放射線化学, 89, 25 (2010) - 日本放射線化学会

[特集記事]
マクロドジメトリとマイクロドジメトリの融合
日本原子力研究開発機構
Integration of macro-dosimetry with microdosimetry is of great importance for the
improvement of various dosimetric researches such
as biological dose estimation for charged-particle
therapy. This article explains the difference of the
concepts between micro-dosimetry and macrodosimetry, and reviews our recent works related to
the establishment of the model for calculating the
microscopic
lineal-energy
distributions
in
macroscopic matters. Our developed biological-doseestimation method based on lineal energy instead of
LET is also described in this report.
Key words: microdosimetry, lineal energy, LET,
PHITS, RBE, biological dose estimation
1. はじめに
粒子線治療や人類の宇宙長期滞在を計画する際,陽
子や重イオンなど高エネルギー荷電粒子による生物効
果比(RBE)を考慮した線量評価が必要となる.しかし,
α 線など低エネルギー荷電粒子の RBE を表す指標とし
て一般的に用いられている LET は,高エネルギー荷電
粒子の RBE を適切に表現できない.なぜなら,高エネ
ルギー荷電粒子は,高エネルギー電子(δ 線)の生成
断面積が大きく,同じ LET を持つ低エネルギー荷電粒
子と比べて,細胞スケールのミクロな視点で見た場合,
その飛跡周辺の電離密度が低くなるからである.
そこで,マイクロドジメトリ研究の分野では,細胞
や DNA サイズなど,局所的な領域における電離密度
を表すパラメータとして,「線エネルギー(Lineal
Energy, y)」と呼ばれる量が使用されてきた.LET と
y の概念の違いを図1に示す.図は,同じ LET を持つ
2つの放射線(例えば,3MeV 陽子と 350MeV/n 炭素
イオン)飛跡周辺の電離密度の違いを模式的に表して
おり,図より,その違いを的確に表現できるのは,単
位長さ当たりの付与エネルギーLET ではなく,単位体
積当たりの付与エネルギーy であることが分かる. な
お,y は,実用上 LET と比較することが多いため,単
y分布を計算する微少領域
佐藤
達彦
δ-rays
δ-rays
低エネルギー放射線
陽子 3 MeV
LET=12 keV/μm
電離密度: 高い
高エネルギー放射線
炭素 350 MeV/n
LET=12 keV/μm
電離密度: 低い
LET: ある飛程において放射線が失う平均エネルギー
y: ある領域内における付与エネルギー
異なる
図1
同じ
LET と y の概念図
位体積当たりの付与エネルギーをその領域内の平均弦
長で除した値と定義され,LET と同じく(keV/μm)の単
位で表すことができる.ただし,y は,確率密度分布
(y 分布)で表されるため,LET のように,ある荷電
粒子に対して一意的に決めることはできない.LET と
y の定義に関する詳細は,ICRU Report 40 を参照して
いただきたい.
細胞や DNA スケールの微少な空間内における y 分
布を精度よく計算するためには,荷電粒子の飛跡周辺
のエネルギー付与構造を,δ 線による効果も考慮して
詳細に解析する必要がある.一方,粒子線治療などで
利用する高エネルギー荷電粒子は,人体内で複雑な核
反応を引き起こして様々な2次放射線を生成するため,
その生物学的な影響を評価するためには,巨視的な空
間内での放射線挙動も解析する必要がある.これらの
解析のため,数多くのモンテカルロ計算コードが開発
されており,それらのコードは,主にマイクロドジメ
トリ研究で利用される飛跡構造解析コードと,マクロ
ドジメトリ研究で利用される汎用放射線輸送計算コー
ドに分類できる.なお,「マクロドジメトリ」は,通
常は,単に「ドジメトリ」と称されるが,本稿では,
「マイクロドジメトリ」と明確に区別するため,「マ
クロドジメトリ」と記す.
Integration of macro-dosimetry with micro-dosimetry
Tatsuhiko Sato (Japan Atomic Energy Agency)
〒319-1195 Shirakata-Shirane 2-4, Tokai, Ibraki, Japan
TEL: +81-29-282-5803, FAX: +81-29-282-6768
E-mail: sato.tatsuhiko@jaea.go.jp
第 89 号 (2010)
25
佐藤
表1
飛跡構造解析と汎用放射線輸送計算コードの
違い
汎用放射線
飛跡構造解析
輸送計算コード
研究分野
マイクロ
マクロ
ドジメトリ
ドジメトリ
代表的な
計算コード
TRACION,
PARTRAC,
PITS etc
PHITS, EGS,
FLUKA, MCNP,
GEANT, MARS etc
電離・励起の
扱い
イベント毎
連続近似
対象物質
水のみ
任意の元素・形状
核反応
考慮不可
考慮可能
*下限
エネルギー
なし
約 1 keV
**対象
スケール
約 1mm 以下
約 10μm 以上
***計算時間
103 (秒)
10-5 (秒)
* 中性子を除く
** 物質を 1g/cm3 の水と仮定した場合
*** 高エネルギー陽子が 1mm の水を透過するときの計
算に要する時間のオーダー
上記2種類のコードの特徴を表 1 にまとめる.汎用
放射線輸送計算コードは,任意の元素組成・形状を持
つ物質内での放射線挙動を,核反応や電離によるエネ
ルギー損失などを考慮しながら解析し,巨視的な空間
内における付与エネルギーや放射線フラックスなどを
計算することができる.しかし,それらのコードは,
各電離・励起イベントが連続的に発生すると近似して
エネルギー損失を計算するため,計算時間は速いが,
その近似が成立しなくなる微少空間内(約 10μm 以下)
における付与エネルギー分布(y 分布)を正しく計算
することはできない.一方,飛跡構造解析コードは,
荷電粒子と水との相互作用による全ての電離・励起イ
ベントの情報(位置,付与エネルギー,反応タイプ)
を特定するため,y 分布を正確に計算することができ
る.しかし,飛跡構造解析は,極めて膨大な計算時間
を要するため,そのアルゴリズムを汎用計算コードに
直接組み込んでも,計算時間の観点から実用的な計算
コードにはなり得ない.したがって,y 分布など,マ
イクロドジメトリによる知見を,粒子線治療計画など,
マクロドジメトリに反映させるためには,これら2種
類のコードを有機的に統合する必要がある.
このような背景から,我々は,飛跡構造解析コード
の結果を,数学モデルを介することにより汎用放射線
輸送計算コードに効果的に組み込み,これまで不可能
であった巨視的な空間内における DNA・細胞スケール
の y 分布計算を可能とした.具体的には,まず,飛跡
26
達彦
δ線
コア領域
荷電粒子
の飛跡
y分布計算用球状サイト
(赤いサイトは,yが大きい)
図2
飛跡構造解析の概要
構造解析コードを用いて,いくつかの高エネルギー荷
電粒子の飛跡周辺における y 分布を計算し,その結果
を再現可能な数学モデルを構築した[1].これにより,
膨大な計算時間を要する飛跡構造解析を介することな
く,任意の荷電粒子の飛跡周辺における y 分布を計算
可能とした.また,その数学モデルを汎用放射線輸送
計算コード PHITS[2,3]に組み込み,人体内における y
分布を迅速に計算する手法を確立した.さらに,その
改良した PHITS とマイクロドジメトリック運動学モ
デル[4,5](以下,MK モデルと略す)を組み合わせ,y
を指標とした新たな生物学的線量評価モデルを開発し
た[6].以下,その詳細について解説する.
2. 飛跡構造解析
我々が本研究を開始した当時(2005 年),幅広いエ
ネルギーの荷電粒子の飛跡構造を解析可能な計算コー
ドは存在しなかった.そこで,電子・光子用飛跡構造
解析コード TRACEL[7]に,Chatterjee らのコアモデル
[8]及び Butts らの δ 線生成モデル[9]を組み合わせ,独
自の飛跡構造解析アルゴリズムを開発した.そして,
そのアルゴリズムを用いて,1MeV/n から 100GeV/n ま
での陽子,He, C, Fe イオン飛跡周辺のエネルギー付与
構造を解析した.なお,現在は,TRACEL を拡張して
開発された TRACION により,荷電粒子の飛跡構造解
析を直接行うことができる.TRACION に関する詳細
は,本誌別稿「重粒子線トラック構造と DNA 損傷(渡
邊立子著)」で解説されているので,そちらをご参照
いただきたい.
我々が実施した飛跡構造解析の概要を図2に示す.
解析では,まず,荷電粒子の飛跡周辺には電離密度の
高いコア領域が形成されると仮定し,その半径 rc を
Chatterjee モデル[8]に基づいて決定した.
rc = 0.0116 β (μm),
(1)
ここで,βは荷電粒子の光速に対する相対速度である.
そして,コア内での電離密度が一定となるよう,各電
離・励起イベントの位置と付与エネルギーをモンテカ
放射線化学
マイクロドジメトリとマクロドジメトリの融合
y分布 y*f(y)
10
0
6
炭素イオン φ = 30 (nm)
飛跡構造解析
1 GeV/n
式(2)
100 MeV/n
ε f1 (ε , φs , Z , E , L) = ∑ Pi (φs , Z , E )δ (ε p i )
i =1
+
P7 (φs , Z , E )
2π Γ
μk (φs , Z , E )ε / w ⎡ jk (φs , Z , E ) − 1 ⎤
⎢
⎥
jk (φs , Z , E ) ⎦
k =1 [ jk (φs , Z , E ) − 1] ⎣
2
10
10 MeV/n
−2
1 MeV/n
10
−4
10
0
2
10
Lineal Energy y (keV/μm)
図3
飛跡構造解析及び計算式により得られた y 分布
ルロ法により決定した.次に,Butts らの δ 線生成モデ
ル[9]に基づいて,δ 線の生成エネルギー及び角度をモ
ンテカルロ法により決定した.その際,オリジナルの
Butts モデルでは考慮されていない相対論的効果を考
慮した.そして,その δ 線の飛跡構造を TRACEL によ
り解析し,各電離・励起イベントの位置と付与エネル
ギーを決定した.
上記シミュレーションにより電離・励起の情報を詳
細に決定した空間に,ある一定の直径を持つ球状のタ
ーゲット(通称「サイト」)をランダムに配置し,そ
の中のエネルギー付与分布,すなわち y 分布を計算し
た.その際,サイトの直径は,1nm から 1μm まで変化
させ,幅広いサイトサイズに対する y 分布を評価した.
得られた結果の例として,1, 10, 100 及び 1000 MeV/n
の炭素イオン飛跡周辺のサイト直径 30 nm に対する y
分布を図3に示す.図より,エネルギーが高くなるに
従って y 分布が低 y 側にシフトすることが分かる.こ
れは,一般に,高エネルギー荷電粒子ほど LET が低く,
また数多くの δ 線を生成するため,その飛跡周辺の電
離密度が低くなるからである.また,低エネルギーの
データには2つのピークが見られるが,これらは,高
y 側から,直接電離(コア)による寄与とδ線による
寄与である.
3. y 分布計算モデル
上記飛跡構造解析結果を詳細に解析した結果,y 分
布は,量子化した準位エネルギーによるピーク,オー
ジェ電子によるピーク,δ 線及び直接電離(コア)に
よる寄与の4成分より構成されることが分かった.そ
こで,y 分布を再現する計算式として,それぞれの寄
与に対応する4つの項よりなる次式を提案した.
第 89 号 (2010)
⎡ − (ε − ε p7 ) 2 ⎤
exp ⎢
⎥
2Γ 2
⎣⎢
⎦⎥
+∑
+
, (2)
ε /w
A(φs , Z , E )ε 2
exp { B (φs , Z , E ) [ε − C (φs , Z , E ) Lφs ]}
ここで,εはサイト内の付与エネルギー,φs はサイト直
径,Z, E, L は,それぞれ,荷電粒子の原子番号,エネ
ルギー及び LET である.y 分布は,式中の ε をサイト
の平均弦長 2φs /3 で除して y に変換することにより導
出できる.
量子化した準位エネルギーによるピークは,δ 関数
(第1項)で表され,Pi 及びεpi は,それぞれ,ピーク
の大きさ及び準位エネルギーを示す.オージェ電子に
よるピークは,ガウス分布(第2項)で表されると仮
定し,P7, Γ 及び εp7 は,そのガウス分布の高さ,幅,
ピークエネルギーを示す.δ 線及び直接電離による寄
与は,それぞれ,変形した2つのポアソン分布(第3
項)及びフェルミ分布(第4項)により表されると仮
定した.第3項中の w は,1 イベント当たりの平均電
離エネルギーを表す.この式に対する詳しい説明は,
文献[1,6]に記載されている.
式(2)中の P, μ, j, A, B, C は,サイトサイズφs や荷電粒
子の原子番号 Z 及びエネルギー E に依存したパラメ
ータであり,それらの数値は,飛跡構造解析により得
られた各条件に対する y 分布を最小自乗フィッティン
グすることにより決定した.得られたパラメータを式
(2)に代入して計算した y 分布を図3に併せて示す.図
より,提案した計算式は,飛跡構造解析により得られ
た y 分布を的確に再現できることが分かる.また,図
3に示した条件以外にも,様々な照射条件に対して計
算式の信頼性を検証した結果,式(2)を用いれば,任意
の荷電粒子,サイトサイズに対するに対する y 分布を
飛跡構造解析と同等の精度で導出可能であることが分
かった.
4.
PHITS を用いた y 分布計算
PHITS は,巨視的な体系内における 100GeV までの
陽子,中性子,重イオンなどの挙動を解析可能な汎用
放射線輸送計算コードである.任意の元素組成,形状
の物質中の放射線挙動を,核反応や電磁場による影響
まで考慮して解析できるため,加速器の遮へい設計,
放射線治療の線量評価,宇宙開発分野などで幅広く利
用されている.しかし,PHITS は,荷電粒子の電離エ
ネルギー損失計算に連続近似を用いるため,サイトサ
イズが 10μm 以下の領域に対する y 分布を正確に計算
することはできなかった.
27
佐藤
達彦
3
3
He
C
Ne
−1
2
(B) y*依存性
α (Gy )
−1
α (Gy )
(A) LET依存性
1
2
X−ray
He
C
Ne
1
MKモデル
0
1
10
2
10
LETD (keV/μm)
図4
1
10
2
10
y* (keV/μm)
3
10
HSG 細胞の重イオン照射に対する細胞生存率と LET 及び y*の関係
そこで,式(2)に基づく y 分布計算モデルを PHITS に
組み込み,現実的な計算時間内で y 分布を計算する機
能を追加した.その具体的な方法は,文献[6]に記載さ
れている.この成果により,これまで計算することの
できなかった巨視的な体系内における y 分布が計算可
能となり,従来,LET の関数として解析されてきた様々
な生物実験データを,より厳密な指標である y 分布を
用いて再解析することが可能となった.
PHITS の y 分布計算機能を応用した例として,古澤
らにより測定された,種々の重イオン照射に対する
HSG 細胞の生存率曲線[10]に対する再解析結果を紹介
する.この実験データは,HIMAC の治療効果推定モ
デル構築にも利用された極めて重要なデータであるが,
その生存率曲線は,LET だけでなく,イオン種にも依
存することが知られていた(図4A 参照).そこで,
改良した PHITS を用いて,その照射細胞位置における
y 分布を計算し,生存率曲線の y 依存性について検討
した.その際,y は確率密度分布であり,図4の X 軸
として直接利用することはできないため,得られた y
分布に MK モデル[4,5]を組み合わせて導出した y*値
(高電離密度放射線の Overkill 効果を補正した線量平
均 y 値)を,生存率曲線の依存性を表す指標とした.
詳細な解析方法は,文献[11]を参照していただきたい.
図4に,照射細胞の生存率曲線を LQ モデルでフィ
ッティングして導出した α 値と,細胞位置における線
量平均 LET(LETD)及び y*の関係を示す.図より,
LET を指標としたグラフには明らかに見られたイオン
種依存性が,y*を指標としたグラフではほとんど見ら
れないことが分かる.これは,同じ LET でも,軽いイ
オンの方が速度が遅いため,δ 線生成による電離密度
の分散が小さく,重いイオンと比較して電離密度が大
きくなるためである(すなわち,軽いイオンの方が,y
分布が高 y 側に偏っている).したがって,電離密度
そのものを表す y を使えば,このような問題は生じず,
28
3
10
0
細胞生存率を一意的に表すことができる.また,図4
B 中の曲線は,MK モデルにより予測した α 値であり,
X 線照射による結果を含め,測定値を良く再現するこ
とが分かる.これらの成果から,改良した PHITS と
MK モデルを組み合わせれば,y*を唯一の指標として,
任意の放射線照射による細胞生存率を簡便かつ正確に
計算できることが分かった.
5.
PHITS を用いた生物学的線量評価
粒子線治療では,その治療効果を推定するため,患
者体内における生物学的線量を評価する必要がある.
生物学的線量は,一般に,物理線量と,その場におけ
る細胞生存率に対する RBE の積で表される.物理線量
は,汎用放射線輸送計算コードを用いた巨視的な放射
線挙動解析により評価可能である.また,細胞生存率
に対する RBE は,前節で記述したように,その場にお
ける y 分布に MK モデルを適用して計算可能である.
そこで,我々は,改良した PHITS と MK モデルを組み
合わせ,新たな生物学的線量評価モデルを構築した.
構築した生物学的線量評価モデルは,汎用放射線輸
送計算コード PHITS を利用するため,ビーム上流の機
器や人体内で発生する2次放射線の寄与を含めた生物
学的線量の評価が可能である.また,PHITS は,患者
個人の CT データから作成したボクセルファントムと
呼ばれる人体模型をシミュレーション体系内に組み込
めるため,腫瘍部位の生物学的線量のみならず,正常
部位の2次発ガンなど,確率的影響に対するリスクの
指標となる各臓器の線量当量を,患者個人の体型に基
づいて計算することも可能である.これらの特徴を生
かし,我々は,HIMAC における治療で頻繁に利用す
る炭素 290MeV/n Spread-Out Bragg Peak (SOBP)ビーム
を日本人男性ボクセルファントム JM[12]に照射した
ときの物理線量,生物学的線量及び線量当量を計算し
た.
放射線化学
マイクロドジメトリとマクロドジメトリの融合
し,その依存性を再現可能なモデルを構築したいと考
えている.そのためには,実験者と計算者,物理学者
と化学者と生物学者が,それぞれの研究分野の枠を越
えて協力する必要があり,本稿が,その新たな研究枠
組みを作るきっかけとなれば幸いである.
謝辞
本稿の執筆及び本稿で解説した計算モデルを開発す
るにあたり多大なご協力をいただきました日本原子力
研究開発機構の渡邊立子氏,放射線医学総合研究所の
加瀬優紀氏,古澤佳也氏,高度情報科学技術研究機構
の仁井田浩二氏に深く感謝いたします.また,人体ボ
クセルファントムを用いた PHITS シミュレーション
を実施するにあたり,多大なご協力をいただきました
日本原子力研究開発機構の佐藤大樹氏,佐藤薫氏,遠
藤章氏に深く感謝いたします.
図5
重粒子線治療場を模擬した PHITS シミュレーショ
ンによる患者付近の物理線量分布.左がビームコリメータ
で,右が患者を表しており,ターゲットは脳と仮定した.
計算結果の例として,患者付近における xz 平面上の
物理線量空間分布を図5に示す.図より,数多くの2
次放射線がビーム上流側で発生しているが,そのほと
んどが,コリメータにより遮へいされていることが分
かる.したがって,この照射体系の場合,患者体内の
物理線量は,ターゲット臓器である脳の付近に極めて
集中している.
また,この図からは読み取れないが,腫瘍部位付近
における生物学的線量を詳細に解析した結果,SOBP
領域では,10%程度ではあるが,深部になるほど生物
学的線量が小さくなることが分かった.これは,現在
HIMAC で採用している生物学的線量評価モデルと,
我々が構築したモデルの差に起因するものと思われる.
この解析に対する詳細は,文献[6,13]に記載されている.
6. まとめ
飛跡構造解析コードと汎用放射線輸送計算コードを
有機的に統合し,巨視的な空間内における微視的な y
分布を迅速に計算可能な手法を構築した.また,構築
した計算手法を用いて,これまで LET の関数として表
現されていた重イオン照射細胞生存率に対する実験デ
ータを再解析し,細胞生存率の依存性を表す指標とし
て,y が LET よりも優れていることを明らかにした.
さらに,構築したモデルと MK モデルを組み合わせ,
y*値を RBE の指標とした新たな生物学的線量評価モ
デルを開発した.
今後は,これまで LET の関数として表現されてきた
様々な実験データ(ラジカル生成の G 値,DNA 損傷
数,染色体異常発生率など)を y の関数として再解析
第 89 号 (2010)
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
参考文献
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T. Sato et al. Radiat. Prot. Dosim. submitted.
K. Sato et al. Radiat. Prot. Dosim. 2007, 123, 337.
佐藤達彦他, 放射線科学 2009, 52(2), 47.
<著者の略暦>
佐藤達彦:日本原子力研究開発機構 研究副主幹.研
究テーマ ①高エネルギー放射線による被ばく線量評
価法に関する研究,②大気圏内宇宙線スペクトル計算
モデル EXPACS の開発,③次世代型放射線モニタ
DARWIN の開発.趣味はテニスとグランジロック.
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