こちら - 京都大学

主に,学生の皆様
日本再興戦略 -改�訂 2014- にも載っている
セルロース/キチンナノファイバーって
何ですか?そんなに凄いんですか?
そんな研究の最前線�に触れるべく
宇治で1日特別講義を開催致します
2014 年 12 月 16 日(火)10:30 - 17:00 頃
京都大学宇治キャンパス きはだホール セミナー室 1
10:30 能木雅也 准教授(大阪大学産業科学研究所)
13:30 伊福伸介 准教授(鳥取大学大学院工学研究科)
15:20 パネルディスカッション(多数の小発表有り)
・セルロースについて
・キチンについて
何時でも,来聴大歓迎!!
連絡先:生存圏研究所 阿部賢太郎( abekentaro@rish.kyoto-u.ac.jp )
はじめに
セルロースまたはキチンという物質をご存知ですか.
聞いたこと無いな,という方もおられるかもしれません.けど,本当は,これまでに見たり触れ
たり食したりしたことが必ずあります.それくらいありふれた物質です.
共に海から生まれ,非常に良く似た分子構造を持つこの二つの有機高分子は,結晶化したナノフ
ァイバーの形で自然界に存在しています.細く美�しく強靭なこれらの繊維は,様々々々な生物(セ
ルロースは植物,キチンは甲殻類や昆虫類)の骨格物質として,その体を支えてきました.
現在,これら天然由来のナノファイバーを高強度ナノ材料として利用しようとする動きが世界的
に広がっており,私達の暮らしをも支えようとしています.日本においても 2014 年 6 月に改�訂さ
れた「日本再興戦略」において,それらの利用促進に向�けた取組を推進する,と記されています.
私達の身の回りに豊富に存在していながら、これまであまり意識することの無かったであろう
この興味深いナノ材料について,もっとよく知ってもらいたいと思っています.
そこで今回,セルロース/キチンナノファイバーの利用研究を最前線�で進める 2 名の研究者を
お招きして特別講義を開催する運びとなりました.
講師である能木,伊福両先生は共にまだ若く(アラフォー),皆さんと同じ目線�で真摯に気さく
にこのナノ材料について語ってくれるはずです.
学生の皆様におかれましては,研究人生におけるシグモイド曲線�のド真ん中を駆け上がるお二人
の研究前傾姿勢に触れることで,今後の研究人生において有益な刺激になるのではないでしょうか.
皆様のお時間が許す限り,是非とも奮ってご参加くださいませ
※講義のプログラムは以下のとおりです.
日時:2014 年 12 月 16 日(火)
場所:京都大学 宇治キャンパス きはだホール セミナー室 1
10:30 能木雅也 准教授(大阪大学 産業科学研究所)
・セルロースナノファイバーについて
13:30 伊福伸介 准教授(鳥取大学 大学院工学研究科) ・キチンナノファイバーについて
15:20 パネルディスカッション(多数の小発表有り)& あなたの質問に出来るだけ答えます.
※ 席数に限りがありますので,ご参加を固く誓われる方は下記阿部までご連絡していただけると,
貴方にとっても私にとっても大変有り難いことと存じます.
京都大学 生存圏研究所 生物機能材料分野 阿部賢太郎
[email protected]
[email protected]用 大 阪 大 学 産 業 科 学 研 究 所 准 教 授 能 木 雅 也
[email protected]
1.はじめに
現在、太陽電池や電子ブックなどの次世代エレクトロニクスの開発最前線では、「脱ガラス」と「低
環境負荷プロセス技術」をキーワードに研究開発が進んでいる。「脱ガラス」として軽量・フレキシブ
ルな透明プラスチック基板、「低環境負荷プロセス技術」として印刷技術を用いた電子デバイス部品の
実装技術(プリンテッド・エレクトロニクス技術)が有望視されている。両者の技術が融合すれば、大
面積なフレキシブル電子デバイスが連続的なロールトゥーロールプロセスによって低コストで製造可能になる。
近年のナノテクノロジー技術の著しい進歩に伴い、電子デバイスの実装温度は200度付近まで低温化が進ん
でいる。しかしながら、多くのプラスチック基板にとって200度付近は過酷な条件であるため、更なる技術開発
が求められている。
近年、セルロース材料分野において、新たなナノマテリアル:セルロースナノファイバーが発見され
た。セルロースナノファイバーとは、植物細胞壁を機械的または化学的に解繊処理して得られる幅
4-15nm の繊維状物質である。このセルロースナノファイバーによって、紙は再発明された。3 世紀頃
の中国で発明されて以来、紙は白色不透明であったが、セルロースナノファイバーを用いた紙(ナノペ
ーパー)は高い透明性を示す。さらに、軽量・高耐熱性・折り畳み可能といった紙本来の特徴も保持し
ながら、ガラス並みの低熱膨張性も有する。そこで我々は、脱ガラスのキーマテリアルとして「セルロ
ースナノペーパー」に着目し、エレクトロニクス分野への応用を試みている。本稿では、セルロースナ
ノペーパーの特徴とエレクトロニクス分野への応用事例を簡単に紹介する。
2.セルロースナノペーパー
2 . 1 紙 が 透 明 に な る 理 由 (引用1)
私達が日常使用している「白い紙」は、木材から非セルロース成分を取り除いた幅15-50µmのパルプ
繊維からつ くられる。パルプ繊維と水の懸濁液を乾かすと、パルプ繊維が絡まりあい、そして繊維表
面の水酸基によって繊維同士が強固に水素 結合する。その結果、接着剤などを使用しなくても、フィ
ルム状に紙が形作られる。そして、紙が白く見える理由は、紙の内部にある空隙が関係している。幅
15-50umのパルプ繊維同士が凝集すると、繊維間に数ミクロンオーダーの隙 間が残るため(図1右上)、
この空隙が太陽光を散乱し、紙は「白く」見える(図1右下)。
幅4-15nmのセルロー スナノファイバー水懸濁液を乾燥させると、パルプ繊維と同じように、ナノフ
ァイバー同士が絡まりあい、水酸基によって繊維同士が結合され、フィルム状に形作られる。このよう
に、水懸濁液が乾いていくプロセスは、太い繊維(パルプ繊維)も細い繊維(セルロースナノファイバ
ー)も全く一緒である。しかし、セルロースナノファイバーは直径が非常に細く・比表面積が膨大であ
るため、パルプ繊維と比べて変形しやすく、単位面積あたりの水素結合の数が圧倒的に多い。その結果、
ナノペーパーでは繊維同士の隙間が確認できないほど小さくなり(図1左上)、太陽 光を乱反射するこ
となく高い透明性を示す(図1左下)。なお、このナノペーパーはプラスチックなど異種材料を一切添加
しておらず、セルロースナノファイバーだけでできた透明材料である。
図 1 透明な紙(右)と白い紙(左)(引用 1)
2 . 2 透 過 率 ・ ヘ イ ズ (引用2)
透明な媒体に光が入射する際、空気との屈折率差に応じて表面反射(フレネル反射)が生じる。した
がって、理想的な透明物体においても表面反射による透過率ロスが生じ、その全光線透過率は100%に
至らない(例えばガラスの全光線透過率は90%程度である)。全光線透過率の理論値は、透明材料の屈
折率と空気の屈折率(1.0)から算出される。セルロースの屈折率を1.58とすると、フレネル反射は5.1%
であり(式1)、多重フレネル反射を考慮したナノペーパーの全光線透過率理論値は90.1%となる(式2)
である。さて、我々が作製したセルロースナノペーパーは、可視光領域において全光線透過率90.1%を
達成しており、シート内部で全く光吸収していない極めて透明な材料である(図2)。
R=
!! !!! !
!! !!! !
T % = 1 −  ! ×100
(1)
(2)
(R:表面反射、T:多重表面反射を考慮した理論全光線透過率(%)、nm:透明媒体の屈折率、na:空
気の屈折率)
光吸収しない透明な物体も、光散乱によって透明性が低くなる。その光散乱は、全光線透過率におけ
る拡散透過率の割合“ヘイズ”という指標で評価される。白濁した透明材料ほどヘイズは大きく、市販
PETフィルムはヘイズ4%程度であり、ガラスはヘイズ0%である。そして、透明ナノペーパーにおいて
はヘイズ1%以下が達成されている。
図2 透明ナノペーパーの全光線透過率スペクトル
2 . 3 高 耐 熱 性 (引用3)
多くのプラスチックは150℃以上で加熱すると変形・黄変する。一方、ナノペーパーは、200℃程度で
加熱しても変形・黄変しない高耐熱性材料である。
紙は、耐熱性の低い材料と誤解されがちであるが、非常に耐熱性の高い材料である。確かに、光沢紙
や写真紙などは180℃程度で加熱すると茶色く変色するが(図3左)、それはこれらの紙の表面をコーテ
ィングしている各種ポリマー材料が黄変しているのである。紙の主成分であるセルロースは、300度付
近にガラス転移温度・熱分解開始温度が存在する(窒素ガス雰囲気下)。したがって、表面コーティン
グしていないナノペーパーや濾紙・画用紙などのパルプ紙は、200℃程度で加熱しても黄変しない(図3
右・中央)。
図3 ポリマーコートしてある写真紙、セルロース繊維のみからなるパルプペーパーとナノペーパーを
大気中で加熱した外観
2 . 4 機 械 的 特 性
セルロースは剛直な高結晶性ポリマーである。したがって、セロハンなどのセルロース系透明プラス
チックは、汎用プラスチックよりも優れた機械的特性を示す。そして、ナノペーパーの機械的特性は、
セルロース系透明プラスチックよりも優れ、汎用透明プラスチックよりも遙かに優れている。その理由
は、セルロースナノファイバーによる緻密なネットワーク構造である。セルロース系透明プラスチック
は、セルロース原料を溶融・成形して製造するため、セルロースナノファイバーが消失しネットワーク
構造が存在しない。一方、ナノファイバーシートは、セルロースナノファイバーが高密度に凝集した材
料なので、ヤング率13GPa・引張り強度223MPa・熱膨張率5-10ppm/Kと非常に優れた機械的特性を示
す(引用1)。
3.エレクトロニクス分野への応用事例
3 . 1 導 電 性 透 明 ナ ノ ペ ー パ ー : ITO 代 替 透 明 材 料 (引用 4)
ITO など金属酸化物を用いた透明導電膜は、液晶ディスプレイ・スマートフォン・太陽電池など様々
な電子デバイスに使用されている。しかし将来のフレキシブルデバイスを見据えると、金属酸化物透明
導電膜は真空プロセス・レアメタル・低フレキシブル性といった課題がある。そこで、カーボンナノチ
ューブや銀ナノワイヤを用いた透明導電膜が注目を浴びている。我々は、カーボンナノチューブや銀ナ
ノワイヤを透明ナノペーパーへ搭載し、電気の流れる透明ナノペーパーを開発した。いずれのペーパー
透明導電膜も、ITO ガラスに匹敵する透明性と導電性を有する。
図4 銀ナノワイヤを塗布した導電性透明ナノペーパー
3 . 2 印 刷 配 線 用 基 板 へ の 応 用 (引用 3, 5)
フレキシブル基板のうえに微細な高導電性配線を印刷する技術は、プリンテッド・エレクトロニクス
の実現に向けて非常に重要な課題である。幅 15-50um のパルプ繊維を用いた従来の白い紙は、パルプ
繊維同士の間に数 um オーダーの隙間があるため、微細な導電性ナノマテリアル(例えば、直径 50nm
以下の銀ナノ粒子インク)を印刷すると、導電性ナノマテリアルはインク溶媒と共にその空隙へと流れ
込む。その結果、印刷ラインは著しく滲み、導電性も極めて低くなる。ナノペーパーは、セルロースナ
ノファイバー同士が緻密に凝集したネットワーク構造を有している。そのため、印刷した導電性ナノマ
テリアルはシート表面に留まり、印刷ラインは非常にシャープな形状を示す。また、ナノペーパーは高
耐熱性を有するため、金属ナノインクに十分な加熱処理を施すことができ、ナノペーパー印刷ラインは
金属バルクに匹敵する高導電性を示した(図 5)。さらに、このナノペーパー印刷配線を高温高湿雰囲気
下(85℃/RH85%)に 1~2 ヶ月晒しても、その導電性は全く低下しない(図 6)。この試験条件は、電子
デバイス部品の信頼性評価の用いられる条件であるため、ナノペーパー印刷配線は、電子デバイスに十
分適用可能であることが明らかになった。
図 5 ナノペーパーに印刷した導電性配線と点灯する LED ライト(引用 20)
図 6 プラスチック基板(左)とナノペーパー基板(右)に印刷した銀ナノ粒子配線を、高温高湿度(80℃
RH80%)雰囲気下に放置した際の抵抗変化率の推移
3 .3 折 り 畳 み 可 能 な 電 子 デ バ イ ス に 向 け た 銀 ナ ノ ワ イ ヤ ペ ー パ ー ア ン テ ナ へ の 応 用(引用 6)
折り畳み可能なアンテナは、電子デバイスの小型化と携帯性の向上に向けて必須技術である。そこで
私達は、印刷可能な銀ナノワイヤインクを開発し、折り畳み可能な高感度ペーパーアンテナを開発した。
銀ナノワイヤは、印刷可能なフレキシブル配線材料として注目を集めている。しかし、銀ナノワイヤ
とプラスチックフィルムは密着性に乏しいため、折り畳むと銀ナノワイヤ配線がプラスチックフィルム
から剥離し、破壊されて導電性が失われる。そのため、折り畳み可能な導電性配線はこれまで実現され
ていなかった。一方、銀ナノワイヤはセルロースナノファイバーと親和性が高いため、ナノペーパーへ
印刷した銀ナノワイヤ配線は折り畳んでも高い導電性を保持する。この特徴を利用すると、銀ナノワイ
ヤを印刷塗布したナノペーパーを複雑に折り畳んでも、LED ライトは点灯し続ける(図 7 左)。
また、ナノペーパーは表面平滑性に優れているため、アンテナ配線用基板としても利用できる。ナノ
ペーパーに印刷した銀ナノワイヤ配線は、プラスチック基板へ印刷したものよりも優れたアンテナ特性
を示し、折り畳んでもアンテナ特性はほとんど低下しなかった(図 7 右)。従来のアンテナは、アンテ
ナ配線以外のコンデンサやコイルといった付属部品を使って、共振周波数を調整している。ナノペーパ
ーアンテナは、それらの付属部品を使うことなく、折り畳むだけで幅広い周波数で共振点を調整できる。
図 7 LED ライトを点灯する導電性折り鶴。(左)銀ナノワイヤを塗布したナノペーパー折り鶴、(右)
銀ナノワイヤを塗布した紙折り鶴(パルプ繊維を使用)。
3 . 4 ペ ー パ ー ト ラ ン ジ ス タ (引用 7)
セルロースナノペーパーは、フレキシブル電子デバイスにおいて画期的な基板材料である。私達は、
薄くて透明なナノペーパーベースの高移動度有機薄膜トランジスタアレイ(OTFT アレイ)の試作に世
界で初めて成功した(図 8)。
従来、OTFT アレイの搭載プロセスは、ガラス基板を想定した高温プロセスである。したがって、耐
熱性の低いプラスチック基板へ適用することが難しく、プロセス温度の低下と引き替えにそのトランジ
スタ性能は貧弱なものに留まっていた。しかし、天然木材セルロースナノファイバーからなるナノペー
パーは、高耐熱性(180℃以上)
・高耐薬品性・低熱膨張率(5-10ppm/K)といった優れた性能を有する。
したがって、リソグラフィと溶液プロセスを組み合わせ、ショートチャンネル・ボトムコンタクト OTFT
をナノペーパーへ搭載することが可能になった。さらに、ナノペーパーはその表面が非常に平滑である
ため、ナノペーパーに溶液塗布した有機半導体薄膜は 50-100um という非常に大きな結晶ドメインを形
成した。その結果、試作した TFT は、大気雰囲気下で最大 1cm2/Vs の高いホール移動度と 0.1V 以下の
小さなヒステリシスを示した。
図 8 ナノペーパー有機トランジスタアレイ
3 . 5 不 揮 発 性 ペ ー パ ー メ モ リ (引用 8)
柔軟な不揮発性メモリは、持ち運びしやすいフレキシブルエレクトロニクスの実現において必要な回
路部品である。しかし、柔軟な不揮発性メモリの開発は非常に難しく、数センチ以下まで曲げるとメモ
リ特性が大幅に低下してしまうのが現状である。そこで私達は、銀ナノ粒子複合セルロースナノペーパ
ーを用いた「記憶する紙」を開発した(図 9)。この記憶する紙は、曲げ半径 0.3mm 以下まで折り畳め
るフレキシブルな不揮発性抵抗変化メモリである。そして、6 桁のオンオフ抵抗比・小さなスイッチン
グ電圧分布など非常に安定した不揮発性メモリ特性を示した。
図 9 不揮発性ペーパーメモリ(a)メモリ構成図と(b)その外観
4 引 用 文 献
1) M. Nogi et al., Adv. Mater. 21(2009)1595-1598.
2) M. Nogi et al., Applied Physics Letters, 12 (2013) 181911
3) Ming-Chun Hsieh et al., Nanoscale, 2013, 5, 9289-9295
4) H. Koga et al., NPG Asia Materials, (2014) 6, e93
5) Thi Thi Nge et al., Journal of Materials Chemistry C 2013, 1, 5235-5243
6) M. Nogi et al., Nanoscale 5 (2013) 4395-4399
7) Y. Fujisaki et al., Advanced Functional Materials, (2014) 24, 1657–1663,
8) K. Nagashima et al., Scientific Reports (2014) 4, 5532