大量のRFIDデータを扱う概念共有環境CONSENTの運用による実用性

DEIM Forum 2009 B3-1
大量の RFID データを扱う概念共有環境 CONSENT の運用による実用性
の評価
清水
隆司†
古賀
浩史††
富井
尚志†††
† 横浜国立大学大学院環境情報学府情報メディア環境学専攻
†† 横浜国立大学工学部電子情報工学科
††† 横浜国立大学大学院環境情報研究院
〒 240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台 79-7
E-mail: †{d07hc023,b0544055,[email protected]
あらまし
ユビキタス環境において行動支援を行うことを考えたとき,センサから取得可能な物体の位置や状態だけ
から支援を行うのは限定的であるため,より有意な情報を取得することが重要となってくる.また行動支援に用いる
データを集める際には,できるだけ利用者に負担をかけないことも重要である.本研究では有意な情報として,空間
固有の知識や常識,他の人間の行動といった空間の概念を扱うことを考えた.そこで,空間や個人の概念をモデル化
して DB に蓄積する. さらに本研究では大量に RFID タグを埋め込んだ環境を構築し,利用者はセンサを意識せず
に,自然に生活するだけで,行動支援を受けることができるようにした.そしてこの大量にデータの生成される環境
において,運用可能性と行動支援の効果を検証した.
キーワード
ユビキタスコンピューティング,時空間 DB,RFID
Evaluation of the practical utility by operational experiment of Concept
Sharing Environment handling a large quantity of RFID data
Ryushi SHIMIZU† , Hiroshi KOGA†† , and Takashi TOMII†††
† Department of Information Media and Environment Sciences, Graduate School of Environment and
Information Sciences, Yokohama National University
†† Division of Electrical and Computer Engineering, Yokohama National University
††† Graduate School of Environment and Information Sciences, Yokohama National University
79-7 Tokiwadai, Hodogaya-ku, Yokohama 240-8501 Japan
E-mail: †{d07hc023,b0544055,[email protected]
Abstract There are some important information that sensors can not acquire. When we make an action in a space
where more than a few people live, we are always affected by the rules or other people’s actions. We proposed the
CONSENT(Concept Sharing Environment) that could share information above as a previous work. In this paper,
we built an environment in which thousands of RFID tags are embedded, and evaluated practical utility of this
system by operational experiment. To put it concretely, we evaluate feasibility of this system by investigating how
much data it can handle. And also we evaluate usability of this system by implementing some applications and
investigating if users’ thoughts are shared.
Key words Ubiquitous Computing, Spatial-temporal DB,RFID
1. は じ め に
近年,安価で高性能な計算機やネットワークが容易に利用で
きるようになってきた.さらに RFID のような実空間情報を容
易に取得できるセンサ類の技術的進歩がめざましく,安価であ
るため環境にセンサをばらまくことが現実的になってきた.ま
た,総務省が掲げている u-Japan 政策 [1] といった政策的展開
により,生活空間内から環境情報を取得するような「ユビキタ
ス環境」の発展が,今後,より進むであろうと考えられる.
ユビキタス環境では環境に大量のセンサを埋め込み,常に大
量のデータを集めることも可能となる.しかしただ大量にデー
に着け,行動認識を行い,生活データの収集が行われている.
タを集めていても,集めることが利用者の負担になり,集めた
また,Tagged World [7] [8] では,部屋内の様々な場所に配置さ
データが利用者支援に用いることができない意味のないデータ
れた RFID タグと人が携帯するリーダによって人の行動を認識
では,有用ではない.そこで,空間利用者の行動支援を行うこ
し,その意図を推定することが行われている.一方でユビキタ
とを考えたとき,
ス環境を日常的に運用することを考えると,大量のセンサデー
(1) (データの取得) 行動支援に用いるデータを集める際には,
タが生成されるため,これらのデータを効率的に蓄積・管理す
できるだけ利用者に負担をかけない.
ることが必要となる.TinyDB [9] ではセンサノード間のデータ
(2) (データの蓄積) センサから取得可能な物体の位置や状態
転送量の削減を行うことで,効率的なデータ管理を実現してい
だけから支援を行うのは限定的であるため,より有意な情報を
る.また MauveDB [10] ではセンサノード間によってデータの
蓄積する.
不完全性を補完することが行われている.これらに対し、我々
(3) (データの利用) センサから取得した大量のデータを利用
は先行研究として RFID 等によって取得したセンサデータか
者が必要に応じて検索できるモデルをもつ.
ら実空間の物体の状態を取得し,それらを蓄積するユビキタス
といったことが重要になってくる.
環境 DB を持つ「概念共有環境 CONSENT(Concept Sharing
(1) について,本研究では環境に RFID タグを大量に埋め込
Environment)」を提案してきた [11].このユビキタス DB は
み,利用者にウェアラブルセンサを身に付けることを考えた.
効果的なモデル化とインデックスを付与したデータベース化に
具体的には,利用者に無線リーダと無線加速度をつけ,1つの
よって,効率的な蓄積・管理を実現している.そしてさらに,
物体に1枚以上の RFID タグを貼ることでタグの貼ってある箇
現実の状態や利用者の意図,物に関する知識をデータベース化
所を意識して触れる必要のない環境を構築した.これにより利
することで,複数の利用者でそれらの情報の共有が可能であ
用者はコンピュータを意識せずに,自然に生活するだけで,行
る [12].
動支援を受けることができると考えた.RFID と加速度センサ
を用いて,行動データを取得する方法は文献 [2] でよい成果を
得ている.そのために RFID と加速度センサを用いているが,
方針としてはあらゆるセンサを用いて多くのデータを用いる環
境を想定している.
2. 2 概念共有環境 CONSENT
本節では,概念共有環境 CONSENT(以下、単に CON-
SENT)について簡潔に説明する.
2. 2. 1 基本モデル
RFID などのセンサ類によって,利用者が意識することなく,
また(2)について,有意な情報として,空間固有の概念を
日常的に発生する大量の行動データを取得することができるよ
扱うことを考えた.人間は行動するとき,物体の状態だけでな
うになった.しかし物体の持っている意味や操作の意図などの
く,その空間固有の知識や常識,他の人間の行動といった,よ
概念的な要素はセンサでは取得できない. そこでセンサデータ
り概念的なものに意識的・無意識的に影響を受けていると考え
に加え,そのセンサデータが何を表しているのかという意味情
られる.そのため,センサで取得できないこれらの概念的な情
報や,その空間を利用する上で意識的・無意識的に了解してい
報を共有できれば有用と考えた.そこで先行研究では,これら
る概念を DB に蓄積し,さらに視覚的な支援のため VR による
のことを実現するために設計及び実装を行ってきた [3].その方
形状データを関連付ける.それらによって,意味を考慮した空
法は,RFID などのセンサから取得される現実の状態と,空間
間情報の活用や行動支援 [12] が可能となる.
や個人の概念,つまり,ある空間固有の「その物体があるべき
そこで概念の共有を可能とし,大量に発生するデータを効率
状態」や「このようにしておいてほしい状態」を DB 内に並列
的に蓄積・利用するために,CONSENT では以下の 3 種に分
して蓄積するモデルを構築する.そして,ふたつの状態の間に
けて管理する基本モデルを導入した.
乖離が生じた際,乖離を修正する操作要求をすることで,空間
や利用者の概念を利用した行動支援を実現した.
さらに (3) について,本研究の提案するシステムで取得する
データを,有意な三段階のデータに分類し,定義した.この
データの分類を基にして設計を行い,行動支援を実装した.
そしてこの大量にデータの生成される環境において,運用が
( 1 ) 意味情報をオントロジによって明示的・体系的に記述
する(意味層)
( 2 ) センサデータや形状データなどのマルチメディアデー
タを蓄積する(マルチメディアデータ層)
( 3 ) それらを関連付けた実体を蓄積する(存在エンティ
ティ層)
現実的であるか,実証実験を行い評価した.また実用的なシナ
実在のオブジェクトには RFID タグや RFID リーダを取り
リオを考え,それに沿ったアプリケーションを実装し,有意な
付け,それらの ID やセンサ値をマルチメディアデータ層に蓄
情報を取得できているか検証した.
積し,DB 内の存在エンティティに対応付ける.タグや RFID
2. 背
景
リーダの ID はオブジェクトの存在エンティティに相当し,そ
こから得られるセンサ値は操作の存在エンティティに相当する.
2. 1 ユビキタス環境
これにより,現実状態の取得を実現できる.CONSENT の論
計算機や様々なセンサ類の技術的発達,そして普及により,
理スキーマを図 1 に示す.このモデルにより、空間に存在する
ユビキタス支援の研究が盛んに行われている [4] [5].たとえば,
情報や RFID から得られた状態 (EE) をデータベース化するこ
文献 [6] では,加速度や音,気圧などの様々なセンサを人に身
とが可能となる.
TO_TO
META_RELATION
TO_ID1 (FK)
TO_ID2 (FK)
MR_ID (FK)
LABEL
OWL_URI (O)
RO_ID1 (FK)
RO_ID2 (FK)
MR_ID (FK)
TO_RO
THING_ONTOLOGY
ID
意味層
RELATION_ONTOLOGY
ID
TO_ID (FK)
RO_ID (FK)
MR_ID (FK)
LABEL
OWL_URI (O)
ある.
RO_RO
ID
( 2 ) クライアント・サーバモデルでの実現性
大量の情報が氾濫している現在,P2P [13] などのアーキテク
チャが注目されている.しかし近年の計算機,ネットワーク技
LABEL
OWL_URI (O)
術の発達により,クライアント・サーバ (C/S) はサーバに負荷
EE_ONT
EE_ID (FK)
TO_ID (FK)
が集中するというボトルネックがあるにもかかわらず現在でも
STATE_EE
EE
EE層
EE_ID (FK)
ID
SUBJECT (FK)
PREDICATE (FK)
OBJECT (FK)
ANNOTATION (O)
EE_MULTI
SUBJECT (FK)
PREDICATE (FK)
OBJECT (FK)
マルチメディア
データ層
MULTI_MEDIA
ID
DATA_TYPE
DATETIME_DATA
BARCODE
SHAPE_DATA
IMAGE
RFID
RFID_RESPONSE
ACCELERATION
MM_ID (FK)
MM_ID (FK)
MM_ID (FK)
MM_ID (FK)
MM_ID (FK)
MM_ID (FK)
MM_ID (FK)
DATA
BARCODE
TEXTURE (FK)
POLYGON (FK)
IMAGE
TIME
READER (FK)
TAG (FK)
TIME
VALUE
POLYGON
ID
ID
TEXTURE
ANNOTATION (O)
POLYGON
ANNOTATION
するユビキタス環境では常時大量のデータが生成される.した
がって,C/S でシステムを構築した場合にはサーバへのアクセ
EE_ID (FK)
TEXTURE
多くのシステムに導入されている.一方でセンサが大量に存在
ID
TYPE
COORDINATE
MM_ID (FK)
T_X
T_Y
T_Z
R_X
R_Y
R_Z
R_GAMMA
図 1 ユビキタス環境 DB スキーマ
Fig. 1 The Schema for the Ubiquitous Environment DB
ス集中というボトルネックはより大きな問題になると考えられ
る.そして本研究で提案している COSENT においても,大量
にデータが生成されることが想定され,C/S で構築した場合に
は行動支援に支障をきたすことも考えられる.そのため C/S で
構築した場合でも運用可能であるか,検証する必要がある.
3. 有意なデータ取得の設計
本章では 2. 2. 2 節で示した問題点について,解決するために
行った設計を述べる.
3. 1 行動支援の設計
2. 2. 2 大量に情報を扱う上での課題
ユビキタス空間にはセンサで取得されるデータだけでなく,
実際には空間に存在するルールや人の操作の意図といったあら
ゆる情報が大量に存在している.本節では,これらの大量の情
報を扱う上で生じる問題点を述べる.
( 1 ) 生活環境の維持
複数の利用者が存在する空間では,空間固有の知識や常識,
他の人間の行動といった概念的な要素があり,人が行動する際
には意識的・無意識的に影響を受けていると考えられる.円滑
に効率よく生活や仕事をできる環境を維持するには,空間に存
在する概念は重要である.しかし実際に生活する環境には多く
の空間固有の概念が存在している.そのため,ほとんどの概念
は情報が多くて把握できない,忘れてしまう,他者に明に示さ
れない,といったことがあるために生活環境はうまく維持でき
ていない.その例として以下のようなものが挙げられる.
•
保存期間の管理
消費期限や保障期間のあるものはたくさんあるが,複数の人
の物が多く存在しているためにすべての期限を常に意識するの
は困難である.
•
共有物品の管理
複数の人で共有している物体は,人の間で行き来するために
状態を把握するのは困難である.
•
仕事の管理
定期的な掃除や会議の準備といった全員に共通の仕事も特定
の人ばかりが行い,負担が偏っていることの把握が困難である.
•
環境の管理
部屋の温度などは温度センサでデータを取得したとしても,
人それぞれが快適に感じているか把握が困難である.
効率よく仕事ができる環境を維持するためには,これらの例
のような把握が困難な概念情報を共有できる仕組みが必要で
人は複数人の社会空間の中で行動を行うとき,その空間の
ルールや他の利用者の行動に影響を受ける.しかしこれらの要
素は概念的に存在するものであるため,忘れてしまう,気が付
かない,他者に明に示されない,といったことが生じやすい.
また,センサで直接獲得できるものではない.これらの点につ
いて,空間のルール(概念的な状況)と現実の状況が一致しな
い場合に利用者を喚起するような支援ができれば有用である
と考えた.そこで,CONSENT では以下の2つの状態を定義
した.
( 1 ) 現実状態
実空間の物体に対して,センサから直接取得したデータに
よって記述される状態.すべての物体に 1 枚以上の RFID タグ
を貼り,利用者が RFID リーダと加速度センサを身につけるこ
とで「2007/12/18 20:00:00(552) に A(20) さんによって C#の
参考書 (12526) が机 (8923) に置かれた (25578)」という状態を
取得する.
( 2 ) 概念的操作状態
利用者のもつ意図や空間固有のルールから生成された,
「こう
であるつもり」「こうであるべき」という状態.利用者が手動
で明示的に登録する,あるいは特定条件下で自動的に生成する.
自動的に生成する場合は「毎週水曜日にはxxにyyする」の
ような固定的な条件(if)とその場合の手続き(then)によっ
て記述する.
この2つの状態を並列してデータベースに蓄積し,概念的操
作状態と現実状態の乖離が生じたことを利用者に直接提示する
ことで行動支援を可能とする.
3. 2 データの分類
大量にセンサデータを取得できたとしても,ユーザが必要に
応じて行う検索に耐えられるモデルを持たなければ,効率的な
データの利用ができない.そこで,取得されるデータを3段階
に分けて,定義する.
冷蔵庫 お茶 ゴミ箱
お茶
冷蔵庫
しまう 取る 読む 捨てる
デー
タベ
ー
ス
操作候補
図2
図3
システムの構成
Fig. 2 Configuration of Proposed System
i Raw Data(センサデータ)
状態乖離の提示
Fig. 3 Estrangement Indication
2つの状態に乖離が発生した場合,利用者に喚起するため,
•
センサで取得される生データ
乖離が起きる操作が行われたときと,管理者が指定した間隔で
•
位置情報登録や移動履歴に利用できる [14]
モニタリングし乖離があったときに,
「乖離を修正せよ」との命
ii Action Data(センサデータ+操作情報)
令が適切な利用者にポップアップ形式で提示される.ここで適
•
行われた操作のデータ
切な利用者とは,指定された人あるいは指定のない場合は当番
•
操作履歴から過去の状態検索や行動パターンの抽出が可
制で長期的に見て負担が偏らないように振分ける.振分け方は
能 [15] [16]
単純にラウンドロビンとした.これにより利用者の行動に対し
iii Conceptual Action Data(センサデータ+操作情報+概念)
て次のような効果が得られることが期待できる.( i ) 普段利用
•
ルールに従って行われた操作のデータ
者ごとに偏っている仕事を分散する.( ii ) 普段行っていなかっ
•
概念の共有や支援による仕事の負担分散が可能 [3]
た仕事を新たに行うようになる.
この分類は下のデータであるほど,有意であることを示して
喚起された利用者は図 3 のような状態の乖離を表示する UI
いる.本研究では,これらのデータを取得する中で 3. 1 節で述
を確認し,乖離がなくなるように実空間を整合する.矢印の根
べた行動支援によって,iii のデータを増やし,利用者間で空間
本が現実状態の位置,先が概念的操作状態に従った位置となっ
の概念を共有できたことを示す.
ている.これらの仕組みにより,複数の利用者が生活する中で
3. 3 システムの設計
負担が偏ることなく環境の維持を可能にすることを目指す.
センサが反応してからの処理の流れを図 2 のように設計した.
表1
1 ∼⃝
4 までは必ず
まずセンサがタグと反応すると,その度に ⃝
条件項目
Table 1 Condition List
4 ではあらかじめデータベースに記述しておいた可
行われる.⃝
条件名
振舞い
能な操作から候補の操作を取得する.図では,
「お茶」と「冷蔵
Time(時刻)
指定の時刻になったとき
庫」が反応し,その組み合わせによりデータベースから「しま
Week(曜日)
指定の曜日になったとき
う」「取り出す」といった操作候補を取得する.このとき候補
Place(場所)
指定の場所に存在したとき
の操作がなければ,センサデータのみ挿入する.候補がある場
Term(期間)
指定の期間存在したとき
合は候補の中から選択し挿入する.選択方法は加速度センサに
よって行動推定を行い,自動で選択する.このときの行動推定
Action(操作) 指定の操作が行われたとき
Count(個数)
物体が指定の個数になったとき
手法は先行研究である文献 [2] を基にした.このシステムによ
りできる限り意味のあるデータを取得することを目標とする.
4. 2 ユビキタス環境の構築
利用者が生活する中で行動データを取得することを考えたと
4. 概念を用いた行動支援の実装
き,利用者に負担をかけずに意識することなく取得できること
本章では 3. 章で設計したモデルに基づいて実装を行った.
が重要である.そこで,利用者に無線 RFID リーダと無線加速
4. 1 行動支援の実装
度センサを身に着け,RFID タグを 1 つの物体に 1 枚以上,頻
2. 2. 2 で述べた環境の維持は現実状態と概念的操作状態を並
繁に行動する場所には100枚を超える枚数を貼り付けた.こ
列的に蓄積することで可能となる.現実状態はセンサにより,
れによりあらゆる箇所にタグが貼ってあるため,利用者はタグ
利用者が意識することなく生活しているだけで取ることができ
の貼っている箇所を意識して触れる必要はなく,自然に生活で
る.しかし,概念的操作状態は概念そのものなのでセンサでは
きると考えた.さらに行動データの取りこぼしが減るという利
取得できない.従って利用者が明示的に入力,あるいはなんら
点もある.本研究の実験では,RFID と加速度センサにより生
かの固定条件(if)をトリガーにして自動的にその場合の手続
活データを集めるが,RFID に限らず様々なセンサにより,さ
き(then)を入力するようなルールを設定する.今回は表 1 に
らに多種のデータを取得できることが望ましい.
示した条件を実装し,環境の維持を試みる.
また図 2 に従ってシステムを実装した.各利用者は Bluetooth
5. 運用実験と考察
4000
分
/3500
数
理3000
処
ンョ2500
シク2000
ザ
ンラ1500
ト1000
の
バ
ー500
サ 0
4. 章で実装したシステムの検証を行うために,オフィス(研
究室)を対象とした日常生活実験を実施した.実験環境は以下
サーバA
サーバB
の通りである.
対象空間面積:164m2
実験参加者数:11 人
実験期間:2008/12/08∼2009/01/24
サーバ:1 台
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29
クライアント数
図 4 サーバの負荷実験
Fig. 4 Measurement of server load
・CPU : Intel Xeon 3.40GHz Dual-Core
・メモリ : 4GB
・OS : Windows Server 2008
・DBMS:Microsoft SQL Server 2005
クライアント:15 台
により接続されたホストにセンザデータを送る.そして各ホス
トからデータベースサーバにデータを入出力する一般的なクラ
イアント・サーバモデルで構築した.図からもセンサの反応の
度にサーバへのアクセスを数回必要とする.CONSENT では
利用者間の意思疎通が困難な数十人程度の規模の空間を想定し
ているが,タグがばらまかれた空間を数十人が行動すると大量
のデータが発生し,サーバにアクセスが集中することが考えら
れる.そのため,予備実験としてシングルサーバ環境での同時
実行性について検証した (図 4).サーバは以下の 2 種類に対し
て検証した.
•
サーバ A
– CPU : Intel Xeon 3.40GHz Dual-Core
– メモリ : 4GB
– OS : Windows Server 2008
– DBMS:Microsoft SQL Server 2005
•
サーバ B
– CPU : Intel Core2 Quad Q9550 2.83GHz
– メモリ : 8GB
– OS : Windows Server 2008
– DBMS:Microsoft SQL Server 2008
2 ∼⃝
6 までを指す.そしてプログ
1 トランザクションは図 2 の ⃝
ラムにより,1 分間の間各クライアントから同時にトランザク
ションが発生するように制御した.クライアント数を増やして
いき,1 分間にサーバの処理することできたトランザクション
数を計測した.この結果,性能のあまりよくないサーバにおい
て 30 人が同時に行動を行っていても,1 人当たり 1 分間に 30
回以上の動作が可能であった.日常生活の中で全員が毎分 30
回も動作することは考えにくい.従って現在のハードウェアを
用いたシングルサーバ環境に提案システムの実装を行っても,
日常生活であれば運用が現実的であると考えた.しかし,実際
は日常ではどれほどの行動が行われるか定かではない.そこで
最も単純なアーキテクチャであるシングルサーバ環境において,
日常生活での運用実験をすることで検証する.
RFID タグ:OMRON 社製 13.56MHz 帯 V207-D13P01
同 V207-D13P02 (合計約 4200 枚)
RFID リーダ:FUJITSU 社製 F3972T130 (14 台)
Welcat 社製 WIT-120-T(1 台)WIT-150-T(2 台)
本研究の概念を利用した行動支援の効果を確認するため,実験
を前半と後半に分けることにした.2008/12/08∼ 2008/12/28
までを前半とし,実装した行動支援は利用せず,実験開始前と同
じ生活を行ってもらい,その現実状態を登録した.2009/01/04∼
2009/01/24 の後半では行動支援を行いながら日常生活実験を
行った.ここでの行動支援とは,4. 1 節で述べたように,現実
状態と概念的操作状態の2つの状態が乖離したら,整合するよ
うに利用者に喚起することである.
5. 1 行動支援の評価
本節では,実際に空間に存在している概念を記述し,生活す
る中で行動支援の効果を検証する.
運用を行った空間では次のような日常の流れあった.朝一番
早く来た人が蛍光灯の電源をつける.12 時に換気のために窓
を開ける.13 時に会議のための準備を行う.会議後は会議に
用いた論文資料やコップなどを元の位置にしまい,コーヒー
メーカーやプロジェクタなどの電源を消す.その後は人それぞ
れ様々な行動をとるが,参考書や雑誌などの共有物品などが利
用者間で頻繁に行き来をするので,片付けをすることがある.
そして一番最後に部屋を出る人が蛍光灯を消す.
このように日常的に行われることを中心に忘れてしまったり,
気付かなかったりするような空間のルールを 24 個付加した.各
ルールには対象の物体がいくつもあるため,インスタンスレベ
ルでは 1232 個のルールを付けた.そのいくつかのルールの例
を表 2 に示した.またこの生活実験の実験風景を図 5 に示した.
図 6 では,取得した日々のデータを種類別に累積し示した.
2008/12/29∼2009/01/03 までは冬休みのために,すべてのデー
タにおいて,取得量に変化は見られない.また,Raw Data,
Action Data は実験期間の間一定の増加をし続けている.そん
な中 Conceptual Action Data は行動支援導入後に桁が変わる
ほど増加している.これは行動支援導入前は空間固有のルー
ルを把握していないか,利用者間で意思疎通がとれておらず,
なかなかルールに基づいた行動が起きていないと考えられる.
表 2 登録されたルール
しかし,行動支援が導入されるようになってから徐々に空間の
Table 2 Registered Rules
ルールを把握し,それに基づいた行動が行われるようになった.
2009/01/20 では,特に全員に部屋を片付けるように概念的操
12 時に窓を開ける
作を加えたために,状態を整合する多くの行動が行われた.
火曜日 17 時に掃除機で床掃除をする
木曜日 13 時にプロジェクタの電源をつける
また表 3 には,この運用実験の間に取得された Conceptual
参考書が書棚から取り出されたら元の書棚にしまう
Action Data の一部を多い順に上位 10 個示した.最も多い「家
コップ・グラスを箱から取り出したら元の箱にしまう
電の電源を消す」という操作は,行動支援導入前から少し行わ
共有の食品がごみ箱に捨てられたら補充する
れていた.しかし,その家電は主に「コーヒーメーカー」に対
冷蔵庫にある食品が一週間たったらゴミ箱に捨てる
してしか行われていなかったが,導入後は「加湿器」「エアコ
うちわを全部動かしたら冷房をつける
ン」「レンジ」というようにルールを記述した多数の家電に対
表3
して行われるようになった.また,
「食品を屑入れに捨てる」と
行われた有意な操作
Table 3 Important Action
いう操作は,表 2 にも記述したように,
「冷蔵庫にある食品で一
週間たったモノ」に対して行われる操作であり,把握が困難と
行われた有意な操作
回数
いうこともあり導入前にはあまり見られなかった.しかし導入
家電の電源を消す
49
後には予想していたよりも多くの食品が放置されており,古い
食品を屑入れに捨てる
36
窓を閉める
18
空間状況把握を開始する
18
書籍を書だなにしまう
12
食品を捨てる操作が多く取得できた.さらに,共有物品を元の
位置に戻す操作や部屋の換気などの環境の維持のための操作も
導入前には見られなかったが,支援により明確に利用者に提示
粘着テープを学校用机に置く 6
されるために一定の頻度で行われるようになった.従って行動
ファイルをテーブルに置く
5
支援により,環境を改善する行動が頻繁に行われるようになり,
物体を屋外に持っていく
5
有用性を示せた.
家電を電源をつける
4
エコバッグをテーブルに置く 3
その一方で,課題として「掃除機で床掃除をする」といった
手間の大きい操作は,導入後もあまり行われないということが
わかった.これは喚起された行動の手間が大きいと利用者に判
断されたために放置されたことが原因として考えられる.本研
究の目的は,空間利用者に行動を強制し管理することではなく,
空間のルールの認識を促進して,効率よく生活や仕事ができる
環境を維持することにある.従って手間の大きい仕事の喚起に
関しては,過去の効率の良かった行動を提示して,手間を削減
ルール:参考書が書棚から取り出されたら
元の書棚にしまう
する手法などによって解決することが望ましいと考えられる.
図 7 では,実際の空間があらかじめ記述した空間のルール
図5
に従って維持されているかを検証した.つまり,空間の物体が
実験風景
Fig. 5 Scene of Experiment
「あるべき状態」「あってほしい状態」に維持されていることを
確かめた.縦軸は「乖離発生数−整合数」を示している.乖離
発生数とは物体が「あるべき状態」ではない状態になった数,
整合数は乖離した物体を「あるべき状態」に直した数である.
従って,乖離発生数から整合数を引いた数が小さいほど,空間
のルールに従って維持されていることを表す.行動支援導入前
は,乖離が発生しても利用者は把握できず,放置されている.
しかし,導入後はどの物体が乖離しているかが支援により明確
になるため,整合数が増え,図のような結果になったと考えら
1000000
行動支援なし
行動支援あり
100000
数タ
ーデ
積累
たし
得取
Raw Data
10000
1000
Action Data
100
Conceptual
Action Data
10
1
れる.つまり行動支援により空間のルールに従って維持されて
いることがわかった.
5. 2 実証実験に関する評価
十数人の利用者が同じ空間で生活している場合,複数人が同
時に行動することはよくある.この場合サーバにアクセスが
図6
日常行動の蓄積
Fig. 6 Accumulated Actions
集中し,運用に支障をきたすことも考えられる.そこで実際に
11 人に日常生活の範囲内で,頻繁に行動を行わせ,多くの行
節で行った負荷実験のサーバ A の処理限界を指す.トランザ
動データが発生する状況を作り出した.そして,図 8 に毎分処
クション数は取得されたデータ数を表している.この図から,
理される種類別のデータを累積して示した.Boundary は 4. 2
大量の Raw Data が取得できていることがわかる.しかしこ
行動支援なし
30
数
合
整
-
数
生
発
離
乖
G
O
O
D
文
行動支援あり
25
20
15
10
5
0
日付
図7
環境の維持
Fig. 7 Maintenance of environment
100000
Raw Data
10000
数ン
ョシ 1000
クザ
ンラ 100
ト積
累
Action Data
Conceptual
Action Data
Boundary
10
1
1
6
11 16 21 26 31 36 41 46 51 56
経過時間(分)
図 8 日常生活での負荷実験
Fig. 8 Measurement of server load in a daily life
れほど大量のデータが発生していても,行動支援の効果を示す
Conceptual Action Data もしっかりと取得されている.また
すべてのデータ量を合計してもサーバの処理限界の下に納まっ
ていることから,現在のハードウェアで C/S の CONSENT を
構築した場合でも,十分に行動支援を受けることが可能である
ことがわかった.
6. まとめと今後の課題
本論文では人間が行動する際,影響を受ける要素である概念
を用いた行動支援を生活実験をする中で,有用性の検証をした.
また RFID タグが大量に存在するユビキタス空間を構築し,そ
の実用性について評価した.
運用が現実的であることがわかったため,今後は長期的な運
用をすることで発生しうる課題に対して実証実験が必要である.
具体的には長期的に運用することで蓄積されるデータは膨大に
なるため,このデータ量を扱うことが現実的かどうかの評価を
行いたいと考えている.
謝
辞
本研究は平成 19 年度・平成 20 年度横浜国立大学教育研究高
度化経費および平成 20 年度横浜国立大学大学院環境情報研究
院共同研究プロジェクト経費の助成を受けて行った.
献
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