LC/MS 用サンプル前処理の自動化 - アジレント・テクノロジー株式会社

LC/MS 用サンプル前処理の自動化 :
溶液中酵素消化と脱塩処理の
自動化を可能にするハイスループット型
試料前処理システム
Agilent AssayMAP Bravo プラットフォーム
アプリケーションノート
著者
Jason D. Russell,
Zachary Van Den Heuvel, Michael
概要
LC/MS 分析のためのタンパク質およびペプチドの試料前処理は、依然として手作業
による個別の操作に頼ったワークフローで行われているため、作業効率が劣り、大規
模 解析への対応を困難にしています。多くの場合、手作業によるワークフローでは、
Bovee, and Steve Murphy
妥当な再現性を得るためには、スキルの高い分析者に頼る必要があります。また、た
Agilent Technologies, Inc.
いていのケースでは、ワークフローに内在するものとして、大きな測定誤 差も許 容
Madison, WI USA
せざるを得ないのが現状です。このような問題に対処するために、一般的に LC/MS
プロテオミクスワークフローにおいて利用されているル ーチン 試 料前処 理 作 業を、
AgilentAssayMAP Bravo プラットフォームを用いて自動化しました。
このプラットフォームとツールは、LC/MS 分析のための試料前処理において、再現性
の向上、大規模解析への拡張性、プロトコル編集の柔軟性、および使いやすさを実現
できるように設計されています。このプラットフォームは、クラス最高のリキッドハン
ドラ、一回使い切りのマイクロクロマトグラフィーカートリッジ、およびユーザーによる
カスタマイズが可能なシンプルなプロトコルで構成されており、タンパク質酵素消化
および脱塩作業を迅速化することが可能です。本自動化法の有用性は、25 種類のウシ
血清アルブミン (BSA) 酵素消化ペプチドの日間再現性の変動係数 (CV) が 5 % 未満で
あることで証明されました。また、脱塩処理における AssayMAP RP‑S および C18 逆
相カートリッジの特性についても紹介します。
はじめに
前処 理 ステップ で 調 整 する必 要がある
ました。試料前処理法は、仮説にもとづ
タンパク質およびペプチドの分析法は、
ワークフローで、個別に、あるいは少ス
く小規模スクリーニングから臨床応用の
ケールでのバッチ処理を行うと、各段階
ためのバリデーションや 大 規 模 臨 床 研
近年大きく進歩してきました。その要因
は、タンデム質量分析、ソフトイオン化
法、バイオインフォマティクス、およびク
ロマトグラフィー分離などの技術革新に
あります。こうした分析上の革新的技術
と情報処理力の向上の相乗効果により、
での 些 細なハンドリングの 違 いが 累 積
究にまで適 用可能なものでなければな
され、分析精度の低下をもたらすことに
りません。タンパク質研究者の要求に対
なります。そのような分析精度の低下は、
応 できるタンパク質 試 料 の前処 理 専用
ディス カバリー 研 究の段 階 で 示 唆 され
に設 計された自動 化システムが 利 用で
た病 態や応 答 性の 指 標として生物学的
きれば、そうした大規模解析が可能とな
に有用なタンパク質の 発 現 変 化を再 現
ります。
液体クロマトグラフィー /質量分析 (LC/
できない可能性があります。
ク質の動態解析が可能となり、定量にお
LC/MS による定 量プロテオミクス解 析
MS) を用いたワークフローによるタンパ
いては高 感 度と高 精度 分析が できるよ
の試 料前処 理は、依 然として手作 業に
うになっています。LC/MS による定量プ
よる多段 階の 操 作を必 要とするワーク
ロテオミクス解 析の応 用範囲の 拡 大に
フローでおこなわれているため、スルー
このア プ リケ ー ションノートで は、 タ
ンパク 質の 大 規 模 解 析 の ため に、LC/
MS の試 料前 処 理における高 い 実 験 再
現 性および 効 率 化を実 現した、Agilent
AssayMAP Bravo 自動化プラットフォー
伴い、求められる分析精度が高くなり、
プットや大規模解析への対応性が劣り、
ムとプ ロテオミクスツール を 紹 介しま
作業効率の向上が求められています。し
技 術 者間での誤 差が生じる原因になっ
す。このプラットフォームは、精密な流量
かし、プロテオミクスにおける LC/MS
技術が飛躍的に進歩した一方で、試料前
ループットスクリーニングおよびプロセ
ています。LC/MS の 臨 床 応 用やハイス
コントロールを可能にする 96 プローブ
処 理の進歩は、他の重要な技 術に遅れ
ス管 理 のためには、これらのワークフ
と、ベッドボリューム 5 µL の充填済カー
シリンジを 備えたクラス 最高の 分 注 機
をとっています。定 量プロテオミクス解
ロ ー 特 性 は不 可欠 な 要 素 で す。多くの
トリッジカラム、さらには高い操作性を
析における試 料前処 理の進歩の遅れが
場合、このような手作業によるワークフ
有するユーザーインターフェースを備え
もっとも顕著に表れている分野が、バイ
ローでは、妥当な再現性を得るために、
たカスタマイズが可能なソフトウェアで
オマーカーの発見およびバリデーション
一部の習熟 度の高い分析者に頼る必要
構成されています。また、マイクロタイ
です。数百に及ぶ疾患特異的なタンパク
があります。このことは、要求される再
タープレートフォーマットでのハイスルー
質バイオマーカー候補が LC/MS 解析に
現性を維 持し、かつ多数の試 料を処 理
プット処理を可能とするタンパク質の自
動消化および脱塩に対応できます。ここ
しかし、そうしたバイオマーカー研究の
するための障壁となっています。LC/MS
によるタンパク質分析の成功の鍵は、再
多くは、少数の患者試料を用いた初期分
現 性の高い試 料前処 理にかかっていま
ける AssayMAP Bravo の 利 用につ いて
より明らかにされ、報 告されています。
では、BSA の酵素消化および脱 塩にお
析の域を出ていません。臨床応用のため
す。これまで、高い操作性と信頼性を備
に利用されるアッセイ法のバリデーショ
えた、大 規 模 解 析に適 用できる自動 化
について、さまざまな評価指標をもとに
ンでは、桁 違いの試 料 数を用いて検 証
法 が 存 在しなかったために、多検 体 の
報告します。
する必要があります。大規模解析を実施
迅速試料処理が必要な研究への LC/MS
する場合、すべての患者試料を多段階の
の導入は、さらに大きな制約を受けてい
2
紹介し、統合したワークフローの有用性
実験方法
表 1. サンプル、試薬、分析機器
デッキ上のサンプルと試薬
溶液中酵素消化法
溶液中酵素消化法では 1 枚から 4 枚ま
での 96 ウェルプレートを処理でき、1 枚
のプレート中でも 1∼12 列の試 料 数 (8
∼ 96 試料/プレート) を並行して処 理を
行うことが で きま す。今 回 の 実 験 で は
プレート 1 枚当たり 32 試料を処理しま
した。このプロトコルは、ユーザーイン
ターフェースで入 力されたパラメーター
をもとに、順番にソースプレート中の試
薬溶液を試料液に加えて混合します (図
2)。ユーザーインターフェースの各ステッ
プを ON または OFF することや、種々の
試薬 液の組成を反応 条件に合わせて変
更することで、システムにフレキシビリ
ティーを持たせています。
溶液内分解 v1.0
サンプル
ウシ血清アルブミン (BSA) 、15 µg/µL を水に溶解
変性混合液
25 mM TCEP と 150 mM トリスを含む 8 M グアニジン HCl (pH 8)
25 mM TCEP と 150 mM トリスを含む 9 M 尿素 (pH 8)
アルキラント
300 mM ヨードアセトアミド
希釈混合液
50 mM トリス (pH 8)
プロテアーゼ
トリプシン (50 mM 酢酸中で 1 µg/µL)
洗浄ステーション
脱イオン水
ペプチド精製 v1.1
サンプル
TFA で酸性化した BSA のトリプシン消化物 (pH ~ 2.6) 、0.75 µg/µL
プライミングバッファ
50 % ACN/0.1 % TFA
ユーティリティ ( 平衡化)
バッファ
0.1 % TFA
溶出バッファ
70 % ACN/0.1 % ギ酸
洗浄ステーション
脱イオン水
分析機器
自動化
図 1 と表 1 に、それぞれプレートレイア
ウトと試 薬 液のリストを示します。BSA
コア自動化プラットフォーム
Agilent AssayMAP Bravo (G5542A)
Agilent AssayMAP 分解
分解および精製用の 96 RP‑S カートリッジおよびラボウェア
(G6596‑60034)
を濃度が 15 µg/µL となるように水で溶
および
精製スターターキット
クロタイタープレートの 1 列目から 4 列
Agilent AssayMAP Bravo
ライザー、146 mm (G5498B#055)
ペルチェ式サーマルステーション、STC コントローラ搭載 (G5498B#035)
カスタムプレートネスト (G5498B#017)
PCR プレートインサート (G5498B#013)
その他のアクセサリ
Agilent PlateLoc サーマルマイクロプレートシーラー (G5402A)
解し、その 15 µL (225 µg) を U 底のマイ
目ま で の 各 ウェル に 分 注しました。こ
分解および精製用の 96 C18 カートリッジおよびラボウェア
(G5496‑60013)
アクセサリ
の 分 注 操 作は、他の 3 枚のプレートに
ついても同様に行い、4 枚のサンプルプ
レートを作成し、合計 128 サンプルを消
化 に 用 い ま し た。Denaturation mixture
plate には、変性剤と還元剤の混合溶液
を分注しました。変性剤は、グアニジン
と尿 素について検 討し、グ アニジン溶
LC/MS
質量分析計
Agilent 6550 iFunnel QTOF LC/MS
デュアル Agilent Jet Stream ESI
LC システムおよびカラム
Agilent 1290 Infinity LC システム
Agilent AdvanceBio Pepide Mapping カラム (C18) :
分析カラム : 2.1 × 250 mm、2.7 µm (651750‑902)
ガードカラム : 2.1 mm Fast Guard (851725‑911)
液を 1 列目と 2 列目に分注し、尿素溶液
サンプルプレート 1
サンプルプレート 2
変性混合液プレート
アルキラントプレート
サンプルプレート 3
サンプルプレート 4
希釈混合液プレート
プロテアーゼプレート
図 1. BSA のマルチプレート消化のためのマイクロタイタープレートレイアウト。Sample Plateには BSA (15 µg/µL) を分注。Denaturation Mixture Plate には
グアニジンベースの変性還元剤溶液 ( 橙色) および尿素ベースの変性還元剤溶液 (紫色) を分注。Alkylant Plate にはヨードアセトアミド溶液を分注。Diluent
mixture Plateには Tris バッファーを分注。Protease Plate にはトリプシンを分注
3
を 3 列目と 4 列目に分注しました。ヨー
ン 設 定は図 2 に示した値を In‑Solution
列目から 4 列目までに分注しました。ト
力しました。プロトコルが開始されると、
ドアセトアミド溶液は Alkylant plate の 1
リス バッファー は Diluent mixture plate
(ディープウエル) の 1 列目から 4 列目ま
でに各 1 mL を 分 注しました。トリプシ
ンは Protease plate の 1 列目から 4 列目
までに分注しました。
溶液中酵素消化プロトコルにある Plate
Stacking ユーティリティは、各試料やプ
ロテアーゼのプレートの“リッド”として
使 用する 5 枚のプレートを AssayMAP
Bravo デッキの Location 2 に積み重ねる
ために使 用します。これらのプレートは
アルキル化ステップでの遮光や、環境中
の埃等によるコンタミネーションのリス
クを低減します。これらのプレートはま
た、各リキッドハンドリングステップ間
のシリンジの洗浄液のリザーバーとして
用 いら れま す (今 回 の 実 験 で はこの 洗
浄 液を用いたシリンジの 洗 浄は 行って
いません)。各 試 薬 液と試 料プレートの
配置を図 2 に示します。アプリケーショ
Digestion ユーザーインターフェースに入
まず 変 性 剤溶 液 が 試 料に添 加され 混
合されます。サンプルプレートをデッキ
Digest プロトコルを同条件で翌日繰り返
し 行 いました。BSA 消 化 物を含 む 酸 性
溶液は次の Peptide Cleanup プロトコル
による脱塩ステップに供しました。
上から取り出すために、プロトコルは自
脱塩処理
動的に一時停止します。サンプルプレー
AssayMAP では逆 相精製のために 2 種
ト を 取り出し、PlateLoc (プレ ートシー
ラー ) を用いてシール後、インキュベー
ターに移し、変性還元処理 (60 ºC 、1 時
間) を行いました。その 後、プレートを
遠心し、シールをはがし、Bravo デッキ
上に 戻しました。プ ロトコルを再 開し、
アルキル化溶液の添加後、45 分間の反
応、希釈液の添加 ( 酵素消化のための変
性剤希釈 ) およびトリプシン消化までの
工程を自動で実施しました。プロトコル
終了後、サンプルプレートをデッキから
取り出し、PlateLoc を用いてシールした
後、37 ºC で一晩かけて消化を行いまし
た。サンプルをインキュベーターから取
り出し、遠心した後、30 µL の 10 % TFA
を Single Liquid Addition ユーティリティ
を用いて添加しました。この In‑Solution
類のカートリッジが用意されています。
• C18 固相担体 (カーボン含有率 : 16 % 、
ポアサイズ : 150 Å) を充填したカート
リッジ
• ポリスチレン ジビニルベンゼン固相担
体 (RP‑S 、ポアサイズ : 100Å) を充填し
たカートリッジ
これら 2 種 類 のカートリッジには 微 妙
な選 択 性の 違いがあるため、サンプル
と使 用する試 薬 の 性 質をもとに選 択し
ます。C18 カートリッジは pH 2∼8 で安
定したパフォーマンスを示し、R∼13) に
対 応 し ま す。Peptide Cleanup プ ロトコ
ル は Workflow Navigator か ら 開 くこ と
が で き ま す。表 1 に 示 すバッファー を
図 2. Agilent AssayMAP In‑Solution Digestion プロトコルのユーザーインターフェースと BSA のマルチプレート消化に使用するパラメーター
4
Syringe Wash (priming) Buffer プレート、
Utility (equilibration/washing) プレート、
Elution Bufferプレートの各プレートの 1
列目から 4 列目に分 注しました。空の U
底プレートまたは PCR プレートを Flow
Through Collection プ レ ー ト と Eluate
Collection プレートとして使用しました。
Cartridge Transfer ユーティリティーを使
用して AssayMAP C18 (1 日目) もしく は
RP‑S (2 日目) の各カートリッジラックに
ある 1 列目から 4 列目のカートリッジ
を Bravo デッキ のLocation 2 に 置 い た
Cartridge Seating Station に移しました。
Bravo デッキ は 図 3 に 示 すように 設 定
し、BSA 消化物を含む酸性の溶液が入っ
たプ レ ート を デッキ 4 に 置 き ました。
Peptide Cleanup ユーザーインターフェー
スにアプリケーションの設 定を入 力し、
図 3 に示すLabware Table からラボウェ
アの種類を選択しました。プロトコルが
スタートすると、カートリッジの初期化
用い、In‑Solution Digest プロトコルで処
理を行った他の 3 枚のプレートについて
も同 様 に処 理しました。脱 塩 処 理され
オンライン LC 精製を行った各濃度の消
た溶出液は乾固し、‑8 0 ºC で保存しまし
化物 0.5 µg 相当量と比較しました (BSA
のち、1.25 µg 相当量を LC/MS 分析に供
の範囲の注入量で評価 )。
た。脱 塩 処 理 後 の 各 試 料 を再 溶 解した
しました。LC/MS で検出された 25 種の
濃 度の最大と最小で 0.67 µL から 16 µL
ペプチドについて評価しました。
脱塩処理 – ロード量の違い
脱塩処理 - 回収率
べるために、バルク処理の溶液内消化に
脱 塩 処 理におけるロード量の 影 響を調
脱 塩 処 理 の 回 収 率 を 評 価 するために、
In‑Solution Digest プロトコルで作成され
た BSA 消化物を含む酸性溶液 (0.75 µg/
µL) を混合し、次に示す濃度系列を作成
するために希釈しました。
濃度系列 : 0.75, 0.50, 0.25,0.125, 0.0625,
0.03125 µg/µL.
サンプルは図 3 に示した設 定を用いて
Peptide Cleanup を実施しました。各濃度
のサンプル100 µL を並行処理 (n = 3) に
て AssayMAP C18 カートリッジへロード
と平衡化を行った後、100 µL の BSA 消
しました。溶 出したサンプルは 乾 固し、
しました。Peptide Cleanup プロトコルを
‑80 ºC で保存しました。脱塩処理後の試
料は再溶解後、各濃 度の 0.5 µg 相当量
化物 (75 µg) を各カートリッジへロード
を LC/MS 分析に供しました。LC/MS で
検 出された 25 種の ペプチドについて、
より得られた酸を添加した BSA 消化物
(4.75 µg/µL) を希釈し、次の濃度系列を
作成しました。
濃 度 系 列 : 4.0, 3.0, 2.0, 1.0,0.75, 0.50,
0.25, 0.10 µg/µL.
サンプルは図 3 に示した設 定を用いて
脱 塩 処 理 を実 施しました。各 濃 度 の サ
ンプル (100 µL) を並行処理 (n = 2) にて、
AssayMAP RP‑S および C18 カートリッ
ジへロードしました、なお、すべての実
験は並行して実施しました。溶出したサ
ンプルは乾固し、‑80 ºC で保存し、使用
時に再溶解し各濃 度の 1.0 µg 相当量を
LC/MS 分析に供しました。
図 3. Agilent AssayMAP Peptide Cleanup プロトコルのユーザーインターフェースと BSA 消化物のクリーンナップに使用するパラメーター
5
結果と考察
溶液中消化と脱塩処理
1 日目 (C18) と 2 日目 (RP‑S) の BSA 消
化 物を LC/MS で 分析しました。各 LC/
MS 分析について、25 種類の BSA トリ
プシン消化ペプチドの抽出イオンクロマ
トグラム (EIC) を作成し、各ペプチドの
ピーク面積をプロットしました。図 4 (上)
は、両日にわたって実施した 128 試料の
消化および脱塩操作によって得られた 5
種類の BSA トリプシン消化ペプチドの
ピーク面 積 (グ アニジン変 性) を示して
強 度を示します。また、y イオンの m/z
たとえば、ペプチド FKDLGEEHFK では、
アス パラギン酸 残 基に隣 接するリジン
も高くなるため、マルチプルリアクショ
残 基 の C 末 端 側 が 切 断 さ れて い ま せ
ンモニタリング (MRM) 分析における特
ん。この配列モチーフは、一部のタンパ
異性が 高くなります。尿 素 変 性の場合、
ク質にお いてトリプシン 消 化 の 効 率を
ピーク面 積の日間 CV 値は 39.2 % でし
低下させることがあります。このような
たが、日内 CV 値は 5.5 % および 8.8 % と
ペプチドは、LC/MS による特 定タンパ
なりました。一方、グアニジン変性の場
合、ピーク面積の日間 CV 値は 5.8 %で、
ク質の定 量に適 するものではありませ
んが、ほかに定 量の選 択 肢が無い場合
日内 CV 値 は 2.5 % および 1.9 % でした。
に有用となります。この例では、ペプチ
以上の結果から、グアニジンは変性剤と
ド FKDLGEEHFK は、完 全 消 化ペプチド
して尿素より優れていることがあきらか
になりました。AssayMAP Bravo プラッ
DLGEEHFK に比べて、4∼ 5 倍のシグナル
います。これらのペプチドの CV 値は、す
べての繰り返し実験を通して 1.3 ∼2.5 %
LVNELTEFAK 、%CV = 1.3
の範囲内でした。図 4 の表に、25 種類の
ペプチドの CV 値分布を日別および変性
5
剤 別にまとめています。25 種 類の BSA
消化ペプチドの平均 CV 値はいずれの日
アニジンの場合は 2.6 % 未満でした。こ
の 結 果 から、消 化 から脱 塩および LC/
MS 分析までのワークフロー全体におい
て、きわめて再現性の高いペプチドのシ
グナル 強 度 が 得られていることが 明ら
かとなりました。複数のデータで示され
RHPEYAVSVLLR 、%CV = 2.5
ペプチドピーク面積 (×10 7)
でも、尿素の場合は 3.7 % 未満、またグ
4
AEFVEVTK 、%CV = 1.8
LVVSTQTALA 、%CV = 2.5
3
た再現性は、この溶液中消化プロトコル
が、384 試料を同時処理できる能力を有
しており、ハイスループットでの試料前
AWSVAR 、%CV = 3.3
処 理が 可能であることを示しています。
同様に、脱塩処理も 96 サンプルで同時
に迅速に実行できます。いずれのケース
2
でも、1 週間あたり数千までの試料を処
理でき、迅速分析に簡便に対応すること
ができます。
評 価 対 象とした 大 部分 の ペプチドでは
低い CV 値を示しましたが、これらの消
化条件において、すべての BSA 消化ペ
プチドが良 好な 結 果 を 示したわけでは
ありません。これは、タンパク質消化の
複 雑さを反 映しているものと考えられ
ます。タンパク質の酵素消化では、消化
条 件が 特定のペプチドの遊 離に影 響を
及ぼします。
0
16
32
48
64
80
96
112
128
サンプル番号 (グアニジン変性による BSA 消化 )
尿素
サンプル数
1 日目
2 日目
64
62
グアニジン HCl
サンプル数
1 日目
2 日目
64
64
モニタリングしたペプチド数
25
25
モニタリングしたペプチド数
25
25
平均ピーク面積 % CV
3.3
3.7
平均ピーク面積 % CV
2.3
2.6
%CV <5 のペプチドの数
%CV <5 のペプチドの数
23
21
25
23
5 > % CV < 10 のペプチドの数
2
3
5 > % CV < 10 のペプチドの数
0
1
% CV > 10 のペプチドの数
0
1
% CV > 10 のペプチドの数
0
1
図 4. BSA の溶液内消化およびクリーンナップにおける日差およびプレート間の比較結果。BSA は In‑
Solution Digestion プロトコルを使用して 2 日にわたり尿素もしくはグアニジンの両変性剤を用いた消
化を繰り返し行いました。Peptide Cleanup プロトコルは C18 (1 日目) または RP‑S (2 日目) カートリッジ
を使用して行いました。溶出液は乾固後、再溶解し、1.25 µg 相当量を LC/MS で測定した。25 種類のペ
プチドについてシグナルをモニターし、Extracted ion chromatograms のピーク強度を評価指標としまし
た。グアニジン変性による 5 種類のペプチドのピークエリア CV 値を示します。全 128 サンプルにわた
り CV 値は 3.3 % 以下でした。表は日差および変性剤の違いによるペプチドピークエリアの CV 値です。
6
トフォームは、複数試料の同時処理が可
能であることから、複数の変性条件を同
時に評価することにより、ミスクリベー
ジペプ チド であっても定 量 性 のある変
の回収率は、50 µg を超えるロード量で
果は、中程 度 以下の相対疎 水性を有す
5 、中段 )。このグループのほかの 6 ペプ
安定した回収率が得られることを示して
いロード量では 21.8 % となりました (図
性条件を見つけることができます。個々
チドについては、すべてのロード量で高
のタンパク質から定量的にターゲットペ
い回収率が得られました。一般的にペプ
プチドが遊 離する最 適な変性 条 件を迅
チドの回収率は、相対疎水性値と強い相
速に突きとめるために、複数の変性剤を
関性を有しますが、この例で示されてい
異 な る 濃 度 で Denaturation Mixture プ
るように、すべてのペプチドにその傾向
レートに分注することが可能です。また、
があてはまるわけではありません。極め
試 料前 処 理 が異 なるプレートで同 時に
て疎 水性が 高い 2 種 類のペプチドであ
おこなわれるため、サンプルプレートご
とに変性条件を評価し、メソッド開発を
る TVMENFVAFVDK (RH = 45.1) お よ び
は、同等の疎水性を有するほかの 5 種類
脱塩処理 – 回収率とロード量の
関係
ロード量では 70 % を超える回収率が得
消化物を含む酸性溶液の希釈系列を作
るペプチドにおいて、幅広いロード量で
います。25 種 類 すべ ての ペプ チド の 平
均回収率および CV 値 (カッコ内に記載 )
は、3.125 µg、6.25 µg、12.5 µg、25 µg、
50µg、75 µg のロード量でそれぞれ 87.5
% (2.6 %)、92.7 % (1.1 %)、93.0 % (2.1 %)、
96.8 % (1.3 %)、100.0 %(1.1 %)、99.7 % (1.4
%) でした。
GLVLIAFSQYLQQCPFDEHVK (RH =52.4)
迅速化します。
溶 液中 消 化プロトコルで得られた BSA
も再現性は保たれています。これらの結
は 94.5 % 以上であったが、もっとも少な
の ペプチドと同様に、12.5 µg を超える
られました (図 5 、下 )。きわめて疎水性
の高いペプチドは、ロード量が少ないと
回収率が低くなりますが、低い回収率で
成し、同一試料を用いて C18 カートリッ
ジとオンライン LC 精製でのペプチド回
120
収率を比 較し評 価しました。25 種 類の
ペプチドのピーク面積を解析し、相対疎
LKECCDKPLLEK (RH = 14.5)
AEFVEVTK (RH = 22.2)
LVVSTQTALA (RH = 25.5)
LVNELTEFAK (RH = 32.0)
TVMENFVAFVDK (RH = 45.1)
GLVLIAFSQYLQQCPFDEHVK (RH = 52.4)
80
水 性 (Relative Hydrophobicity; RH) の 理
40
論値をもとに、次の 3 つのグループに分
•
RH < 22.5 、低い疎水性、10 ペプチド
•
22.5 < RH < 35 、中程度の疎水性、
8 ペプチド
•
RH > 35 、高い疎水性、7 ペプチド
オンライン精製と比べた回収率
類しました。
120
80
40
120
図 5 (上段 ) に示すように、低疎水性のペ
80
び AEFVEVTK (RH = 22.2) は、広いロー
40
プチド LKECCDKPLLEK (RH = 14.5) およ
ド量にわたって定 量 的な回 収率が 得ら
れています。このグループのほかの 8 種
類の ペプチドでも、同 等 の回収率が 得
られました。中程度の疎水性のペプチド
LVNELTEFAK (RH = 32.0) の回収率は、3
∼75 µg のロード量において、オンライ
ン LC 精製と同等もしくはより高い結果
がえられました。しかし、中程度の疎水
性の ペプチド LVVSTQTALA (RH = 25.5)
3.125
6.25
12.5
25
50
75
C18 カートリッジにロードした BSA 分解物の量 (µg)
図 5. BSA ロード量に対するペプチド回収率。BSA 消化物を希釈し、0.03125 ∼ 0.75 µg/µL の濃度の溶
液を作成しました。C18 カートリッジを用いたペプチド精製プロトコルにより、サンプル 100 µL を処理
し (n = 3) 、各溶出液の 0.5 µg を分析しました。ペプチド回収率を、各濃度の消化物 0.5 µg のオンライン
LC 精製に対して標準化しました。25 種類のペプチドをモニタリングし、相対疎水性をもとに、次の 3 つ
のグループに分類しました : 低い疎水性 ( 上段、10 ペプチド ) 、中程度の疎水性 (中段、8 ペプチド ) 、高い
疎水性 ( 下段、7 ペプチド )。全体的に見て、低∼中程度の相対疎水性 (RH) のペプチドにおいて、高い回
収率が得られました。しかし、2 つのペプチド LVVSTQTALA および LVNELTEFAK (中段 ) で示されてい
るように、回収率が常に RH に相関するわけではありませんでした。25 種類すべてのペプチドの平均回
収率および CV 値 (カッコ内に記載 ) は、3.125 µg、6.25 µg、12.5 µg、25 µg、50 µg、75 µg の各カートリッ
ジロード量でそれぞれ 87.5 % (2.6 %) 、92.7 % (1.1 %) 、93.0 % (2.1 %) 、96.8 % (1.3 %) 、100.0 % (1.1 %) 、
99.7 % (1.4 %) でした。全体では、すべてのロード量の平均回収率と CV 値は、94.9 % および 1.6 % でした。
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脱塩処理 – 分析対象ペプチドの
RH とロード量の関係
BSA 消化ペプチドの 10–400 µg 相当量
程 度の疎 水性ペプチド (RH = ~8‑48) の
TIC シグナルはほぼ同一でした。RH 値が
14.5 ∼ 48 のペプチドの TIC シグナルは、
300 µg まで安定しています。400 µg で、
これらの ペプチドは負荷 許 容量を 超 過
しました。親水性のきわめて高いペプチ
ド (RH < ~8) は、ロード量が 100 µg を超
えると、カートリッジへの保持が弱くな
りました。また、ロード量 10 µg では、疎
水性のきわめて高いペプチド (RH > 48)
の 非 特異的吸 着に起 因すると考えられ
LVNELTEFAK
RH = 32.0
カートリッジ
ロード量
10 µg
25 µg
0
5
カウント ×107
化 物 の 負荷 許 容 量を 評 価しました。図
量が 10 から 200µg の範囲では、低∼中
MPCTEDYLSLILNR
RH = 48.0
0
5
(BSA 1µg 相当量) を分析し、AssayMAP
C18 および RP‑S カートリッジの BSA 消
し、ロード量ごとに示しています。ロード
QEPER
RH = 0.8
5
をロードしたカートリッジからの溶出液
6 では、RP‑S および C18 溶出液のトー
タルイオンクロマトグラム (TIC) のオー
バーレ イを 相 対 疎 水 性 の 理 論 値 (RH、
SSRCalc を用いて算出)1 にもとづき分割
TCVADESHAGCEK
RH = 7.9
CCTESLVNR
RH = 14.5
C18
RP-S
50 µg
0
5
75 µg
0
5
100 µg
0
5
200 µg
0
5
300 µg
0
3
0
400 µg
1
3
5
7
9
11
取り込み時間 (分)
13
15
17
19
図 6. ペプチドクリーンナップの負荷許容量。Peptide Cleanup プロトコルを用いて RP‑S および C18 カート
リッジに 10 から 400 µg の範囲の BSA 消化物をロードしました。溶出物を乾固し再溶解後、1.0 µgを LC/
MS にて分析した。25 から 100 µg のロード量では相対疎水性に関係なく偏りのないペプチドの回収が確
認されました。ロード量が 100 µg を超えると、親水性ペプチドの保持能は、より疎水性の強いペプチド
との競合関係により低下し、ロード量が 25 µg 未満では疎水性の高いペプチドの回収が減少しました。
るロスが生じました。C18 および RP‑S の
保持許容量はほぼ同様でしたが、C18 で
は、ロード量が 100 µg を超える場合で
も、親水性ペプチドの保持力が若干高く
なりました。AssayMAP 逆相カートリッ
ジへのサンプル 保 持能および負荷 許 容
量は、試料量、試料マトリクスの複雑さ、
試 料ロード時 の 流 速といった種々の試
料条件の影響を受けます。注目すべき点
は、AssayMAP Bravo Peptide Cleanup プ
ロトコルでは、カートリッジへの負荷許
容量および保持能を迅速に評価し、サン
プル の脱 塩 条 件を 最 適 化できることで
す。
8
結論
本実験で用いた BSA の場合、グアニジ
Agilent AssayMAP Bravo と LC/MS サ
る高い 再 現 性を示した 5 種の ペプチド
ンプル前処理ツールを使えば、ほかのプ
ラットフォームでは不可能なレベルの再
現性、拡張性、柔軟性、使いやすさを備
えた自動化が実現します。この技術によ
り、手作業に要する時間が最小限に抑え
られ、作 業 効率を 最 大 限に高めること
ができるため、定量プロテオミクスにお
いて重要な試料前処 理作業の高い再現
性および迅速化を実現できます。溶液中
消 化プロトコルを 使えば、8 ∼384 試 料
の同時処理が可能であり、ペプチド精製
プロトコルでは、8 ∼ 96 試料を同時に処
ン変 性が 有 効であり、酵 素 消 化におけ
には、バイアスの原因となりうる Met や
Cys 残基を含んでいません。また、定量
的な脱 塩 法開発には、相対疎 水性が重
要な 指 標 の 一つとなることが示されま
した。LC/MS 法 によるタンパク質 バイ
オマーカー の臨 床 応 用を実 現するため
には、高い多様性を有する標的タンパク
質 消 化ペプチドの中から定 量に最 適な
ペプチドを実 験 的に選 別する必 要があ
ります。Agilent AssayMAP Bravo と LC/
MS サンプル前処理ツールは、これらの
検討を驚異的な速さ、簡便さで実現する
理できます。この 2 つのプロトコルを利
唯一の方法であると言えます。
の対応ができ、一台の AssayMAPBravo
参考文献
することができます。AssayMAP の溶液
1. V. Spicer, et al., “Sequence‑specific
retention calculator.A family of
peptide retention time prediction
algorithms in reversed-phase
HPLC:Applicability to various
chromatographic conditions and
columns”, Anal.Chem., 79 (22),
8762‑8768, 2007.
用することにより、容易に大規模解析へ
で 1 週間あたり数千 のサンプルに対応
中消化プロトコルとペプチド精製プロト
コルを組み合わせることにより、2 種類
の変 性 剤を用いた複 数日、複 数プレー
トの分析において、25 種類の BSA 消化
ペプチドで平均ピーク面積 CV 値は 2.3
∼3.7 % でした。AssayMAP RP‑S および
C18 逆相カートリッジの特性を詳細に検
討、BSA トリプシン消化 物の負荷 許 容
量、
保持能、
およびペプチド回収率といっ
た重要な指標を評価しました。低∼中程
度の疎水性のペプチドでは、低負荷量 (3
µg) においても高い回収率が得られまし
た。また、親水性の高いペプチドの保持
能が維持される 100 µg までの BSA 消化
物をロードすることが可能です。
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アジレント・テクノロジー株式会社
© Agilent Technologies, Inc., 2013
Published in Japan, August 20, 2013
5991‑2957JAJP