管理領域に侵入する小動物を撃退するロボットシステム -飛行ロボット ...

法政大学大学院工学研究科紀要
Vol.55(2014 年 3 月)
法政大学
管理領域に侵入する小動物を撃退するロボットシステム
-飛行ロボットによる監視・撃退システムA ROBOT SYSTEM THAT REPELS SMALL ANIMALS TRESPASSING INTO MANAGED TERRITORIES
- SURVEILLANCE AND REPELLING SYSTEM USING A FLYING ROBOT前川 真吾
SHINGO MAEKAWA
指導教員
高島
俊
法政大学大学院工学研究科機械工学専攻修士課程
Recently there are many cases that little animals such as homeless cats intrude into home gardens or
garages and do harm to them, such as dropping animal excreta or making scratch damages on cars.
Therefore, there are many needs for keeping little animals away from home area and therefore, many kinds
of cat-repelling goods are sold in the city. In this report, a new type of patrol robot that can repel little
animals without treating them cruelly is proposed. The robot can recognize little animals, track them and
repel them from a home garden by some harmless method.
Key Words: Patrol Robot, Home Garden, Repelling Animals, Flying Robot, AR Drone
1. 緒
論
確認した生命体が小動物であった場合にそれを追跡する
現在,土地開発や環境変化による弊害で農地に野生動物
システム,最後に追跡している小動物が管理領域に被害を
が,一般家庭の庭に猫などの小動物が侵入し被害を与える
及ぼす前に追い払うシステム,そしてこれら 4 つのシステ
といった報告が増えている.また動物によっては人的被害
ムを制御用コントローラとして用意した一つの PC(パーソ
に及ぶものまで報告されている.このような状況を受けて,
ナルコンピュータ)で管理・制御することで小動物の監
それらに対する柵や金網といったような防犯システムも
視・撃退を行っていく.Fig.1 にシステムの全体図を示す.
多数設置されているが,効果が一時的であったり,広範囲
本報告ではこの 4 つのシステムの内,感知システムと認識
にわたりすぎて設置が困難であったりなど様々な問題が
システム,そして追跡システムについてと制御用コントロ
存在し確実な成果を上げている物がないのが現状である.
ーラについて考察・検討した.
そこで移動可能なロボットにより,少ない時間で設置でき,
かつ広範囲をカバーできる小動物撃退ロボットシステム
の実現を目指す.また,小動物の撃退方法は動物に危害を
加えずに,追い払うことを第 1 目標とする.
本報告は,主に家庭の庭に侵入する小動物を寄せ付けな
いためのロボットの開発を試みた,福井らの文献[1][2]に
よる「お庭番ロボット」の継続研究として,家庭の庭に侵
入する猫を撃退するロボットシステムを考察することで
小動物撃退ロボットシステム全体の監視・撃退システムの
考察・検討した.
2. システム概要
管理領域に侵入する小動物を撃退するには大きく分け
て 4 つのシステムが必要である.まず,管理領域になんら
かの生命体が侵入したことを感知するシステム,次に侵入
した生命体が小動物かどうかを確認するシステム,そして
Fig.1 General view of the system
3. 感知システム
このシステムは管理領域内に侵入した生命体を感知す
TRICKLOPS SDK を使用することにより,C++のプログラ
ムでカメラ映像の取得と三次元演算をすることができる.
るシステムである.想定される小動物は恒温動物であるの
SDK とは Software Development Kit の略でカメラ情報の
で一定の温度を持つ物体の移動を検知できる赤外線セン
取得や三次元演算をするプログラムをまとめた Library file
サを使用する.実験に使用するセンサにはアイリスオーヤ
とまとめられたプログラムを必要に応じて関数として使
マ社製の乾電池式 LED センサーライト LSL-0.5 を採用し
用できるように定義する Header file,そしてそれらを使用
た.このセンサーライトは感知範囲内で一定温度以上の熱
して作成されたサンプルプログラムが入っている開発用
源が移動するとライトを点灯させる.後述する動物認識シ
ステムに光源が必要なため,このタイプの既製品を侵入感
のキットである.
(1)三角測量
知センサとして使用する.このセンサーライトの感知範囲
ステレオカメラの三次元演算は三角測量を採用してい
は水平前方方向に中心角約 130°半径約 3m の扇形状,鉛
る.詳解 OpenCV[3]によると三角測量は完全に歪み補正さ
直下方向に約 2m である.Fig.2 に感知範囲の図を示す.
れ,行がそろい,正確に計測された二つの画像があると仮
定して行う測量である.その仮定条件の状態を Fig.3 に示
す.
ℎ








Fig.2
Perception range of the infrared sensor








このセンサは日中にライトが点かないように光センサ
で一定の明るさ以上のときは感知しない設定になってい
Fig.3
Method of triangulation in 2-D plane
る.そのため,光センサの回路を切断することで日中でも
センサーライトを使用できるようにした.また,熱源が範

囲内に入ったことをコントローラに伝えるため,センサ内
の抵抗器と AD 変換モジュールを繋いだ.これは熱源を感
知していないときはライトが光らないため抵抗器に電圧
が発生せず,熱源を感知しているときはライトが光り抵抗



 , 
器に電圧が発生するためである.この電圧の有無で侵入を
判断する.使用する AD 変換モジュールは interface 社製の
PCI-3168C で,このモジュールは±10V を検出することが
でき,シングルエンドで 32 チャンネルまで使用すること
ができる.このモジュールを使用し,複数の赤外線センサ




′ , ′







を管理領域全体に配置することで小動物の侵入を感知す
る.またどの赤外線センサが感知したかを制御システムに
Fig.4 3D drawing of triangulation
伝えることで小動物がどのあたりに居るかを推定させる
ことができる.
Fig.3 より,平面図の相似比から式(1),(2)が得られる.
4. 認識システム
このシステムは感知システムで感知した熱源を持つ移
動物体を認識するシステムである.今回は一般家屋に侵入
する猫を例として目的とするため,認識システムで猫を認
識させる.また,後述する追跡システムで位置を確認する
絶対的な三次元距離情報が必要なため,認識システムのカ
メラには三次元情報を取得できる Point Gray Research 社製
の二眼ステレオカメラ Bumblebee2 を使用する.
二眼ステレオカメラ Bumblebee2 は付属されている
つまり,焦点距離 f とカメラ間距離 T と視差(
)が
分かればカメラから目標点 P までの距離を測定すること
ができる.SDK の Library では Fig.2 ではなく,Fig.4 を理
想的な設定とすることで三次元的な位置情報を取得して
識目標が小さいと認識できないという問題点とプログラ
いる.Fig.4 は Fig.3 を立体的に表現した図である.この状
ムの処理時間が長いため,常時認識し続けることが難しい
態での計算式は再投影行列 Q を使用して計算処理する.式
という問題点がある.これらを解決する手段として,物体
(3)に Q を示す.
認識のアルゴリズムを自作し,より良い学習データを作成
するなどの手段が考えられる.
(3)追跡ロボットの認識
(3)
[
]
追跡ロボットに追跡を行わせるには追跡ロボット自体
の位置を認識する必要がある. 今回は ARToolKit を使用
した認識方法を採用した.ARToolKit は AR アプリケーシ
ョンの実装を手助けする C 言語用のライブラリである.
′
理想的な状態の場合
は 0 となる.
AR とは拡張現実感(Augmented Reality)の略語である.この
この再投影行列を使用して左画像の X,Y 位置と視差 d を
ライブラリを利用すると事前に登録したパターンを画像
式(4)に代入すると 3 次元で表現された式(2)が得られ,変
内から発見,認識し,そのパターンの画像内の位置,傾き
形すると最終的に 3D カメラ座標(X/W,Y/W,Z/W)つまり
に合わせて 3D キャラクターなどを表示することができる.
はカメラ座標系が得られる.
追跡ロボットに登録したパターンを取り付けることで,追
跡ロボットが画像内のどの位置に,どの傾きで存在するの
かをコントローラに認識させることができる.このプログ
[ ]
[ ]
(4)
ラムの作成は“工学ナビ「ARToolKit を使った拡張現実感
プログラミング」
”
[5],
“俺 CG 屋”
[6],
“The Sixwish project”
[7]を参考に作成した.Fig.6 に認識した AR マーカーを白
これによりカメラ座標が得られるため,画像から画像内
線で囲った図を示す.
の物体までの距離が得られる.
(2)猫の認識
認識システムの本題である.感知した熱源を持つ移動物
体認識するシステムには MATLAB を使用する.MATLAB
は数値計算,可視化,プログラミングのための高水準言語
による開発環境のことで,この MATLAB を使用して物体
認識を行うプログラムが Ross B. Girshick’s Home Page [4]
にて無料で配布されている.このプログラムは
Discriminatively trained deformable part models と言って認識
目標をいくつかのパーツに分けそのパーツとパーツの位
置関係を学習し,それらを個別に認識することでその認識
目標が画像内のどこにあるかを認識するプログラムであ
る.Fig.5 にこのプログラムを用いて猫を認識した画像を
Fig.6 Example marker pattern of ARToolKit
示す.
5. 追跡システム
このシステムは前述した認識システムで認識した物体
を追跡するシステムである.
(1)画像データ内における追跡
前述した認識システムでは,物体認識の処理時間が長い
ので猫を認識し追跡し続けることはできない.そのため,
認識した猫を追跡するプログラムを新たに作成した.
この追跡プログラムにはパーティクルフィルタという
Fig.5 A picture of the result of recognizing a cat
時系列フィルタを使用する.特定物体認識に有効な特徴量
[8]によると時系列フィルタとは簡単に述べると未来予測
このプログラムを C++に移植することで,入力したカメ
のようなもので,ノイズを含む対象の観測値から対象の現
ラ画像内における猫の位置を取得し,その位置を三角測量
在の状態を取得し,次の状態を予測して再度観測,そして
で三次元位置情報に変換することで絶対的な猫の位置情
予測した状態と観測した状態を評価することで予測精度
報を得ることができる.
を上げていく理論のことである.これを画像追跡に応用し
しかし,このプログラムの欠点として画像内における認
たものを使用する.この中でもカルマンフィルタとパーテ
ィクルフィルタなどが存在するが,今回はパーティクルフ
ィルタを使用する.理由としてカルマンフィルタは状態推
(2)実空間における追跡
これまでのシステムによりステレオカメラで計測した
定する状態方程式を綿密に決定する必要が有り実装が難
空間内のどこに猫が居るかをコントローラに認識させる
解である,それに対してパーティクルフィルタは尤度関数
ことができた.侵入した猫を撃退するにはこのデータを基
さえ定義できれば実装が簡易であるためこれを採用した.
にロボットで実際に猫を追跡する必要がある.
パーティクルフィルタとは次の状態の予測にパーティ
クル(粒子)をしようする理論で,最初に画像内にパーティ
a) 追跡ロボット
追跡ロボットには飛行ロボット AR.Drone を使用する.
クルを一様に散布し,各パーティクルを設定した状態方程
三次元的に空間を移動することができるため飛行ロボッ
式に基づいて移動させる.その後観測した画像の状態と予
トを採用した.AR.Drone はフランスの Parrot 社が開発し
測したパーティクルの状態の尤度を計算する.この尤度を
た Smart Phone 等のタブレットデバイスを使い,Wi-Fi 通
重みとすることで,再度パーティクルを散布するときにど
信で操縦する 4 軸ヘリコプタのラジコンモデルである.
のあたりに散布するかを決定する.パーティクルフィルタ
Wi-Fi 通信で操縦できるので C++によるプログラミングで
が計算するのはパーティクルの分布によって表される確
操縦することも可能である.Fig.8 に AR.Drone を示す.こ
率密度であるのでどこが対象の位置かを決定するには重
の AR.Drone には様々なセンサが搭載されている.まず,
み付け平均を取ったり,最大重みを持つパーティクルを使
鉛直下方向きに水平速度測定用のボトムカメラ
ったりなどの方法を使用する必要がある.今回は正確に場
(60fpsQVGA)や対地面の高度測定用超音波センサが搭載
所を特定したいため,目標位置にパーティクルが散布され
されており,内部のオンボードでボトムカメラ画像内のオ
ていない可能性を考慮し重み付け平均で位置を決定する
プティカルフロー計算,超音波センサの高度計算を行うこ
方法を採用した. Fig.7 にパーティクルフィルタの説明図
とで,安定したホバリングを実現している.他にも角速度
を示す.
を毎秒 2000°測定可能な 3 軸ジャイロスコープや誤差
50mg の 3 軸加速度計,6°の正確性を持つ磁気センサなど
初期パーティクルの配置
があり,これらによって,通常のラジコンヘリよりも正確
次フレームへの予測
かつ精密な飛行をすることが出来る.さらに簡単な自動飛
行プログラムや速度測定プログラムが内蔵されているた
観測
め,C++プログラムによる自動制御飛行が可能である.
尤度の計算・対象物体の推定
パーティクルの選択
Fig.7
×
×
Explanation of Particle filter
尤度の計算には色ヒストグラムを使用する.ステレオカ
メラで取得した画像は BGRA 画像(青,緑,赤,透明度で
データが分けられた画像)なのでこれを HSV 画像(色相,彩
度,明度で分けられた画像)に変換し,色相と彩度のヒス
トグラムで尤度を計算する.BGRA 画像で計算しない理由
Fig.8
Flying robot, AR.Drone2.0(Parrot.inc)
は BGR でヒストグラムを作成すると白で構成された画像
と赤と緑と青で構成された画像が一致してしまうためで
あり,明度を計算しない理由は明度まで計算すると対象に
b) 追跡ロボットの位置追跡
前述した ARToolKit を使用した認識を使用することで
影が掛かるだけで一致していないことになってしまうた
AR.Drone をコントローラに認識させることができた.し
めである.
かし,この ARToolKit も前述した認識システムと同様に画
これらの画像処理には OpenCV というオープンライブ
像内のパターンが小さいと認識することができないので,
ラリを使用する.OpenCV とはインテル社が開発・公開し
追跡は AR.Drone のオンボードから速度や角度の情報を得
た無料で得られるコンピュータビジョン向けライブラリ
てそれを積分演算することで位置と姿勢を計測するデッ
でこれを使用することで,複雑な画像処理を単純な関数の
ドレコニングで行う.AR.Drone からの情報の取得や
みで使用することができる.
AR.Drone への移動の指示を行うプログラムには Puku’s
現在の問題として使用する状態方程式がサンプルプロ
Laboratory[9]というサイトにあるオープンソース CV
グラムの単純なものなので追跡対象が不規則な動きをす
Drone を使用する.CV Drone は OpenCV と AR.Drone を組
ると追跡できない点である.よって今後は動物の動きに合
み合わせ,AR.Drone の操作や情報の取得といった操作を
わせた状態方程式を立てる必要がある.
一つのクラスにまとめることでより簡易に AR.Drone を
C++環境下で操作できるようにしたプログラムである.
ベクトル変換式を示す.
c) 猫の追跡
画像内の猫の位置追跡とロボットの位置追跡に基づい


て実空間でロボットに猫を追跡させる.Fig.9 は三次元座




(6)

(7)
標を持つ 2 つの物体間の単位ベクトルの計算方法を示した
レオカメラで計測したものが使えるので式(5)によってス
 で表し
 とベクトル

たもので,式(7)は式(6)からベクトル を導き出したもの
テレオカメラから見た目標位置までの単位ベクトルを得
である.座標系 A をステレオカメラの座標系とし,座標系
ることができる.
B を AR.Drone の座標系とすることでこの 2 式からステレ
ものである.図にあるような両者の三次元位置情報はステ
式(6)はベクトル
をベクトル
オカメラから見た単位ベクトルを AR.Drone から見た単位
[
√
]
(5)
ベクトルに変換することができる.この計算はコントロー
ラ上で行われ,この計算結果を元に AR.Drone を操作する
ことで小動物の追跡を実現する.
この単位ベクトルの向きに AR.Drone が移動すれば目標
点に到達することができる. しかし,この単位ベクトル
は前述したとおりステレオカメラから見た単位ベクトル
6. 結論
本報告では,管理領域に侵入する小動物の被害を減らし,
である.よってこの計算したベクトルを AR.Drone から見
人と小動物の安全な生活を目的に研究を行った.その中で,
た単位ベクトルに変換する必要がある.
飛行ロボットによる監視・撃退システムを検討してきた.
その結果,全体的な基礎システムの構築と限定的な条件下
 , ,
における猫の追跡が達成できた.しかし,前述した各シス
テムの欠点や制御用コントローラの制御プログラム等,

 , ,
様々な課題が数多く残っている.今後はそのような課題点

√ 



[
単位ベクトル













をどう解決していくかということが研究の中心となって
くる.
]
謝辞
本研究の遂行にあたり終始,御指導,御鞭撻下さい
ました,法政大学理工学部機械工学科
Fig.9 Unit vector
高島俊教授には,
深く感謝の意を表すとともに,厚く御礼申し上げます.
Fig.10 はロボット制御基礎論[10]を参考に作成した座標
系の違う物体それぞれから見たベクトルの関係を示した

, はそれぞれ座標系 A から見た目標
までのベクトルと座標系 B から見た目標までのベ
クトルを示している.  は座標系 A から見た座標系
図である.
A の原点
から座標系 B の原点
 までのベクトルを示し
ている.
 は座標系 A から座標系 B への座標変換行列を
示しており,  はその逆行列を示している.
Y


Z

XA

 
Y
Z

XB





 
・  ・ 

 
・

 
Fig.10 Relation between coordinate systems, A and B
参考文献
1)福井春彦,高島俊,他,“庭に進入する小動物を撃
退するロボットについての基礎研究”,Robomec 2011
講演論文集,2011
2)前川真吾,高島俊,他,“庭に進入する小動物を撃
退するロボットについての基礎研究”,Robomec 2013
講演論文集, 2013
3)著 Gary Bradski, Adrian Kaeblar,訳 松田晃一:詳
解 OpenCV コンピュータビジョンライブラリを使
った画像処理・認識,オライリージャパン,pp423-
443,2009
4)Ross B. Girshick’s Home Page,
http://www.cs.berkeley.edu/~rbg/
5)工学ナビ「ARToolKit による拡張現実感プログラミン
グ」,http://kougaku-navi.net/ARToolKit/
6)俺 CG 屋, http://www.cg-ya.net/
7)The Sixwish project, http://sixwish.jp/
8)山下隆義,藤吉弘亘,"特定物体認識に有効な特徴量",
情報処理学会 研究報告 CVIM 165,2008
この図に示した座標変換式で計算することで AR.Drone
から見た単位ベクトルを得ることができる.式(6),(7)に
9)Puku’s Laboratory,http://pukulab.blog.fc2.com/
10)吉川恒夫:ロボット制御基礎論,コロナ社,1988