原著論文 香川県小豆島の森林植生 - 岡山理科大学

Naturalistae 15: 1-11(Jan. 2011)
© 2011 by Okayama University of Science, PDF downloadable at http://www.ous.ac.jp/garden/
原著論文
香川県小豆島の森林植生
太田 謙1・森定 伸2・波田善夫3
Forest vegetation of the Shodo-shima Island, Kagawa Prefecture, Japan
Ken OOTA1, Shin MORISADA2 and Yoshio HADA3
Abstract: We studied the vegetation development on the Shodo-shima Island ( 34°24′N, 134°10′E;
Kagawa Prefecture, Western Japan. ). As a result, six each of natural vegetation and substitutional
vegetation types were recognized. Among the natural vegetation types, Quercus salicina community,
Carpinus tschonoskii - C. laxiflora community and C. turczaninovii community were noteworthy.
Based on the result, we presented the vegetation map of the island.
I.はじめに
1982d).しかし,寒霞渓などでは詳細な立地や群落
小豆島は瀬戸内海の島嶼として第2位の面積で
の分布を表現できていない問題点があった.
あり最高標高点は最も高い.地質は花崗岩を基盤
以上のように,小豆島の植物群落と植生図につ
とし,安山岩などの開析溶岩台地が分布するなど,
いてまとめて言及した報告は見当たらない.著者ら
地質と地形は多様であり,寒霞渓など名勝地も多
は,環境省の事業として小豆島の植生について調査
い.
する機会を得た.本報告で植物群落と2万5千分の
小豆島の植生については,アカマツ林やコナラ林
1地形図を基図として作成された植生図について,
などの二次林と共に,島内の至る所にウバメガシ林
得られた知見を報告する.
が分布することが指摘されている(正宗 1963).そ
の後,イワシデの群落について調査が行われ(Ya-
II.調査地
manaka 1963),日本各地のイワシデ群落と対比さ
香川県小豆島は瀬戸内海の島で,北緯34度24分
れ,まとめられている(山中 1964).また,寒霞渓
0秒から34度35分0秒,東経134度7分30秒から134度
の不安定立地にイロハモミジやウラジロガシなどが
22分30秒に位置する.東西29km,南北15kmの大き
生育する夏緑常緑混生林が発達しており,注目され
さで,面積は15,300ha,最高標高点は星ヶ城山
ている(奥田 1982).
の817mである.島内の内海のアメダスの1979年
小豆島の植生図としては,5万分の1地形図に作
から2000年までの22年間の年平均気温(±標準偏
成されたものがある(環境庁 1982a,1982b,1982c,
差)は15.3±0.6℃,年平均降水量(±標準偏差)は
1.岡山理科大学大学院総合情報研究科数理・環境システム専攻,700-0005 岡山県岡山市北区理大町1-1総合情報学部波田研究室内.
Doctoral Program in Mathematical and Environmental System Science, Graduate School of Informatics, Okayama University of Science, 1-1 Ridaicho, Kita-ku, Okayama-shi 700-0005, Japan. E-mail: [email protected]
2.株式会社ウエスコ,700-0033 岡山県岡山市北区島田本町2-5-35.Wesco co., ltd. 2-5-35 Shimada-honmachi, Kita-ku, Okayama-shi 7000033, Japan
3.岡山理科大学総合情報学部生物地球システム学科,700-0005 岡山県岡山市北区理大町1-1. Department of Biosphere-Geosphere System
Science Faculty of Informatics, Okayama University of Science. 1-1 Ridai-cho, Kita-ku, Okayama-shi 700-0005, Japan. E-mail: [email protected]
ac.jp
-1-
太田 謙・森定 伸・波田善夫
1,116±260mmであり(http://www.data.kishou.go.jp/,
分の1地形図に作成した.使用した空中写真は作業
気象庁HPから算出,2003年5月確認),温暖で雨が
名CSI-97-1Xのコース14の8から16番,コース15の9
少ない瀬戸内式気候である.温量指数はWI(Warm
から18番,コース16の7から16番,コース17の1か
Index)=124℃・月,CI(Cold Index)=0℃・月で
ら7番の合計36枚である.
あり,暖温帯林域に相当する.
IV.結果
地質は花崗岩を基盤とし,その上位を第三紀中新
世に噴出した溶岩類(凝灰岩類や集塊岩,各種火山
1.群落の区分と概要
岩)が覆い,溶岩台地を形成している(斉藤 1975).
調査の結果,12の群落が認められた(Table1).
溶岩類は基盤の花崗岩類よりも風化侵食に対する抵
以下に各群落について種組成と概要を記載する.
抗が強いため,差別侵食が起こっている.そのた
め,未だ山頂部に溶岩類を残す地域は台地上面に平
I.自然植生 Natural Vegetation
坦な地形を残し周囲に断崖や露岩が分布するが,花
自然植生にはマメヅタやミヤコアオイなどの種
崗岩類の地域は風化浸食を受けてなだらかな丘陵と
群1が共通して出現した.小豆島の自然植生は,コ
なっている.島内にある奇岩景勝の寒霞渓は,侵食
ジイの萌芽林は見られるもののスダジイやタブノキ
されつつある溶岩台地の南側斜面に位置する.
が優占する常緑広葉樹林は見られず,主に渓谷や露
岩地に発達する植生であった.そのため,林内には
III.調査方法
イロハモミジやシデ類が出現することが多い.しか
1.植生調査
し,トベラ-ウバメガシ群集には種群1は出現せず,
2001年5月に環境省の事業として森定が島内の
代償植生の構成種である種群8が出現した.
各地で27地点の植生調査を行った.同年11月に追
加の植生調査を38地点行なった.さらに,2003年
A.アカガシ群落 Quercus acuta community
5月に森定と太田が6地点の植生調査を行った.そ
アカガシが優占する常緑広葉樹林である.種群
の結果,合計71地点の植生調査資料を得た.植生調
2が出現し,群落高は16mで,アカガシの胸高直径
査はBraun-Blanquet(1964)の方法に従い行なった.
は25cmであった.寒霞渓中部の緩傾斜の斜面に分布
植物の和名と学名は,顕花植物は佐竹ほか(1981,
し,地表には露出した岩石が多かった.
1982a,1982b,1989a,1989b)と,一部を北村・村
田(1961)に従った.シダ植物は岩槻(1992),帰化植
B.ウラジロガシ群落 Quercus salicina community
物は清水(2003)に従った.
ウラジロガシが優占する常緑広葉樹林であり,ウ
2.群落の区分
ラジロガシやホソバカナワラビなどの種群3が出現
得られた植生調査資料は,2002年1月に植物社
する群落である.上記の種群の他に,高木層にアカ
会学表操作プログラムVEGET(波田・豊原 1990)を用
シデが特徴的に出現する.ウラジロガシの胸高直径
いて階層別に表操作を行い,群落を区分して常在度
は大きいもので66cmになり,群落高は16mから23mで
級表にまとめた.追加の植生調査資料が得られた
あった.寒霞渓の急峻な地形の谷底や斜面下部に多
2003年5月に,再度表操作を行った.
く見られた.地表には上部から落下してきた溶岩類
の巨礫が多量に堆積していた.
3.植生図の作成
C.イヌシデ-アカシデ群落 Carpinus tschonoskii
2002年1月から4月に森定が空中写真(1997年撮
- C. laxiflora community
影,国土地理院提供)の判読から植生図を2万5千
--
香川県小豆島の森林植生
G.コナラ群落 Quercus serrata community
アカシデが優占する落葉広葉樹自然林であり,種
群4が出現することにより区分される群落である.
アベマキやコナラが優占する落葉広葉樹二次林で
シデ類と共にイロハモミジが林冠を構成する.群落
あり,種群9が出現する群落である.群落高は15mか
高は12mから18mであった.ウラジロガシ群落と同様
ら22mで,島内の山地斜面に広く分布していた.
に寒霞渓の斜面部に広く分布し,不安定で急傾斜な
H.アカマツ群落 Pinus densiflora community (In-
斜面に多く見られた.
cluding Pinus thunbergii community )
D.モミ群落Abies firma community
アカマツが優占する常緑針葉樹二次林であり,ア
モミが優占する常緑針葉樹自然林であり,種群5
カマツやウリハダカエデなどの種群10が出現する群
が出現する群落である.モミの胸高直径は106cmに
落である.群落高は13mから17mであった.低海抜の
なり,群落高は22mに達した.高木層にはアカマツ
地域ではマツ枯れ病の被害が大きく荒れた林分が多
も混生している.寒霞渓周辺の斜面上部の凸型斜
いが,島内最高峰の星ヶ城山周辺には良好な状態の
面に見られた.
林分が分布している.クロマツ群落はクロマツの優
占する常緑針葉樹二次林であり,相観および種組成
E.イワシデ群落 Carpinus turczaninovii commu-
はアカマツ林とほぼ同様である.そのため,本研究
nity
と別報(太田ほか 印刷中)ではクロマツ群落をアカマ
イワシデが優占する落葉広葉樹自然林であり,高
ツ群落に含めて取り扱った.
木林には達せず群落高3mから6mの低木林から亜高
木林である.構成種はやや少ないがイブキシモツケ
I.ネズ-アカマツ群落 Juniperus rigida - Pinus
densiflora community
やイワヒバ,ウンゼンマンネングサなど種群6が特
徴的に出現する.イワシデが優占する群落は石灰岩
低木層にネズとアカマツが優占し,草本層にスス
地に多いが,当島では寒霞渓周辺の集塊岩の岩峰や
キなどが出現する常緑針葉樹二次林であり,ヤマツ
斜面上部の急傾斜地に見られた.
ツジやコシダ,ガンピなどの種群11が出現する群落
である.この群落は群落高5mから8m程度の貧弱な
F.トベラ-ウバメガシ群集 Pittosporo - Querce-
アカマツ二次林であり出現種類数は少ない.瀬戸内
tum phillyraeoidis
沿岸の降水量の少ない地域に特徴的に見られる群落
ウバメガシが優占する常緑硬葉樹自然林である.
であり,瘠悪地に発達する土地的な極相の性格を帯
群落高は4mから12mで,亜高木林であることが多か
びていると考えられる.
った.林内にはヒトツバやヤマモモ,タイミンタチ
バナ,モッコク,ヒメユズリハなどの種群7が出現
J.シイ・カシ二次林Castanopsis・Quercus secondary forest
する.一方で,代償植生の構成種である種群8の出
現する頻度がやや高いため,二次的な植生の傾向を
シイ類やカシ類が優占する常緑広葉樹二次林であ
持つ群落である.海岸の急傾斜地に広く見られる
り,種群12のコジイやアラカシが出現する群落であ
が,海からやや離れた山地の尾根や溶岩台地の縁辺
る.萌芽再生し多幹となった若いコジイが優占し,
の急傾斜地にも広く分布していた.
群落高は16mから21mで,優占木の胸高直径は20cmか
ら30cm程度である.林内にヒサカキやネズミモチ,
II.代償植生Substitutional Communities
ヤブツバキを高い頻度で伴うため,林床は暗いこと
代償植生にはヒサカキやサルトリイバラ,コバノ
が多い.市街地周辺に小面積で分布していた.
ミツバツツジなどの種群8が共通して出現した.
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太田 謙・森定 伸・波田善夫
V.考察
K.クスノキ群落 Cinnamomum camphora community
1.島内の植生と人為的利用の関係
クスノキが優占する常緑広葉樹二次林であり,イ
小豆島には自然植生が分布するものの,コナラ群
ヌビワやイヌマキなどの種群13と,クスノキなどの
落とアカマツ群落を合計すると島の面積の54%を占
種群14が出現する群落である.クスノキは植林され
め,代償植生が卓越している(太田ほか 印刷中).
ることがあるが,本調査地ではマツ枯れの後に発達
当地域の低海抜地が属する暖温帯林域の自然植生
した二次植生であり,社叢林や市街地近くの低地に
であるスダジイ林などの常緑広葉樹自然林は見ら
点在していた.林内にはブナ科植物が欠落している
れなかった.
ことが多い.
石油や石炭などの化石燃料が使用される以前は,
木材や落葉・刈り草などの植物を燃料エネルギーと
L.アカメガシワ-エノキ群落 Mallotus japonicus
して利用し,人口密集地では燃料不足に陥りやすい
- Celtis sinensis var. japonica community
ため遠隔地からの搬入が必要であった(波田 1999).
アカメガシワやエノキが優占する落葉広葉樹二次
1780年の頃に岡山城下では薪不足が深刻で,同時期
林であり,イヌビワなどの種群13と,スイカズラや
に瀬戸内の製塩地は燃料供給が困難であったことが
ノイバラなどの種群15が出現する群落である.アキ
知られている(千葉 1991).小豆島は古くから瀬戸
ニレが優占することもあり,林内にはエノキやムク
内海の海上交通の要衝として開かれてきた.古く
ノキが亜高木に達することもある.群落高は10mから
から人々が生活したことや,製塩業が盛んであっ
20mまであり,変化が大きい.田畑の周囲に多く,
たことから薪炭材の必要量は多大であったと推測
先駆的な性質を持つ樹木類が耕作放棄地や伐採跡
される.
地に侵入し,高木林から亜高木林に発達した群落
小豆島の製塩業や燃料事情については,まとま
である.
った研究が見当たらず断片的にしか知ることがで
きない.少なくとも,西暦700年代に製塩が行われ
2.植生図
ていたことを示す資料があり,1600年代に入浜塩田
植生図を作成した結果,森林植生に関しては自然
の技術が兵庫県赤穂から移入されて本格的な産業と
植生8群落,二次植生11群落が認められた.その他
して発展した(植村・岡 1989,相良 1992).製塩は
の群落や土地利用については19があった(Fig.1).
高濃度の塩水を煮詰めて結晶化する作業であり,そ
Fig.1では,アカマツ群落にほぼ同様の群落である
の過程で多量の燃料を必要とする.製塩の燃料は,
クロマツ群落を含めて表示している.また,アカメ
古代においては松葉や薪を使用していたが,近代に
ガシワ-エノキ群落に類似した性質を持っている低
は石炭へと置き換わっている(渡辺 1971).讃岐地方
木群落とクズ群落を含めて表示した.さらに,市
では,燃料は概ね江戸時代中期の1800年代初頭に石
街地とほぼ同様の土地利用区分である,緑の多い
炭が導入された(伊丹 1987).しかし興味深いこと
住宅地,工場地帯,造成地を含めて表示した.凡
に,1893年に讃岐地方の製塩の燃料は石炭であっ
例総数は38種類となっている.なお,植生図は環
たにもかかわらず小豆島は松葉を用いており(伊丹
境省の体系(http://www.vegetation.jp/,環境省統一凡
1987),薪材を島外に売り出していた記録がある(川
例一覧表,2001年12月確認)を参照し該当する凡例
野・徳山 1989).
を決定した.
以上のことから,小豆島は讃岐地方の主力製塩
地の一つであったが,地形的な制約から大規模な
塩田は築造されず,中世以降は小規模な製塩が営
まれながらも,豊富な森林資源と海運を持つこと
--
香川県小豆島の森林植生
Fig. 1. Vegetation map of Shodo-shima Island. (Five original vegetation maps, which were published by the Ministry of the Environment, are integrated and modified.)
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太田 謙・森定 伸・波田善夫
から燃料供給地の性格が強かったのではないかと
ら自然性の高い常緑広葉樹林に出現するタイミンタ
考えられる.
チバナやモッコク,ヒメユズリハなどの若木や芽生
また,香川県においては,製塩業以外にも糖業
えが混じる場所がある.今後このような場所がどの
が存在し,小豆島でもサトウキビが栽培されてい
ような植生に遷移するか注目される.
た.讃岐の糖業は,1800年代初めごろに始まり,綿
また,小豆島のウバメガシ群落は海抜450mで植生
・塩・砂糖の讃岐三白の一つとして重要な産業であ
調査資料が得られ(Table1),植生図では海抜600mを
った.1860年ごろに全盛を迎えたが,1868年の明治
超える場所にまで分布しており(Fig.1),溶岩台地
維新以降に諸外国からの輸入が始まり,衰退してい
の縁辺の崖地や急傾斜地で群落を形成している.こ
った.糖業は,サトウキビを絞った糖汁を煮詰めて
れは,瀬戸内式気候の温暖乾燥の条件と,溶岩台地
結晶化する必要があるので,製塩業と同じく多量の
が作り出す地形の組み合わせによる一種の土地的極
燃料を必要とした.製塩業に比べると製糖業は技術
相ではないかと考えられる.
革新が進まず,煮詰める燃料は1882年ごろまで薪材
で,その後に石炭が導入されたとされる(辻 1987).
3.植物群落の分布状況
そのため,小豆島の燃料事情を考える上では製塩業
イワシデ群落は,寒霞渓の渓谷上部の岩峰と,島
に加え,100年近くに渡って営まれた糖業も無視でき
内南側の溶岩台地の周辺部に分布していた.面積は
ないと考えられる.
43.4haであり(太田ほか 印刷中),イワシデ群落とし
香川県では,製塩業が石炭を導入した1800年代初
ては大規模である.島内にイロハモミジやウラジロ
頭に糖業が発展しており,薪材を多量に使用する産
ガシの混生する群落があることはすでに知られてい
業が長期間にわたって存在していた点は重要である
た(奥田 1982).本研究で改めて調査した結果,ウラ
と考えられる.以上は産業を主に述べてきたが,一
ジロガシ群落とイヌシデ-アカシデ群落として区別し
般家庭で炊事を行う火力に化石燃料が使われるよう
植生図を作成することができた.さらに,存在する
になったのは,プロパンガスが普及した1960年ごろ
ことが知られていたアカガシ群落(奥田 1982,環境
からである.小豆島の森林も,この頃まで産業や家
省 1982a)について構成種を調査し,位置を植生図に
庭へのエネルギー供給源であったと考えられる.小
示すことができた.以上の群落が寒霞渓の自然植生
豆島においては,島内で森林を伐採し得られる豊富
であるが,その中で最も卓越するのはイヌシデ-アカ
な薪炭燃料を使用しながら,不足分の薪材や石炭を
シデ群落であった.また,寒霞渓の周囲にこれまで
瀬戸内海の物流網を生かし調達していたと考えられ
知られていなかったモミ群落を見出し,記録するこ
る.このように,薪炭材を多く消費するという背景
とが出来た.
から島内の森林の伐採が繰り返されて自然植生の多
小豆島の植生図を作成した結果,島内の森林の
くが消滅し,代償植生が卓越する状態になりネズ-ア
多くは代償植生であった.小豆島は山地が海岸部に
カマツ群落のような構成種の貧弱な群落が分布する
迫るため,市街地などは港湾背後の限られた沖積平
と考えられる.
野に集中して立地せざるを得ない.市街地周辺にあ
る低標高の山地は,耕作地や果樹園などに開発され
2.トベラ-ウバメガシ群集について
ているところが多かった.開発が行われていない山
本群落は代償植生の構成種である種群8(Ta-
野の多くはコナラ群落とアカマツ群落であった.ま
ble1)が出現する頻度の高い群落である.これは,
た,島内にスギ・ヒノキ・サワラ植林はわずかであ
マツ枯れ病により優占していたマツが枯死した後に
る.これは年平均降水量が少ないが温暖であるため
ウバメガシ林に変化した林分が多いためであると考
乾燥が著しく,スギなどの生育に不適であるためと
えられる.小豆島のウバメガシ群落は,低頻度なが
考えられる.
--
香川県小豆島の森林植生
Table 1. Plant communities of Shodo-shima Island, Kagawa prefecture, Japan.
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太田 謙・森定 伸・波田善夫
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香川県小豆島の森林植生
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太田 謙・森定 伸・波田善夫
4.小豆島の自然環境と溶岩台地
環境庁(1982a).寒霞渓 現存植生図.環境庁編.
瀬戸内海においては,広島県宮島に自然性の高い
「第2回自然環境保全基礎調査 植生調査」.昇
植生があることが知られている(鈴木ほか 1975,黒
田ほか 2004).その要因は,700年以上にわたり信仰
寿チャート株式会社.
環境庁(1982b).草壁 現存植生図.環境庁編.「第
の対象として保護されてきたためと指摘されている
2回自然環境保全基礎調査 植生調査」.昇寿チ
(関ほか 1975).宮島が花崗岩のみからなるのに比
ャート株式会社.
べると,小豆島は溶岩台地の存在によって渓谷や崖
地,急傾斜地という環境が作り出されるため植生の
環境庁(1982c).西大寺 現存植生図.環境庁編.
立地が多様である.急峻な地形の場所においては,
「第2回自然環境保全基礎調査 植生調査」.昇
人為的なかく乱や伐採の影響を軽減させてきたため
寿チャート株式会社.
に自然性の高い森林が分布するのだと考えられる.
環境庁(1982d).高松 現存植生図.環境庁編.「第
瀬戸内海の島に自然植生が存在する例は少なく,小
2回自然環境保全基礎調査 植生調査」.昇寿チ
豆島は貴重な存在である.
ャート株式会社.
川野正雄・徳山久夫(1989).讃岐廻船の動向.香
謝辞
川県編,「香川県史第三巻通史編近世I」:234-
本研究で使用した植生図と植生調査資料は,環
242.四国新聞社.
境省による第6回自然環境保全基礎調査・植生調
査2000年度及び2001年度の成果の一部である(http://
北村四郎・村田 源(1961).原色日本植物図鑑,草
本編Ⅱ.保育社,大阪.
www.vegetation.jp/,第6回・第7回自然環境保全基
礎調査・植生調査情報提供HP,植生図:五剣山,土
黒田有寿茂・向井誠二・豊原源太郎(2004).広島
庄,小江,寒霞渓,草壁).使用と掲載の許可を頂い
県宮島のイスノキ混交林.植生学会誌 21:109-
た同省に感謝する.
116.
正宗厳敬(1963).小豆島の植物帯.正宗厳敬・里
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