低線量率放射線が遺伝子発現量の変動に与える影響 - 電力中央研究所

電中研報告
原 子 力 発 電
03-004
低線量率放射線が遺伝子発現量の変動に
与える影響
―cDNA マイクロアレイとリアルタイム RT-PCR による解析―
背 景
低線量や低線量率の放射線が生物に与える作用が、高線量の場合とは大きく異な
ることが明らかになりつつある。当所では、そのような低線量・低線量率特有の生物応
答について、その機 構解 明を目 指した研究を行っている。遺伝子発現の挙動は細 胞
の応答の基本的なものであり、近年その解析手法は大きく進展してきている。
目 的
cDNA マイクロアレイ法 *1とリアルタイム RT-PCR 法 *2 という、相補う特徴をもつ二つ
の最新の解 析手法を導入し、これにより低線量率放射線の分子レベルでの機構解明
の一貫として、培養細胞の遺伝子発現におよぼす影響を明らかにする。
主な成果
1. cDNA マイクロアレイ法による解析
1-1. 放射線 感受性に差のある、変異細胞とその親株の動物培養細胞間において、
検討した 1,081 遺伝子中 17 個について 2 倍以上の発現量の差異がみられた。
遺 伝子 発現 量の変動幅が十分にあるような場合には、少 数の実験 で多 くの遺
伝子に関する情報を得ることができる、有効な方法であることが確認できた。
1-2. 低 線量 率 放射 線に先立 ち、高線 量の放 射 線の影 響を、ほぼ全遺 伝子を解 析
できる酵母を用いて検討し、2 倍以上の変動がみられたものを約 6,000 遺伝子
中数十個の単位で検出できた(図 1)。さらに、異なる線量で共に応答がみられ
た遺伝子では、その多くで線量依存性が認められ、また過酸化水素に対する遺
伝子発現応答とのパターンの差異も検出できており、刺激に対する応答機構に
ついて全体的な解析を行うことができる方法であることが確認できた。
1-3. 約 1 mGy/hr で 3 日間γ線照射したマウス線維 芽 細胞について、検討した
1,081 遺伝子中に再現性のある 2 倍以上の変動は見出せなかった。低線量率
ではその変動が微妙であり、より感度の高い方法を必要とするものと考えられた。
*1
*2
数百から数万といった多数の遺伝子の発現量の変動を同時に解析することができる方法。感度や精度は低め。
特 定の少 数の遺 伝 子について、高い感 度と精 度で遺 伝 子の発 現 量を解 析することができる方 法。
図 2 リアルタイム RT-PCR 法 を用いたヒト培
養 細 胞 での 低 線 量 率 γ 線 照 射 によ る 細 胞 周
300Gy 照 射 時 と非 照 射 の間 の 比 較 。各 軸 は遺 伝 子 の発 現 期制御遺 伝子 p21 の発現量 変動の解析
図 1 cDNA マイクロアレイ法を用いた酵母の大線
量 X 線による遺伝子発現変 動 遺 伝子の解析
量 を、全 遺 伝 子 発 現 量 に対 する割 合 であらわしたもの。各 点
が一 つの遺 伝 子 に対 応 する。
約 1mGy/hr で 1,2,3 日 照 射 後 の p21 遺 伝 子 発 現 量 を
非 照 射 時 の発 現 量 に対 する比 であらわしたもの。
2. リアルタイム RT-PCR 法による解析
感度が高いリアルタイム RT-PCR 法を用い、低線量率放射線による遺伝子発現量
の変動を、細胞周期制御遺伝子 p21 に限定して検討した。約 1 mGy/hr で 1 日以
上γ線照射したヒト急性リンパ芽球白血病細胞において、1.2〜1.5 倍程度 の p21 遺
伝子発現量の上昇を統計的に有意に検出することができた(図 2)。
以上、低線量率放射線に対しても細胞は応答を行っていることを明らかにした。さら
に、応答が見られた細胞周期制御遺伝子 p21 は、高線量の放射線応答時に、損傷
の修 復 を行うために細胞 増殖を制 御している、放 射線 応答 の重 要な位置 を占 める遺
伝子であり、そのような遺 伝子 において変動を検出 できたことは、低線量 率放 射 線 に
対する分子レベルの応答機構を解明する上での糸口を得たものと考えられる。
今後の展開
得られた低線量率放射線照射時の遺伝子発現の変動について、照射時間経過等
の挙動を詳細に解析する。また、細胞内情報伝達経路の上流や下流に位置する遺伝
子や、関連すると考えられる遺伝子の発現変動について、広く検討を行う。
研究報告
G03002
キーワード:放射線、低線量率、遺伝子発現、cDNA マイクロアレイ、リアルタイム
RT-PCR
関連研究報告書
担当者
岩崎 利泰 (低線量放射線研究センター)
連 絡 先
(財)電力中央研究所 低線量放射線研究センター 事務担当
Tel. 03-3480-2111(代)
E-mail : ldr-rr-ml@criepi.denken.or.jp
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