年8月にISO14001・OHSAS18001認証を取得した。現在は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下、「資源機構」という)
の石油部門(春日事務所と幕張技術センター)がこれらの認証を継承している。
*5:探鉱作業に係るHSEリスクを回避・低減するためには、HSEマネジメント能力の高いコントラクターを雇用し、適正に管理することが必要であると考え、
HSEマネジメント能力を考慮したコントラクターの選定方法、地震探査/坑井掘削に関するOperational Policy等を含むHSEマネジメントシステムを構
築した。
57 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
2. HSE審査対象
すリスクを内在している。このため、
信用の低落はまぬがれない。ノンオ
審査はプロジェクトのHSEリスクす
ペレーターの場合には、作業に対す
資源機構の民間プロジェクト支援
べてを対象とする。
る改善要求が受け入れられない可能
性があることも考慮した上で、両者
は、探鉱出資、天然ガス液化出資、資
⑵開発作業は、生産基地の建設、石油・
産買収出資および開発債務保証により
天然ガスの長期生産等を実施するも
行うものであり、探鉱事業と開発事業
のであり、大規模な事故や災害を引
⑷出資は資金面において探鉱・開発事
の両者を対象としている。一方、支援
き起こす可能性を秘めている。一
業へ直接関与するものであるが、事
を受ける本邦企業はオペレーターある
方、探鉱作業は開発作業に比して可
故や災害の発生の際は出資額の損失
いはノンオペレーターとして事業に参
能性は低いものの、事故や災害につ
に留まらず、株主としての社会的責
加する。資源機構では、これらの要素
ながる可能性がある。このため、開
任が問われることとなる。一方、債
に対する審査の是非を以下の考えによ
発プロジェクトのみならず、探鉱プ
務保証は出資に比して事業当事者と
り確定し、その後審査ガイドラインと
ロジェクトも審査対象とする。
しての関与の度合いは低いが、事故
Analyysis
Ana
nalysis
の審査を実施する。
⑶本邦企業がオペレーターとして実施
や災害による資金の損失はまぬがれ
するプロジェクトはもちろんのこ
ない。このため、支援制度の種別に
⑴石油・天然ガスの探鉱・開発は自然・
と、ノンオペレーターとして参加す
関係なく審査を実施する。
社会環境への影響のみならず、作業
るプロジェクトにおいても事故や災
従事者の人身事故や健康障害を起こ
害による資産・資金の損失と社会的
認証を取得・維持してきた経験に基づ
き、以下の事項を重視し、これらの事
項の確認が可能となるような審査内容
にすることとした。
⑴当該国の法規制を遵守して作業が実
施されている(される)こと
⑵適 切 な 環 境 影 響 評 価
(Environmental Impact
1.プロジェクト名
2.プロジェクト実施者のHSE計画
1)HSE基本方針
2)プロジェクトのHSE体制
3)HSE管理計画
3.環境影響評価
1)当該国のEIA制度
2)EIA実施スケジュール
3)EIAの実施範囲
4)EIA実施手順
5)本プロジェクトにおいて予想される主要HSE問題と基本対策案
6)EIA報告書の内容・構成
7)情報公開計画
8)EIA実施予算
9)EIA実施機関
Assessment:以下、
「EIA」という)
およびリスク評価が実施されている
れる。
ys
資源機構は、ISO14001・OHSAS18001
表1 EIAガイドラインの項目
An
3. HSE審査ガイドライン
na
l
y
sis
審査手順を策定することとした。
また、これらの考え方を具現化する
石油・天然ガスの探鉱・開発を実施
ため、世界銀行グループの環境ガイド
する場合、当然のことながら当該国の
⑶ ⑵の結果に基づき、また、資源機
ラインを導入し、自らの認識を反映す
関連法規制は厳守しなければならな
構のHSE審査ガイドラインにのっと
るために一部の項目を追加した。この
い。資源機構では、本邦企業と比較的
り、作業(計画)が実施(策定)さ
ガイドラインは、同グループが実施す
馴染みのある13 ヵ国を対象として環
れ、モニタリングが必要と判断され
る融資に係る判断ガイドラインの一つ
境法規制の調査を実施した。
その結果、
る場合はその実施システムが適切に
として用いられている。国内において
既に環境ガイドラインの整備を済ませ
導入されている(される)こと
は国際協力銀行が同ガイドラインに準
ていた7 ヵ国のうち、6 ヵ国(カタール、
⑷事故発生による被害を最小化するた
拠し環境審査を行っており、資源機構
カナダ、ブラジル、ベトナム、ベネズ
めの緊急時対応計画(操業現場⇒会
が同ガイドラインを導入することによ
エラ、ロシア)の環境ガイドラインが
社⇒資源機構への緊急連絡網を含
り、債務保証申請者が同一のガイドラ
世界銀行グループの環境ガイドライン
む)が準備されている(される)こ
インに基づき融資・債務保証の申請を
とほぼ同様の管理レベルにあり、残り
と
行えるという付属的なメリットが得ら
1 ヵ国(オーストラリア)の環境ガイ
(される)こと
石油・天然ガスレビュー 58
国際競争力の強化につながるHSE審査の導入
ドラインは同グループのもの以上の管
労働安全衛生審査ガイドラインにつ
これらのHSE審査ガイドラインは、
理レベルを要求していた。このため、
いては、OGP(Oil & Gas Producers)
当該国の関連法規制と比べ管理レベル
世界銀行グループの環境ガイドライン
等の国際的なガイドラインを参照し、
が高い場合に用いるが、当該国の関連
は世界各地で操業を行う石油会社にと
さらに関係者からアドバイスを受けつ
法規制の管理レベルが高い場合はそれ
り、比較的受け入れやすいレベルにあ
つ資源機構の認識に基づき策定した。
を用いることにしている。
ると思われる。
表2 HSE審査ガイドラインの項目
1. HSEに対する取り組み全般
1)HSEに対する体制等(HSEマネジメントシステム、EIA報告書等、モニタリング体制、法規制の遵守)
2. HSE審査ガイドライン
1)汚染対策(大気、水質、廃棄物、土壌汚染、騒音・振動、悪臭)
2)自然環境(保護区、生態系、水象、地形・地質、地球環境問題)
3)社会環境(住民移転、生活・生計、文化遺産、景観、少数民族・先住民族、近隣プロジェクト)
4)健康への影響(有害物質、放射性物質、作業騒音、健康管理)
5)安全(設計方針、安全設計、リスク分析、事故防止対策、作業安全・保全、教育訓練)
4. HSE審査手順
までにEIAを実施するよう要請し、
HSE審査では、原則として申請者か
①∼④の観点から審査を実施する。
②HSEリスクが確実に抽出され、資
ら提出されたEIA報告書に基づき書類
資源機構では、前述の13 ヵ国を対
源機構のHSE審査ガイドラインを
審査を実施するが、探鉱事業は開発
象にEIA関連法令についても調査し
満たす適切な対策・管理が実施さ
事業に比してHSEへの負荷が小さいた
たが、全調査対象国においてEIA関
れている(される)こと
め、探鉱出資案件についてはEIA実施
連法令が制定されており(多くの場
前でも申請書を受理し、HSE審査を実
合は1990年代)、開発作業ではEIA
施する。しかし、天然ガス液化出資案
が義務付けられていた。ただし、そ
④モニタリングが必要と判断される
件、資産買収出資案件および開発債務
の内容は多様である。カタール、ア
場合は、それが実施されている
(さ
保証案件については大規模な人身事故
ラブ首長国連邦、シリアは、世界銀
れる)こと
や環境汚染を引き起こす可能性がある
行グループのEIA制度に比して求め
探鉱計画/開発計画承認書(コピー)
ため、EIA実施によりプロジェクトの
る内容が緩く、オーストラリアは世
とEIA承 認 書( コ ピ ー、 当 該 国 に
HSEリスクが確実に抽出され、適切な
界銀行グループのEIA制度よりも厳
EIA承認制度がある場合)は採択の
リスク軽減対策が計画されていること
格であった。また、アゼルバイジャ
要件である。
を受けて申請書を受理し、HSE審査を
ンは、1999年に制定された環境保護
⑶モニタリングが必要と判断されるプ
実施する。
法において、プロジェクト融資を行
ロジェクトに関しては、年間事業計
う世界銀行等の国際協調融資団体の
画ないしは作業計画審査時にモニタ
ガイドラインを使用するよう規定し
リング結果に基づき、資源機構の
ている。
HSEガイドラインもしくは当該国の
⑴EIA実施前の探鉱出資案件について
は、採択審査時にプロジェクトの
EIA終了後の作業計画承認時に⑵の
①当該国よりEIAに関する承認がな
されていること
③緊急時の対応計画・連絡体制が事
前に準備されていること
HSE概要を把握した上で、資源機構
⑵EIA実施後の探鉱出資案件、天然ガ
関連法規制のうち、管理レベルが高
のガイドラインに即したEIAが実施
ス液化出資案件、資産買収出資案件
いものを満たす適切な管理が実施さ
されることを確認するための審査を
および開発債務保証案件について
れていることを確認する。
実施する。ただし、申請者にはHSE
は、採択審査時に以下の観点から
に関する負荷の大きい作業の実施
HSE審査を実施する。
59 石油・天然ガスレビュー
アナリシス
ることを忘れてはならない。
際のプロジェクトに適用し、様々な角
資源機構のHSE審査は一般的に用い
度から検討を加え、質の高いツールに
HSE審査の導入により、資源機構
られている手法に比べ、①労働安全衛
変えて行きたいと考えているが、これ
と申請者の業務は増加する。しかし、
生リスクも審査対象としている、②開
らの特徴がただ単に業務負担に終わる
HSE審査が両者の人材・資産保全に資
発事業のみならず、探鉱事業も審査対
ことなく、HSEリスクの低減に貢献す
するとともに、我が国企業の国際的な
象としている、という特徴を有する。
ることを期待している。
競争力の強化につながるシステムであ
今後HSE審査ガイドラインや手法を実
Analyysis
Ana
nalysis
5. おわりに
An
ys
na
l
y
sis
石油・天然ガスレビュー 60