様式 C-19 科学研究費補助金研究成果報告書 - KAKEN - 科学研究費

様式 C-19
科学研究費補助金研究成果報告書
平成21年5月1日現在
研究種目:若手研究(B)
研究期間:2006∼2008
課題番号:18700524
研究課題名(和文) スピードスケートの加速動作に影響を及ぼす体力的要因に関する研究
研究課題名(英文) Influence of fitness factors for propulsive motion in speed skating
研究代表者
湯田 淳(YUDA JUN)
日本女子体育大学・体育学部・講師
研究者番号:80415835
研究成果の概要:
短距離種目でより大きな加速を得るためにはストローク頻度を増大させる必要があり,その
ためには特に膝関節における最大伸展パワー発揮を高めることが重要となることが示唆された.
また,シニア選手では体幹部の腰方形筋および大腰筋が有意に太く,スピードスケート模倣動
作での股関節のトルク発生が大きいことから,ジュニア選手における滑走動作の改善および体
幹安定化(側屈や屈曲など)のトレーニングの必要性が示唆された.
交付額
(金額単位:円)
2006年度
2007年度
2008年度
年度
年度
総 計
直接経費
3,300,000
100,000
100,000
3,500,000
間接経費
0
30,000
30,000
合
計
3,300,000
130,000
130,000
60,000
3,560,000
研究分野:総合領域
科研費の分科・細目:健康・スポーツ科学,スポーツ科学
キーワード:スピードスケート,加速動作,3 次元動作分析,身体的特性,発育発達
1.研究開始当初の背景
スポーツにおいては技術と体力が密接に
関連しており,両者の複合的な結果としてパ
フォーマンス(競技力)が発現される.した
がって,スポーツにおけるパフォーマンスの
実態をより詳細に捉えるためには技術およ
び体力的側面からの総合的な検討が不可欠
である.しかし,スポーツ科学においてはそ
の研究分野の細分化のため,パフォーマンス
を技術的(スポーツバイオメカニクスなど)
および体力的(スポーツ生理学など)側面に
分け,それぞれの分野において検討を進める
といった研究が多いのが現状である.また,
体力的要因は発育発達段階の影響を大きく
受けることを考慮すると,高い水準までのパ
フォーマンス獲得の過程を明らかにするた
めには,技術および体力的特性をジュニア期
からの変化と関連づけて検討する必要があ
る.
スピードスケート競技に関する研究は国
内外を問わず数多く行われている.技術的要
因に関しては滑走動作の力学的特徴や競技
成績に影響を及ぼす要因などがバイオメカ
ニクス的に検討されており,優れた滑走動作
の特徴が明らかにされてきている.しかし,
これらの研究ではそのほとんどが定常速度
での滑走時における動作を対象としており,
走動作と滑走動作が混在すると考えられる
スタートからの加速局面においてはほとん
ど検討されていない.スピードスケート競技
では,滑走スピードが大きいためトップスピ
ードに到達するまでに比較的多くの時間を
要し,そこで発揮されるパワーは定常速度で
の滑走時よりも加速時の方が著しく大きい.
これは,スピードスケートで良い成績を出す
ためにはトップスピードまで素早く加速す
る能力が要求されることを意味しており,こ
の能力は短時間でレースが終了する短距離
種目では特に重要であると考えられる.一方,
体力的要因については滑走中の生理学的な
負荷特性やラボラトリーテストによるスケ
ート選手の体力特性などが報告されている
ものの,滑走動作と体力特性とを関連づけて
パフォーマンスについて検討した報告はほ
とんど見当たらない.
これらのことから,短距離種目の競技力を
向上させるためにはより大きな加速を得る
ための体力的要因を明確にする必要があり,
氷上での加速能力と下肢のパワー発揮能力
との関係を滑走動作と関連づけて検討する
ことによって,トレーニングにおいて目指す
べき体力的課題を明確にできると考えられ
る.
2.研究の目的
本研究の目的は,スピードスケート競技に
おける加速動作を対象として,発育発達に伴
うパフォーマンスの変化を技術および体力
的側面から検討し,発育発達段階に応じた技
術および体力トレーニング立案に役立つ知
見を得ることである.
3.研究の方法
(1)被験者
被験者には,スピードスケート競技を専門
とする社会人,大学生および高校生の男子 19
名(年齢,19.4±2.6 歳)を用いた.計測に
先立ってこれらの被験者には,研究のねらい
や意義,計測状況,安全性などを説明し,被
験者と指導者(コーチ)から協力の同意を得
た.
(2)形態および下肢パワー発揮能力の測定
①形態
空気置換の全身体密度法による体脂肪測
定装置(LMI 社製,BODPOD)を用いて体重お
よび身体密度を測定し,体脂肪率を算出した.
その後,体重から体脂肪量を減じることによ
って除脂肪体重を求めた.また,1.5T の MR
装置(Siemens 社製,Magnetom Symphony)と
ボディーコイルを用いて,右大腿部および体
幹部における MR 撮像を仰臥位にて行い,そ
れぞれの部位における筋断面積を算出した.
大腿部では,大転子上端と膝関節列隙間の
50%部位における T1 強調断画像 (スピンエ
コー法;繰り返し時間 404 ms,エコー時間
11 ms,積算回数 1 回,撮像領域 240 mm,ス
ライス厚 10 mm,マトリックス 256×256,撮
像時間 3 分 34 秒) を用い,大腿四頭筋(大
腿直筋,外側広筋,中間広筋,内側広筋),
外側ハムストリング(大腿二頭筋長頭および
短頭)
,内側ハムストリング(半腱様筋,半
膜様筋),内転筋(長内転筋,大内転筋),薄
筋,および縫工筋を分析対象筋とした.また,
体幹部では,ヤコビー線上の T1 強調断画像
(スピンエコー法;繰り返し時間 98 ms,エコ
ー時間 4.3 ms,積算回数 1 回,撮像領域 380
mm,スライス厚 10 mm,マトリックス 256×
256,撮像時間 27 秒) を用い,腹直筋,外側
腹筋群(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)
,大
腰筋,腰方形筋,脊柱起立筋群を分析対象筋
とし,左右の各筋における平均値をそれぞれ
の筋断面積として採用した.なお、体幹部の
MR 撮像は,呼吸によるモーションアーチファ
クトを回避するために吸気位での息止め撮
像を実施した.各筋断面積は,専用の画像分
析ソフト(Hitachi Medical Corporation 社
製,Independent System for Imaging
Services)を用いてそれぞれの領域をトレー
スすることで算出した.その際,骨,神経お
よび血管が分析対象筋に含まれないように
配慮した.
②自転車ペダリング運動における発揮パワ
ー
電磁ブレーキ式自転車エルゴメータ
(Combi 社製,Power Max VⅡ)を用い,ペダ
リング運動における下肢の発揮パワーを測
定した.被験者には,右ペダル最高位(右足
が最も上に位置する地点)を 0 度とし,そこ
から前方 45 度に位置する地点をスタート地
点として 10 秒間の全力ペダリング運動を行
わせた.負荷重量はスピードスケート選手の
トレーニングとして一般的に用いられてい
る体重の 10%とし(6.8±0.6 kp),サドルの
高さは任意とした.発揮パワーは 1 秒ごとの
平均値として算出し,10 秒間の平均値(平均
ペダリングパワー)および最大値(最大ペダ
リングパワー)を求めた.
③等速性最大筋力
等速性筋力測定器(Biodex 社製,Biodex
System 3)を用い,60 および 180 deg/s の 2
種の角速度で左右それぞれの膝関節伸展お
よび屈曲筋力を測定した.測定は椅座位で行
い,膝関節の運動範囲は最大伸展位を 0 度と
して 0 度から 100 度と設定した.いずれの試
技においても最大努力での伸展および屈曲
動作を 2∼3 回連続して行わせ,この間に測
定された伸展および屈曲トルクのピーク値
を最大筋力として採用した.本研究では,こ
のようにして得られた最大筋力からそれぞ
れの角速度での左右脚における平均値を求
め,これを下肢の等速性最大筋力とした.
④スピードスケート模倣動作による発揮パ
ワー
被験者には,スピードスケート滑走の模倣
動作として,上方および側方へのトルク発揮
能力をみるためそれぞれ片脚スケートジャ
ンプおよびサイドジャンプを行わせた(図 1)
.
片脚スケートジャンプは,下肢関節を深く屈
曲した片脚支持姿勢(右脚)から上方へ全力
で跳躍するものであり,下肢の反動動作を伴
わない低い姿勢での静止状態からの 1 回全力
跳躍とした.また,サイドジャンプは,下肢
関節を深く屈曲した姿勢で左右へのジャン
プを連続して行うものであり,トレーニング
において一般的に用いられているジャンプ
幅(およそ 1m)での 10 回全力跳躍とした.
【片脚スケートジャンプ】
digital filter により平滑化した.その後,
阿江(1996)の身体部分慣性係数を用いてセ
グメントの質量,重心位置および主慣性モー
メントを算出した.
画像分析から得られたキネマティクス的
パラメータと,フォースプラットフォーム測
定から得られた地面反力を用い,湯田ら
(2007)の方法にしたがって右支持脚の 3 次
元関節トルクおよびトルクパワーを算出し
た.ここで設定された下肢関節の運動軸は,
股関節では内外転軸,屈伸軸および内外旋軸
の 3 軸,
膝関節では屈伸軸と内外旋軸の 2 軸,
足関節では底背屈軸と回内外軸の 2 軸であっ
た.なお,本研究では,それぞれの試技にお
ける支持脚の伸展動作に強く関与する関節
の動きに着目し,片脚スケートジャンプでは
股および膝関節伸展トルク,足底屈トルク,
サイドジャンプでは股関節外転・伸展・内旋
トルク,膝関節伸展・外旋トルク,足関節底
屈・回内トルクにおけるそれぞれの最大値を
採用した.
【サイドジャンプ】
図 1 スピードスケート模倣動作
実験室内のタータントラック上に幅 3m,長
さ 2.9m,高さ 2.5m の計測範囲を設置し,範
囲内に埋設してあるフォースプラットフォ
ーム上で試技を行わせた.撮影は同期した 2
台の高速度 VTR カメラ(NAC 社製,HSV-500C3)
により側方および後方から行い(撮影スピー
ドは 250 fps,露出時間は 1/500 s),1 台の
フォースプラットフォーム(Kistler 社製,
Type 9287B)により右支持脚に作用する地面
反力を測定した.フォースプラットフォーム
からの信号は専用アンプを介して A/D 変換し,
サンプリング周波数 500 Hz でパーソナルコ
ンピュータに取り込んだ.また,同期ランプ
の画像への映し込みおよび同期信号の A/D 変
換ボードへの取り込みによって VTR 画像と地
面反力データとの同期を行った.なお,ジャ
ンプ動作の分析範囲は,片脚スケートジャン
プでは静止状態からの動作開始(地面反力が
体重レベルの 5%を越えた時点)から右脚離
地まで,サイドジャンプでは 10 回の跳躍に
おける接地のうち動作が安定するスタート
後 5 回目の接地期(右脚接地から離地まで)
とした.
得られた VTR 画像から VTR digitizer(DKH
社製,Frame-DiasⅡ)により身体各部位 23
点をデジタイズし,DLT 法を用いて 3 次元座
標を算出した.得られた 3 次元座標は,残差
分析法(Winter,1990)により最適遮断周波
数を決定し,4 次の Butterworth low-pass
(3)氷上におけるパフォーマンスの測定
被験者 19 名のうち,14 名は長野市オリン
ピック記念アリーナ(エムウェーブ)で開催
された第 13 回全日本スピードスケート距離
別選手権大会における男子 500m 競技を,残
りの 5 名は当日の競技終了後に同様の条件下
において実施された 500m タイムトライアル
を分析対象とした.
光電管を用いて測定された公式記録のう
ち 100m 通過タイムを氷上滑走での加速能力
を表す指標とした.また,1 台の高速度 VTR
カメラ(NAC 社製,HSV-500C3)によりスター
ト後 50m 付近の滑走動作を側方からパンニン
グ撮影し(撮影スピードは 250 fps,露出時
間は 1/500 s)
,得られた映像から 1 ストロー
ク(左右いずれかのスケートブレード離氷か
ら引き続く反対脚のスケートブレード離氷
まで)に要する時間を求めた.このようにし
て算出した所要時間の逆数をストローク頻
度と定義し,氷上滑走での加速動作を表す指
標とした.
(4)統計処理
測定結果における群間の差を検定するた
めに対応のない t 検定を行った.また,2 変
数の関係をみるために相関係数を算出した.
これらの有意水準はいずれも 5%以下とした.
4.研究成果
(1)下肢パワー発揮能力と氷上加速能力と
の関係
ここでは,500m レースにおける 100m 通過
タイムをもとに上位群 8 名(9 秒台)および
下位群 11 名(10 秒台)に分けて検討を進め
た.
スピードの観点からの検討は行われてはい
ない.したがって,今後,加速能力を滑走動
作との観点からより詳細に明らかにするた
めには,氷上滑走における動作スピードに影
響を及ぼす技術的要因を体力的要因と関連
づけて検討していく必要がある.
上位群
下位群
*** : p<0.001
* : p<0.05
12
3.5
45
***
3.0
6
4
2
ストローク頻度 (stroke/s)
500mゴールタイム (s)
8
*
***
40
10
100m通過タイム (s)
図 2 に上位群および下位群における 500m
レースのパフォーマンスを平均値および標
準偏差で示した.また,表 1 に 100m 通過タ
イムおよびストローク頻度と各種パラメー
タとの相関係数を示した.100m 通過タイムは
上位群の方が下位群よりも有意に早く,500m
ゴールタイムとの間にも有意な正の相関が
みられた.これらのことから,500m レースの
パフォーマンス向上には 100m 通過タイムを
早めることが重要であり,本研究の分析対象
において,加速能力は上位群の方が優れてい
たといえる.
本研究において,ストローク頻度は上位群
が有意に大きく(図 2),100m 通過タイムと
ストローク頻度との間には有意な負の相関
がみられた(表 1)
.このことは,短距離種目
における加速能力を高めるためには加速時
のストローク頻度を増大させることが重要
であることを示唆しており,ストローク頻度
は氷上での加速能力を表す指標となり得る
と推察される.また,ストローク頻度に影響
を及ぼす体力的要因をみると,全力ペダリン
グ運動による最大パワー,60 および 180
deg/s の角速度での膝関節の等速性最大伸展
筋力,片脚スケートジャンプでの膝関節最大
伸展パワーにおいて有意な正の相関がみら
れた(表 1)
.これらの体力的要因と 100m 通
過タイムとの間に有意な関係がみられてい
ないことを考慮すると,これらの体力的要因
は 100m 通過タイムを短くすることに直接影
響を及ぼすというわけではなく,加速時のス
トローク頻度を増大させるために要求され
る体力的要因であると捉えることができる.
氷上でのパフォーマンス向上のためには体
力的要因に加えて技術的要因も重要であり,
優れた滑走動作(技術)を獲得するために備
えなければならない体力的要因も存在する
と考えられる.このようにみてくると,前述
のストローク頻度に強く影響を及ぼす体力
的要因は,優れた加速技術を獲得するために
要求される体力的要因として捉えることが
できよう.
一方,ペダリング運動には膝関節伸展の主
働筋である大腿四頭筋が大きく関与するた
め,膝関節における最大伸展パワーを高める
ことの必要性は氷上での加速時のストロー
ク頻度を増大させることにあると考えられ
る.ストレート滑走中の下肢のキネティクス
についてはいくつかの報告がみられ,プッシ
ュオフ動作においては主に大殿筋と内側広
筋によってパワーが発揮されていることや
(de Boer et al.,1987),股関節まわりの
パワー発揮が重要(結城,1996)であること
が示唆されている.しかし,これらの研究で
は,いずれもプッシュオフ動作のメカニズム
を滑走速度との関係に着目して検討されて
はいるものの,ストローク頻度といった動作
35
30
25
20
15
10
5
0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0
0
図2
上位群および下位群における 500m レースの
パフォーマンス
表1
100m 通過タイムおよびストローク頻度と各
種パラメータとの相関係数
100m通過タイム
ストローク頻度
ストローク頻度
-0.672**
-
500mゴールタイム
0.909***
-0.450
体脂肪率
0.422
-0.156
除脂肪体重
-0.346
0.274
平均ペダリングパワー
-0.410
0.381
最大ペダリングパワー
-0.399
0.585**
[email protected]/s
-0.422
0.528*
[email protected]/s
-0.585**
0.411
[email protected]/s
-0.341
0.509*
[email protected]/s
-0.564*
0.371
等速性膝関節最大筋力
股関節最大伸展パワー
-0.359
0.329
膝関節最大伸展パワー
-0.330
0.484*
足関節最大伸展パワー
-0.221
0.358
*** : p<0.001,** : p<0.01,* : p<0.05
以上のことから,良くトレーニングされた
トップ選手では陸上トレーニング手段にお
けるパワー発揮能力のみで加速能力を評価
することはできないことが明らかとなった.
また,短距離種目でより大きな加速を得るた
めにはストローク頻度を増大させる必要が
あり,そのためには特に膝関節における最大
伸展パワー発揮を高めることが重要となる
ことが示唆された.そして,膝関節における
最大伸展パワー発揮能力は,氷上滑走での動
作スピードを評価するための指標として用
いることが可能であり,加速能力を向上させ
るための体力トレーニングにおいて重要と
なることが示唆された.
(2)形態的特徴とパフォーマンスとの関係
ここでは,男子ジュニア選手 10 名(以下,
ジュニア群)およびシニア選手 9 名(以下,
シニア群)に分けて検討を進めた.なお,500m
ゴールタイムはシニア群の方がジュニア群
よりも有意に早く(ジュニア群,37.96±0.65
秒>シニア群,36.45±0.73 秒;p<0.001),
シニア群の方がパフォーマンスは高いとい
える.
身長,体重,体脂肪率および除脂肪体重の
いずれにおいても群間に有意差はみられな
かった.一方,全筋断面積は,大腿部では群
間に有意差はみられなかったが,体幹部では
シニア群(199.1±15.9 cm2)の方がジュニア
群(178.0±14.9 cm2)よりも有意に大きかっ
た(p<0.01).
図 3 にジュニア群およびシニア群における
大腿部各筋の断面積を平均値および標準偏
差で示した.筋断面積は,大腿直筋,外側広
筋,中間広筋,内側広筋,外側および内側ハ
ムストリング,内転筋,薄筋のいずれにおい
ても群間に有意差はみられず,縫工筋でのみ
シニア群(5.8±0.7 cm2)の方がジュニア群
(5.1±0.7 cm2 )よりも有意に大きかった
(p<0.05).スピードスケートにおいては下
肢による爆発的なパワー発揮が重要であり,
これには膝伸展パワーを発生するための膝
関節伸筋群が必要とされる.しかし,パフォ
ーマンスの異なるジュニア群およびシニア
群においては膝関節伸筋群における断面積
に明確な差がみられず,高い競技水準におけ
るパフォーマンスの差は大腿部の筋形態の
みでは評価できないことが示唆される.
大腿直筋
* : p<0.05
外側広筋
ジュニア群
シニア群
中間広筋
内側広筋
縫工筋
*
外側ハムストリング
内側ハムストリング
内転筋
薄筋
0
10
20
30
40
50
60
筋断面積 (cm2)
図3
ジュニア群およびシニア群における大腿部
各筋の断面積
一方,図 4 にジュニア群およびシニア群に
おける体幹部各筋の断面積を平均値および
標準偏差で示した.筋断面積は,腹直筋,外
側腹筋群および脊柱起立筋群のいずれにお
いても群間に有意差はみられず,大腰筋およ
び腰方形筋ではいずれもシニア群(大腰筋,
21.7±1.3 cm2;腰方形筋,9.9±2.7 cm2)の
方がジュニア群(大腰筋,18.5±2.5 cm2;腰
方形筋,7.9±0.9 cm2)よりも有意に大きか
った(それぞれ p<0.01,p<0.05).これらの
結果は,体幹部の筋断面積が競技水準の高い
選手のパフォーマンスを評価する際の指標
となり得ることを示唆している.
筋の形態的特徴は,パフォーマンスに大き
く影響を及ぼすものであり,選手が繰り返し
行ってきた動作でのパワー発揮の結果とし
て引き起こされた変化として捉えることが
できよう.このようなパワー発揮の特徴を明
らかにするため,本研究では陸上での模倣動
作を用いて両群における専門的パワーを検
討した.
** : p<0.01
* : p<0.05
ジュニア群
シニア群
腹直筋
外側腹筋群
大腰筋
**
腰方形筋
*
脊柱起立筋群
0
10
20
30
筋断面積 (cm2)
図4
ジュニア群およびシニア群における体幹部
各筋の断面積
図 5 にジュニア群およびシニア群における
片脚スケートジャンプでの下肢関節最大ト
ルクを平均値および標準偏差で示した.伸展
トルクは,股,膝および足関節のいずれにお
いてもジュニア群とシニア群との間に有意
差はみられず,これは膝関節伸筋群において
群間に有意差がみられなかったという前述
の結果と類似していた.また,図 6 にジュニ
ア群およびシニア群におけるサイドジャン
プでの下肢関節最大トルクを平均値および
標準偏差で示した.氷上ストレート滑走にお
いて重要となる股関節まわりのトルクをみ
ると,最も大きな値のみられた伸展トルクで
はジュニア群とシニア群との間に有意差は
みられなかったが,外転および内旋トルクで
はいずれもシニア群の方がジュニア群より
も有意に大きかった(それぞれ p<0.05,
p<0.01).一方,ジュニア群では足関節の底
屈トルクにおいてシニア群よりも有意に大
きい値を示した(p<0.05).これらのことか
ら,シニア選手では模倣動作においても氷上
ストレート滑走で重要となる股関節外転ト
ルク発揮が大きく,身体の中枢に位置づけら
れる股関節まわりの筋群でのトルク発揮が
強調されているのに対して,ジュニア選手で
40
は末梢部となる足関節でのトルク発揮が強
調されていると考えられる.このような結果
は,前述の体幹部の筋断面積において群間に
有意差がみられたことを強く反映している
ものと考えられる.
5
関節トルク (Nm/kg)
ジュニア群
シニア群
4
3
2
1
0
股関節
膝関節
足関節
図5
ジュニア群およびシニア群における片脚ス
ケートジャンプでの下肢関節最大伸展トル
ク
ジュニア群
シニア群
** : p<0.01
* : p<0.05
関節トルク (Nm/kg)
6
股関節
膝関節
足関節
5
4
3
*
*
**
2
1
0
外転
伸展
内旋
伸展
外旋
底屈
回内
図6
ジュニア群およびシニア群におけるサイド
ジャンプでの下肢関節最大トルク
サイドジャンプは側方への連続跳躍のた
め,支持脚伸展動作における股関節の外転ト
ルクは腰部の側方への加速を大きくし,これ
は体幹の側屈を引き起こすと考えられる.ま
た,この際の内旋トルク発揮は,大腿部を内
旋させることによる下肢の内傾を引き起こ
し,これによって下肢の伸展による地面反力
ベクトルはより側方へ向けられると考えら
れる.したがって,これらのトルク発揮の大
きかったシニア群では,動作遂行中において
繰り返し起こる体幹の側屈といった滑走姿
勢の崩れを引き起こし易いと推察される.こ
のため,シニア群では動作遂行中に体幹(脊
柱)を安定させるための力発揮がより求めら
れ,これが体幹部の腰方形筋(腰椎の側屈や
骨盤と腰椎の安定に関与)などの体幹部の筋
群の著しい発達へと繋がったと考えられる.
これらのことから,スピードスケートでは
大きな膝伸展パワーの発揮が重要となるが,
ジュニア選手であっても比較的高い競技力
を有する場合では膝関節伸筋群は十分にト
レーニングされている可能性が示唆された.
また,シニア選手では体幹部の腰方形筋およ
び大腰筋が有意に太く,スピードスケート模
倣動作での股関節のトルク発生が大きいこ
とが明らかとなった.これらのことから,ジ
ュニア選手における滑走動作の改善および
体幹安定化(側屈や屈曲など)のトレーニン
グの必要性が示唆された.
参考文献
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(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に
は下線)
〔雑誌論文〕
(計 1 件)
① 湯田淳,村田正洋,横澤俊治,山辺芳,
山田哲,青柳徹,スピードスケート短距
離選手における加速能力と下肢パワー発
揮能力との関係,トレーニング科学,20
巻,2008 年,43-53,査読有り
〔学会発表〕
(計 1 件)
①湯田淳,柳澤修,青柳徹,スピードスケー
トジュニア短距離選手における大腿および
体幹部の形態的特徴,第 20 回日本トレーニ
ング科学会大会,2007 年 11 月 16∼18 日,東
京大学駒場キャンパス
6.研究組織
(1)研究代表者
湯田 淳(YUDA JUN)
日本女子体育大学・体育学部・講師
研究者番号:80415835