分光エリプソメトリーによる薄膜評価 - 九州大学中央分析センター(筑紫地区

Vol.32 No.2,2013
120
センターニュース
分析機器解説シリーズ
(120)
◆分光エリプソメトリーによる薄膜評価
……………………………………… P1
株式会社堀場製作所 科学・半導体開発部 森山 匠、藤井史高
トピックス
◆SEM/EBSD法を用いた弾性ひずみ解析 …………………………………… P6
株式会社TSLソリューションズ 吹野 達也
分析機器解説シリーズ(120)
分光エリプソメトリーによる薄膜評価
株式会社堀場製作所 科学・半導体開発部 森山 匠、藤井史高
1
はじめに
分光エリプソメトリー(Spectroscopic Ellipsometry)
2.1 偏光
通常、室内灯などの光は、電場が不規則な方向に振動し
ている。これに対して、光の電場が特定の方向に振動してい
は、薄膜材料の膜厚および光学定数(屈折率 n(λ)、消衰係数
る光を偏光という。偏光には振動方向が常に一定である直
k(λ))を非破壊、非接触で求めることができる測定法である
線偏光、円形に回転する円偏光、楕円形に回転する(方向が
1), 2)
。また、膜厚1Åの測定分解能があり、非常に高感度な
円形に回転するとともに振幅も変わる)楕円偏光がある(図
測定法という特徴もある。
1)。これらの偏光状態は電場の直行する2成分の振幅と位
およそ20年前から半導体材料を中心に分光エリプソメト
相差によって決まる。
リーは使われてきたが、ここ数年は有機材料やカーボン材料
など、幅広く用いられるようになっている。
Ey
この度中央分析センター伊都分室に堀場製作所製「自動薄
Ey
Ex
膜測定装置AutoSE」が導入されたので、より効果的に使用
Ey
Ex
Ex
できるように本稿では、分光エリプソメトリーの原理、装置
の特長、解析例について説明する。
2
直線偏光
ここでは、原理の説明の前にエリプソメトリーで重要な
エリプソメトリーの基本原理、さらに”分光”エリプソメト
楕円偏光
図1:偏光の種類
図1:偏光の種類
分光エリプソメトリーの原理
キーワードである偏光、屈折率について簡単な説明を行い、
円偏光
2.2 屈折率
屈折率とは光が物質中を伝わる速さを表す値である。屈折
率は以下の式で定義される。
リーについてという流れで説明する。
n = c/v
(1)
(1)
分析機器解説シリーズ(120)
ここで、cは真空中の光の速度、vは物質中の光の速度であ
できる。
る。屈折率が大きい材料ほど、物質中での光の速度が遅い。
ただし、各波長の光学定数が独立したものとして計算する
物質に吸収がある場合は吸収を表す消衰係数kを虚数部に加
と、未知数も波長点数分増えてしまう。このため、膜厚も含
え、複素屈折率Nとして以下のように表す。
めると未知数の方が多くなり、すべての値は求まらない。そ
こで波長分散という光学定数の波長に対する規則性を利用す
N = n – ik
(2)
る。各波長の光学定数を2~24程度のパラメータを持った
式(分散式)に置き換えることで、未知数を減らすことがで
きる。分散式には代表的に以下のものがある。
2.3 エリプソメトリーの基本原理
入射面に対して45°傾いた直線偏光を平坦な表面に斜入
射すると、反射光は一般に楕円偏光となる。電磁波を入射面
① 古典的モデル
と平行な成分pと垂直な成分sの2成分に分けて考えると、反
古典的な調和振動子モデルで誘電率を表現。虚数部がなけ
射による振幅と位相の変化はそれぞれの成分で異なるためで
れば透明、自由電子の項(Drude)があれば導電性があるなど
ある(図2)。エリプソメトリーでは、これら2成分の振幅
3)
、直感的にわかりやすい。
比Ψと位相差Δを測定する。振幅反射係数比ρとして、Ψ、Δは
以下の式で与えられる。
② 量子力学的な計算に基づくモデル
量子力学をベースとした振動子モデルは4)、振動子の重ね
ρ = rp/rs = tan (Ψ) ∙ exp (i∙Δ)
(3)
合わせによって多くの種類の材料に適用可能である5)。光学
的バンドギャップが分散式のパラメータとして含まれると
ここで、rpは入射面に対して平行に偏光した光の振幅反射
いった特長を持つ。
係数、rsは入射面に対して垂直に偏光した光の振幅反射係数
である。
③ 実験式
rp、rsは試料の膜厚dと光学定数n, kの関数であるため、測
屈折率が波長とともに単純に変化する領域では、波長n次
定されるΨとΔも、d, n, kの関数になる。たとえば、試料がバ
多項式(実験式)が使用でき、代表的なものにコーシーの実
ルク基板 (Semi-infinite)で光学定数n, kを測定する場合に
験式がある。この式は透明領域でのみ使用できる。
は、Ψ、Δ2つの測定パラメータから、n, kの値を計算により
直接求めることができる2)。また、バルク基板に膜が1層付
分散式以外に少ないパラメータ数で光学定数を決める方
いた場合にも、基板の光学定数n0, k 0、膜の厚みと光学定数
法として、有効媒質近似法(EMA)がある。有効媒質近似は、
d1, n1, k1の5つの値のうち3つが既知であれば残り2つの値
誘電率εが既知の2つの材料について、体積分率を考慮し、
は計算で得られる。これが、エリプソメトリーの基本原理で
混合相の誘電率を計算するものである。複素屈折率Nとす
ある。
2
ると、N =εの関係式から光学定数が求まる。代表的な適用
例は多結晶シリコン(p-Si)である。結晶シリコン(c-Si:
2.4 分光測定のメリット
Crystalline Silicon)と非結晶シリコン(a-Si: Amorphous
単波長レーザを用いたエリプソメトリーでは、3つ以上の
Silicon)の光学定数の比率を計算することで、p-Si の光学
未知数がある場合には膜厚、光学定数は求まらない。分光エ
定数とともに、体積分率から結晶化率も評価できる。
リプソメトリーでは、測定波長点数が多いため、多層など複
表面層と空気を混ぜ合わせて,表面粗さを解析するのも代表
数の未知数がある場合でも、膜厚、光学定数を求めることが
例の一つである。
振幅反射係数比ρ
ρ=
rP
rS
= tan ψ exp(iΔ )
r P = E1P / E0P
rS = E 1S / E 0S
振幅反射係数 r
電界成分 E
図2:分光エリプソメトリーの原理
図2:分光エリプソメトリーの原理
(2)
分析機器解説シリーズ(120)
1
2
3
4
測定
モデル
Fit
結果
最小二乗誤差 (χ2) = 0.259
表面ラフネス
TiOx
Si
30
360
20
240
25
¶ψ(°)
(ß) 15
(ß)
180 £Δ(°)
10
5
0
120
2
3
4
5
Photon Energy (eV)
30
360
20
240
25
300
300
¶ (ß) 15
ψ(°)
(ß)
180 £Δ(°)
10
5
60
0
0
TiOx膜厚= 2200Å
120
2
3
4
5
Photon Energy (eV)
60
0
30
360
20
240
25
300
¶ (ß) 15
ψ(°)
(ß)
180 £Δ(°)
10
5
0
120
2
3
4
5
Photon Energy (eV)
60
0
表面ラフネス= 47Å
3.400
3.200
3.000
2.800
2.600
n
2.400
2.200
2.000
1.800
1.600
400
600
800
W avelength (nm)
1.600
1.400
1.200
1.000
0.800 k
0.600
0.400
0.200
0.000
図3:分光エリプソメトリーの測定・解析の手順
図3:分光エリプソメトリーの測定・解析の手順
2.5 分光エリプソメトリーにおける測定・解析手順
分光エリプソメトリーの測定・解析作業の手順は以下のと
おりである。
① 試料測定
② 光学モデル作成
③ フィッティング計算
④ 結果の確認
モデル作成では、膜の層数を設定し、基板と各層に適当
な初期値(d、n、k)を仮定する。上述のように、Ψ、Δはd、
n、kの関数であることからこれらのパラメータ値を仮定する
ことでΨとΔを理論的に計算できるようになる。
フィッティング計算とは、測定で得られたΨ、Δと、光学モ
図4:自動薄膜測定装置:Auto SE
図4:自動薄膜測定装置:Auto SE
デルで計算されたΨ、Δを比較して差を求め、この差が最小
となるように光学モデルのパラメータ値を変化させ計算して
料や、反射光の多重散乱によって生じる偏光状態の解消が大
いくことである。差が最小になったときのパラメータ、すな
きい試料といったものに対しても解析が可能となる。
わちd、n、kの値が求める値となる(図3)。
検出器には高感度CCDを用いており、最短で2秒という
高速での測定が可能であり、また自動制御xyzステージを標
3
自動薄膜測定装置 Auto SE
準搭載していることで測定対象面内の膜厚や屈折率の分布を
簡単に求めることができる。また、独自の技術であるカラー
堀場製作所製 自動薄膜測定装置Auto SE(図4)は
ビジョンシステム”MyAutoViewTM”は、測定表面とともに
様々な特長を持ち、最も革新的な分光エリプソメータとし
ビームスポットを観察することができる(図5)。これによ
て“2008 IC Industry Award”を受賞している。ここでは
り、ビームスポットを見ながら正確に測定箇所を特定するこ
Auto SEの特長について説明する。
とができる。さらに、測定ビームスポットは7種類(500×
Auto SEは液晶変調方式を採用しており、エリプソメト
500μm~25×60μm)を標準搭載しており、サブ100
リックパラメータ Ψ=0°-90°、Δ=0°-360°のフルレンジを一回
μmオーダの微小パターンの測定にも対応可能である。
で測定できる。また、Auto SEは偏光特性を表すミュラー
ユーザインターフェースとしてオペレータモード
行列の16要素全てを同時に求めることが可能である。この
(AutoSoft)を準備し、日常的なルーチンワークにも使いや
ミュラー行列を使うことにより、通常の分光エリプソメト
すい環境を整えていることも本装置の特長である。
リーでは解析が困難な非常に複雑な複屈折率を持つ異方性材
(3)
分析機器解説シリーズ(120)
Experimental data - Area Pixel - In the square
1.000
0.800
0.600
0.600
0.400
0.400
0.200
0.200
Is 0.000
-0.200
-0.400
-0.400
-0.600
-0.600
-0.800
-0.800
-1.000
450
500
550
600
650
W avelength (nm)
700
750
Experimental data - Area Pixel - On the board
1.000
0.800
0.600
0.600
0.400
0.400
0.200
0.200
0.000 Ic
-0.200
-0.200
-0.400
-0.400
-0.600
-0.600
-0.800
-0.800
-1.000
-1.000
800
1.000
0.800
Is 0.000
0.000 Ic
-0.200
Experimental data - Area Pixel B - Between 2 pixels B
1.000
1.000
0.800
450
500
550
600
650
700
W avelength (nm)
750
1.000
0.800
Experimental data - Area Pixel - On the pattern (circle) in the square
1.000
0.800
1.000
0.800
0.800
0.600
0.600
0.400
0.400
0.200
0.200
0.600
0.600
0.400
0.400
1.000
0.200
0.200
0.800
0.800
0.000 Ic
0.600
0.600
Is 0.000
-0.200
-0.200
0.400
0.400
-0.200
-0.200
-0.400
-0.400
0.200
0.200
-0.400
-0.400
-0.600
-0.600
Is 0.000
-0.600
-0.600
-0.800
-0.800
-1.000
-1.000
Is 0.000
Experimental data - Area Pixel B - Between 4 pixels B
1.000
0.000 Ic
-0.200
-0.200
-0.400
-0.400
450
500
550
600
650
Wavelength (nm)
700
750
800
-0.600
-0.600
-0.800
-1.000
0.000 Ic
-0.800
-1.000
-0.800
450
500
550
600
650
Wavelength (nm)
700
750
800
-0.800
450
500
550
600
650
700
W avelength (nm)
750
800
-1.000
図5:マイクロスポットを使用した、パターン内の選択測定
図5:マイクロスポットを使用した、パターン内の選択測定
サンプル構造
Al 組成 [%]
AlGaN 膜厚 [nm]
GaN 膜厚 [nm]
屈折率(波長 633nm)
GaN/ サファイア
サンプル構造
― Al組成 [%] AlGaN膜厚
― [nm] GaN膜厚 [nm]
2042 [email protected](GaN)
GaN/サファイア
2042
5
462
1111 2.361 (GaN)2.340(AlGaN)
5
462
1111
2.340 (AlGaN)
7
332
2.331(AlGaN)
7
332
1283 1283 2.331 (AlGaN)
AlGaN/GaN/サファイア
9
602
1124
2.336
(AlGaN)
AlGaN/GaN/ サファイア
9
602
1124
2.336(AlGaN)
16
254
1180
2.299 (AlGaN)
16 25
254
1180
2.299(AlGaN)
401
1128
2.292 (AlGaN)
25
401
1128
各サンプルの膜厚と屈折率 (@633nm)
各サンプルの膜厚と屈折率(波長 633nm)
屈折率(波長
633nm)
[email protected]
2.400
2.375
2.350
2.325
2.300
2.275
2.250
0
10
20
30
Al組成 [%]
Al組成と屈折率の関係
図6:積層膜サンプル解析例 (AlGaN-GaN)
図6:積層膜サンプル解析例
(AlGaN-GaN)
(4)
-1.000
800
2.292(AlGaN)
-1.000
分析機器解説シリーズ(120)
サンプル構造
Al2O3の光学定数(n-k)
(Extraordinary (点線)とOrdinary (実線) )
図7:光学異方性サンプル解析例 (Al O )
図7:光学異方性サンプル解析例
(Al2O3)
2
4
分光エリプソメトリーの解析例
3
も、界面状態、組成、光学バンドギャップ、厚み方向の均一
性などを評価可能であり、研究分野から品質管理まで幅広く
4.1 積層膜の解析 (AlGaN-GaN)
使われている。
積層膜の解析例として、サファイア基板上のAlGaN-GaN
さらに最近ではイオン液体の表面状態の測定例6)など、薄
の積層膜の解析例を示す(図6)。AlGaNはAlの組成を5%
膜以外にもアプリケーションが広がっている。今後も分光エ
から25%まで変化させている。分光エリプソメトリーで測
リプソメトリーの用途はますます広がっていくことが期待さ
定した結果、1nmオーダの精度で各層の膜厚を算出し、屈
れる。
折率の差を評価できることがわかった。またこの結果より、
AlGaNの屈折率はAlの組成が大きくなると屈折率が下がる
参考文献
という傾向が見られた。
1)エミル・ウォルフ,マックス・ボルン 光学の原理(東
海大学出版会)
4.2 光学異方性膜の解析例 (Al2O3)
2)R . M . A . A Z Z A M a n d N . M . B A S H A R A ,
分光エリプソメトリーでは光学異方性材料の複屈折率を
ELLIPSOMETRY AND POLARIZED LIGHT
求めることもできる。光学異方性を持つ膜の解析例として、
3)C. Kittel, Introduction to Solid State Physics
酸化アルミニウム (Al 2O 3) の解析例を示す(図7)。この
4)A.R. Forouhi and I. Bloomer, Phys. Rev. B. 34 (10),
Al2O3は1軸異方性を持ち、モデリングによる計算結果から
ExtraordinaryとOrdinaryではΔ0.01の複屈折率が確認され
7018 (1986)
5)A.R. Forouhi and I. Bloomer, Phys. Rev. B. 38 (3),
1865 (1988)
た。
6)N. Nishi, K. Kasuya and T. Kakiuchi, J. Phys.
5
まとめ
Chem. C, 116, 5097 (2012)
分光エリプソトリーは、ハードウェア・ソフトウェアの進
展により、薄膜の厚みのみならず光学特性をより簡便に短時
間で測定できる手法となってきた。紹介した測定例以外に
(5)
トピックス
SEM/EBSD 法を用いた弾性ひずみ解析
株式会社TSLソリューションズ 吹野 達也
1.はじめに
引張ステージである。通常のSEM用ステージマウントに装着
するタイプであり、通常のSEM観察と同様に視野の移動等を
EBSD(Electron Backscatter Diffraction)法[1-2]は結晶
行うことが可能である。また、60°傾斜しEBSD観察が可能
方位情報を基に材料の微細組織を観察する手法として、今日
である。図1に示すのが、今回用いた引張試験片の図面であ
では様々な分野において広く使用されている。EBSDは実格
る。ゲージ部の寸法は平行部2.0mm幅1.2mm厚さ0.5mm
子をそのまま投影したパターンであるため、パターンの歪み
である。
を検出することにより、格子歪みを測定することが可能であ
る。今回紹介するCrossCourt法はWilkinsonらにより開発さ
れたEBSDパターンを用いた弾性ひずみの解析手法であり
[3,4]、ひずみ分解能0.0003、角度分解能0.01°の分解能
を得ることができる。EBSDパターンを用いた解析手法であ
るため、局所的なひずみ分布を測定することが可能である。
最近のSEM/EBSD法の進化により、測定速度が高速化さ
れ、その場観察への適用が可能となってきており、EBSD用
引張試験機を用いた変形過程の連続観察等が報告されている
[5-7]。そこで、本稿ではCrossCourt法とEBSDその場観察
用引張試験機を組み合わせて、SUS304における引張変形
中の弾性歪みの変化過程の測定を行ったので紹介する。
2.CrossCourt 法に関して
写真 1 EBSD 用試料引張ステージ (1000N) の外観
4.測定結果
EBSDパターンは実格子を反映したものであるため、パ
SUS304焼鈍材において、引張試験中の弾性ひずみ分布
ターンが歪んでいることは、格子が歪んでいることに相当す
の解析を行った。
る。CrossCourt法では、スクリーン上で検出されるEBSDパ
試料にはSUS304再結晶材を用いた。150Nにて引張負
ターンの変位から、格子歪みの変形マトリクスを導くことに
荷を与えた試料に関して、連続的に観察を行った。観察は引
より、格子歪みを算出している。EBSDパターンにおいて、
張応力を負荷したままの状態で行った。
四つ以上の異なる領域からのパターンの移動量を測定するこ
80x100μmの領域をステップサイズ1μmにてスキャン
とにより、変形の連立方程式の解を求めている[1-2]。そのた
を行った。binning1x1の条件で954x954ピクセルの解像
め、パターンの移動量の検出精度がそのままひずみの分解能
度ですべての測定点のEBSDパターンの画像を取り込み、保
につながる。そこで、本手法では高解像度のパターンを取得
存するため、スキャン速度は3fpsとなる。今回の測定では一
し、粒内の任意の点におけるパターンとの変位を画像相関法
枚のマップを約50minかけて取得している。また、リファレ
により、高い分解能で変位を検出している。リファレンスパ
ターンとの比較となるため、求めることのできるひずみの値
はリファレンスの点との相対値となる。詳細な原理は解説記
事[4]を参考にしていただきたい。
3.EBSD その場観察用引張試験機
写真1に示すのは、弊社で開発したEBSD用の1000N小型
(6)
図 1 引張試験片の図面 ( 厚さ 0.5mm)
トピックス
ンスとなる点のみ、EBSDパターンの画像を0Nのものに置き
図3に、150N引張負荷後の二次電子像を示す。すべり線
換えて、CrossCourt ver3.2を用いて弾性ひずみ分布の解析
が明瞭に観察されており、転位のすべり運動が起きていたこ
を行っている。
とがわかる。
図4に各引張荷重におけるIPFマップ注1)を示す。表面方向
に引張荷重を増加させても、IPFマップにはほとんど変化が
みられなかったため、各結晶粒の方位はほとんど変化してい
ないことが分かる。図5にシュミットファクターマップ注2)を
示す。このように、EBSDの方位情報から、シュミットファク
ターを求めることが可能である。図6にCrossCourtにより求
めた各試験荷重におけるE11マップを示す。(座標系を図7
に示す。)図6(a)に示すように、荷重0Nにて各粒内ひずみ分
布が存在しているが、これは150N引張除荷後の残留応力に
よるものと考えられる。荷重が増えるにつれて、全体として
図 2 引張試験機に取り付けたゲージ部の SEM 像 (60°傾斜 )
図 5 シュミット因子マップ
図 3 150N 引張後の二次電子像(60°傾斜)
図 4 各引張荷重における IPF マップ
図 6 各引張荷重負荷中の引張方向の弾性歪みマップ。黒い点で示
しているのが、各結晶粒におけるリファレンスの位置である。
(7)
トピックス
5.まとめ
CrossCourt法は局所領域における弾性ひずみを歪みテン
ソルとして求めることのできる手法である。その場観察用試
験機と組み合わせることにより、変形中の弾性ひずみ分布を
取得することが可能になってきている。また、高い角度分解
能を有するため、精度の高いKAMマップ得ることができる。
図 7 CrossCourt の座標系 E11 が引張方向
【補足】
EBSD法で得られるデータは様々なマップで表示すること
ができるが、本稿で使用したマップの簡単な説明は次の通り
である。
注1)IPFマップ[Inverse pole figure(逆極点図方位マップ)]
逆極点図を基にした結晶方位マップであり、結晶面で
定義される。IPFマップの色は標準ステレオ三角形に示
す表面方位を表している。
注2) シュミットファクターマップ(Schmidt factor map)
特性値マップの一種。Schmidt因子は、印加された応
力がどれだけの比率で滑り面に働くかを示す。
注3) Kernel average misorientation
ピクセル間の方位差により作成されるマップの一種。
それぞれの測定点のKAMの値は隣接する六つの測定点
図 8 0N における Kernel average misorientation map
(a) 通常の EBSD 法の場合 (b) CrossCourt 法の場合
との方位差の平均値である。KAMの値が大きい箇所は
局所方位差が大きくなる。
赤い領域が増えていることが分かる。引張荷重により、引張
方向に格子が伸びたために、E11ひずみが増加した。このよ
参考文献
うに、引張試験機と組み合わせることにより、荷重負荷を加
[1]B. L. Adams, S. I. Wright, K. Kunze, Met. Trans. A,
えた状態における弾性ひずみ分布を測定することが可能であ
る。
24 (1993) 819
[2] 鈴木清一, まてりあ, 40 (2001) 612
図8に0Nにおける通常のEBSD法とCrossCourt法から得
られたKarnel average misorientation (KAM)
マップ
注3)
[3] A. J. Wilkinson, G. Meaden, D. J. Dingley,
Ultramicroscopy, 106 (2006) 307
を示す。
[4] 鈴木清一, David J. Dingley, 顕微鏡, 42 (2007) 89
通常のEBSD法ではCrossCourt法に比べ角度分解能
[5] J. Han, K. Jee, K. Oh, Inter. J. Mech. Sci., 45
が 低 い た めに、K A M計 算にお い て 誤 差 が 大 きくなり、
(2003) 1613
CrossCourt法の解析で現れなかったアーティファクトが現
[6] 鈴木清一, 顕微鏡, 45 (2010) 166
れてしまっている。
[7] M. Ojima, Y. Adachi, S. Suzuki, Y. Tomita, Acta
Mater., 59 (2011) 4177
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