Page 1 Page 2 欧州政府債務危機の全貌 原因と進行 0gawa Eiji

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欧州政府債務危機の全貌 : 原因と進行
小川, 英治
国際問題(611): 6-16
2012-05
Journal Article
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http://hdl.handle.net/10086/25606
Right
Hitotsubashi University Repository
欧州政府債務危機の全貌
原因と進行
小川 英治
O
g
a
w
a
E
I
J
i
は じめに
世界金融危機 の影響 を受 けてバ ランス シー トを穀損 した金融機 関へ の政府 による資本注
0カ国 ・地域首脳会合 (
G2
0
)
」 における財政刺激のための
入 と、「
金融 ・世界経済 に関す る2
国際政策協調 によって、多 くの先進諸 国において財政赤字が急増 した。 その ような状況の
0
0
9年 1
0月にギ リシャで政権交代 によって財政上の統計 の不備 が明 らか になったこ
なか 、2
とを きっかけに して、財政当局 は信認 を失墜 し、国債 の借 り換 えが困難 となる政府債務危
機 に直面 した。そ して、ギ リシャと同様 の巨額の財政赤字や政府債務残高 を抱 えている南
欧諸 国な どへ も政府債務危機が波及 した。実際 にアイルラ ン ドとポル トガルは、欧州連合
(
EU) と欧州 中央銀行 (
ECB)、国際通貨基金 (
I
MF) のいわゆる トロイカ体制か ら金融支援
GDP)規模 でみて、ユーロ圏諸国全体の 2.
7%
を受 けるに至 った。ギ リシャは、国内総生産 (
にす ぎない に もかかわ らず、その政府債務危機が他 の南欧諸 国に波及す ることが懸念 され
てユ ーロが暴落す る とともに、EUの通貨同盟お よびユーロその ものが有す る欠陥、具体的
には財政主権の統合がなされないまま通貨主権が統合 されている問題点が指摘 された。
本稿 では、ギ リシャに始 まるユ ーロ圏諸 国の政府債務危機の背景 と原 因 をグローバ ル ・
イ ンバ ラ ンスお よび世界金融危機 にまで遡 りなが ら考察す る。 その うえで、ギ リシャの政
府債務危機 問題 の本質、そ して、ギ リシャか ら他 の南欧諸 国な どへ の政府債務危機 の波及
のメカニズム、 さらに、これ らへの対応 について検証す る。
世界金融危機直前 の 2
0
0
0年代半 ばにおけるグローバル ・インバ ランスは、 アメ リカにお
ける基本的 な貯蓄不足 のなかで住宅投資 ブームが起 き、資金調達がサ ブプライムロー ンの
証券化商品- の投資 とい う形で欧州の金融機関によって支 え られた。 EU のなかではそれぞ
れの国が経常収支不均衡 を抱 えている ものの、EU全体では経常収支 はそれほ ど大 きな黒字
となっていない。欧州の金融機 関は、中国や 日本 と並 んで大 きな経常収支黒字 を計上 して
いる石油輸 出国か らその資金調達 を していた。 しか し、い ったん住宅 ブームか ら変容 した
住宅バ ブ)
i
,
が崩壊す る と、サ ブプライムロー ンとともにそれ を担保 としてい る証券化商品
も不 良債権化す ることとなった。そのため、アメリカのみ な らず欧州の金融機 関 もバ ラン
ス シー トを穀損す ることとなった。そ して、政府 による資本注入 に よって対応せ ざるをえ
0において世界同時不況 に対す る対策 として財政刺激が国
な くなったのである。同時 に、G2
際政策協調 として とられ、先進諸国は財政赤字 を増大 させ ることとなった。
国際問題 No.
らll(
2
01
2年 5月)
●6
欧州政府債務危機の全貌-
原因 と進行
この ような状況のなかで、ギ リシャの財政当局の信認が失墜す る事態 とな り、国債の借
り換 えが市場参加者 によって受 け容れ られないか もしない とい う懸念が政府債務危機 を発
生 させることとなった。Rei
nha
r
ta
ndRogof (
2
09)が指摘するように、国債バブルか ら国債
2)
。
バ ブル崩壊への複数均衡の シフ ト(
I
)として政府債務危機が発生 したのである (
小川 201
それまで、ユーロ導入の経済収欽条件である財政赤字の対 GDP比 3% を順守 していなかった
に もかかわ らず、市場参加者 によってその ことが問題視 されず に政府債務危機 を発生 させ
ることな くきたギ リシャにおいて、財政当局が信認 を失墜す ることで複数均衡 間のシフ ト
が発生 したのである。 この ような複数均衡 間のシフ トは、財政当局の信認が脆弱 な国々波及 し、次 々 と政府債務危機 に直面す ることになった。 これがギ リシャ政府債務危機の本
質 と政府債務危機の波及 メカニズムである。
これ らを考慮 に入れると、財政当局の信認が失墜 したユーロ圏諸国が導入 しているユー
ロお よびその通貨同盟 に問題があるわけではな く、ユーロ圏に属 している諸国の財政規律
の欠如の問題 とい うことになる。確 かに通貨主権のみ統合 し、財政主権 を統合 していない
通貨同盟 は片肺飛行 を行 なっているようなものであるが、今回の政府債務危機の本質は一
部の国の財政規律の欠如 にある。財政規律が欠如 していることによって政府債務危機 に直
面 した国を、EUあるいはユーロ圏 とい う経済 ・通貨同盟のなかで面倒 をみなければならな
EUの経済 ・社会政策)の下で生産性 を高めるべ く
い という状況が生 じた。「リスボン戟略」 (
努力 している財政上健全 な国に政府債務危機国 を救済 させ るとい う負担 を強いること、そ
れによって救済 されることになった政府債務危機国がモ ラルハザー ドを起 こ していること、
それが問題の本質である。
この ような考察か ら、政府債務危機 に対する問題解決策 としてい くつかの方策 (
財政再建
EFSF〕や欧州安定化メカニズム 〔
ESM〕などのセイフティーネ
と債務削減、欧州金融安定基金 〔
ットの整備)が とられているが、本質的には、欠如 している財政規律 を確立 して財政当局の
信認 を回復す ることが必要である。そのためには、財政再建 に関す る確固たる計画 を可視
的に提示 し、強力 に着実に実行 してい くことが第一である。
1 欧州債務危機の背景
990年代後半か ら、特 に
グローバル ・インバ ランスは、世界的な経常収支不均衡 として 1
2003年か ら2007年 にかけて拡大 した。 とりわけアメリカの経常収支赤字の規模 とその増大
が際立 っている一方、中国 とアジア新興市場国お よび石油輸 出国において経常収支黒字が
汁)バ ブル崩壊後、連邦準備銀行制度が景気対策
急増 している。 アメリカでは、情報技術 (
のために行 なった急速 な金利引 き下げお よび低金利政策が、住宅ブーム、 さらには住宅バ
ブルを引 き起 こす素地 を作 った。住宅価格上昇の期待 を根拠 に して、本来的に住宅 ロー ン
の対象外であった低所得者向けに住宅 ロー ンを提供するサブプライムロー ンも手助 け して、
アメリカの住宅投資が 20 3年か ら20 6年 にかけて急増 した。それが、アメ リカの経常収支
赤字 をいっそ う増加 させ ることとなった。
経常収支赤字 を生み出 し続 けて きた基本的な背景 として、アメ リカの民間部門の一貫 し
国際問題 No
,
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1(
2
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欧州政府債務危機の全貌-
原因 と進行
た貯蓄不足 が指摘 され る。その貯蓄不足 を補 ったのが アジアや石油輸 出国の貯蓄 であ る。
アジアの貯蓄 は外貨準備 として国際的な安全資産であるアメ リカの国債 に向け られた。す
なわち、 アジアの豊富 な貯蓄が アメ リカの財政赤字 を中心 とす る経常収支赤字 をファイナ
ンス して きたのである。I
一方、欧州の金融機関が、特 に 2000年代 に入 って原油価格上昇 に伴 って累増 した石油輸
出国の外貨準備 を国際的に金融仲介 して、アメ リカの貯蓄不足 を埋 めていた。欧州の経常
収支不均衡がそれほ ど大 き くなか ったに もかかわ らず、欧州の金融機 関が アメ リカのサ ブ
プライムロー ンに関連 した証券化商品 に資金 を向けていたことは、石油輸 出国な どの他 の
地域か ら資金 を調達 して、アメ リカへ資金 を供給 していたことを意味す る。言い換 えれば、
欧州 の金融機 関は、石油輸 出国の経常収支黒字 とアメ リカの経常収支赤字 との間の国際金
融仲介 を担 った。 さらに、 これ らの国際金融取引 を通 じて、欧州 自体 に もこれ らの経常収
支黒字 国か ら資金が流入 し、その資金が欧州 における土地等 の購 入 な どに向け られ、土地
バブルの様相 を呈 した。
しか し、アメ リカで住宅バ ブルの崩壊 に よって住 宅価格が下落 し始め る と、住宅価格上
昇期待 に隠 されていたサ ブプライムロー ンの高い信用 リス クが顕在化 した。住宅バ ブルの
崩壊 とともに、サ ブプライムロー ンが不 良債権化 し、 さらには、サ ブプライムロー ン証券
化商品が 回収不能 となった。 これ らのサ ブプライムロー ン証券化 商品 を多 く保有 していた
欧州 の金融機 関 もアメ リカの金融機 関 と同様 の影響 を受 けた。 この ように して、欧州 の金
融機 関は、アメ リカのサ ブプライムロー ン問題 の影響 を直接 に受 け、 また、 自らの土地バ
ブルの崩壊の影響 を受け、バ ランスシー トを穀損 させた。
さらに、証券化商 品一般 のなか に、サ ブプライムロー ン証券化商 品が どれほ ど含 まれて
いるかが不明であったことか ら、欧州の金融機関はカウンターパーテ ィー ・リスク (
金融取
引における取引相手の信用 リスク)に直面 した。 とりわけ、 リーマ ン ・シ ョック直後 において
は、 ロン ドンな どの欧州の銀行 間市場で金融機 関が ドル資金 を調達す ることが困難 となっ
3カ月物の
た。サ ブプライムロー ン問題が顕在化 した 2007年夏以前 には、信用スプ レッ ド (
LI
BOR〕一財務省証券 〔
TB〕 レー ト)は 0.
5%以下であった
ドル建てロン ドン銀行間取引金利 〔
氾7年夏 には信用 スプ レッ ドは 2% にまで跳ね上が り、 さらに20
08年 9月 1
5日の
ところが 、2(
リーマ ン ・ブラザーズの破綻 によって、その信用 スプ レッ ドは さらに4.
5% にまで跳 ね上が
った。
BORの信用 スプ レッ ドが大 き く跳 ね上が ったことは、欧州の金融
この ように ドル建て LI
機 関が ロン ドンの銀行 間金融市場 で ドル資金 を調達 しようとす る ときに、 きわめて高い リ
ス ク ・プ レミアム を課 されていた こ とを示す。注意 しなけれ ばな らないの は、 この リス
ク ・プ レミアムは、バ ランス シー トが大 き く致損 していない金融機 関 に課 された ものであ
る。バ ラ ンス シー トが鼓損 している可能性が高い と判断 される金融機 関は、銀行 間金融市
場 で ドル資金 を調達 で きなか った。 ここに、 カウンターパ ーテ ィー ・リス クの高 ま りか ら
欧州の金融機 関の ドル資金調達が困難 とな り、流動性不足 に陥 っていた姿が垣 間見 える。
多 くの国で、世界金融危機 の影響 を受 けた金融機 関へ の政府 に よる資本注入 に よって、
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欧州政府債務危樵の全貌-
原因 と進行
財政赤字が増大 した。特 に欧米では、世界金融危機の影響 を受 けて経営破綻 あるいはバ ラ
ンスシー トを穀損 した金融機関 を救済す るために支出 される、金融部 門支援 のための財政
支出が増大 した。例 えば、201
0年 に欧州の政府債務危機の発端 となったギ リシャでは、m肝
2
0
09年5月時点)によると、銀行への資本注入が 50億ユーロ、新規融資
(
I
MF2
0
09)の試算 (
への政府保証 が 1
50億ユーロ、銀行への流動性供給 として 8
0億ユーロ、総計 28
0億ユーロが
財政負担 として政府 にの しかかっている。2391億ユーロ (
20
08年)のギ リシャの GDPと比
較すると、GDPの約 1
2% に相当する財政負担が金融部門支援のために支出された。
これ らの金融部 門支援 のための財政負担 は、財政刺激のための公共投資等の政府支出 (
2
)
とは異 な り、直接 的 には景気刺激 にはつ なが ってこない。そのため、景気対策 としては、
金融部 門支援 のための財政支出のほかに、財政刺激のための公共投資等の政府支出が追加
されなければな らないことが、世界金融危機 における各国政府の財政負担の拡大の理由 と
なっている。
こうして、アメリカとともに欧州 にも世界金融危機の影響が直接 に及んだことに加 えて、
これ らの欧米諸 国で同時 に景気後退か ら不況 に至 ったことによ り、世界経済は世界的な同
時不況 に直面 した。そのため、2008年 11月にワシン トンで開催 された第 1回 G20、そ して、
2009年 4月にロン ドンで開催 された第 2回 G20において、世界同時不況 を止め、景気回復 を
目的 とした財政刺激政策の国際協調が行 なわれた。具体的に、201
0年末 までにG20のメン
バー国で 5兆 ドルに上 る財政拡大 を行 ない、GDPを累積で 4%拡大することを目指 した。 こ
のように して、政府 による金融機関への資本注入 と相 まって、G20において世界同時不況に
対する対策 として財政刺激が国際政策協調 として とられ、先進諸国は財政赤字 を増大 させ
ることとなった。
2 トリガーとしてのギ リシャ政府債務危機
999年 よ りユーロを導入 した 1
1カ国に2年遅れて、2001年 にユーロを導入
ギ リシャは、 1
した。本来であれば、ユーロ導入のための経済収蝕条件 (
3
)がすべて満た されなければユー
ロ導入が認め られない。
一部のユーロ圏諸国で、ユーロ導入当初か ら財政赤字や政府債務残高が経済収赦条件 を
満たさなかったこともあ り、健全 な財政運営 を実行するために、「
安定 ・成長協定」 によっ
て各国政府 は財政規律 の順守 を求め られている。欧州委員会お よび閣僚理事会は、ユーロ
圏諸国の財政状況 を相互 に監視す るための手段 として、「
安定計画」 の策定 をユーロ圏諸国
に義務付 けていた。その 「
安定計画」 に基づ き、欧州委貞会お よび閣僚理事会 は、各国の
財政状況 を調査 し、過剰財政赤字 と判断 された場合 には、「
過剰財政赤字手続 き」が適用 さ
れることになっていた。
その手続 きとは、欧州委員会お よび閣僚理事会が過剰財政赤字 と判断 した場合 には、 ま
ず是正勧告が出 される。 もし勧告 に従 わない場合 には、制裁措置が当該国に適用 され、財
政赤字が参照値 の GDP比 3% を超 えた度合いに応 じて、GDPの 0.
2% か ら0.
5% までの制裁措
置が科 される。当初 は無利子の預託金 とい う形 をとり、2年経 って も超過財政赤字の状態が
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原 因 と進行
是正 されない場合 には、罰則金 として預託金が没収 されることになる。
この ようにペナルテ ィー付 きの厳 しい財政規律順守 ルール を作 って、財政規律 を求めて
%以下の財政赤字 を順守す ることがで きず
いる ものの、ギ リシャはほぼ一貫 して対 GDP比 3
(
1
9
9
7年)後、 ドイツとフランスによって緩和 される
に きた。それは安定 ・成長協定が採択
l
一方、裁量的に適用 されたため、結局、経済収欽条件 を満た さない国に対 して 1度 もペナル
テ ィーが発動 されたことがなかったことが背景 にある。
第 1図 には、他 のユ ーロ圏諸 国 とともにギ リシャの財政赤字 の対 GDP比 の推移が示 され
00年 において財政赤字の対 GDP比が 3.
7%を計上
ている。ギ リシャはユーロ導入の前年の 2
していた。そ して、その後 も、唯一 2
0
0
6年 において財政赤字 の対 GDP比 は 3%を下回って
2.
9% となった ものの、 この 2
0
0
6年 を除 くと一貫 してギ リシャの財政赤字 の対 GDP比 は 3%
を超過 していた。 また、2
0
0
4年 にユ ーロ圏諸国のなかで最悪 となった後、幾分かは財政赤
0
08年 には財政赤字 は対
字が改善 した ものの、再 び悪化 の一途 をた どっていた。そ して 、2
GDP比で 1
0%近 く、2
(
氾9年 には 1
5
%に達 し、最悪の状況 となっていた。
この ような財政状況のなかで 、2
0
0
9年 1
0月における政権交代 に よって、ギ リシャの新 し
い政権 (
全ギリシャ社会主義運動のパバンドレウ政権)が前政権 (
新民主主義党のカラマンリス
政権)による財政 に関す る統計処理の不備 を指摘 し、財政赤字の規模 を上方 に修正 した。財
0
0
9年見通 しで 3.
7%か ら 1
2.
7% (
後に 1
3
.
6
%-の再修正)へ上方 に修正 さ
政赤字の規模が 、2
Eur
op
ea
nCot
l
n
C
i
1
2
01
1
)
。 この ような統計処理の不備 は、ギ リシャの財政赤字の数字その
れた (
ものの信頼性 を損 な うだけではな く、ギ リシャ財政当局 に対す る信認 を も失墜 させ ること
になった。 この ような財政当局の信認の失墜が政府債務危機 として現 われた と言 える。
日欧米 な ど世界 の先進諸 国において総 じて財政赤字が拡大す るなか、ギ リシャ政府債務
危機 が始 ま り、それが トリガー となって財政当局の信認が失墜 したこ とは、複数均衡 のな
かで一方 の均衡 (
国債バブル)か ら他方 の均衡 (
国債バブルの崩壊およびその後の金融危機)
第
1図
ユーロ圏諸国の財政赤字の推移 (
対 GDP
比、1
9
9
5
-2
0
1
2
年)
(
%)
1
0
5
0
-5
-1
0
5
-1
-2
0
-2
5
-3
0
- ベルギー
レ ア イル ラ ン ド
-- スペ イ ン
.
- イ タ リア
・ オ ラ ンダ
一 ポ ル トガル
◆
- ドイツ
く
ト ギ リシャ
-.
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{ト ル クセス
ンブ
- ト
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-3
5
1
9
9
59
69
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0
0
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40
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出所)
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国際問題
No
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6
1
1(
2
0
1
2年
欧州政貯債務危機の全貌一
原 因 と進行
へ シフ トさせ る典型的な事例である。
3 ギ リシャ政府債務危機 からの波及
GDPでみてユーロ圏諸国全体 の 2.
7射 まどの経済規模 しか有 しないギ リシャが、政府債務
危機 に直面 した際 に、 リーマ ン ・シ ョックに引 き続 いて、ユ ー ロが暴落 した (
小川 201
0)。
その理 由は、ギ リシャの政府債務危機 その ものがユ ーロを揺 り動か した とい うよ りもむ し
ろ、ギ リシャか らギ リシャと同様 に巨額の財政赤字 や政府債務 を抱 えている他 のユ ーロ圏
諸 国へ政府債務危機が波及 し、ユ ー ロそれ 自体 の根幹 に影響 の及ぶ ことが懸念 されたか ら
であ る。例 えば、ギ リシャ と同様 に大 きな財政赤字 を抱 えていたポル トガル、 イタリア、
GDP) はユーロ圏諸国の 35% に
アイルラン ド、スペ インと合わせ ると、それ らの経済規模 (
も達す る。世界金融危機 とその後の世界 同時不況の影響 を受 けて、ギ リシャと同様 に他 の
ユ ーロ圏諸 国 も2008年か ら2009年 にかけて財政赤字 を増大 させ ることとなった。ギ リシャ
を除 くユーロ圏諸 国 1
6カ国全体で、財政赤字 は 20 8年の GDP比 2% か ら2
(
氾9年 には 63%へ
3倍強 に増大 した。2009年 には、ギ リシャの 1
5.
4% と並 んで、アイル ラン ド1
4.
4%、スペ イ
ン 11
.
1
%、ポル トガル 1
0.
1
% と高 くなった。 この ようにギ リシャの財政赤字 だけが突 出 して
いたわけではな く、他 のユ ー ロ圏諸 国で も財政赤字が拡大 していた。 この ような状況 は、
ギ リシャの政府債務危機が他 のユーロ圏諸国へ波及す る可能性 を示 していた。
ギ リシャの政府債務危機が他 のユ ーロ圏諸 国に波及す るメカニズム として、以下の経路
が考 えられる。
第 1に、投機家が、ギ リシャと同様 に財政赤字の大 きい他 のユ ーロ圏諸 国がギ リシャと同
様 に政府債務危機 に陥 りそれ らの国債価格が暴落す る、 と予想す ることによって、それ ら
の国々の国債 の空売 りによる投機 を通 じて実際 に国債価格が暴落す る。 これは、投機家の
予想が彼 らの投機 によって実際 に実現す ることか ら、「自己実現 的投機」 と呼ばれる もので
ある。
第 2に、ギ リシャ国債の価格が暴落す ると、国際分散投資 を行 なっている投資家のポー ト
フォリオに占めるギ リシャ国債 の シェアが相対的 に低下す る一方 、他 のユー ロ圏諸国の国
債 の シェアが相対 的に上昇す る。 国際分散投資 の最適 なポー トフォリオ比率 を維持す るた
めに、投資家 はポー トフォリオに占めるシェアが上昇 したユーロ圏諸国の国債 を売却 して、
ポー トフォリオ調整 を行 なお うとす る。 この場合 に、売却の対象 となった国債価格が下落
することになる。
第 3に、 もしギ リシャ国債が債務不履行 となった り、債務削減 などの債務 リス トラが行 な
われる事態 となった場合 に、ギ リシャ国債 を保有す る欧州金融機 関が損失 に直面 し、その
バ ランスシー トが悪化す る。 自己資本比率 な どを維持す るために、 ソブ リン ・リスク (
国家
の信用に対するリスク)の高 いユ ーロ圏諸 国の国債 をは じめ として、資産 を売却 しなければ
な らな くなる。その場合 に、他 のユーロ圏諸国の国債価格が下落す る0
この ように国債 の空売 りとい う投機 のみ な らず、欧州の金融機 関が国際ポー トフォリオ
のなかでギ リシャ国債 を保有 していることか ら、ギ リシャ危機 によってギ リシャ国債 の売
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欧州政府債務危機 の全貌-
原 因 と進行
却が他 のユーロ圏諸国の国債 に波及する可能性があった (
嘉治 201
0)。 とりわけ、財政赤字
や一般政府債務残高が高いユーロ圏諸国への政府債務危機の波及が懸念 された。第 2図には
ユーロ圏諸国の一般政府債務残高
(
2011年第 3四半期末)が金額ベース と対 GDP比で示 され
ている。確かにギ リシャの政府債務残高の対
GDP比 はユーロ圏諸国のなかで最 も高い。 し
I
か し、イタリアやポル トガルやアイルラン ドやベルギーな ども高い比率 にある。 また、金
額ベースでみれば、 イタリアの政府債務残高の金額が大 きい ことか ら、いったんイタリア
で政府債務危機が発生すると、その影響度が大 きいことが懸念 された0
ギ リシャ政府債務危機の波及が懸念 される状況 は、 ソブ リン ・リスクの リスク ・プレミ
アム としてその国債利回 りに反映 された。第 3図には、ユーロ圏諸国の国債利 回 り
(1
0年物)
の推移が示 されている。ギ リシャの国債利 回 りは、ギ リシャの政権交代 によ り財政収支の
統計処理 に問題があったことが発覚 した 2009年 11月以降、上昇傾向にある。安全資産 とみ
なされた ドイツの国債利 回 りが低下傾向にあったのに対 して、ギ リシャ政府債務危機以降、
ソブ リン ・リスクが高 まった とみなされたために、アイルラン ド、ポル トガル、スペイン、
イタリアなどのユーロ圏諸国の国債利 回 りがギ リシャ国債利 回 りを追いかけるように急速
に上昇 した。
実際 に、ギ リシャ政府債務危機が発生 した後 に、アイルラン ドとポル トガルにおける政
府債務危機が深刻化 した。 アイルラン ドの場合は、ユーロ導入後か ら世界金融危機前 まで
好景気が続 き、景気過熱か ら国内の不動産バブルが発生 していた。世界金融危機の きっか
け となったアメ リカの住宅バ ブル崩壊 に連動 して、アイルラン ド国内で も不動産バブルが
崩壊 し、国内の金融機 関が不 良債権 を抱 えることとな り、 さらに経営破綻 した金融機関へ
政府か ら資本が注入 され、財政収支が悪化 した。一方、ポル トガルは、ギ リシャと同様 に、
ユーロ導入後 も経済収致条件の 1つである財政赤字の対 GDP比 3% の基準 を順守することが
で きない年が続いていた。その ようななかで、世界金融危機の直接的影響 と世界 同時不況
第 2図
(
1
0億 ユ ーロ)
ユ ー ロ圏諸 国の一般政府債務残 高 (
2011年第 3四半期末)
ア
エ
ニ
ス
ト ギ
シ
リ
ャ ペ
ス
イ
ン
イ
プ
ス
ア
タ
リ ロ
ラ
フ
ス
ン ル
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ン
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欧州政府債務危機 の全貌第 3図
長期金利 (
1
0年物 国債 利回 り)の推移 (
2001年 1月-201
2年 1月)
一 スペ イ ン
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によ
原 因 と進行
(
出所) ECB
この
って、政府債務危機が発生
ように して政府債務危機が深刻化
した。 したために、EU
して金融
いて、201
0年 1
2月にアイルラン ド、201
1年 5月にポル トガルに対
とECB とW
がギ リシャに引 き続
ととなった。
支援 を行 なうこ
4
ユーロ圏諸国の政府債務危機
政府債務危機 に対する対応を解決するためには、以下
核 となるのは、ギ リシャ政府債務危機の発生お よび一部 の 3点セ ッ トが必要 となる。その
重要 な役割 を果 た した、失 われた財政規律 を回復 させ るのユーロ圏諸国への波及 において
強化することが喫緊の課題 となる。そのためには、政府 ことである。財政規律 を回復 し、
り、可視化 された財政再建計画の策定 と着実 な実施が必債務危機国の財政再建が重要であ
ソブ リンと同時
・リスク
律確立 とモ ラルハザー ド防止 によって政府債務危機の可能性や
要 となる。それ
に、財政規
3点セ ッ トの第
2は、危機管理 を現実的に推 し進めるた
ることが必要
となる。
を縮小す
額の政府債務 をある程度の規模 に削減することである。政府
めに、民間部門の関与 を通 じて巨
の債務削減が行 なわれることによって、財政再建が政府
債務危機が深刻 な国 (
ギリシャ)
減 を図ることが必要である。そ して、 この ような債務削債務危機国経済へ及ぼす負担の軽
を遂行す る危機国鋸 酎 こインセ ンテ ィブを与 えることに減は、財政再建のために財政緊縮
貸 し手 としての民間金融機関の役割の重要性 に鑑みて、 なる。一方で、債務危機 における
部 をシェアすることが、モラルハザー ドの防
借 り手 とともに貸 し手 も負担の一
じる民
同時に、3点セ ッ トの第 3として、債務削減
止に応
につながるとも言われているo
ネ ッ トの提供が必要 となる。債務削減 による民間金融機 間金融機関に対す るセイフテ ィー
国際問題 No.
6
関へ の政府債務危機の影響 を最小
欧州政貯債務危機の全貌-
原因 と進行
化 し、他 のユ ーロ圏諸 国へ の波及 を抑制す るため に、セ イフテ ィー ネ ッ トと して EF
SFや
ES
Mの設立 とそれ らの資本増強が進んでいる。セイフテ ィーネ ッ トとして EFS
Fや ESM によ
FS
Fが資金調達
る政府債務危機 に直面 した国債 の買い上げが期待 されている。 日本政府 は E
S
F債券
のために発行 した EF
∫ を購入する形で、欧州の政府債務危機 の鎮静化 と世界経済-の
FS
Fや ES
Mでは資金が十分ではない
影響 を抑 えることに貢献 しようとしている。 さらに、E
ことか ら、 これ らと協調 して ECB による国債買い上 げ も行 なわれる必要があ り、実際 に国
債買い上げが実施 されている。
次 に、ギ リシャの政府債務危機への対応 に焦点 を当ててみ よう。ギ リシャの政府債務危
01
0年 5月にユ ーロ圏諸 国 とI
MFによる金融支援 プロ
機 に対処す る第 1次金融支援 として、2
1
0
0億ユーロ、内訳はユーロ圏諸国8
0
0億ユーロ、I
MF3
0
0億ユーロ)が決定 した。
グラム (
総額 1
MFの コンデ ィシ ョナ リテ ィーが課 される とともに、EUが当該国の
金融支援 に際 しては、I
財政状況 に対す るサーベ イランスを実施することとなった。
金融支援 プログラムでは、(
∋財政の持続可能性 を回復す ること、(
∋対外競争力 を高める
こと、そ して、(
∋金融部 門の安定性 のため にセーフガー ドを講ず ることをコンデ ィシ ョナ
01
3
リテ ィー としてギ リシャ政府 に課 している。(
∋の財政の持続可能性 の回復 については、2
年 まで に具体 的な方策 によって財政健全化 を図ることになっている。それ によって、財政
01
3年以
当局 に対す る信認 を高めて、市場 アクセスを回復 し、公的債務残高の対 GDP比 を2
降、低下経路へ導 くとしている。② の対外競争力の回復 については、 これ まで リスボ ン戟
略の下でギ リシャで は十分 に進め られて こなか った名 目賃金引 き下 げ と費用削減お よび価
格競争力向上 のための構造改革 を行 ない、投資 ・輸 出主導 の成長モデルにギ リシャ経済 を
移行 させ る と している。 また、経済 における政府の透明性 を改善 し、政府 の役割 を小 さ く
す る。(
参の金融部 門の安定性 のためのセー フガー ドについては、デ フ レに備 えて、銀行 の
支払 い能力問題 に対処す るセイフテ ィーネ ッ トを拡大す るために、金融安定化基金 を設立
す る。 ソブ リン ・リスクの高 ま りか ら発生す る流動性 問題 を緩和す るため に、既存 の政府
の銀行流動性支援 ファシリテ ィーを拡大する。
一方、民 間部 門関与 によるギ リシャ国債 に対す る債務削減 については、第 1次金融支援 に
おいては、 まだ EF
SFのセイフテ ィーネ ッ トが構築 されていなか ったために、対応 されなか
った。結果的 に、ただギ リシャ政府 に対 して大 きな負担 を強いるだけ となっていたことか
01
1
年 になって、
ら、ギ リシャの政府債務危機への実際の解決が進展 しなか った。そ こで 、2
民 間部 門関与 による債務削減が検討 された。当初は、2
1
%の債務削減が民間金融機関 との間
2
01
1
年 7月)が、その後、債務削減比率が再検討 され 、21
%か ら5
3
.
5
%へ引
で合意 された (
2
01
2年 3月)。 この合意 によって、一方的な債務不履行である 「
無秩序 な債務
き上 げ られた (
不履行」 を回避 し、(
必ず しもすべての民間投資家の合意が取 り付けられたわけではないが)令
意の下で民間部 門関与 による、いわゆる 「
秩序 だった債務不履行」が実現 された。
一方、財政当局の信認 を回復す るために財政規律 の確立 ・強化が検討 されている。2
01
1
年1
2月 8-9日に開催 されたEU首脳会議 において、ユーロ圏諸国が中心 となって、経済 同
盟の強化 、 とりわけ、「
財政安定同盟 (
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」 に向けた動 きに基本合意がなさ
国際問題 No.
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2
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2年 5月)● 1
4
欧州政府債務危機の全貌- 原因と進行
れた(
4
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0
す なわち、財政規律 を強化す るため に新 しい財政 ルールを含 む財政協定 (
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を作 ることへの基本合意である。新財政 ルールは、一般政府予算 を均衡 させ なければな ら
ない とい うものである。ただ し、マース トリヒ ト条約で規定 されている経済収赦条件の 1つ
である財政赤字の対 GDP比 を3%以内 とする とい うものではな く、景気悪化のために生 じる
税収の減少や失業手当の増大 によって悪化す る財政収支 を考慮 に入れ、景気変動 に影響 を
5% を超 えてはいけない としてい
受 ける循環的赤字 を除いた構造 的赤字 について、GDPの 0.
る。 また、 この財政 ルール を、各国の憲法 あるいはそれ に相 当す る法律 で規定す ることも
盛 り込 まれている。
すで に安定 ・成長協定 によって、財政規律 の順守 を求めて、過剰財政赤字手続 きの実質
的な適用 を図 ることになっていた。実際 にはギ リシャを含 めてい くつかの国がその適用 の
対象 となったが、一度 も発動 された ことが なか った。裁量 の余地があ ったこ とか ら一度 も
その発動が な されなか った反省 を踏 まえ、新 しい財政 ルールでは、欧州委員会 によってあ
る国の財政赤字の上限超過が認め られたな らば即時 に、ユーロ圏諸国の反対がないか ぎり、
自動 的に過剰財政赤字手続 きが適用 される よう、 自動修正 メカニズムを導入す ることにな
っている。 この ように して実質的な財政規律 の強化 を図ろうとしている。
こうして、ユ ーロ圏諸 国は 「
財政安定 同盟」 を設立す ることを決めたが、それは、財政
規律 を強化 し、財政再建 を進 め るための政策協調 としての基本合意 に とどまっていること
に注意 す る必 要が あ る。 言 い換 え る と、財 政主権 の統 合 を意味 す る よ うな 「
財 政 同盟
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」 にまでは至 っていない。
おわ りに
今 回のユー ロ圏の政府債務危機 は、ギ リシャの財政当局の信認失墜が トリガー となって、
複数均衡のなかで一方の均衡 (
国債バブル)か ら他方の均衡 (
国債バブル崩壊からその後の政
府債務危機)へ シフ トした とみることがで きる。政府債務危機 を解決 し、その政府債務危機
の均衡か ら抜 け出す ため には、失墜 した財政当局の信認の回復 が必要 となる。そのために
は、 まず は、財政再建お よび財政緊縮 によって財政赤字 を縮′
トす る実効性 のある計画 を策
定 し、それ を実施す る政府 の姿勢 を可視化す る必要があ る。 そ して、それだけではな く、
制度的 に政府の財政規律 を強化す ることが重要 となる。そのため に 「
財政安定 同盟」 の設
立 に向けて着実 に進 んでいかなければな らない。
経済通貨 同盟」 の問題点が指摘 されていたことか ら、
さらに、財政統合 を欠いた EU の 「
この 「
財政安定同盟」 は、EU における経済統合の新 たな段 階に向けての動 きにつなが って
い くであろ う。そ して、「
財政安定同盟」が将来 において真 の意味での 「
財政同盟」 に向か
って深化 してい くこ とになれ ば、通貨主権 とともに財 政主権 を EU に委 譲 した 、Bal
as
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(
1
9
61
)が言 う 「
完全 な経済統合」 に近づいてい くであろ う。
(1) 複数均衡とは、2つ以上の均衡が存在することを意味する。その場合に、ある均衡から他の均衡
国際問題 No.
らl
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2
01
2年 5月)● 1
5
欧州政府債務危機の全貌-
原因と進行
-経済が シフ トす ることがある。
(2) 近年では公共投資で さえ も、財政赤字拡大が将来の増税 を予想 させ て民 間部 門の消費 に結 びつか
ない とか、あ るいは財政赤字拡大 が国債 の大量発行 につ なが り、国債利 回 り、 ひいては長期金利
をその リス ク ・プ レミアムだけ押 し上 げ るため に、民 間部 門の投 資 を抑制 す る とい う問題 が指摘
されている。
(3) ユ ーロ導入のための経済収蝕条件 とは、(
ヨイ ンフ レ率 :過去 1年間、消費者物価上昇率が最 も低
い 3カ国の平均値 + 1
.
5% 以内であること、②為替相場 :少 な くとも2年間、為替相場が欧州為替相
場 メカニズム (
ERM) の許容変動幅内 にあ って、切 り下 げが ない こと、③ 金利 :過去 1年 間、 イ ン
フ レ率 が最 も低 い 3カ.
国 の長期 金利 の平均 値 + 2% 以 内で あ る こ との ほか、④ 財 政赤字 と政府債
務 :GDPに対 して財政赤字が 3% 以内であ り、GDPに対 して政府債務残高が 60%以内であ るこ と、
であ る。
(4) ただ し、 この基本合意 に他 の EU諸 国 も賛 同す る形 をとったが 、 イギ リスは財政主権 の維持 にこ
だわ り、 この基本合意 には賛成 しなか った。
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